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THE・ログインvo1  作者: 秋葉時雨
20/40

FILE:20『追跡者(チェイサー)』

ギャアギャアギャアーー!!

「む?」


焔とアウトロー達の闘いが今始まろうとしていた頃、帰らずの森の入口では先程黒衣の魔女と会っていた客の姿があった。背中に『正義』と言う大層な文字を背負った侍はクロスピアに繋がっているゲートに入ろうとしていたが、不意に飛び立った鳥達の姿を見てその足を止める。

この静かな森で、鳥達が騒ぎ出すのは珍しい事だった。


「不吉な・・・。何かの前触れか?」


顔をしかめながら空を見上げる侍。だがすぐに気を取り直すと地面から浮かび上がる青い光に入って行ったーー。


「いくぞ!オラァ!!」


目の前にいるアウトロー三人に戦闘開始を告げると、焔は大きく息を吸い自らの体内に燃え盛る炎を作り出した。

(魔物使い)だけが使える彼の得意技、焔炎弾だ


「オラァ!!」

ーードガン!!


火炎弾が吐き出されたのと同時にアウトロー達が一斉に散る。激しい爆発の後、一人だけ逃げ遅れたサングラスを狙って焔がアックス・ギターを奮いながら突っ込んで行った。


ーーガギィン!!

「ウッヒョーイ!!」


持っていたライフルで辛うじてサングラスがアックスの刃を防ぐが、持ち前のパワーで焔が押して行く。広場の中央にいたアウトローはあっと言う間に出口の近くまで追い詰められてしまった。


「ひえ〜!!ちょっ、シャレになんないっスー!!」

「オラオラどうした!!ん?テメェのそのタトゥーは・・・」


と、突然サングラスの肩に彫られたタトゥーを見た焔の顔色が変わる。それと同時に、二人の動きも止まってしまった。


「テメェ・・・!(ドラゴンレイン)のメンバーか?」

「そうだよ!!」


焔の問いに対する答えは眼の前にいたサングラスからでは無く、空中から聞こえて来た。

見ると空中へとジャンプした蘭丸が、巨大な斧を振り上げている。素早く状況を判断した焔は、その斧が振り下ろされるのと同時に後ろへと後退した。


「俺は(ドラゴンレイン)1番隊隊長、蘭丸様だぁ!!」

ーーブン!!


間一髪避けた斧はサングラスの鼻先を掠める。だが直ぐに蘭丸は焔との距離を詰めて来る。

大きさが違う二つの斧の刃が合わさり、激しい火花が散った。


「くっ!おい、一つだけ答えろ!!テメーらのチームリーダーはこの事知ってんのか!?」


刃を重ねたまま焔がまた質問をする。何故かサングラスのタトゥーを見てから様子がおかしい。

妙な事を聞かれて一瞬呆気に捕われた蘭丸だったが、直ぐにニヤリと口元を歪めて、


「何が知りたいか知らねーが俺達のボス、天雨様は寛大な方なんだ。ユーザー襲おうが何しようが好きにしろってさ!!」


と吐き捨てた。それを聞いて焔が小さく舌打ちをする。一瞬出来た隙に何を思ったか蘭丸はその場からジャンプして一気に離れた。


「今だ、才蔵!やれぇ!!」

ーーバキュン!!


高くジャンプした蘭丸が手を上げた途端、銃声と共に焔がいた場所が黄色い煙に包まれた。


「うわっ!!」


慌てて口を塞いだ焔だったがその時には手遅れだった。上げようとした手が動かないのである。

気付くと体はまるで石の様に固まってしまっていた。


「チキショ・・・痺れ弾・・か・・よ!」

「ヒャッハ〜!!その通り、油断大敵雨あられっス!!」


舌まで麻痺してしまい、焔が上手く話せずにいると、何処からか才蔵と呼ばれたサングラスの声が聞こえる。だが声はするのだが姿が見えない。

周りの木の中に隠れてしまった様だ。


「どうだい、気分は?テメーは骨がありそうだからなぁ?後で俺達に盾突いた事たっぷりと後悔させてやる。

だがまず、狩りを終わらせるのが先だ!!」


そう言うと着地した蘭丸は、なんとハジメに向かって走り出した。口元には弱い獲物を狩る残忍な笑みが浮かんでいる


「うわっ!来た!!」


驚いたのはハジメ本人だ薬草で回復したとは言え、1対1でも蘭丸に勝てる訳が無い。

振り上げていた大斧の一撃を、少年は間一髪回避した。


ーーズン!!

