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THE・ログインvo1  作者: 秋葉時雨
31/40

FILE:31『鍛練(トレーニング)』


ーーカタカタカタ!

大画面を見ながら噂屋のオババが引っ切りなしにキーボードを叩く。

《噂屋》の大画面にはキャラのステータスや何かのグラフなど様々なデータが映し出されている。

そして画面の左端には岩窟王とハジメの戦いが小さく映っていた。


「ふぅ・・・!」


全てのデータの解析を終え、オババが椅子にもたれ掛かる。

すると今度は大画面に白い竜の顔がどアップで映し出された。

ヴァーカードだった。


『どうだ、黒衣の魔女?解析の方は』

「やれやれ、今終わったよ。全く年は取りたくないねぇ」


相当疲れたのか、首をゴキゴキ鳴らしながらオババがぼやく。

それを見てヴァーカードは今の姿に似合わないニヒルな笑みを浮かべた。


『それはご苦労だった。で、どうなのだ?先の戦いで少年が使ったあの炎はやはり・・・』


ヴァーカードが全てを言う前にオババが頷く。それを見て白竜の表情が曇った。


「間違いなくエンゴウの力だね。あの岩石モンスターと戦った時に坊やの左手に浮かび上がったあの文字・・・。ありゃクロウって言う烏モンスターがエンゴウを召喚した時に出て来たのと同じもんだ。

坊やは倒したウィルスモンスターの力を使えるんだよ」

『そうか・・・』


オババの説明に渋い顔をするヴァーカード。それはハジメの力の謎が一つ解明された事を喜ぶ顔では無い。


「ヒッヒッヒ!どうしたんだい?良かったじゃないか。これで坊やはさらに強くなったんだよ。

岩窟王の力も得てLevelも上がったみたいだしね」


言いながらオババがまたコンピューターを操作し大画面の端にハジメのステータスを出す。

見ると確かに、少年のレベルが上がっていた。

岩窟王と戦うまでLevel5と書かれていた部分が今はLevel20と大きく表示されている。


『己が正義を貫くには強さが必要だ。だが少年はあまりにも幼な過ぎる』

「心配なんだね?あの子がウィルスに呑まれちまうんじゃないかって」


オババが指摘するとヴァーカードは長い首を縦に振る。

それは彼がエンゴウとの戦いでハジメを見た時に感じた物であり、先日帰って来た焔からも聞かされた事だった。

ーー岩窟王との戦闘後、ハジメ達はアカネを連れすぐに(トロイ)に戻って来た。

だが、何があったのかも話さず少年はすぐにログアウトしてしまい、代わりに今まであった出来事を報告した焔が最後にこう言った


(あの力はヤバイです。ウィルスがガキの憎しみを増大させてる様に見えました)


頭は単純だが戦闘では天才的なセンスを持った焔の言葉である。 恐らく少年の戦い方や行動を見て敏感に何かを感じたのだろう。

ならば一刻も早く何とかせねばならない。


「ヒヒヒ・・・まだウィルスがユーザーにどんな影響を与えるか分かってないんだ。その可能性は十分あるだろうね。

だけど、ヴァーカード。この先何があってもアンタは坊やを守ってやらなきゃいけないよ?

こんな戦いにあの子を巻き込んだのはアンタなんだからねぇ」


まるで試すかの様にオババがバーカードを見る。すると・・・。


『そんな事は百も承知している。体を失った時点で一度は捨てた命だ。

少年は必ず守ってみせる』


当たり前の様に言い切ったヴァーカードの言葉にオババはニヤリと笑った。姿は可愛くなってしまったが、決して揺るがない強さと信念は健在らしい魔女は彼のそう言う部分が気に入っていた。


『所で助っ人として呼んだあの魔導師の少女の事なのだが・・・』


と、突然話が変わったと思うと、画面がヴァーカードから(トロイ)の中に切り替わる。

するとホームの片隅にうずくまりながら何やらぶつぶつ口走っている少女がいた。

アカネである。

背中にどんよりとした陰を差し、床に文字を書いている姿はいつものクールな彼女とは違い、明らかに落ち込んでいるのが分かった。


「ハジメ、守れなかった・・・。私、役立たず・・・ただのゴミ」

『岩窟王との戦いで何かあったのか?こちらに来てからずっとこの調子なのだが・・・』


どよ〜んと言う文字が見えそうな程落ち込んでいる魔法少女を見て、黒い衣の魔女は大声で笑い出した。

普段一緒にいる彼女も中々お目にかかれる姿ではない。

暫く笑っていたオババだったが、やがて落ち着くとバーカードに訳を話し始めた。


「なーに、自分が坊やを守り切れ無かったのと気絶したせいで格好良い姿を見れなかったってイジケてるだけさね。

坊やが帰って来たらすぐに元気になるだろうよ」


オババはそう言うが、とてもそんな風には見えない。これでは役に立つ所か助っ人として呼んだ意味がないのではないか?


