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THE・ログインvo1  作者: 秋葉時雨
34/40

FILE:34『目標(ターゲット)』


ーー適性Lv??天使と悪魔が潜む洞窟ーー


ハジメがヴァーカードと名も無き丘にいる頃、焔はとある洞窟にいた。

辺りには誰もいず聞こえるのは獲物を狙うモンスターの息遣いだけ。それがこの洞窟のLVの高さを表している様である。


ーージャーーン!!


焔はその洞窟の最奥の地、謎の遺跡がある場所で一人相棒のアックスギターを演奏していた。

魂を吐き出す様な激しい曲である。

彼の周りにはアックスギターの効果か炎が舞い、洞窟はさながら昼間の様な明るさとなっている。

赤い髪を振り乱し一心不乱に激しい曲を奏でる焔は、まるで観客に曲を捧げるアーティストの様に見えた。


ーージャジャジャジャーーン!!

「・・・ふう」


曲を弾き終わり、焔がそのまま静止する。ギターの効果も終わり、その場には元の静寂だけが残された。


「今の相棒の曲はどうだ?兄弟」


アックスギターを肩に担ぎながら、焔が遺跡のある場所に話しかける。

そこには松明の明かりでぼんやりと浮かび上がる悪魔の石像があり、隣には剣を構える体勢の天使の象がある。

そして悪魔の象は天使に切り掛からんばかりの体勢で、一本のギターが持っていた。


「良い曲だろ?コイツも長く使ってるんでもうジジイだが、お前に負けないくらいの音色を出してくれる」


焔が自慢げに二度三度ギターを振って見せるが、何故かその表情は優れない。

悪魔の石像が持つギターに眼を向けるとはぁ、と大きくため息をついた。


「ノイズの片が着くまで来ないって決めてたのに結局また来ちまったよ」


わしゃわしゃと頭を書きながら鬼人が苦笑する。彼には今気掛かりな事があった

それはノイズの事で無く(噂屋)に行った時襲って来たアウトロー達の事である

彼らのリーダー蘭丸が言った言葉に焔はずっと引っ掛かりを感じていた。


(奴らはドラゴンレインに所属していると言っていた・・・。そりゃつまり奴らのヘッドがアウトロー行為を認めているって事だ)


そこまで考えて焔はもう一度深くため息をついた。

『エデン』最大のチームの一つ《ドラゴンレイン》

そのメンバーは300人を越え、一番隊から十番隊まで構成されている大パーティーである。

それだけの大所帯になったのは単にパーティーリーダーのカリスマ性に寄る物だが、今焔の頭にはそのボスの姿が浮かび上がっている

それはかつて一度捨てた夢を再び目指そうとした時の仲間であり、この悪魔が持つギターにも深く関係している人物でもあった。


「なぁ、兄弟。俺のせいであいつは変わっちまったのか?だとしたら俺はどうすれば良い・・?」


もの言わぬ石像に聞いても答えは返って来なかった。否、例え喋れたとしても悪魔のギターは自分に教えてくれないかもしれない。

なんせ自分は一度このギターを捨ててしまったのだから・・・。

やるせない気持ちでいっぱいになり、焔がもう一度アックスギターで演奏しようとした時だった。


ーープルプルプル〜〜!