「ハッ!役立たずのクソルーキーが、一丁前に無駄なあがきしてんじゃねぇ!」


回避された事に舌打ちし、蘭丸が汚い言葉で少年を罵る。

一旦彼と距離を取ったハジメは、

「役立たず」と言う言葉に腹が立った。それは悔しくも図星だったからである。

『エデン』をプレイしてから、ハジメは周りの人々にずっと迷惑をかけている事を気にしていた。

クロス・パウロではバーカードの足を引っ張り、クロスピアでは、焔に怪我をさせてしまった。

そして、自分をずっと守り続けてくれたシュウまでもノイズの被害にーー

もうこれ以上、誰かの足を引っ張るのは嫌だった少年の心に、小さな勇気が芽生える。


(そうだよ、ボクだってゴースト・ハッカーズのメンバーになったんだ。勝てないかもしれないけど・・・戦わなくっちゃ!)


持っていたダブル・ダガーを小拳銃に変え、銃口を恐る恐る蘭丸へと向ける。

それを見て、仮面アウトローの口元がまた引き吊った。


「ハハハハッ!コイツは良い。ザコルーキーが俺に盾突こうってか?ハハハ!ハハハハーーッ!!」


狂った様に蘭丸が笑い続ける。何がそんなに可笑しいのか、ハジメには全く理解出来ない。するとーー。


「ふっざけんじゃねぇーーーー!!」

ーードカン!!


いきなり態度を豹変させて蘭丸が持っていた大斧を、思い切り地面に振り下ろした。

あまりの迫力にハジメは声も出せずに、萎縮してしまう。

全身を怒りに震わせた仮面アウトローは殺意の篭った目で動けないでいる少年を睨み付けた。


「狩られる獲物が調子に乗ってんじゃねーぞ!?テメーには『エデン』を二度とやりてぇなんて思わねぇくらいの恐怖を与えてやる!!」


どうやら、ハジメの行動に完全にキレたらしい蘭丸がまた構える。

恐怖に怯えながらも、迎撃するためハジメもまた二丁拳銃を構え直す。

ノイズでもモンスターでも無い、ユーザーとの初めての戦いに少年は挑もうとしていた。


「くっ、ば・・や、べ、ろ・・!」

一方麻痺したままの焔もまた少年の戦いを見て、焦りを感じていた。蘭丸とハジメの実力差が分かっていたからである。


「あ〜あ蘭丸の奴キレちゃったぁ。あの子嬲り殺し決定だね☆」


傍で阿国が物騒な事をのんきに言っている。彼女は焔が動けない事を良い事に、完全に気を抜いている。

それを見て、焔は渾身の力で空いていた手を自分の胸に持って行った


「キュ・・・ア・・」

「はぁ、何〜〜?面倒な事になると阿国が怒られるんだから止めーー」

ーーブン!!


振り返った瞬間、阿国の表情が驚きに変わった。いつの間にか麻痺から回復した焔が不意打ちの一撃を繰り出していたからである。

実はさっき彼が口にしていた言葉は

「キュア」と言う回復系の初歩魔法だったのだ。麻痺くらいなら簡単に治せるのである


「ひゃあ!?」

「チッ!待ちやがれ、仮面野郎!!」


阿国がその場でジャンプしたため、焔の攻撃は残念ながら外れた。だが、すぐにハジメの救出に走り出す。

幸い彼が動ける様になったのを見て、蘭丸の意識がこちらに逸れる。

先制攻撃を仕掛けるため体内で、作った焔炎弾を食らわせようと口を開けた瞬間、焔の姿を黒い陰が覆った。


「だからさ〜?面倒な事すんなってば!!」

ーーガギィン!!


阿国だった。忍装束の暗殺者は付けていた鉤爪で焔に襲い掛かる。だが、焔もすぐに反応してアックスギターで受け止める


「よーし、よくやったぞ阿国!!そいつはお前らにくれてやる。俺はこの生意気なガキをぶっ殺すからよぉ・・・」


焔が足止めされた事を良い事に、蘭丸がまた標的をハジメに戻してしまうリーダーの命令に『マジでぇ?☆』とか言いながら喜んでいる阿国に苛立ちを感じた焔は、邪魔なくの一を一蹴するため、体内に留めていた火炎弾を吐き出した。


「邪魔なんだよ!!」

ーードガン!?


