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THE・ログインvo1  作者: 秋葉時雨
33/40

FILE:33『相棒(パートナー)』


張り詰めた空気の中、

「エデン」最強の二人が身構える。敵は同じく

「エデン」最強の魔神。

一触即発の沈黙の中ただ一人、二人の側で腰を抜かしているちょび髭ユーザーがぶつぶつと何かを口走っていた。


「か、勝てない・・・勝てないんだ。あのモンスターには・・・あの亡霊には・・!!」


ちょび髭ユーザーはまるで何かに取り憑かれた様に同じ言葉を繰り返す。

そんなユーザーを無視し、先に動いたのはバーカード達だった。


「行くぞ!ヴァーカード!!」

「私に・・命令するな!」


弾かれた様にカインとヴァーカードが飛び出す。

一瞬で魔神の懐まで飛び込んだ二人は自慢の愛刀を手にし、振り上げた。


『我ハ・・・魔神カーズ・・!』


二人の勇者を前に逆襲の魔神も黙っていない。巨大な腕を振り上げ、チェイサーを瞬殺した一撃を繰り出す

だがーー。


「甘い!!」


振り下ろされた手を自慢のスピードで回避し、カインが魔神の顔目掛けてジャンプする。

巨大とは言えただ単純に繰り出された攻撃に当たる程馬鹿な二人ではない。

カーズが腕を地面に叩き付ける頃にはカインが技を繰り出していた。


「セイント・ハーレー!!」

ズバンーー!!


光の剣と化した聖剣から発せられた青い三つの彗星がカーズの体を切り刻む。体を三つ切りにされた魔神は苦痛に悲鳴を上げた。


『オォオオーーー!!』

「よそ見している暇があるのか?」


苦しみ悶えるカーズの前に今度は黒い影が飛び込んで来る。

『蛮器』を手にしたヴァーカードだ。巨大なチェーンソーの様な刀を手にした凶戦士は力任せにカースの角を粉砕した。


ーーギャリリリリ!!

「フ・・・!むっ?」


ニヒルに笑うヴァーカードだったがその表情が一瞬で曇る。

何と体をバラバラにされたにも拘わらずカーズが反撃に転じ、バーカードを捕まえてしまったのである。

空中ではさすがに逃げられず、捕らえられてしまった凶戦士はそのあまりの力に顔を歪めた。


『我ハエデンヲ支配スル者ナリ・・・』


設定通りの言葉を繰り返しながら、カーズの口が真っ赤に燃え盛る。

自分の腕ごとヴァーカードに攻撃するつもりなのだ。魔神の意図を察しカインの顔色が変わった。


「あれは・・・いかん!ヴァーカード!!」

「ーー黙っていろ、カイン」


仲間の危機に飛び出した勇者だったが、その動きはすぐに止まる。

捕らえられていたヴァーカードが掴んでいたカーズの手を無理矢理こじ開け、脱出したのだ。

超巨大モンスターが相手なのにとんでもない腕力である。

魔神の腕に飛び移り、ホルダーからショットガンを抜くとバーカードは驚いているカーズ目掛けて銃口を向けた。


「捕まえる相手を間違えたな」

ーードン!!


ショットガンが火を噴いた途端、魔神の顔が吹き飛んだ。

だが攻撃はそれで終わらず、ヴァーカードは何発もカーズの顔に弾丸を叩き込んで行く。


ーードンドンドン!!

(これで少しは・・・むっ?)


爆炎と煙が自分の近くまで舞い上がり、ようやくヴァーカードが引き金を離す。少しはダメージを負わせたかと期待した凶戦士だったが、煙が晴れて来るとその表情がまた険しい物になる。

カーズの頭は下顎を残して吹き飛んでいたのだが、口のあった部分に何とまだ真っ赤な火の玉が宙に浮いていたのだ。


「ちっ!!」

『デモ・・ンズ・・ボルケー・・ノ』

ズドォーーーン!!