『あい、もしも〜し!焔さん聞こえてますか〜?』


通信機から何とも気の抜ける声が聞こえて来た。

ラビィである。

思わず頭を抱えた焔は苛立ちながら通信に出た。


「聞きたくねーけど聞こえてるよ!!なんの用だ!!」

「あい、ヴァーカードさんから集合命令です〜。今すぐ(トロイ)に集まる様にだそうです〜」


用件だけ伝えると、ラビィはさっさと通信を切ってしまう。

その一方的な切り方に焔は全身をわなわなと震わせた


「この!!・・・はぁ。どうやら俺に考え事をする暇なんてない様だぜ?兄弟」


もう一度大きくため息をついてからふっ切れた様に焔が笑顔を浮かべる。

そしてかつての相棒に背中を向け、自らの戦いの場へと引き返して行ったーー



『皆、集まっている様だな』

「ハジメ・・!」


ヴァーカードとハジメがホームに帰還すると、既にメンバーは全員揃っていた。

それまで(トロイ)の隅でぶつぶつ何かを言っていたアカネもハジメを見た途端立ち上がる。まるで主人を待っていた犬の様な豹変ぶりだ。


「緊急召集って何かあったんスか?それに・・・」


壁に寄り掛かっていた焔がハジメの方を見る。以前よりも少年のレベルが上がっているのを知ってフッと薄笑いを浮かべた。


「このガキもちったぁ使える様になってるみたいだし」

「焔さん・・!」


焔の言葉にハジメの表情がパッと明るくなる。口は悪いが、それでも彼が自分を認めてくれたのが分かった

それに少年の頭に乗っている赤いサングラスを見て、ヴァーカードが何を話したのか大まかに理解したらしい

先程から落ち込んでいたハジメが元気を取り戻したのを感じて、ヴァーカードはラビィの頭に移動した。


『うむ。実はノイズの件で(噂屋)からある報告が入った。ラビィ、繋いでくれ』

「あぃあ〜い」


バーカードの指示でラビィが巨大コンピュータのキーボードを叩くと、大画面に噂屋のオババが映し出される。

相変わらず不気味な魔女の顔がどアップで映し出されると中々迫力があった。


「ヒッヒッヒッ・・・!坊や達元気だったかい?」

「マスター」


オババが気味の悪い笑い声を上げると、アカネが無表情のままつぶやく。さっきまでは落ち込んでいて通信にも気づかなかったのだろう。


『先程調べると言っていたが、さすがに仕事が早いな』

「当然だよ。私を誰だと思っているんだい?まぁ、取り敢えずコイツを見ておくれ」


オババが言うと画面に奇妙なマークが表情される。菱形の形に『I』と言う文字が入っているそのマークにハジメは見覚えがあった。


「それってクロウがシュウ兄ちゃんから奪った・・・」

「そうさ、正体不明のマークさ。コイツの正体は未だに分かっていないんだが、私は考えたのさ。

ひょっとしてクロウの狙いはこのデータだったんじゃないかってね」


得意げにオババが説明するが少年には理解出来ない。?マークがたくさん浮かんでいるハジメを見て側にいたアカネがまたボソリとつぶやいた。


「つまり・・・ノイズが今まで人を襲っていたのは・・・あのデータを持つユーザーを探していたと言う事・・・」

「その通りさね。あのデータはただのユーザーが持っていない特別な物と言う事さ。

『エデン』の中でユーザーで無くゲームをプレイしてる奴らなんてたった一つしかないだろう」

「・・そうか。システム!」


ついていけてないハジメの代わりに、ハッとした焔が答える。そう、ユーザー以外で『エデン』の中に存在し、貴重なデータを持っている人間などWB社側の人間しか有り得ない。


『そうだ。ユーザーを管理するシステム・・・いわゆる監視者と呼ばれている彼らは普段はユーザーに紛れ込み、その正体を知る事は出来ない。

ノイズの目的がシステムだとすると、今までの無差別な襲撃も納得が行く。

少年、君のお兄さんは他の監視者について何か言ってなかったか?』


突然ヴァーカードに話を振られ、ハジメはまた困惑する。ノイズの狙いがシステムである事は分かったが、シュウの仕事がこんな重大な事に関わって来るとは思わなかったのだ。


「シュウ兄ちゃんはあまり仕事の話は・・・あっ!でも、確か職場には4人しか人がいないって言ってました。新しく入ったばかりで名前を覚えるのが楽だったって笑ってましたから」


必死に従兄弟との会話を思い出し、紡ぎ出した少年の情報はオババ達を満足させる内容だった様だ。オババは一度頷くとニヤリと笑う


「なるほど。開発チームがそのままゲームを管理してるって事は確かに有り得るね。つまり少なくとも『エデン』には後3人監視者がいるって事さ」

『我々はその三人を何としてでもクロウより先に見つけ守らねばならない。

もっとも、その内の一人はもう見つかっている様だが・・・』


ニヒルな笑みを浮かべたヴァーカードがオババを見ると、魔女はヒッヒッヒッと声を上げて笑う。焔とハジメは驚いて画面を見るが、そう言えばさっき白竜が「仕事が早い」と魔女を褒めていた事を思い出した。


