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THE・ログインvo1  作者: 秋葉時雨
18/40

FILE:18『帰らずの森(エターナルステージ)』


ーー適性Level??帰らずの森ーー


エターナルステージ、帰らずの森・・・時折現れる深い霧に隠されたこの森の奥に一軒の屋敷がある。

キノコを模した不気味なその屋敷こそ『エデン』でも有名な情報屋黒衣の魔女の住家だった


「奴らがいる場所だね?分かった。直ぐに見つけ出してやるよ・・・」


屋敷の中では客との商談が始まっていた。

不気味な外見である屋敷だが中はかなり現実的である。

豪華なシャンデリアが照らす部屋の中央には

「トロイ」の倍はありそうな巨大なコンピューターがあり、その後ろには商談用のレトロなテーブル。さらに後ろには戦艦の指令室にありそうなこれまた大きなキーボードが備え付けてあり、それを一人の少女が黙々と打ち込んでいる。

少女の後ろ、もう一段上にある巨大キーボードには男が座っていたが、こちらは興味が無いのか退屈そうに欠伸を噛み殺していた。


「感謝する。報酬は追って貴殿の口座に振り込んでおく」


黒いローブを被った鷲のクチバシの様な鼻をした老婆が小さなフロッピーディスクをテーブルに置く。それを受け取ると、客の男は足早に入口に向かって歩き出した。

『正義』

それが男の背中に書かれていた文字である。何故そんな文字を背負っているのか分からない。

だが、純白の羽織りに緑の髪を一つにまとめた長身の男の立ち振る舞いはさながら昔の侍の様だ。


「一つ聞かせな。アンタなんでそんなにあんな連中にこだわるんだい?」


薄気味悪い笑みを浮かべながら黒衣の魔女が質問をする。すると侍は入口の前で立ち止まり、魔女にきっぱりと言い放った


「こだわる理由など決まっている。奴らは私が倒さねばならん悪だからだ!!」



「チッキショーー!!なんでこんな事になってんだーー!!」


・・・同じ頃。帰らずの森の中では男の絶叫が響き渡っていた。

焔だった。

側には何故かいつも止める役のヴァーカードがいない。いるのは木に隠れてオドオドしているハジメだけだったーー


何故ハジメと焔が二人でこの森に来ているのかを語るには少し話を戻さねばならない。

それは先程のクライアントとの対面が終わった直後の事だった。


『黒衣の魔女の元には少年と焔の二人で行ってもらいたい』

「なっ!!」


その瞬間、ほぼ同時にハジメと焔がヴァーカードの方を見た。ハジメは驚きの顔で、焔は怒りの顔である。それが二人の気持ちを如実に現していた


「冗談でしょ!なんで俺がこんなガキのお守りしなきゃなんないッスか!?」


噛み付きそうな勢いで焔が詰め寄って来た。言葉に出さなかったが、ハジメも同じ気持ちである。

初対面以来、いつも乱暴な態度を取り続けている彼を少年はどうしても好きになれないのだ。


『今言った筈だ。少年はもはや私達のパーティの一員だと・・・。仲間同士が行動を共にするのは当然だろう?

それに私は調べねばならない事がある。だからお前に少年を黒衣の魔女の元まで連れて行って欲しいのだ』


ギリギリと言う焔の歯ぎしりがハジメの耳元にまで聞こえて来た。

褐色の肌は小刻みに震え、真っ赤な髪は今にも燃え上がりそうである。

だがラビィの頭にいるヴァーカードはいかにも冷静だ。ひょっとしたら(トロイ)ではこんな事が日常茶飯事なのかもしれない。


『安心しろ。お前も知っての通り、エターナルステージにモンスターなどいない。

ちょうど良い機会だ。二人で親睦を深めて来ると良い』


愛らしい姿に似合わず、ニヒルに笑いながらヴァーカードが淡々とつぶやいたーー。


そして、二人は渋々この森にやって来たのである


「くっそ〜!こんな辛気臭い所にガキと二人っきりなんて冗談じゃないぜ!」


ぶつくさ文句を言いながら焔が森の中を進んで行く。

その後を、木に隠れながらハジメがついていくと言うなんとも面白い構図が出来ていた。


「おいっ!!」

「は、はい!」


それまで一人でドンドン先へ進んでいた焔だったが、不意に立ち止まり少年の方に振り返った。

いきなり呼ばれてハジメが驚いた事は言うまでも無い。


「何コソコソしてんだ?こっちこいよ。取って食ったりしねーから!」

「あ・・は、はい」


不機嫌な顔をして呼ぶ焔を見て、仕方無くハジメも隠れていた木から出て来る。

本当は嫌なのだが彼の性格からして従がわねば怒るに違いない。


「ま、ひょっとしたら俺じゃなくて別の奴に食われるかもしれねーけどな」

「はい・・・え!?」


それまで仕方無く受け応えしていたハジメの表情が一変した。この森にモンスターはいないとバーカードに聞いて安心していたからである。


「ここ、モンスターいるんですか!?」

「モンスターじゃねーよエターナルステージには時々、初心者狙いのアウトロー達がいんのさ」


(アウトロー)と言う初めての言葉に少年の頭にいくつもの?が浮かび上がる。ハジメが理解していないのが分かったのか、イラついた様に焔が舌打ちをした。


「本当に何も知らねーんだな!?

良いか!アウトローってのはユーザーを襲うのが目的でゲームやってる連中の事だ!

