FILE:2『楽園(エデン)』
「っ!・・・えっ?」
光の中へと飛び込んだ始―ハジメが次に眼を開けた時、見た光景はなんと何処かの教会だった。
見ると、何人かのシスターや信者達が祈りを捧げているし、後ろにはマリア様では無い聖女像が祭られている。そして聖女像のすぐ前、始の背後の地面には光の輪の様な物があり、どうやら自分はここから出て来た様だ。
「え〜っと?ここは・・・?」
『ここは女神サラを崇めるマルコロ大聖堂。そしてここは(楽園)エデンの世界』
いまいち状況が把握出来てないハジメの頭上に先程の少年、ウィングが現われる。教会の中の聖女像の前に天使の様な少年がいる光景は、ばっちりと言う程似合っていた。
『君が通ったのは(ゲート)。この世界で様々な地区を繋げる交通手段の一つ。ゲームを始めたユーザーはまずこの教会から冒険が始まるんだ』
「エデン。ここが?」
「その通り!!」
――ギギギギ〜〜ッ!!
と突然、大聖堂の外から声がしたかと思うと巨大な扉がゆっくりと開き、一人の人影が現われた。そしてその姿を見た途端、ハジメの表情がパッと明るくなる。
「WelcomeToエデン!ハジメ」
「終一兄ちゃん!!」
扉を開けた人物にハジメが駆け寄る。終一と呼ばれた人物はゲームの魔導師のキャラを使っていた。
長く青い髪をまるで三日月の様に一つにまとめながら背中まで垂らし、額には赤のバイザーの様なサングラス。そして体にはこれまた普段のキャラ設定には無い金色の紋章付き鎧。そして左手には頭に大きな鷲をデザインした黄金の杓杖。
辛うじて魔導師と分かるがかなり奇抜な格好だ。しかし、それが彼の性格なのだろう。ハジメは一目で彼が従兄が使っているキャラだと分かった様だ。
「やぁ、どうやらプレゼントは気に入ってくれた様だね?それはそうと、ここでは俺の事はシュウと呼ぶ様に」
「あっ、ごめん!ゲームが届いてからテンション上がっちゃって・・・。でも、このキャラってどうやって作ったの?」
「ふふん♪よくぞ聞いてくれました。」
出会って早々、注意されたハジメが照れ隠しに聞いた質問に終一・・シュウが無いメガネを上げる仕草をしながら眼をキラーンと光らせる。
それが現実の彼の癖と同じで、ハジメは思わず笑ってしまった。
「これは今作っている新作ゲームの試作品をハジメのログインデータにダウンロードした物なんだ。だから通常のエディットにはそのキャラは存在しない。
ハジメは・・・小剣銃士にしたのかw一応、ユーザーにシステムの人間がこー言う事をしちゃあ、まずい事になってるからこの事は二人の秘密な?」
『ボクがいる事を忘れてませんか?シュウ』
自慢気に語るシュウを尻目にウィングが苦笑しながら突っ込みを入れる。それに気が付き、シュウがワザとらしくビクッとした。
「おっと!ウィングいたのかい?ハジメの事は、俺がサポートするから安心してくれ!後、この事はどうか内密に頼む〜!!」
『分かりました。――では若き冒険者よ、良き旅を』
シュウに言われるとウィングは一礼し、光と供に消えてしまう。それをハジメは眼を丸くしながら見ていた。
「シュウ兄ちゃん。あの子はCPじゃ・・」
「ああ、ウィングか。まぁ彼やこの世界の事は歩きながら話すよ。ひとまず初心者のハジメ君を歓迎しよう」
と、意味深な事を言いながらシュウが教会の扉に手を掛ける。そしてまた大きく開け放った。
「ようこそ!始まりの街クロスピアへ!!」
開けられた扉から見えたのは壮大な光景の港街だった。周りの建物がすべて見た事の無い石造りと蒸気機関で出来ている。そしてそしてその先にある広大な海も街を歩く様々な人々も全て本物だった。
「凄いっ!!CMで映ってた街と・・同じだぁ〜!!」
初めて目の前にした古代の街の景色にテンションが上がってしまい、ハジメが訳の分からない事を言いながら駆け出す。それを微笑しながらシュウがゆっくりと後を追った。
ここで少し話を分かりやすくするためにハジメ達の状況をお話しておこう。
今や人口の80%がネットワークを使っている世界。
そこで世界最大のゲーム機会社、ワールド・ブレイン社は初の仮想世界ネットRPG
「エデン」
を発売した。
「エデン」
はワールド・ブレイン社(以下、WB社と明記する)の創立者、故天名 孝夫氏が完成させた最後のゲームであり、まるで本物の古代世界を冒険している様なその完成度の高さから、またたく間に世界規模の大ヒットとなった?そしてハジメの従兄であるシュウはWB社のシステム・エンジニアであり、この
「エデン」
の製作に関わった関係者でもあった事から、ハジメが誕生日のプレゼントに無理を承知でおねだりしたのである。
すると意外にもシュウがOKサインを出してくれた事から、少年は自分の誕生日にこの流行のゲームをプレイ出来る事になったのだ。
「AI?(人工知能)あの子が?」
「そう・・ってかその事は説明書に書いてある筈なんだけど、本当に見ずにプレイしたんだな?」
大聖堂から港へと続く坂道を歩きながら笑うシュウに、ハジメはまた恥ずかしくて頭を掻く。
ゲームが着いた途端に嬉しくなってプレイしてしまったので、説明書を見るのを忘れたのだ。
「ウィングは前社長が初めて仮想世界に導入する事に成功したAIなのさ。だから彼は自分で考え、自分で判断し、ユーザー達をサポートしてくれる。
まぁ、そこんとこも宣伝効果になって『エデン』は大ヒットした訳」
「そっか・・だからさっきこのキャラの事口止めしといたんだね?他の人に喋られると困るから」
ハジメの純粋な突っ込みにシュウがズルッとズッコケる。このゲーム初心者の少年は街に歩いているキャラ達が皆ユーザーであると言う事をいまいち分かっていない様だ。
「ま、まぁなwさて、そんな事よりハジメ君!!君はこの世界がどんな所かどれだけ知っているかな!?」
「えっ?え〜と、確か『エデン』は古代文明をモチーフにしたネットRPGで・・・」
急に来たシュウの質問に驚きながら自分の知っている限りの知識を話していくハジメ。シュウもまた腕を組ながら生徒を持つ先生の様にうんうんと頷いていく。
「なるほど、CMやゲーム本を見れば分かるのはそれくらいだろう。しかーし!!この世界はまだまだそんな物では無い!!
この世界は仲間と共にストーリーを進めるも良し!まだ見ぬ人と交流を深めるも良し!街の住人として住み着くも良し!そして時にはユーザー同士でのバトルも有り得る一見現実となんら変わらないバーチャル・リアリティーゲームなんだ!」
と、街中にも関わらずシュウが両手を広げながら熱弁する。ハジメは従兄のこー言う変わった所が好きだった。
「・・・とまぁ、熱く語ってみましたが、要するにゲームを楽しめって事。さ〜てまずはストーリー通り街を散策しつつ、王宮にでも行ってみますか?」
「――うん!!」
シュウに導かれるまま、ハジメは一路、(王宮・ストーンキャッスル)を目指す。二人の冒険はまだ始まったばかりだ。
(続く)