バーカードがカーズの体を離れた途端、火の玉が天に向かって発射された。そして雲を突き抜けると火の玉が拡散し、凶戦士達に降り注いで来た。


「危ない!!」


火の雨と化した魔神の攻撃がいくつも降り注ぎ、二人に襲い掛かる。カインはスピードで回避し、バーカードは大剣やショットガンで何とか攻撃を防ぐ。

そんな二人だったがある事に気付き、ハッと視線を向ける。

案の定、凶戦士の近くにいたちょび髭ユーザーが悲鳴を上げていた。


「うわああーー!!」

「ちっ!!」


腰が抜けてしまっている一般ユーザーに火の雨を防ぐ術は無い。

舌打ちしたヴァーカードが慌てて彼の盾になり攻撃を防いだ。


「ああああ!!ぎゃあーーーー!!」

「叫ぶ暇があるならさっさと逃げろ!ーーむっ!」


凶戦士が怯えるユーザーを避難させようとするが、人の話を聞いていないのかちょび髭は全く動こうとしない。

と、二人の姿を突然巨大な影が覆う。

頭を吹っ飛ばされた魔神がまた攻撃を仕掛けて来たのだ。


「しまっーー」

ズンーー!!


避ける暇も無くちょび髭ユーザー事、ヴァーカードにカーズの一撃が振り下ろされる。

地響きを立てて潰されてしまった二人にカインが慌てて駆け寄った。


「ば、ヴァーカードーー!!」

ーーズドン!!


魔神の掌目掛けてジャンプし、聖剣で切り裂こうとしたカインだったがその前にカーズの手が粉々に吹っ飛ぶ。

危うく爆風に巻き込まれそうになり、着地した勇者が眼にしたのは空中に向かいショットガンを向ける凶戦士の姿。

いつもと違い明らかに不機嫌な顔をしているヴァーカードだった。


「ヴァーカード!無事だったのか!?」

「気を抜くなカイン。・・・見ろ」


喜んだのもつかの間、凶戦士が顎で指す方向を見てカインの表情も変わる。

体を切られ、頭や手を吹き飛ばされた魔神がまた再生し出したのだ。

手を加えられているとは言え、恐ろしい回復力である


「まいったな!もう復活したぞ?」

「あの回復力に生半可な攻撃は無意味だ。・・・カイン、少しだけ時間を稼げるか?」


カーズが体を修復している間、ヴァーカードが腰のホルダーから黒い拳銃を取り出す。

ズシリと重みを感じさせるマグナムガンだ。

カインもそれを見てすぐにヴァーカードが何をする気か分かった。


「私の『魔王』を撃つには少し時間が繋かる。しかし奴を倒すにはこれしか手段があるまい」


言いながらヴァーカードが黒い拳銃の安全装置を外す。

凶戦士最強の武器『魔王』

カインと同じく限定イベントで手に入れたレアアイテムで『滅器』以前の彼の切り札である。

カーズに銃口を向けると『魔王』が小さな音を鳴らしエネルギーのチャージが始まる。

ヴァーカードが『魔王』を撃つよりもカーズの復活の方が早いと考えたカインは、無言のまま頷いた。


「分かった。かけがえの無い友の頼みだ。ここは私にまかせろ!」


いつもの様に勇者が笑顔で親指を突き出すが特にヴァーカードは反応しない。

「友」と呼ばれて突っ込みを入れないのは単に声が聞こえなかっただけか、それとも認めてくれたからか?


「チャージは3分で終わる。その間奴を止められるか?」

「愚問だな。私も一応勇者と呼ばれた身・・・お前がチャージしている間に奴を倒してみせるさ!!」


言いながらカインが飛び出す。友との約束を守るため復活を果たした魔神に真っ正面から突っ込んで行く。


『我ガ名ハ・・・カーズ・・!』


そんな白の勇者を迎え撃つためにカーズもストレートパンチを繰り出す。先程とは違い格段にスピードが上がった攻撃を間一髪躱しジャンプするが、動けない空中ですぐに追撃の一撃がカインの目の前まで迫って来た。


「しまっーー!!」

ーーズン!!


避ける暇も無く魔神の拳と共に地面に潰されてしまうカイン。

だがヴァーカードはそれでも表情を変えずチャージを止めない。

ニタリと笑ったカーズがゆっくりと手を上げるがそこに白の勇者の姿は無く、あるのは砕かれた地面だけだった。


「勝ったと思ったか?魔神よ」


と、声が在らぬ方向から聞こえて魔神が顔を上げる。

何と彼はカーズの頭の上にいたのだ。

驚いたカーズがすぐに叩き落とそうと手を振るが、その動きがピタリと止まる。

何とかカーズの掌にもう一人カインが立っていたのだ


「これが」

「私の技」

「ムーン・マジックだ」

ーードガガッ!!


