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THE・ログインvo1  作者: 秋葉時雨
11/40

FILE:11『炎業(エンゴウ)』


《ラアァォォ−−−っ!!》

「な、なんだ!?」


エンゴウが巨大な雄叫びを上げた瞬間、クロウの水晶髑髏がキラリと光りそれまで静寂に包まれていた辺りから突然、赤い炎が噴き上がった。

そして赤い炎の中から、同じく赤いバリアの様な電磁波が出て来たのである。

赤い炎は静止した海や船も取り込み、一定の距離で円を書くようにハジメ達を囲むと電磁波で巨大なドームを作ってしまった。


「これは・・出れないぞ!」


シュウが近くの赤いバリアを叩いて見るが、バリアはビクともしない。

ハジメ達はエンゴウと共に赤いドームに閉じ込められてしまったのだ。


(・・ムラ・・ん。・・焔さん・・聞こえて・ますか〜?)

「ラビィ?ラビィか!?おい、何がどうなってんだ!?」


物凄い雑音の中、腕に付けていた焔の通信機からラビィの声がとぎれとぎれ聞こえて来た。

どうやらフリーズしてもホーム内の巨大コンピュータは稼動している様だ


(今調べた所、ホームを含む半径1kmの辺りだけに強いノイズ反応を確認しました〜。恐らくクロウは、皆さんを逃がさない様にノイズの範囲を狭めてるみたいです〜)

「つまり、アイツらをぶっ飛ばさない限りここから出れねーって事か?」


ラビィの報告に焔が舌打ちする。その間にもエンゴウはホームがあるボロ船にジリジリと近づいて来た。


『嘆いている暇は無いぞ焔。モンスターを少年と(トロイ)から引き離す』

「分かってますよ!・・へっ!俺達を始末するだと?寝言は寝て言えこの犬っコロが!!」


エンゴウに向かって飛び立つヴァーカードを尻目に、吠えた焔の背後から突然光りが現れ、中から謎の物体が出て来た。

凶悪な笑みを浮かべて焔が手にした物―――それはなんと変わった形のエレキギターだった。


「ぎ、ギターがなんで『エデン』の世界に・・?」


訳の分からないハジメが首を傾げた。

確かに古の古代文明が設定の『エデン』にそのギターはあまりにも不自然である。

見た目は、黒煙と赤の炎をイメージしたカラーの派手な感じのギターなのだが、鉈の様な本体の形がえらく直角に作られていて、周りが刃物の様に鋭く研がれているのである。

まるで武器と楽器を融合させた様なエレキギターだった。


「あれはモンスターの?そうか、彼のタイプは(魔物使い)か!」

「覚悟しな!テメーには俺のアックス・ギターで弔いの歌を歌ってやるぜ!!」


自らの相棒を手に、焔が飛んでいるヴァーカードを追い抜いてエンゴウへと突っ込んだ。

しかしそれに気付いたエンゴウがさらに早く、巨大な爪を焔に振り下ろした。


「あぶないっ!!」


焔が潰されると思い、思わずハジメが叫んだ瞬間少年は自分の眼を疑った 振り下ろされたエンゴウの爪を焔は上空にジャンプし、ギリギリかわしたのだがその背中に、黒い羽根を生やしていたのである。

羽根だけでは無い。

彼の両手・両足もまた黒い鱗の生えた別の生き物の物に変わっていたのである。

黒く変貌した両手足にはエンゴウに負けず長く鋭い爪が生えており、鱗と同じ様に黒光りしていた


「飛んでる!なんで!?」

「そりゃあ、彼はモンスターの能力が使える(魔物使い)だからな?」


驚きで眼を丸くしているハジメを横目に、何か知っているのかシュウはしれっとした顔。

頭に?ばかりが浮かぶハジメだったが、上空に留まった焔が尚も続くエンゴウの追撃を縦横無尽にかわしている内に、シュウが(魔物使い)について教えてくれた。

それに寄ると(魔物使い)はその名の通り、モンスターの能力や武器を使う事が出来るキャラらしい。

ただ、使える武器がモンスターの物が多いので街などで装備出来る物が少なく、レベルが上がるまでかなり扱いの難しいキャラでもあると言う。

恐らく、焔が持っているエレキギターも何処かの洞窟か神殿で手に入れたレア・アイテムではないか?と言うのがシュウの推測だった。


《ラアァァァ―――っ!!》

「へっ!鈍臭ぇテメーの攻撃なんか当たるかよ!」


繰り出されるエンゴウの連続攻撃をヒラリヒラリとかわし、焔が一気に懐まで飛び込んで行く。

そして骨と口だけの巨大な顔に持っていたアックスギターを、渾身の力で振り下ろした。


「オラァ!!」

−−ガキーーーン!!


素早い動きに惑わされていたエンゴウが焔の攻撃を防ぐ術は無かった。

だから彼の一撃は確実にエンゴウの顔に炸裂する筈だった。

――だが、焔のアックスギターの刃はエンゴウに当たる事は無かった。いや、当たる前に防がれたのだ。番犬を守る巨大な何かに!