『そうなのか?ならば良いが』

「心配しなくても貰ったレンタル料の分はきっちり働くよ。

それじゃ私は例の件を調べてみるからね。分かったらまた連絡する」


と言うと噂屋のオババはさっさと通信を切ってしまった。

一瞬トロイ内にアカネの呟きだけが響き渡る

自分勝手なオババの態度に、ヴァーカードはやれやれと長い首を振った。


『ラビィ、少年は今何処にいる?』

「あいあ〜い、少々お待ち下さ〜い」


白竜の指示でラビィがコンピューターを操作する(トロイ)内には焔とハジメの姿が無かった。

焔は「用がある」と出掛けてしまい、ハジメはログインしているがここには来ていない。

岩窟王との戦いが終わってから、一人で『エデン』の世界を回っている様なのだ。


「あい〜見つかりました魔蟲の沼・・ここにいるみたいですね〜」


手が出ない長いローブでコンピューターに写し出されたあるエリアの画面を差しながらラビィが言う。

オペレーターのウサミミ少女が指差した場所、そこは狂暴なモンスター達が住む一人では危険過ぎる場所だった


ーー適応Level23 魔蟲の沼ーー


ブンーー!!

「はっ!?」


耳に響く羽音にハジメは後ろを向いた。だが、音が聞こえたのは一瞬で、背後には誰もいない。

と言うより、深い霧のせいで何も見えないと言うのが正解だった。

ここは魔蟲の沼。四六時中深い霧に包まれている不気味な沼である。

辺りはシーンと静まり返っており、生き物がいる様には感じられない。

だが確実にこの濃霧の中に自分を狙っている敵がいる事を少年は知っていた。

それは足元に転がっているいくつもの大きな死骸が物語っている。


ブンーー!

「っ!?やぁ!!」


と、さっきよりもさらに大きく羽音が聞こえ、ハジメは慌ててダブルダガーを振るった。

背後でザシュ!と言う音と共に大きな陰が地面に落ちる。

見るとそれは、少年の頭程ある緑の巨大な蜂だった。


ーーブン!ーーブン!


巨大な蜂モンスターを倒した途端、ハジメの周りに更に大きな陰が4つ現れる。

この沼に出現するモンスター、ポイズンビーだ。濃霧の中に隠れ群れでユーザーを襲い、毒のある針まで持っている狂暴なモンスターである。


「・・・・!」


周りを囲まれ、ハジメは改めて身構えた。

本来なら多勢に無勢なので逃げるべきなのだが、少年は引こうとはしない体は薄汚れていてボロボロなのだが、その目には強い勇気の光が輝いていた。


(1・・2・・3倒したのが3匹で残りは4匹!)


頭で倒したモンスターの数を確認しながら、周りにも細心の注意を払う。

一瞬でも気を抜けば、それは即ゲームオーバーに繋がる。

ポイズンビーの毒針を喰らい動けなくなれば、万に一つも少年に勝ち目は無いのだ。


ブブンーー!!


暫く続いた膠着状態を打ち破る様に一気に2匹、ハジメの前後からポイズンビーが襲い掛かって来たそれに合わせた様に少年はジャンプし、体を回転させると持っていたダブルダガーで蜂モンスターを真っ二つにする。

だが、着地したと同時に残る2匹が襲い掛かって来ると、一瞬で身を翻しモンスター同士を正面衝突させる。

体のあちこちを擦りむきながら転がり、ダガーを拳銃に変形させると、脚が絡まって動けないでいるポイズンビー達に向かって銃口を向けた。


「わあああーーーーっ!」

ーードンドンドンドン!!


叫びながら二丁拳銃を乱射すると、弾は全て命中し蜂モンスター達は大爆発を起こす。

爆発が修まり辺りがシーンと静まると、ハジメの体を緑の光が優しく包み込む。

レベルアップだ。

それはバトルが終わり少年が勝った事を証明していた。


「や、やった・・!」


レベルアップした事で体力も回復したハジメが立ち上がり、ガッツポーズを取る。

バトルを終えて少年は完全に警戒を取っていた。


ブブゥンーー!!