肩から現れたもう一人カインを入れ、三人となった白の勇者が同時に攻撃を繰り出す。

分身の術と言う訳では無く三人共実体があるらしい。

苦痛の雄叫びを上げたカーズが暴れ出し、振り払おうとするが三人になったカインは持ち前のスピードと身の軽さを活かし、確実にダメージを与えて行った。


(よし!これなら・・はっ!!)

『我ハエデンノォーーーー!!』


先程の言葉通り、これならチャージが終わるまでに片が着きそうだとカインが思った途端、カーズの怒りが爆発した。

怒りの魔神は力任せに巨大な両腕を地面に叩き付ける

そのせいで地響きが起こり、カイン達の動きが止まってしまう。

隙を突かれた白の勇者はそのまま魔神に捕らえられてしまった。


「カイン!!」

「来るな!ヴァーカード!!」


思わずチャージを解除しようとするヴァーカードを見てカインが制する。

魔神の力は物凄く、技は解けてしまったがそれでも白の勇者は気丈に笑ってみせる。

その表情はただの強がりでは無く、勝利の光を見ている者の顔だった。


「安心しろ。この勝負・・・私達の勝ちだ!」


カインが言い放った途端、カーズの体が光り出す。見るといつの間にか魔神の体に青白い光を放つ魔法陣が浮かび上がっていた。


「先程の攻撃の際、光の結界を作らせてもらった。

敵にバレずに作るのは苦労したがどうやら上手く行った様だな」


光の魔法陣が浮かんだ途端、カーズが苦しみ出した。どうやらカインの言う通り効果があるらしい。

魔法陣の光は徐々に強くなって行った。


『ワワワワレはエデンのぉーーーーーーっ!!』


苦しむ魔神の口や眼の窪みなどからも光が漏れ出す。いつの間にかカーズの全身が光り出していた。

そしてその光が眼をつぶらんばかりに輝き出した時、カインが叫んだ。


「聖なる戒めを受けろ!シャイニング・フォースーー!!」


魔法陣の名を言い放つ白の勇者。それと同時に魔神の体から光が爆発する。


『グオォオオーーーーーー!!』


聖なる力の戒めを受け、黒焦げになったカーズが思わずカインを手放す。自由になった勇者だったが、捕らえられた時のダメージが大きいのか?動く事が出来ず、そのまま地面に落下した


ーードタン!!

「ぐっ!・・・ヴァーカード、後は任せたぞ?」

「よくやった。カイン」


倒れたまま動けないでいるカインの方を見ず、ヴァーカードが応える。

チャージはすでに終わっていた。

黒いマグナムガンの銃口には漆黒のエネルギー弾が完成している。

見た者が凍り付きそうな鋭い視線を向け、凶戦士が引き金に指を掛ける。

そして黒焦げになり、言葉を失っている魔神に冷たく言い放った。


「消え去れ」

キュイーーン・・・ドォン!!


発射された『魔王』の一撃がカーズに直撃する。最初、ボール程の大きさだったエネルギー弾は魔神の体に当たった途端、その体を包む程巨大になり、一瞬でカーズを粉砕する。


『ガアアァーーーーーーーーッ!!』


粉々になりながら魔神の断末魔の悲鳴が響き渡った。

漆黒の凶弾は主であるバーカードに敵対する者を全て破壊し、消滅させる。

エネルギー弾が消えた後、凶戦士の前に残ったのは焦げ臭い匂いと降り注ぐ塵だけだった。


「・・・任務完了だな」


敵を倒した事を確認し、『魔王』をホルダーに挿しながらヴァーカードが踵を返す

自分の背後でまだちょび髭ユーザーが震えていたが、彼には何の興味も無い。

任務を果たした凶戦士がその場を離れようとした時だった。


『・・・我ガ名ハカーズ』

「っ!?」

ーーギャリリリリ!!


