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THE・ログインvo1  作者: 秋葉時雨
12/40

FILE:12『喪失(ロスト)』

『いくぞ!!』


ヴァーカードの掛け声と共に白竜と焔が同時に動き出した。

空と陸、それぞれの得意とする場所でエンゴウへと立ち向かって行く。

そして二人の背後で一人シュウだけが眼を閉じ、小声で呪文を唱え始めた

《ラアァ―――ッ!!》


それを迎え撃つ様にエンゴウがまた口から火炎弾を吐き出す。

二つの火球は一直線に焔とヴァーカードに飛んで行った。


「だからその技は無駄だって!――ミラージュ!!」


と、それまで呪文を唱えていたシュウが持っていた黄金の杓杖を前に突き出した。

すると先程ヴァーカードを守った鏡がそれぞれ二人の前に現れ、飛んで来た火炎弾を吸い込む。

そしてまたエンゴウの方に跳ね返してしまった。


――ドカーーン!ドカーーン!!

《ラアァッ!!》


跳ね返された火炎弾はエンゴウの前で爆発し、また街は爆煙に包まれた。その間に焔とヴァーカードが一気に間合いを詰める。そして、シュウもまた呪文を唱え始めた。


「オラァ!!」


一気にエンゴウの前まで近づいた焔は、渾身の力を込めて持っていたアックスギターを振り下ろした。

だが、やはりエンゴウを守る『見えない壁』には傷一つ付ける事が出来ない。それでも尚諦めず、二撃、三撃と焔は連続攻撃を繰り出して行った。


「オラオラオラッ!!クッソ!駄目だ、ビクともしねぇ!」

『深入りするな焔!来るぞ!!』


アックスギターでは歯が立たない事に舌打ちする焔にヴァーカードが忠告した途端、爆煙の中からエンゴウの巨体が襲い掛かって来た。

最初面食らった焔だったが間一髪の所で上空に飛び立ち、攻撃をかわす。



「野郎・・・!斬撃が利かないなら――」


余裕の態度で見上げる凶犬に頭に来た焔が口を開け、突如深呼吸を始める

すると彼の胸が真っ赤に光り出し、口の中に燃え盛る炎が現れた。


「食らいやがれっ!焔炎弾(グエン弾)!!」


焔が放った火炎はその名の通り弾丸の様な素早さでエンゴウに向かって行った。

これが直撃すれば、確かに相手は無事には済むまい。

だが、やはりエンゴウに当たる直前、『見えない壁』に寄ってまた掻き消されてしまった。


「くそっ!やっぱり――」

「そこにいたら危ないですよ?焔さん」


とっておきを破られ、ショックを隠せない焔だったが突然呼び止められ、思わず振り返る。

その視線の先に呪文を唱え終わり、杓杖をこちらに向けている金色の魔導士の姿。

向けられた杖には真っ黒い闇のオーラが蛇の様に絡み付いていた。


「無限の空間へと落ちろ――ヘルズ・ホール!!」


シュウが呪文を口にした途端、エンゴウの足元に紫の魔法陣が現れた。

そして魔法陣が怪しく光り出した瞬間――。


――ドン!!

「うおっ!」


魔法陣から巨大な闇の波動が発動し、エンゴウを『見えない壁』ごと取り込んでしまったのだ。

その圧倒的な光景に危うく巻き込れそうになっていた焔も、ただ口を開けて呆然としている。


『空間吸収魔法ヘルズ・ホール・・・!しかし、これだけの規模の魔法陣を作り上げるとは・・』


ヴァーカードも流石に驚きを隠せない。通常、何体かのモンスターを高確率で吸収し、倒すのがこの魔法だが、エンゴウを吸い込む程の魔法陣を作り上げるのは至難の技である。

それを簡単に作り上げる所がシュウが超一流である証だろう。

ノイズが作った赤いドームの中に現れたその魔法陣は、まさに

「地獄へ繋がる穴」そのものだったのだ。


「武器が通用しないのならその鎧ごと落としてしまえば良い。これならさすがに――」

《ラアァーーーーーッ!!》


杖を構えたまま雄弁と語るシュウに今、最も聞きたくない雄叫びが聞こえて来た。

そう、彼は忘れてたいたのだ。自分が初めてノイズと遭遇した時の事を・・・。

エビル・ゾンビに襲われた時何があったのかを!