目の前にいたにも拘わらず、阿国はあっさりと焔炎弾を回避する。

そしてジャンプしたままギャル暗殺者がサッと手を掲げると、今度は銃弾が四方八方から飛んで来た。


ーーズギュン!ズギュンズギュン!!

「なっ!?」


ほぼ同時に、前後左右から襲い掛かって来た銃弾を焔は全てアックスギターの刃で切り落とす。

だが息つく暇も無く前と左側から2発、少し遅れて後ろと右側からまた2発ずつ銃弾が飛んで来る。

切り落とした4つの銃弾を見ると黄色・緑・赤・灰色とそれぞれ色が付いていた。

さっきの麻痺弾と同じ状態変化の銃弾に違いない


(くそっ!あのグラサン野郎、木を飛び移りながら撃ってるってのか!?)


銃撃を防ぎながらこの同時攻撃の謎を考えていた焔だったが、すぐにその考えは捨てた。

才蔵が持っていたのは、遠距離用のライフルだ。本来あんな大きな銃を移動しながら撃ったって、狙いが定まらないに違いない。

それに銃弾は、全く別の方向からほぼ同時に飛んで来るのだ。

森に隠れ、薄い霧も張っているせいで何処にいるか分からないが、そんな事何か技でも使わない限り出来っ子ない。


「ほらほら!攻撃して来るのは銃弾だけじゃないって言ってんじゃん!」


と、一瞬全方向からの同時攻撃が止んだかと思うと、今度は阿国が懐に飛び込んで来た。

防御が遅れたせいで鳩尾に思いきり蹴りを食らい、軽く吹っ飛ぶ。


「ぐわっ!くっそ!!ふざけやがって・・・!」


怒り心頭の焔が阿国に向かって行くと、また様々な方向から銃弾が飛んで来た。それを防いでいるせいで、くの一少女に全く近付けない。


「チッ!!」

「ヒャヒャヒャ!どうっスか、どうっスか!?俺っちと阿国ちゃんのパーペキなコンビネーションは〜?」


打開策の見つからない状況に焔が焦りの色を見せると、また何処からか才蔵のふざけた笑い声が聞こえて来た。

その間も、同時攻撃は止む事無く続けられている

「俺っちの特製ホーミング弾で動けなくなるか?疲れて阿国ちゃんの鉤爪の餌食になるか?好きな方を選ぶと良いっス!」


自分は安全な所にいる事を良い事に、才蔵の声は余裕たっぷりだ。

側で高見の見物をしている阿国も、自身の勝利を確信しているのか人を馬鹿にした態度で笑っている。


「クスクス・・!エラソーな事言ってたけど、後悔すんのはアンタみたいじゃな〜い?」


挑発され、怒りに駆られながらも焔は救出すべき少年の方を見る。

卑怯な戦法で足止めを食らったせいで、既に二人の戦いは始まっている様だった。


ーーバンバンバンバン!!

「うわああああっ!!」


休む事無くハジメが二丁拳銃を連射する。

あの人が変わった様なエンゴウ戦以外、バトルなどまともにやった事の無い少年はとにかくめちゃくちゃ撃つしか方法を知らない。

だが蘭丸は冷静に飛んでくる銃弾を全て防御し、あっと言う間に距離を詰めて来る。

そして一気にハジメの目の前まで走り寄ると大斧を振り上げ、強烈な一撃を食らわして来た。


「オラァ!!」

ーーガツン!!

