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THE・ログインvo1  作者: 秋葉時雨
25/40

FILE:25『岩窟王(ゴーレム)』


屋敷の屋根から飛び降りた途端、アカネは脱兎の如く駆け出した。そのスピードは魔導士とは思えない程早くアウトロー達はもちろん、モニターで見ていたハジメ達をも驚かせる。


「な、何してんだ!?撃て撃て!!撃ちまくれ!!」


一瞬、呆気に捕われていたアウトロー達だったが直ぐに迎撃の銃弾の雨を降らせる。

しかし当たらない!

ゴーレムの砲撃も才蔵のライフルも魔法少女は意図もたやすく避けてしまい、アクション映画のヒーローの様に爆音だけが虚しくアカネの背後に響いて行く。

まるで、弾が何処に飛んで来るか分かっているみたいだ。

赤い弾丸と化した少女はあっという間に蘭丸達との距離を縮めて行く。


「バカヤロウ!!何やってんだ!?さっさと撃ち殺せ!!」

「わ、分かってるっスよ蘭ちゃん!

えーい!これならどうっスか!!」


焦り出す仮面アウトローをなだめながら才蔵のライフルが一瞬光りを帯びたかと思うと、銃口から発射された銃弾が何と4つに分離した。

放たれた4つの銃弾はそれぞれ赤・緑・黄色・灰色と別の色に分かれており四方からアカネを取り囲み飛んで行く。

さっき森の広場で焔が苦戦したホーミング弾だ。


「・・・銃弾分離を確認カウントダウンを開始する。3・・2・・1・・0!」


だが、ホーミング弾が当たる直前、アカネは上空へ高々とジャンプした。そのせいで弾は少女に当たらず自滅して猛烈な煙を立ち上らせる。

煙の中から姿を現したアカネは何事も無かったかの様に、才蔵の目の前に着地した。


「そんな!!防がれる事はあっても避けられた事なんて無い俺っちのホーミング弾がーーっ!?」

「・・・あなたの技は発射からきっかり5秒後、相手に着弾する。

それさえ分かれば回避も可能・・・」

ーーヒュン!!


ボソボソと聞き取りにくい声で呟きながらアカネが、持っていた赤いロッドをフルスイングする。

先端にある黄色いハートに顔面をクリーンヒットした才蔵は、付けていたサングラスを吹き飛ばしながら森の木に激突した

「ぐえぇっ!!」

「このっ!!ちょっと早いからって調子に乗んなつっーの!!」


才蔵がやられたと同時に襲い掛かって来たのが(アサシン)の阿国だ。

自慢のスピードで少女の背後から鉤爪を振り下ろす。

だが、アカネは突っ込んで来る阿国に対して体を半回転させ、簡単に奇襲攻撃を回避した。

これは拳法などで用いられる円の動きを使った体捌きだ。


「ええっ!?」

「・・・貴方はスピードに頼り過ぎている。そんな攻撃じゃ私には当たらない」


目標を失ったギャルアサシンはブレーキが効かず転がりながらそのまま才蔵の元へと突っ込む。

最初、マンガみたいに眼を回していた二人だったが直ぐに顔色が変わった稲妻の矢を作り上げたロッドを、アカネが二人に向けていたからだ


「ウソっ!!マジ!?」

「あぁああーーーっス!!」

「・・ライトニング・アロー」

ーービュン!!・・ドガァーーン!!