《ラアァァーーーーーーッ!!》


骨が剥き出しになった巨大な足が発動中の(ヘルズ・ホール)をバリバリと突き破る。

やがて、エンゴウの巨体が闇のオーラから全て現れるとパリーン!と言う音と共に紫の魔法陣は元に戻り、粉々に砕けてしまった。


《ルララァ―――ッ!》

「・・そうは問屋が下ろさない、か。まったく戦うのが嫌になって来るね」


上級魔法の中でもかなりレベルの高い部類に入る(ヘルズ・ホール)を破られて、軽口を叩きながらシュウが肩をすくめる

その近くで防御魔法のピラミッドに閉じ込められているハジメの姿があった。


(みんな、ボクなんかのために戦ってくれてる。それなのにボクは・・!)


出る事の出来ないピラミッドの中でハジメは唇を噛んでいた。

自分だけが何も出来ず、ただこうして見ているだけ。

しかも、なんとかしようとして勝手な行動をすれば待っていた結末は いつも代わりに誰かが傷ついている。

レベル1の小剣銃士では誰も助ける事など出来ないのだ。


(もっと強くなりたい!せめて、シュウ兄ちゃん達を助けられるくらいに・・・)

――ドクン!


と、自分の弱さを嘆いた瞬間、心臓の高鳴りと共に変色した左手が脈動した。

驚いたハジメが左手を見るが、黒く染まった手にはなんの変化も見られない。

不思議に思ったハジメが首を傾げていると、爆発音と共にエンゴウの雄叫びが街の方から聞こえて来た。


ドカーーン!!!

「くそ!このままじゃいつかやられちまうぜ!」


肩で息をしながら焔が港の入口まで後退する。

今もエンゴウの火炎弾をシュウがミラージュで跳ね返してくれたのだが、いつまでもミラージュを出し続ける訳にもいかない。

対してエンゴウはどんな攻撃でも、NOダメージなのだから始末が悪い。狂犬は焔達が疲れるのを待っているのだ。


『よし、三人の技を一点に集中させる。焔、龍焔炎ドラゴンフレイムだ!』

「「了解!!」」


ヴァーカードの言葉に焔とシュウが同時に答える。

そして、ヴァーカードがエンゴウに向かって火炎放射を出すと焔が大きく深呼吸を始め、シュウもまた持っていた杖で何かを空に描き出す。

その形は三角と逆三角を合わせた魔法陣。

全てを描き終わると、魔法陣はシュウの前に現れた。


「食らいやがれ!極大焔炎弾!!」

−−ドォン!!


バーカードに続いて吐き出した焔の焔炎弾は、火炎放射と合体し、巨大なる炎の龍となる。

そしてエンゴウの前に立ち塞がる『見えない壁』に食らいついた。


「大地に眠る古代の神々達よ!星の裁きにより邪悪な魂を打ち払え!――メテオ・スター!!」


さらに完成させた魔法陣を杖に宿したシュウが呪文を口にし、杖をエンゴウに向けた。

するとヴァーカード達の頭上の空が突然ひび割れ、中から小さな宙空間が現れる。

そしてその中から光り輝く巨大な星がエンゴウへと降り注ぎ、流星は龍焔炎が食らいついている『見えない壁』に激突したのだ!


《ラァッ!?》

――ドッゴオォォ―――ーン!!