「うわっ!・・あ、がぁ・・!」


咄嗟に防御の構えを取ったハジメだったがダメージは防ぎ切れず、また吹っ飛ばされる。

地面に何度も頭や膝をたたき付けられ、少年が苦痛に顔を歪ませると、いかにも楽しそうに蘭丸が笑い声を上げた。


「ハハハッ!!弱ぇ弱ぇ弱ぇっ!!こんな役立たずがパーティーにいたらソッコーでぶっ殺してる所だぜ!!」

「くっ・・・!」


悔しくて歯を食い縛るハジメだったが、蘭丸との実力の違いを痛感していた。言うだけあって奴ら三人は相当な経験値を詰んでいる様だ。

人間だった頃のバーカードや焔なら問題無いんだろうが、LV1の自分が勝てる相手では無い。

それでも、簡単にゲームオーバーする訳にはいかず、少年が何とか立ち上ろうとした時ーー。


「全く!こんなクズルーキーを仲間にしてるなんてさぞかしクソなパーティーなんだろうな〜!?」


不意に聞こえた蘭丸の言葉にハジメの体がピクッと、止まった。立ち上がろうとして膝に置いた手にも力が篭る。

顔は伏せているので表情は分からないが、こちらを見向きもせず一人で笑い続けている仮面アウトローに、ハジメは吐き捨てる様につぶやいた。


「・・悪く言うな!」

「あ?なんだと??」


いきなり怒鳴り声を上げた少年に、蘭丸が笑いを止める。するとハジメは簡単に立ち上がり、怒りの篭った眼で相手を睨み付けた。


「ボクの仲間を悪く言うな!!何も知らない君に馬鹿になんてさせない!」


それは今までのハジメには無い強い意思だった。自分の事を馬鹿にされるのは良い。だが『エデン』に誘ってくれたシュウや、自分を守ってくれているバーカード達まで馬鹿にされるのは我慢が出来なかったのである。


「はっ!馬鹿にされたくなかったらなんだってんだコラ!!」


ハジメの言葉にまたカチンと来たのか、苛立った態度で蘭丸が襲い掛かって来た。

横薙に払った大斧の一撃で、今度は結界の壁に激しく叩き付けられる。


「うわぁっ!!」

「くだらねぇ事言ってんじゃねーぞ?クズの仲間は所詮クズなんだよ!!」


勝利を確信した蘭丸が吐き捨てる。だが、その言葉を否定する様にハジメは再度立ち上がろうとした。

本当は全身が痛みに悲鳴を上げていた。先程の一撃で回復したHPも残り少ない。恐らく後一撃でも食らったらゲームオーバーだろう。

だがここで倒れる訳にはいかなかった。そんな事をすれば、蘭丸の言葉を認める事になる。

負けると分かっていてもハジメは再度立ち上がり二丁拳銃をダブルダガーに変形させて構えた。


「悪くなんて・・・言わせない・・絶対!!」

「チッ、こんのクソルーキーがぁっ!!」


生意気な少年にトドメを指すために、蘭丸が真っ直ぐ突っ込んで来た。今度食らったら一巻の終わりに違いない。

だがハジメには一か八かの作戦があった。それは蘭丸の攻撃にある特徴を見つけたのである。

相手を迎え撃つ様にハジメも走り出す。スピードだけなら僅かに少年の方が分がある。

段々と互いの距離が短くなって行き、ハジメが武器の届く距離に近づいた途端、蘭丸が持っていた大斧を振り下ろした。


「死ねオラァ!!」

ーーブン!!


大斧の赤い刃がハジメの頭に触れるかと思った瞬間、少年は間一髪右に避けた。

まさか避けられるとは思っていなかったのか、武器が大きいだけに蘭丸の動きが一瞬遅れる。

避けたハジメは重い体にもう一度力を込め、懐に一気に飛び込ぶ。

そして空いている蘭丸の腹に、ダガーの刃を渾身の力を込めて叩き込んだ

「たぁ!!」

ーーザシュ!

「ぐおっ!!痛・・って」


反撃を加えた所でつんのめり、ハジメはその場に転がる様に倒れ込む。

無理をしたせいでもう動けそうになかった。

蘭丸の攻撃が振り下ろすか薙ぎ払うかの、単純なパターンしか無い事に気付いたからこそ出来た作戦である。


「蘭丸!?ウソ!!」


遠くで焔と戦っていた阿国も、思わず驚きの声を上げていた。まさかハジメの攻撃が当たるとは、思っていなかったのである。

だがそれと引き換えに、少年は精魂尽き果ててしまった様だ。もう敵が襲って来ても、避ける体力が残っていない。

ハジメは祈る思いで体を起こし、蘭丸を見た。


「俺が・・この俺が・・クソルーキーなんかに・・・!あぁあああっ!!」

だが少年の願いが叶う事は無かった。それまで微動だにしなかった蘭丸が怒りの咆哮を上げ、振り返りながら攻撃して来たのである。


「うわっ!!」

「殺す!殺すっ!!お前だけは絶対にぶっ殺ぉーーす!!」


何とか体を反転させ、避けたハジメは、復活した仮面アウトローの顔を見た。

少年動けない事を見ると蘭丸は、正に血に飢えた狼の様に舌を出しながら笑っていた。

高いプライドを傷つけられた事で、完全に頭に血が上っているらしい。

そのあまりの迫力にハジメは体を震え上がってしまい、ダガーで防御する事も出来ない。

少年の危機を知った焔が何とか救出に行こうとするが、阿国が邪魔をするせいで間に合いそうにない。

動けない獲物にたっぷりと恐怖を与えるために、蘭丸がゆっくりと大斧を振り上げた。


「これでぇ・・・終わりだぁ!!」

「止めろぉ!!」


少年の頭に赤い刃が振り下ろされた。ハジメは動く事も出来ず、声すら出て来ない。

耳の奥に焔の叫び声だけが聞こえて来た。

その時ーー。


ーーヒュン!!