ユーザー同士で戦うと、勝った奴は負けた奴のレアアイテムや所持金を半分奪う事が出来るからな俺達はそんなゲス野郎達をアウトローユーザーって呼んでんだよ」


焔の説明を聞いてハジメの頭にはシュウの言葉が思い出された。

「この世界はユーザー同士の戦いもある」と・・ゲームの説明書にも書いてあったが、まさかそれを目的にしている人達がいるなんてハジメは俄かに信じられない気持ちだった。

焔の説明は続く。


「このエターナルステージは神出鬼没だからな。隠しステージと勘違いしてレアアイテム目当てに入って来る初心者が結構いんだよ。アウトロー達はそんな奴らを狙って待ち伏せしてやがる。

だから良いな!テメーは絶対俺から離れんなよ?Lv1のガキなんて恰好の獲物なんだからな!」

「は、はいっ!!」


口は悪いが、守ってくれる意思があるみたいなのでハジメは一先ず安心した。

焔の強さは、先のエンゴウ戦で見ていたので分かる。

怒鳴られるのは怖いが、彼の側にいれば取り敢えず安全だろう。

と、その時だった。


コォオオオ−−−!!

「うわっ!!」


突然ハジメの眼の前が真っ白になった。森が深い霧に包まれてしまったのである。

辺りを見回しても焔の姿所か生い茂っていた木すら見えない。

二人の視界は完全に塞がれてしまったのだ。


「おいクソガキ!・・クソガキ!!むやみに歩くな!いるんなら返事しろ!」


突然の濃霧だったが、この場所に来た事のある焔は冷静だった。こう言う場合は相手に自分が近くにいる事を伝えるのが最優先である。

だが何故かハジメから返事が無い。焔がおかしいと思い始めた時、辺りを包んでいた霧が晴れて来た。


「おい、クソガキ!大丈・・夫か・・?」


すぐに周りを見回した焔の顔色がサッと変わる。少年の姿が見えないのだ。さっきまでそこにいたのにである。

濃霧に包まれた少しの間に忽然と消えてしまったのだ。

焔がまた天を仰ぐ。


「だーかーらぁ・・・離れるなって言っただろうがあぁーーー!!!」


帰らずの森に再度、焔の怒号が響いたのだった。



「焔さん?焔さん!!何処ですか!?って・・・あれ?」


一方消えた筈のハジメもまた必死になって焔に呼び掛けていた。

実はハジメは一歩もその場から動いていなかったのである。霧が深くなった途端、焔の声が聞こえ無くなり不安になった少年はずっと助けを求めていたのだ。

だが、霧が晴れて始めてハジメは愕然とした。さっきまでいた場所と全く景色が違っているのである。

少年は知らない間に別の場所へと移動していたのだ。


「そんな・・なんで?」


ハジメの眼の前にはさっきまでの鬱蒼とした森では無く、綺麗な花畑があった。

夜空に昇る満月の光に照らされ幻想的な景色が広がっている。

そして、花畑の中央には何故か子供が一人うずくまっていた。


「あっ!ねぇ、君!!」


ホッとしたハジメが子供に走り寄るが、子供は全く気付かず微動だにしない。

遠くからでは分からなかったが彼の周りや頭にはリスや蝶々、白い鳩など森の動物達が集まっている。

少年が動物達に気付いた時には既に手遅れだった


ーーバサバサバサ!!

「うわっ!!」


無礼な乱入者に驚いて動物達が一斉に逃げ出す。

それにつられてハジメもまた腰を抜かしてしまった。


『動物達がいるから走らないで』

「言うのが遅ーーい!って、あっ、ごめん」


最初から気付いていたのか?倒れた後に注意する子供に思わず突っ込んでしまったハジメだったが、慌てて言い直す。

今何処にいるかも分からない状況でせっかく会えた人物なのだ。

下手に警戒される訳にはいかない。

だが子供の方はそんなハジメの態度に興味が無いのか全く顔を上げない。

だが、チラッと少年の顔を見た瞬間、彼の表情が変わった。


『!?君は・・・!』

「え?え!な、何?どうしたの??」


突然変わった子供の態度にハジメは状況が理解出来ない。

いくら考えてもハジメには理解出来ないだろう。彼とは会った事が無いのだから・・・。

だが、子供の方は違った。彼にとってハジメは絶望的な状況を打ち破った奇跡の少年なのである。

まさか、こんな所で会えるとは予想もしなかっただろう。


『・・ああ、そっか。初めましてだったね』


怪訝な顔をしながら首を傾げる少年を見て、子供は彼と初対面である事をようやく理解する。

よく分からないが何だか不思議な子だ、とハジメは思った。

彼の灰色の眼に見つめられると吸い込まれそうになる。それにエターナルステージに何故こんな幼い子が一人でいるのだろう?

怪しい感じが満載なのに何故か彼が敵だとは思えない。

何故そう思うのか?いくら考えてもハジメの頭に子供は浮かんで来なかった。


ーーチャリン!!


頭が三日月の形をしている変わった杖を鳴らして子供が呟く。


『僕の名はエンドレス。ーーよろしく、ハジメ』


エンドレスと名乗る子供が笑顔を浮かべ、ハジメを見る。

黒いローブを頭から被ったこの子供こそ、エンゴウ戦でハジメ達を遠くから見守っていた男の子だった。


(続く)

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