背後から聞こえて来た有り得ない声に素早くヴァーカードが振り返る。


手に持つのは『蛮器』。振り返った途端、防御の体勢を取った凶戦士だったが、そんな彼に有り得ない物が飛んで来る。

それは間違いなくカーズの手だった。


「これは・・・!?」


奇襲を咄嗟に防いだヴァーカードだったが、さすがに驚きを隠せない。

粉砕した筈の魔神の手が宙に浮いているのだ。驚いて当然である。

背後にいるちょび髭ユーザーを守るため、力比べを続けるヴァーカードだったが、そんな彼の前でさらに驚くべき事が起こった。


『我ハエデンヲ支配スル者ナリ・・・』


粉々になった塵が徐々に元に戻って行く。そしてカーズの顔が宙に浮かんだまま再生したのだ。

そして口の中には先程と同じ火炎弾がある。

また自分の手を犠牲に、バーカードを倒す気なのだ。


「なるほど・・・少しでもデータが残っていたら再生できるらしいな」


言いながらヴァーカードが苦笑するが、その体は徐々に押されつつある。態度には出さないがやはり彼もダメージを負っているのだ。

その間にもデータの断片は集まり、今度は魔神の左手が復活する。

正に絶体絶命の状況だが、何故か凶戦士は笑みを崩さなかった。


「・・・やはり念には念を押しておいて正解だったな?カイン」


バーカードの言葉を聞いてその時初めてカーズはカインの姿が無い事に気付く。

さっきまで倒れていた場所には姿も形も無い。

首と手だけとなった魔神が必死になって捜すが、見つける事が出来ない。

それもその筈、白の勇者は意外な所にいたのだ。


「ああ・・・そうだな!!ヴァーカード!!」


ヴァーカードの問いに空中にいたカインが答える。何とカインは魔神の真上にいたのだ。

いつの間にか形成した巨大な魔法陣に刺した白銀の剣は、これ以上無い程まばゆい光を放っている。

それは彼が使おうとしている技が自身最強の技である事を意味していた。


「不死の力を持つ太古の魔神よ!!その強さに敬意を表して君に神の王冠を与えよう!!」


言いながらカインが空中の魔法陣から剣を引き抜く。そしてーー。


「クラウン・ゼロォオオオーーーー!!」

ーードォン!!


カインが剣を振り下ろした瞬間、魔法陣から強烈な光線が発射された。

それは正に波動砲!

光の王冠はカーズだけを包み込み、ヴァーカードはちょび髭ユーザーを抱え込みながらその場を脱出する。

二人は魔神が復活した時のため既に準備していたのだ

先手を打っていた勇者達の正に作戦勝ちである。

そんな事も露知らず、騙されていたカーズに助かる手段はもう残っていなかった


『我ハ・・・エデンヲ・・・』


最後の言葉を残し、魔神が消えて行く。

全てのデータの消滅。今度こそ二人の勝利である。

だが、その代償はあまりにも大きく、光の王冠が無くなった後カインはまた地面へと落下し、ヴァーカードは肩で息をしている。

激戦の後、平穏を取り戻した名も無き丘で二人は暫く動けないのだったーー。



「ありがとう、ヴァーカード」


回復魔法を使い、復活したカインがそっと手を差し出す。表情に浮かんでいるのはいつもの爽やかな笑顔。輝きそうな白い歯が妙に眩しかった。


「君のおかげで仲間の敵を討つ事が出来た。

これでケイルやまほまほも戻って来る筈だ」


いつも以上に爽やかなカインだったが、それは不安の裏返しだとヴァーカードは知っていた。

彼もまた本当に部下が戻って来るのか半信半疑なのだろう。


「・・あのモンスターは一体何だったのだ?」


カインの差し出した手を無視し、煙草に火を点けたヴァーカードが誰に聞く訳でも無く呟く。

それは二人の気持ちを代弁している物だった。

片やチェイサーをまとめる伝説の勇者として、片やその実力を買われ、WB社から掃除屋として雇われた凄腕ハッカーとして数多くのバクや悪質ユーザーと対峙して来た二人だったがあんなバグに遭遇するのは始めてだった。