「何っ!?」


突然、結界を突き抜け森の中から白刃の光が蘭丸とハジメの間に割り込んで来た。

危機を感じた蘭丸は少年への攻撃を止め、慌てて距離を離す。

飛んで来た光はそのまま阿国と焔の間を通り過ぎ、木々の一本に突き刺さった。


「ヒエッ!?」


それは小型の刀だった。そして、突き刺さった木から素っ頓狂な声が聞こえて来たのである。

見るとさっきまでは薄い霧のせいで見えなかったが、木の上に人が乗っている。

刀に驚いて暴れているのは間違いなく才蔵だった


「そこかぁ!!」

ーードォン!!


才蔵の姿を見つけた焔が口から怒りの焔炎弾を吐き出した。発射された火炎弾は逃げる暇すら与えず、才蔵に直撃する。


ーーズガァアン!!

「ギャアアアッ!ら、蘭ちゃ・・」


全身火だるまになった才蔵はのたうち回り、木から落下する。地面に激突したと同時にその姿は光に包まれ、消滅してしまった。

ゲームオーバーである。


「才蔵!!ま、マジで?」

「誰だぁ、そこにいる奴!出てきやがれ!!」


一撃でやられてしまった仲間を見て、阿国が悲鳴を上げる。

だが、自分の楽しみを邪魔された蘭丸は、そんな事は眼中に無く小刀が飛んで来た方向を睨みつけた。


「虫の知らせを知って戻って来て正解だった様だ」


月明かりの中、真っ白い鎧を輝せて森から出て来たのは黒衣の魔女の屋敷にいた侍だった。

一つにまとめた緑色の長髪を靡かせ、刀の様に鋭い視線をアウトロー達に向けている。


「チッ、頼に寄ってアイツかよ」


窮地を助けられた筈なのだが、何故か焔が舌打ちした。どうやらあの侍の事を知っているらしい。その間にも、堂々とした態度で侍が倒れていたハジメに歩む寄る。

そして彼の手から淡い光が発せられた。焔も使っていた回復魔法である。


「う・・・あ」

「情報収集のために立ち寄ったのだが、まさかこんな所にまで弱き人々を苦しめる卑劣な悪がいたとはな・・!」


「キュア」のおかげでハジメの怪我はみるみると治ってしまった。

だが侍の表情は変わらない。否、背中にも刻まれた悪を憎む『正義』の心が彼の表情を一掃厳しくさせる。

しかし、怒り心頭だったのは蘭丸も同じだった。


「ああ?人の楽しみを邪魔しといて何勝手な事言ってやがんだ!?何者だテメェ!!」

「ら、ら、蘭丸!ちょっと、ヤバいって!!」


食って繋かる仮面アウトローを、阿国が慌てて止めようとする。

その顔色は褐色の筈なのに何故か真っ青で、酷く怯えている様だ。


「ああっ!?」

「純白の鎧に緑色の長髪そ、それに背中にあるウザい正義の文字・・・間違いない!コイツ、凄腕チェイサーのツルギだよ!!」


阿国の言葉に蘭丸も言葉を失う。(チェイサー)と言う言葉が、どんな意味を持つのか分からないハジメだけが、ただボンヤリと剣の腕に身を任している。

少年の容態を見て、もう大丈夫と判断した侍はそのままハジメを地面に横たえ、スッと立ち上がった。


「私の事を知っているのなら話が早い。

ユーザー名蘭丸・阿国の両名に対し、WB社の権限に置いて今すぐ愚劣なアウトロー行為を中止する事を要求する。

もしこれを拒否した場合正義の名の元、我が愛刀『桜花』の錆びにしてくれる!」


良く透った声で剣がアウトロー二人組に厳然と警告する。

エターナルステージで起こった戦いは、意外な乱入者の存在で予期せぬ方向で決着に向かおうとしていた。


(続く)

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