するとその隙を待っていたかの様に、突然背後からさっきより大きな羽音が聞こえて来た。

振り向くと目の前に、ハジメが倒したのより一回りも大きいな赤いポイズンビーがいて、少年に向かって針を突き刺そうと突進して来た。


「うわぁ!!」

ーーゴォッ!!


少年が思わず叫んだ途端真横から割り込む様に炎が飛んで来て、赤いポイズンビーを包み込む。

ドラゴンなどが使う火炎放射だ。

憐れ、炎に飲み込まれた蜂モンスターは奇声を発しながら地面を転がり、やがて光の屑となって消えてしまった。


『油断大敵だぞ?少年。このフィールドで気を抜けばそれは死に繋がる』

「ヴァーカードさん・・」


ハジメが驚いて呆然としていると、濃霧の中から白い小さな翼が現れた。

ヴァーカードである。

空中を飛んでいた白竜はスイ〜っと回る様に降下を始めると、少年の肩に上手く着地した。


『今のはクイーンビーと言って蜂達の親だ。奴は兵隊達に先に襲わせ、獲物を弱らせてから襲い掛かって来る

この沼では度々出て来るので気をつけた方が良いだろう』


ヴァーカードの説明を聞きながらハジメは顔を俯かせる。

彼の助けがなかったら今頃完全にやられていた。これが以前の少年ならバーカードに助けられた事を喜び、お礼の一つでも言う所なのだが、今のハジメには嬉しさより悔しさの方が込み上げて来た

情けなかったのだ。

戦いを終え、油断した自分が・・・。

自分の不甲斐無さに体を震わせると、それに気づいたのか肩に乗っていたバーカードがフッと表情を和らげた。


『ほんの少し見ない間にずいぶんと精悍な顔になったな?もう立派な戦士だ』

「え?あ、いえ、そんな・・・」


ニヒルな笑みを浮かべた白竜に突然誉められ、ハジメは顔を赤くする。

凛々しくはなったが、こう言う所はまだまだ年頃の少年だ。

だが、その表情はすぐに曇る。


「Level21なんてまだまだ全然です。

ノイズと戦うためにはもっともっと強くならなくっちゃ」


自分の想いを確認する様にハジメが強く握った手の平を見る。

それを見てヴァーカードはオババや焔の危惧が取り越し苦労では無い事を実感した。


『気にしているのか?焔達が傷付いた事や《悠久の監視者》が犠牲になった事を』


ヴァーカードが聞くと、ゆっくりとハジメが頷く。根が優しい筈の少年がここまで強くなろうとする理由と言ったらそれ意外無いだろう。


「ボクは『エデン』が楽しい夢の様なゲームだと思ってました。

でも違った。本当の『エデン』はノイズやそれ以外の悪意が蔓延っている世界だとようやく分かったんです」


顔を伏せたまま、少年が話し始める。ノイズ以外の悪意とはアウトローユーザーの事だろう。

ヴァーカードは肩に乗ったまま、ハジメの話に耳を傾けた。


「でもそれは『エデン』が悪いんじゃない。『エデン』の中で悪さをしている人達が悪いんだ。

『エデン』はシュウ兄ちゃんがたくさんの人に楽しんでもらおうと思って作った大切なゲームなのに・・・ボクは、ボクは『エデン』を荒らす奴らが憎い!」


純粋な心の少年に今、失望と怒りが芽生え始めていた。

ハジメはただゲームを楽しみたかっただけだ。なのに自分と出会い、ノイズと言う驚異を知ってしまった事で大切な者を失ってしまい、命の危険にまで晒してしまったのである。

少年の心が荒んでしまうのも無理は無い。

そう思うと、罪の無い者を巻き込んでしまった事にヴァーカードの心は酷く痛んだ。


「でも今のボクには何も出来ない・・・だから決めたんです。

力さえあれば何でも許されるのなら・・・それがゲームの世界だって言うのならもっと強くなろう!

弱いせいで二度と悔しい思いをしない様に!!

幸い、ボクのキャラにはバーカードさんの力やウィルスって言う無限の可能性が眠ってる!