「何者かに改造されたモンスターである事は間違いない筈だ。それも我々が全力で戦わねばならない程の・・・」


一転してその場の雰囲気が重苦しい物になった。何故だか、二人は胸騒ぎを感じていたのである。

先程確実にバグの原因である魔神は倒した。だが何か違和感を感じる。

まるでまだ戦いが終わっていない様なーー。

その不安が一体何処から来ているのか二人にも分からなかった。


「・・・今考えるには情報が少な過ぎる。とにかく私はこの事をクライアントに報告するつもりだ。それが私の仕事だからな」


煙草を踏み消し、ヴァーカードがそう結論付ける。自分は託された仕事をきっちりやるだけの事だ。その過程でどんな敵が現れようが、この手で排除するのみ。

それだけの自信と実力を彼は持っていた。


「やれやれ、君らしいな?」

「後の事はまかせる。・・また会おう。カイン」


肩を竦める白の勇者を残し、バーカードが立ち去ろうとする。

と、そんな凶戦士の眼に未だに腰を抜かしながら震えているちょび髭ユーザーの姿が止まった。

もはやモンスターもいないのに怯える様は明らかに異質に見える。


「まだいたのか?いい加減帰れ。お前のせいで無駄なダメージまで負ってーー」

「うわああああっ!!」


軽蔑の眼差しを向け近付いたヴァーカードだったが、その言葉はちょび髭ユーザーの叫び声で掻き消された。

突然の絶叫に凶戦士はもちろん、側にいたカインもギョッとする。

だが次の瞬間、二人は別の意味で驚く事となった。


「か、勝てない!勝てないんだ!!皆殺される!!あの亡霊に・・・あのカラスに!!」

「・・・何?」


ちょび髭ユーザーが見つめる先、海が広がる景色に小さな影があった。

そこでようやく二人は胸に抱えていた違和感が何だったのか気がつく。

静かすぎるのだ。

フリーズの原因であるモンスターは倒したのに波の音も、森に住む鳥達の声も、風の音すら聞こえて来ない

それは未だにフリーズ状態が終わっていないと言う事。

脅威はまだ過ぎ去っていないのだ!


『・・・・・』


ヴァーカード達がいる名も無き丘からかなり離れた場所に、そのモンスターはいた

漆黒の羽根を広げながら羽ばたき続け、見えているのかも分からない三つ目の窪みをこちらに向けている地獄の烏モンスター・・・クロウ

その左手にはまばゆい光を放つ水晶髑髏。そして右手には巨大な眼を模った赤い杖を握っている。

その赤い杖の目玉部分が爛々と光り出した途端ーー。


「・・・まずい!」

・・ピーーーーーー!!


ヴァーカードが呟いた瞬間、杖から光線が発射されていた。

ビームは一瞬で崖まで到達し、ヴァーカードとちょび髭ユーザーに迫り来る。

激闘を終え、ちょび髭ユーザーに気を向けていた事もあり、バーカードはすぐに反応する事が出来なかった

やられるーーそう、凶戦士が覚悟した時だった。


「ヴァーカードぉ!!」

ーーギュン!!