無表情のままアカネが呪文の名を口にすると、放たれた稲妻の矢は一直線に飛んで行き、阿国と才蔵を炎に包み込んだ。

残ったのは二つの『GAMEOVER』と表示された光の輪だけである。

爆発と煙が立ち上る中、あまりにも鮮やかな戦い方で二人を一気に倒してしまった少女は、澄まし顔のままゆっくりと蘭丸の方を向いた。


「才蔵!阿国!!て、テメェーーーーっ!?」


戦闘開始から僅か数分で仲間を失ってしまった仮面アウトローがブチ切れる。

しかし何を考えているか分からない魔法少女は全く怯んだ様子を見せず、クルクルとロッドを回すと改めて構え直した。


「残るは後2匹・・・」

「黙りやがれ!!俺をコケにしてただで済むと思うな!?ゴーレム、この女をぶっ潰してやーー」


頼りの岩石モンスターに命令を降そうと蘭丸が指を指した瞬間、その場からアカネの姿が消える。倒す相手を見失い、ゴーレムが慌てているとその標的は突然隣に現れた。

何といつの間にかゴーレムの肩にアカネが飛び乗っていたのだ。


「ライトニング」


ロッドをゴーレムの首に突き立てたまま、少女が呪文を唱えるとあれだけ綺麗だった夜空が曇り始める。

そして俄かに雷鳴が轟き始めたかと思うと、アカネのロッドに稲妻が降り注いで来た。


ーーピシャ〜〜ン!ゴロゴロゴローーーッ!!

(コ、コォオオオーーーーッ!!)


ゴツゴツとした肩からアカネが飛び降りたと同時にゴーレムが黒焦げになる。

少女が着地した時には轟音を響かせて岩石モンスターは倒れていた。


「ゴーレム!?うおっ!!」


崩れ落ちるゴーレムを見て驚愕する蘭丸の喉元にロッドの先端が突き付けられる。

目の前にいるのは真紅のドレスの魔法少女。

少しでも動けばやられる状況に、さすがの仮面アウトローも言葉を失う。


「・・・これで後一匹。でも、貴方はハジメを虐めたでしょ?

だから簡単に倒してあげない・・・」


淡々とした口調で呟きながらアカネが微笑する。その冷たい微笑みに蘭丸は背筋がゾッとするのを感じた。



「どうやら勝負が着いたみたいだねぇ」


同じ頃、噂屋のホームではモニターを見ていたオババが笑う。まるでこの結果になるのが分かっていたかの様だ。


「バトル開始から3分20秒こりゃまた、アウトロー撃退記録更新ですな」


オババの近くで見ていた次郎も何処から持って来たのか、のんきにタイムウォッチで時間を計っているし、ハジメは逆に言葉を失っていた。

自分と対して体格の変わらない少女があんな巨大なモンスターを一撃で倒してしまったのだから当然である。

そして、さっき偉そうに少女が出て行くのを止めたのが、何だか無性に恥ずかしくなってしまった


「(魔導士)なのにあの動きかよ。あの女、ジョブチェンジ経験者かなんかか?」


焔だけは冷静に少女のバトルを分析し、オババに質問している。

しかし、自分が闘えなかった事には納得いってないのか何処か不満げである。

そんな彼の態度に意に返さず、オババがまた笑いながら頷いた。


「流石に鋭いね。確かにあの子は魔導士だけじゃなく拳士ファイターの能力も持ち合わせているのさ」


オババの言葉にああっとハジメが呟く。先程、焔が言っていた(ジョブチェンジ経験者)と言うのを以前シュウに教えてもらった事があったのだ。


(ーー要するに、ジョブチェンジ経験者ってのは自分の属性を一度変えた事のあるユーザーだ)


クロスピアで、冒険に必要な道具を買い揃えながら得意げに講釈する従兄弟の姿が思い出される。

ハジメの(ガン&ダガー)やシュウの(魔導士)など、様々な戦闘スタイルがあるのが『エデン』の特徴であり、これをユーザー達は一重に属性と言う。

そしてこの属性は変更が可能で、もし冒険の途中戦士から魔導士に変わったりすると、戦士のパワーを持ちながら魔法が使えると言う夢の様な力を手に入れる事も可能なのだ。

だが、一度属性を変えるとまた一から技を覚えなくてならないので大変面倒臭く、大低のユーザーはやりたがらない

しかし極一部にはそんな労力を厭わず挑戦するユーザーもいるのだ。


「へっ、今時そんな事やる奴がいるのかよ?ご苦労な事だぜ」


呆れた口調で焔が肩を竦める。すると何故かオババがまた気味の悪い声を上げた。


「ヒヒッ・・・甘いよ。《噂屋》のメンバーがそんな努力家だと思うのかい?」

「あ?」


言っている意味が理解出来ず焔とハジメが怪訝な顔をすると、大画面の半分にだけアカネの姿が映し出される。

どうやら先程のハジメ達と同じキャラクターのステータスの様だ。


『あの子はね、自分のキャラを作った時に(拳士)の能力を(魔導士)に組み込んだのさ。WB社のデータに侵入してね?