「さっきも言ったが私を誰だと思ってるんだい?確かにユーザーの中から監視者の連中を見つけるのは至難の業さ。だが『エデン』のイベントの中にはCPじゃ捌き切れない物だってある

それはさすがにWB社の人間がやってるんじゃないかと思って、いくつかピックアップして見たらドンピシャだったよ」


言いながらオババが何か操作をすると大画面が別の映像に切り替わる。それは高い岩山に囲まれた金色に輝く黄金の神殿だった。


「おいおい、こいつはまさか・・・」

「聖女サラが住む光の神殿バルハラ・ルミナ。

魔神との決戦の前に必ず訪れるここはただの神殿じゃない。ユーザーを管理するシステムの本拠地なんだよ」


オババの言葉にハジメは思わず唾を飲み込む。

『エデン』をプレイする時説明書に聖女サラの名前は乗っていた。

魔神カースを封印した伝説の巫女。今は神となり『エデン』の世界にある神殿や教会では殆どが彼女を崇めている。

ゲームのキャラクターとばかり思っていたが、まさかシュウと同じシステムだったとは驚きである。


『・・次の目的地が決まったな。

我々はこれからバルハラ・ルミナに向かい聖女サラを保護する!

ノイズの目的がシステムなら彼らから逆にノイズの正体を聞き出せるかもしれないからな!』


白い翼を広げ、ホームのリーダーの名の元にヴァーカードが言い放つ。白竜の指令を聞き、焔とアカネが同時に頷いた。


「聖女様を守るために本物の化け物と戦おうか。普通のゲームじゃ体験出来ねぇよな」


指を鳴らしながら焔が凶悪な笑みを浮かべる。根っからの戦士である彼は相手が無敵のモンスターであろうと心躍る様だ。


「・・私はハジメを守る。ただ・・・それだけ・・」


逆に表情を変えず淡々と喋るのはアカネだ。しかしその態度とは裏腹に頑なまでに任務を守ろうとする所に少年への想いが感じられる。


(兄ちゃん・・・兄ちゃんの仲間はボクが必ず守ってみせるよ!)


頭に掛けていたサングラスを手に取り、強い決意でハジメもまた頷く。

一行は『エデン』の聖地バルハラ・ルミナへと向かったーー。


一方トロイのあるクロスピアではハジメ達を探している者がいた。

アウトローユーザーの蘭丸・阿国・才蔵である。仲間二人にハジメ達を探索させていた蘭丸は一人クロスピアの裏路地で苛立ちながら報告を待っていた。


「駄目っス!蘭ちゃん。ゲートの前張っててもあいつら来ないっス」


最初情けない顔をしながらやって来たのは才蔵だった。続いて阿国が忍者らしく建物の上から降って来る。


「街ん中も探して見たけどいないみたい〜?」

「クソっ!!」


二人の報告を受けて怒りを露にする仮面ユーザー。

趣味のユーザー狩りを邪魔されたあげく二度もの敗北を喫っした蘭丸は直ぐに迷いの森に戻ろうとしたのだが、何故かエターナルステージ専用の特殊ゲートが開かず、行った頃にはもうハジメ達の姿は無かった。

それから三日間、こうして街の中を探索しているのだが少年達を見つけられずにいるのである。


「あのクソルーキー野郎!!一体何処にいやがるんだ!?」

「これだけ探してもいないんじゃもうログインしてないんじゃない?」


苛立つリーダーとは裏腹につまらなそうに阿国がつぶやく。蘭丸の性格は知っている彼女でも探索でろくに遊べなかったこの数日間は苦痛だった様だ。


「ゲーム始めたばっかの初心者がそんな簡単に辞める訳ねーだろ!!良いからもう一回探して来い!」

「あ、あの蘭ちゃん。この際奴らに関わるのもう止めた方が良いんじゃ・・・」

ーーバキッ!!