「うわっ!!」


激突した龍焔炎とメテオ・スターは一瞬、まばゆい光りを発すると高いキノコ雲を作り出し大爆発を起こした。

爆発で生じた爆風で飛んでいたヴァーカードも吹っ飛ばされ、後ろにいた焔が慌ててキャッチする。

グラフィックであるクロスピアの街は恐らく無事だろうが、『エデン』の中でも5本の指に入る実力者達の合体攻撃――。

その威力は恐らくヴァーカードの『滅器』に勝る物だろう。

あまりの眩しさと爆風に眼を閉じていたハジメがゆっくりと瞼を開くと、街の真ん中にもの凄い土煙が巻き起こっていた。


「へ、へへ・・どうだ!化け物!!」

「はぁ・・はぁ・・はぁ」

『――――』


爆煙と土煙が舞起こっている合体攻撃が炸裂した場所を、焔とシュウとヴァーカードそれぞれの面持ちで凝視する。

焔はもう勝利を確信しているらしく不敵な笑みを、シュウは大技の連発でさすがに疲れたのか肩で息をしながら凝視し、焔に受け止められたヴァーカードは何も語らず、羽根を広げたままの姿で睨みつけている。

三人共、表情は違うが疲労している事だけは共通していた。


『・・クソッ』

「ヴァーカードさん?何言って――」


不気味な静寂を破る様にそれまで焔に抱えられたままのヴァーカードが、ポツリとつぶやく。

その言葉が理解出来ず、焔が怪訝な顔をした瞬間その表情は凍りついた。


《グルルル・・・》


爆煙の中に巨大な陰が一つ浮かび上がっていた。

その陰はゆっくりと歩を進め、煙の中から出てくる。

出て来たのはもちろん、血の様に赤い体毛を纏う狂犬。

先程とまったく変わらぬ様子に気圧されたか、さすがの焔も後退りした。


「おい、嘘だろ!?」

「はは・・・まいったね」


焔同様、シュウもまた力無く苦笑いする事しか出来ない。

巨大な口をゆっくり開け 三人が疲労した事を確認するとエンゴウの眼がニタリと笑った気がする。

そして全身の毛を逆立て、体中から煙を立ち上ったかと思うとエンゴウの体が炎に包まれた。


《ルラアァァァ――――ッ!!》


燃え盛る炎と化したエンゴウは、コマの様にそのまま全身を回転させるとア然としている焔に突進して来た。


ギャリギャリギャリ―――ッ!!

「あぶねぇ!ヴァーカードさん!!」


突っ込んで来るエンゴウからヴァーカードを守るために焔が背中を向ける。

炎の竜巻と化した狂犬は白き竜を抱えたままの焔を、容赦無く弾き飛ばした。


「があっ!!」

「焔さん!!」

炎に包まれたまま、エンゴウの後方に飛ばされた焔は街の建物のグラフィックに叩き付けられる。その間にも回転し続け、距離を詰めたエンゴウはなんとハジメの近くまで迫って来ている。

だが、そんな狂犬の前に船の船首から飛び出したシュウが立ち塞がった。


「悪いが俺も負けられないんでね?ーーリフレクト!!」


疲労困憊の魔導士が金色の杖を地面に突き刺すと迫るエンゴウの前に七色に輝く巨大な鏡の翼が現れた。

その翼はエンゴウを取り囲み、逃がさない様に閉じ込めてしまったのである。

これが、閉じ込めた者自身に自分の攻撃が戻って来る魔法リフレクトーー

ミラージュの上を行く反射系上級魔法だ。


ーーギャリギャリギャリッ!!

《ラアァーーーッ!!》

「おおおぉーーーーーっ!!」


鏡の翼の中でエンゴウが暴れ回り、シュウもまた破られない様残った魔力を全てリフレクトへ注ぎ込む。

本来なら鏡に閉じ込めたモンスターを反射した自分の技で倒すのがリフレクトの力だ。

だがどんな攻撃も受け付けない『見えない壁』に護られているエンゴウは自らの攻撃をさらに鏡に跳ね返し、ドンドン威力を上げる事が出来るのだ

暫くすると、鏡の中の音が徐々に大きくなって行く。

そして、シュウの目の前の鏡が突如ひび割れたかと思うと、鏡の翼は粉々に砕けてしまった。


ーーパリーーン!!