しかもその動機が『テレビに出て来る魔法少女みたいに、戦えて魔法も使えるキャラにしたかったから』なんてくだらない物なんだから大したもんじゃないか」


いかにも楽しそうにオババが笑うが、いまいち理解出来てないハジメは首を傾げる。

だがその疑問も、すぐに次の焔の言葉で解消された。


「はあ!?おいおいそれってハッキングじゃねーか!

そんな奴メンバーにするなんて、バァさん良い趣味してんな?」


ハッキングーー。それは『エデン』初心者である少年ですら知っていた。相手のパソコンに無断で侵入し、情報を盗んだり書き換えたりするネット愛用者なら誰もが憎む行為。

それをあの少女はWB社を相手に成功させたと言う。

もちろんバレたらアカネだけで無く、それを知ってメンバーにした噂屋のオババだってただでは済まない。

しかしそんな大それた事を平然と話し、笑っているオババにハジメはア然とするしか無かった。


「優秀な人材なら悪人だって使うのが私のモットーだからね。

まぁ、アンタ達もアカネの実力や素性が少しは分かったんだから良かったじゃないか・・」

ビィーーッ!!ビィーーッ!!ビィーーッ!!


と、突然オババの声が掻き消された。見ると、ホームの天井から警報ランプが迫り出し、激しい警告音を発している。

何事かとハジメが動揺していると、次郎が巨体を揺らしながら走って行き自分のパソコンを操作した途端、顔をしかめた。


「あちゃあ〜マスター、どうやらそう上手くは行かないみたいですわ。

画像の乱れを感知しました。それもホームの前でです」


あまり危機感を感じさせない口調で次郎が報告するが、画像の乱れと聞いて焔とハジメが顔を見合わせる。

オンラインゲームである『エデン』で起こるバグなど、たった一つしか思い付かなかったからだ。


「画像の乱れって、まさか・・!?」

「はい。どうやらノイズ現象みたいですわ」


次郎の言葉と同時に、ハジメは自身の左手を見る

ウィルスに感染し、黒く染まった左手が小さく脈動したのを少年は見逃さなかったーー。


ザザザザーーーーッ!!

美しい月が浮かぶ迷いの森の景色が一瞬激しく乱れる。まるで来訪者を拒む様にーー。恐怖の叫びを上げる様にーー。

後に訪れるのは完全なる静寂。

水を打った様な静けさに外にいた蘭丸とアカネもまた異変に気付いていた


「これは・・・」

「な、なんだ!?サーバーの故障か?」


何も知らない蘭丸は喚き散らすが、アカネはこれがすぐにノイズに因るフリーズ現象だと理解する

そして僅かな時間で頭をフル回転させ、今出来る最善の行動を導き出すと何故か仮面アウトローに突き付けていたロッドを下げてしまった。


「・・気が変わったわ」

「な、何っ?う・・おっ?」

ーーザシュン!


ため息をついた魔法少女が背中を向けたかと思うと、一瞬の内に蘭丸の体は斜めに切り裂かれていた。

眼にも止まらぬ攻撃が炸裂したのである

最初助かったと思い、安堵した蘭丸だったがその表情はすぐに苦痛の歪みに変わって行った。


「ぐぅ・・ああああぁーーーっ!!」

「やっぱり一撃で終わらせてあげる」


冷たい口調でアカネがポツリとつぶやくが、既に光の屑となっている蘭丸にその言葉は届かない

傍目から見たらずいぶんと冷徹な行為だが、蘭丸をノイズに巻き込まない様にするには、ゲームオーバーしかないと判断しての行動だった


ーーーバチバチバチ!!