気付くと体を押され倒れ込んでいた。

そして目の前には真っ赤な光と白い影・・・。

それが自分を庇い、光線に打ち抜かれたカインだと言う事にヴァーカードは少しの間理解出来なかった。


「ぐ・・・あ!」

「ーーカイン!!」


カインが倒れ込むのと同時に彼の聖なる剣ハルバリオンが空中で回転し、崖の先端に突き刺さる。どうやら剣で防御しようとしたらしい。

しかしクロウの光線は剣を弾き飛ばし、哀れカインが餌食となってしまったのだ


「カインしっかりしろ!!カイン!!」

「ふ・・・颯爽と君を助けるつもりだったのだがな・・?やはり私も、まだまだ甘い・・」


ヴァーカードが抱き起こすと弱々しくカインが笑ってみせるが、彼の末路は既に決まっていた。

案の定、打ち抜かれた白の勇者の右胸から凄いスピードでウィルスの侵食が始まる。

それを見て、今までぶつぶつと呟いていたちょび髭ユーザーが我に返り、顔色を真っ青に変えた。


「わ、悪くない!私は・・私は悪くないんだぁーーーー!!」

「おい!待て!!」


恐怖に駆られたちょび髭ユーザーは脱兎の如く、その場から逃げ出してしまう。

いつの間にかクロウの姿も消えていた。

名も無き丘には今にも消滅しそうなカインとそれを抱き抱えるヴァーカードの二人だけが残される。


「逝くなカイン!私は・・・私はこんな事で貴様に借りを作るつもりは無い!!」

「はは・・・君らしいな。だが、ヴァーカード・・・どうやら私は・・・ここまでの様だ・・」


カインの体はもう、上半身と足は完全に消えていた。後は腰と手と頭のみ・・・

と、カインがゆっくりとヴァーカードの顔に手を差し延べる。

凶戦士自身、気付いてはいなかったが彼は悲痛な表情を浮かべていた。それは普段、滅多に感情を出さない彼が見せる始めての悲しみの表情である。

そんな友を慰めるかの様に白の勇者はヴァーカードの頬に触れた。そしてーー。


「さらば・・・だ。我が・・と・・も・・」


言い終わる前に手に感じていたカインの重みが無くなる。

飼い主がいなくなった事を悟ったのか?近くの森で戦いの様子を見ていたククルがキューンと悲しげに鳴く

ただ一人残されたヴァーカードは今まで友を抱いていた手を力強く握った。


「カイン・・・うおおおおぉーーーーー!!」


突然の咆哮に木々に止まっていた鳥達がギャーギャー騒ぎながら飛び立って行く。

だがククルは聞いていた。凶戦士の叫びを、悔恨の咆哮を・・・。

その日、「エデン」から三人のユーザーが行方不明となる。

そしてそれまで敗北を知らなかった男がたった一人の友を失い、「エデン」を震撼させる脅威の存在を知った忌まわしき日となったのだーー。



『・・こうして私はノイズの存在を知り、(ゴースト・ハッカーズ)を結成した。結果はーーまぁ、見ての通りだがね』


未だに地面へと突き刺さっているカインの聖剣ハルバリオンに翼を休めながら、ククルの姿をしたヴァーカードは長い長い昔話を終えた

友の剣は今では墓標代わりとなっている。

ヴァーカードの話を聞いて、ハジメは震えが止まらなかった。

彼もまた自分と同じだったのである。

少年が絶句していると、それまで海の方を向いていたヴァーカードが小さく羽ばたき、ハジメの方へ向き直した。


『私はその時まで自分の力を驕っていた。自分より優れた人間などいないと・・・。だが強大な力は更なる強大な力に依って完膚なきまでに叩き潰された。

当然だ。例え、どんなに強くなろうとも個人の力など高が知れている』


ハジメはヴァーカードが自分に何を伝えたいのかがよく分からなかった。彼が何故ノイズを追い続けているのかは分かったが、それを自分に話す理由が分からない。

少年の表情を見て察したのか、ヴァーカードは一度間を取ると真剣な顔つきで話し始めた。


『少年、力を望むのは良いが力に呑まれてしまっては駄目だ。強くなりたいと思うのならばその力に見合った意思の強さを手に入れねばならない』


小さな白竜の言葉にハジメはハッとした。彼は過去の話をして自分と同じ運命を辿るなと言っているのである。

強さを求め我を忘れていた少年に、ヴァーカードの言葉は深く突き刺さったが、彼の話はさらに続いた。


『人の強い意思ーー心は時にとんでもない奇跡を起こす物だ。

あのクロス・パウロで再度クロウと対峙した時、少年が私を助けようとしてしなければ私はこうしてククルの姿で生き残っていなかった筈・・・。

強さとはその意思や願いによって手に入れられる物なのだ。

少年よ、君は何のために強くなりたいと思う?』


ヴァーカードの鋭い視線にハジメは言葉を窮した。

ノイズ事件に関わってからつねに強くなりたいと思っていたが、その理由を考えた事が無かったからである

だから白竜に何故と聞かれた時、少年は明確な答えを出す事が出来なかった。


「ボクが強くなりたい理由・・・。それは・・・それは・・・」


ハジメが答えを探していると、それまで厳しい顔つきだったヴァーカードが表情を緩め、少年の肩に乗る。

それはまるでハジメを励ますかの様に優しい乗り方だった。


『答えが見つからないのならゆっくり探せば良い。だが、これだけは覚えておいてくれ。

力に呑まれればその先には破滅しかない。そんな事を《悠久の監視者》は望まないだろう。

君がゲームを楽しみ、笑顔になってくれる事を彼は望んでいた筈だからな』


そう言うと、ヴァーカードは空中からコマンドの【アイテム】を使い、空中から何かを取り出す。そして口に咥えるとハジメに渡した。


「これは・・・」

『彼の落とし物だ。本当はもっと早く少年に渡すつもりだったのだが、中々機会が無かった物でね』


ヴァーカードから渡された物を見てハジメの手が震えた

シュウの落とし物・・・それは赤いサングラスだったのである。

それは彼がウィルスに侵され消える際に残った結一の遺品だった。

シュウが消える時に最後に見せてくれた優しい笑顔を思い出して、ハジメの表情が歪んだ。


「シュウ兄ちゃん・・・うっ、ううっ!!」


サングラスを両手で握り絞めハジメは声を上げて泣いた。ゲームなので涙は出ないがそれでも思いっきり泣いた。

今まで、戦い続きで追い詰められていた少年の心が悲しみと共に洗い流されて行く。

再度剣に飛び移ったヴァーカードは優しい顔で泣き崩れるハジメを見守っていたーー


(続く)

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