それをコントロール出来る様になれば、ノイズ所かどんな奴にだって負けはしなーーー」

『待て、待つんだ少年!』


段々と語気が熱っぽくなって行くハジメを見てヴァーカードは慌てて制止する。

ハッと我に返りこちらを見たハジメの眼の中にヴァーカードは危険な光を見た。

それはかつての焔や蘭丸達と同じ、力だけを求め戦いに身を宿す狂気の光ーーアウトローの光だ。


『君の左手は確かにノイズと戦える希望だ。だがそれをユーザーに使えばとてつもなく危険な物に変わる両刃の刃でもある』

「・・・分かってます。ごめんなさい、ボクは今どうしてあんな事を?」


自分でも分からないのかハジメが怪訝な顔をする

「ウィルスは憎しみを増大させる」と焔は言っていたが、あながち間違ってはいないのかもしれない。

もし、左手に浸蝕したウィルスが少年に何らかの影響を与えているのだとしたら、それは由々しき事態だ。何とかせねばならない。


『ちょっと付き合ってくれないか?少年』


驚いているハジメの肩から飛び立ち、ヴァーカードが突然ゲートの方へと向かう。

白竜のいきなりの行動に面食らった少年だったが取り合えずついて行く事にしたーー。



「やっぱりあの程度か」


ハジメ達がいた沼から遠く離れた山の山頂。そこから二人がゲートに消えるのを見ている者がいた

紫猫の獣人、ケルビムである。

以前マルコロ大聖堂でウィングとハジメを馬鹿にしたユーザーが何故かハジメの戦いを観察していたのだ。


「正直、拍子抜けだな。まぁ、でも救世主なんて呼ばれた者は存外あんな物か」


辺りを包む深い霧でもちゃんと見えているのか?しっぽをピコピコ振りながらケルビムが微笑む。その笑顔には彼の底意地の悪さが滲み出ている様だった。


「わあ〜☆ケルビム様ぁ助けて〜♪」


と、笑いながらケルビムの方へ逃げて来る人影があった。

ピエロのマリオである。見ると彼の後ろには、先程バーカードが倒したクイーンビーが毒針を出して追い掛けて来ていた。


「私を煩わせるなよ。マリオ」


深いため息をついたケルビムが振り返り、後ろに組んでいた手を離す。すると・・・。


シャキーーン!!


鋭い光が煌めいた瞬間、クイーンビーが真っ二つになっていた。いつの間にかケルビムが長い白銀の剣を抜いていたのである。

胴と頭を切り離された蜂モンスターは地面に落ちると光の屑になってしまった。


「この右腕が疼いてしまうだろ?」


長剣を振り、クイーンビーの血を掃いながらケルビムが言う。白銀の鎧と鎖に縛られた右腕が呼応する様にカタカタと震えていたが、やがてそれも修まった。


「わあ〜〜!凄い、凄〜〜い☆ケルビム様、日本一ぃ〜〜♪」


猫剣士が長剣を鞘に納めると、マリオがやんややんやと拍手する。

だがケルビムは、さも当然だと言わんばかりに澄ました態度を取った。


「アハハ☆で、これからどうします?彼らの後を追いますか〜?」


笑いながらマリオが聞くとケルビムは顎に手を置き、少し考える素振りを見せる。

が、やがてそのままニヤリと笑った。


「いや、あの程度の連中なら気にする必要も無い。ただし、念には念を入れておくがね?」


そう言うと紫猫の剣士は悠然と歩きながら、深い霧の中へと消えて行く。その後に続いて、マリオも踊りながら消えて行ったーー。



ーー適応Level8 名も無き丘ーー


心地良い風が流れて来るハジメがバーカードに連れて来られたのは、鬱蒼とした草が生い茂る野原と崖しか無い場所だった

クロスピアの近く、シルパと言う村の側にあるモンスターすら出ない丘である。

見ると、崖の先端に一本の綺麗な剣が刺さっている。

ヴァーカードはその剣に近付くと、柄の部分に小さな体を着地させた。


『懐かしいな。まさかこの体でここに来るとは思っていなかった』


崖から先の海の景色を見ながら感慨深げに語るヴァーカード。どうやらここは思い出の地らしい。

朝日の登る中、その光に照らされる白い翼は何やら神秘的な物に見えた。


「ヴァーカードさん。ここは?」

『ああっ、すまない。少年にはまだ説明していなかったな』


振り向いたヴァーカードの顔が急に難しくなる。ハジメには何故彼がここに連れて来たのか分からなかった。


「ここは私にとって特別な場所だ。私が初めてノイズと遭遇した場所であり、大切な友を・・・失った場所だ」


ヴァーカードの言葉にハジメの表情が強張る。白竜の口から語られる物語。それはノイズの驚異と友との別れを描いた悲しい戦士の話だった。


(続く)

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