案の定、倒れているゴーレムの真上に黒い球体が現れた。

クロウの球体である。

破滅を呼ぶ黒い翼は小さな放電を繰り返しながらゆっくりと、その姿を変えて行った。


「(道標)を追って来ればまさか彼らと出会うとはな・・・。

まぁ、良い。災いの芽は早い内に摘んでおくに限る」


ホームの近くにある森の中では木々に隠れて、白いマントの男が高みの見物をしていた。

完全に気配を消しているのかアカネは全く男の存在に気付いていない。

と、そんな中長いカウボーイハットに隠された男の眼が、クロウの真下で倒れているゴーレムを見て止まった。


「ゴーレムか。ちょうど良い、私達の手駒となってもらおう」


長い襟に隠れた口が吊り上がったかと思うと、男はそっと倒れているゴーレムを指差す。

すると、鳥の姿になったクロウの三つ眼の窪みがボンヤリと光り、持っていた水晶髑髏が黒い涙を流し始めたのだ。


(コ、コ、コココココココココォーーー!!)


一滴の水滴となった黒い涙が降り注ぐと、ゴーレムの体に異変が起こったムクリと巨体を起き上がらせると、手足を引っ込め突然回転し出したのである。

猛烈な土煙を上げながら回転するゴーレムの周りにはまた赤いゲートが現れ、エンゴウの時と同じ様に『∴√≡』と言う謎の抽象文字が現れる。

吸い寄せられる岩や土も吸収しながら変身を遂げる岩石モンスターは、やがて回転も止め、異形となったその姿をアカネ達に曝した。


《オォオ・・・オ》


赤いゲートが消えると低いうめき声を上げて(それ)はあった。

まるで石膏で固めた巨大な男性の顔ーー。

それがゴーレムの成れの果ての姿である。

石版に埋め込まれ、眼も口も頑なに閉じた顔はクロウと同じ三つ眼の窪みがあり、そこだけ眼球の代わりに光が爛々と輝いている。

クロウもエンゴウも総じてそうだが、この岩石モンスターもまた、生き物とは思えない姿である。これを作った人間はお世辞にも良い趣味とは言えないだろう。


「モンスター出現。先のデータからノイズ時に現れるウィルスモンスターと断定・・・」


不気味なウィルスモンスターを前にしてもクールな魔法少女は全く動じない。

しかし、一般ユーザーがノイズを相手にするのがどれだけ無謀な事かアカネも十分理解していた


「対敵との勝率0,03%・・・退避を優先すべきと判断する」


冷静に相手を分析しながらもアカネはチラッと《噂屋》のホームに視線を向ける。

恐らくノイズの標的は屋敷の中にいるハジメと焔だ。

自分がこの場から逃げるのは簡単だが、そうすればハジメ達に危険が及ぶだろう。

今日会ったばかりの少年の命と自分の命、アカネは頭の中でその二つを天秤に賭ける。

すると答えは即座に出た否、考えるまでも無い選択だった。


「ハジメ・・・守る!」


それまでの感情の無い口調では無く、少し幼さの残る少女の声でアカネは決意を口にした。

どうせ生き残った所で、待っているのはいつもと同じ退屈な日常生活だけなのだ。

ならば自分の命などと言うくだらない理由で、あんな可愛い男の子を見殺しなど出来る訳が無い。

よく歴戦の戦士などが持っている「捨て身の精神」とは何処か違う、ズレた覚悟でアカネは戦う決心をした。


「・・これより新たなミッションを開始する。最優先事項は《ハジメを守る事》」


クルクルとロッドを回しながらまたアカネが構い直す。

愛しい少年を守るため、全く勝ち目の無い少女の決死の戦いが今始まろうとしていたーー。


(続く)

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