「くそ・・ぐわっ!!」


リフレクトの消失と同時にエンゴウは回転攻撃でシュウに襲い掛かった。

全てを賭けた起死回生の魔法を破られ、驚く暇すらも与えられずシュウは大型船のマストに弾き飛ばされてしまった。


「シュウ兄ちゃん!!」


悲痛な表情でハジメが叫んだ。だが、聞こえていないのか甲板に落ちた魔導士はピクリともしない

構わずハジメが何度も呼び続けていると、突然巨大な影が現れ、少年の影を覆ってしまった。


(ーーえっ!?)

気付いた少年が、恐る恐る後ろを振り返るとそこにいたのはもちろんエンゴウ。

巨大な口を開け、ダラダラとヨダレを垂らしながらハジメを見下ろしていたのである。

食らいつかれたら少年の体など恐らく一瞬でかみ砕かれそうな牙の奧で青緑色の一つ目が、またニタリと笑った気がした。


「うわぁ!!」

《ラアァ――――ッ!》


恐怖に駆られたハジメが思わず叫んだ瞬間、エンゴウの爪が横に振り下ろされる。

すると、あれ程強固だったドウマ・シルドのバリアーがあっさりと砕けてしまった。


「あ、ああ・・・」


だが、ハジメは動けない。既に自分が絶望的な状況である事が分かっていたからだ。

周りをノイズのバリアーで囲まれ逃げる事も出来ず、頼みの綱だったヴァーカード達もボロボロで誰も助けてはくれない。

そして目の前には無敵のモンスター。

エンゴウの・・否ノイズの恐ろしさをまざまざと思い知った少年は蛇に睨まれた蛙の様にただ震える事しか出来なかった。


『少年・・・!』


エンゴウの背後で倒れてる焔の体からヴァーカードがモゾモゾと出ようとしているが、焔の体に挟まって中々動けない。

どうやら焔が庇ってくれたおかげで大したダメージは負わなかったらしい


『――――』


だがそれを、今まで高見の見物をしていたクロウが見ていた。

元は眼球があった筈の三つ目の窪みで、必死にハジメを救出しようとあがいている白竜を捉えると、眉間にある三つ目の部分がポゥと淡く光る。

するとそれまで、怯えているハジメを見ていたエンゴウの様子が急変し、突然に襲い掛かって来たのだ。


「ラアァ−−−ッ!!」

「う・・・!」


エンゴウの、先に剥き出しの骨の刃が付いた三本の尻尾が一斉に襲い掛かる。

もはや自分は助からないと分かった瞬間、何も考えず少年の口から叫び声が出ていた。


「うわあぁ−−−っ!!」

−−ドスドスドスッ!!


・・・・・

・・・・・

・・・・・



と、恐怖に耐え兼ね思わず眼をつぶってしまったハジメだったが、そこである疑問が浮かんだ。

痛みが襲って来ないのである。

いや、それ所がエンゴウの尻尾が突き刺さる音はしたのだが、ハジメの体に何かが刺さった感触も無い。

これは少年が以前、ノイズ現象に巻き込まれエビル・ゾンビに襲われた時と同じである。

一体何がどうなってしまったのだろうか?


「・・・大丈夫か?ハジメ」

(シュウ兄ちゃん?)


聞き覚えのある従兄弟の声が聞こえた時、ハジメの心はパッと明るくなった。

シュウがまたもや自分のピンチを救ってくれたのだ!

そう、いつだって頼りになるこの従兄弟は自分の側にいて力になってくれるのである。

しかし先程やられた怪我は大丈夫なのだろうか?

そんな心配が頭を過ぎり、眼を開けた瞬間−−−


「シュウ!・・兄・・ちゃん?」


少年の表情はその場で凍りついた。

眼の前にいたのは自分を庇い、盾になってこちらを向いている金色の魔導士の姿。

背中から巨大なエンゴウの尻尾が三本、体を貫いている。

そして影なって見えにくくなっている表情からは苦しげな笑顔が浮かんでいた。


「良かった・・・ようやく、間に・・合っ・・た」

「シュウ兄ちゃん!!」


絶望渦巻くクロスピアにハジメの叫び声がこだまする。

だが、少年が叫んだ途端また黒く染まった左手が鼓動した事に気付く者は一人もいなかった。


(続く)

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