恐る恐る提案する才蔵の顔面に蘭丸が思いっきりパンチを叩き込む。予想していたとは言え、その遠慮無しの攻撃に才蔵は地面に叩き付けられた。


「イダァ!!」

「ふざけた事抜かしてんじゃねぇぞ!?この俺があんな奴らに舐められっぱなしの訳にはいかねーんだよ!!」」


肩で息をしながら吐き捨てる仮面ユーザー。プライドが高く他人の事などゴミとしか思っていない彼にとってハジメ達に復讐する事が今最も重要な事なのだ。


「ーーおやおや、ドラゴンレインの一番隊隊長ともあろうお方がずいぶんとお冠だね?」


と、突然路地の入口から現れた人影に三人がギョッとする。

そこにいたのは左肩に白銀の鎖を纏った兎の獣人とピエローー。

ケルビムとマリオのコンビだった。


「何だ!?テメェ!!」

「まぁまぁ、落ち着いて・・・私の名はケルビム。君のボス、天雨さんの知り合いと言った所さ」


後ろに手を組み、紳士然とした佇ずまいでケルビムの口からボスの名が出ると、蘭丸がハッと息を飲み込む

それまでの勢いが何処へやら、あっという間に大人しくなってしまった仮面ユーザーを見て紫の獣人は満足げな笑みを浮かべた。


「て、天雨様の・・・?」

「そう、だがこの際私達の素性などどうでも良い。それより、君にはどうしても恨みを晴らしたい相手がいるんだろう?

なら早く始末した方が良いな。

何故なら彼らは今チェイサーのホーム、バルハラ・ルミナに向かっているからね」


チェイサーのホームと聞いて蘭丸だけで無く阿国と才蔵の顔色も変わる。

人を襲うアウトローにとってチェイサーは警察であり、そのホームとは警察署と同じなのだ。

そんな所へ少年達が向かってるとすれば、目的は一つしかない。


「それってもしかして私達の事チクろうとしてるって事?」

「ババババルハラ・ルミナがチェイサーのホームってどう言う事っスか!?だ、第一アンタ何でそんな事知ってーー」


自分達の事を通報するつもりだと聞いて阿国と才蔵がケルビムに詰め寄る。この前は運良く助かったが、今度通報されたら確実にアカウントを停止されるだろう

そうなれば二度と『エデン』はプレイ出来ない。


「言っただろう?私達の素性などどうでも良い事だと・・・。

だが、彼らがバルハラ・ルミナに着いたら確実に君達はゲームオーバーだろう。

それだけなら良いが下手をすれば責任問題を追求されてドラゴンレインは解散。そうなると君達のボスも困った事になるんじゃないかな?」

「アハハハ〜☆解散だ〜!解散だ〜!」


ケルビムの後ろで踊りながら回るマリオの声だけが響き渡る。アウトローの三人は黙り込み、下っ端二人組は顔を青くしている。

ただ一人俯いている蘭丸にケルビムが探る様な視線を送っていた。するとーー。


ガツンーー!!

「!?」


突如、仮面ユーザーが武器である巨大な斧を取り出し、その刃を地面に振り下ろした。リーダーの突然の行動に才蔵と阿国は驚き、マリオも笑ったまま動きを止める。

ただ一人ケルビムだけがニヤニヤと笑っていた。


「ふざけんなよ・・・チェイサーのホームに駆け込むだぁ?上等じゃねーか!!システムの犬共にドラゴンレインの恐ろしさたっぷりと教えてやるよ!!」


顔を上げた蘭丸が狂気じみた笑みを浮かべる。

それは追い詰められた者の笑み。

怒りを憎しみに変え、自らのプライドを守るためだけに蛮行を重ねる外道の笑みだ。


「阿国ぃ!!一番隊のメンバーを全員集めろ!!」

「え、ちょ、蘭丸まさか・・・」


仮面ユーザーの命令に阿国が怪訝な顔をする。蘭丸が何をする気なのか分かってしまった様だ。


「決まってんだろ?久しぶりのALLメンバーでの狩りだ!場所はバルハラ・ルミナ!!

いや、こいつはもう狩りじゃねぇ・・・チェイサー対ドラゴンレインの全面戦争だ!!」


肩に血の様に赤い大斧を担ぎ、蘭丸が高らかに宣言する。

今、謎のユーザーの陰謀によってハジメ達にかつてない危機が迫ろうとしていたーー。


(続く)

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