焔の一撃はエンゴウの前にある『見えない壁』に受け止められてしまってのだ!!


「なっ!こいつも――」

『クロウと同じ能力があると言うのか!?』


驚いた焔とヴァーカードがほぼ同時に叫ぶ。

ギターの一撃を受け止められた事で焔の動きが一瞬、完全に止まった。

その隙をついてエンゴウが巨体を一回転させる。焔がモンスターの動きに気付いた時、眼の前に巨大な尻尾が飛んで来た。


「がはぁ!!」


防御する事も出来ず、紙切れの様に吹っ飛んだ焔は、そのままハジメ達の後ろにある大型船のマストに叩きつけられた。


「焔さん!!」

「駄目だハジメ!お前はそこから一歩も動くな!」


船に落ちた焔にハジメが駆け寄ろうとした時、今までに無かった厳しい口調でシュウがそれを制する。

少年が反発しようと従兄弟の顔を見た時、彼はハジメに向かって黄金の杖を構え、精神を集中させていた。


「ドウマ・シルド!!」

「兄ちゃ――うわっ!」


シュウが呪文を発すると、ハジメの回りに青いピラミッド形のバリアーが出現した。

驚いた少年が出ようとしても頑丈なピラミッドのバリアーはビクともしない。

モンスター達が作った赤いドームの中で、今度はシュウの魔法に少年は閉じ込められてしまったのだ。


「ドウマ・シルド。防御系魔法の中では最高の魔法だ。・・ただ、守る力が強すぎて中の人間も出れないって言う難点付きの魔法だけどな」

「兄ちゃん!なんで!?」

「悪いな、ハジメ。だが兄ちゃんはお前をこれ以上危ない目に合わしたくないんだよ」


閉じ込められたハジメにシュウが表情を和らげてつぶやく。

その優しい表情はいつもの彼と変わらない物だ。

しかし、二人が話してる間も少し離れた所では、ヴァーカードが必死になってエンゴウを足止めしている。

二人のいる空間と、ヴァーカード達が闘っている空間・・・。

そこは場所は同じ筈なのに別世界の様な正反対の空気が流れていた。


「ごめんな?ハジメ。兄ちゃんがこんなゲームに誘ったばっかりに・・・だが、勘違いしないでくれ。

本当の『エデン』の世界は夢に満ちた素晴らしい冒険の世界なんだ!

その世界を守るためにシステムが使うキャラ、『監視者』は存在してる!

お前みたいに冒険を夢見たユーザー達の笑顔を失わないためにな?」

「シュウ兄ちゃん・・・」


エンゴウとヴァーカードがいる所を見ながら、シュウが坦々と語る。

ハジメには従兄弟が何故そんな事を話して始めたのか分からなかった。


「だから『エデン』の世界を乱す悪質なハッカーやバクを俺達『監視者』は絶対に許す訳にはいかない。

約束するよ、ハジメ。

ノイズの問題を解決したらまた一緒に『エデン』の世界を冒険しよう。

そしてこの世界の本当の楽しさを、お前に教えてやる!」

「兄ちゃん・・!う、うん!!」


少年の方に振り返らず、シュウが親指をビッ!と立てる。

それに応えてハジメも頷きながらビッ!と親指を立てた。


《ラアァァ――――っ!!》

ボワアァ――――ッ!!


一方、ヴァーカードの方は覚えたての火炎放射でエンゴウを攻め立てるが、『見えない壁』の前ではなんのダメージも与えられない。

ただ素早い動きで撹乱しながら、やられた焔が復活するまで時間を稼ぐ作戦に切り替えていた。


(くっ、出来る事が時間稼ぎだけとは・・・!)


自分の情けなさに腹を立てながら、しかし心は冷静にヴァーカードはエンゴウの攻撃を避け続けていく。

小さいククルの体では掠っただけでも戦闘不能になりかねないからだ。


《グルルルル・・・!》


だが、突然エンゴウが攻撃の手を止め、体制を変えた。

体を後ろに屈め、獣が獲物を狙う時の体制になる モンスターが何をする気か判断出来ず、ヴァーカードは飛びながら首を傾げた。


(奴め、何を?――まさか!?)

《ルラァ―――ッ!!》


何かに気付いたバーカードが慌てて後ろに後退した途端、屈んでいたエンゴウが体を前のめりにして口から何かを吐き出した。

それは巨大な火の玉。

バーカードなど軽く灰にしそうな火炎弾である。

そしてエンゴウの口の奥には、バーカードを睨みつけるこれまた巨大な眼球があったのだ。


『くっ!!』


迫り来る火炎弾をバーカードがギリギリの所でかわした。

もう少し判断が遅ければ 間違い無く黒焦げである。

だがエンゴウは、容赦無く火炎弾を吐き出して来た。


――ドン!ドン!ドン!!

(数が・・多過ぎる!!)


連続で放たれた火炎弾は三つ。どうやらそれ以上は続けて吐き出せ無いらしい。

だが、あの三つの火炎弾を全て回避し、懐に飛び込めば距離が近すぎてエンゴウもあの技は使えない筈だ。

一か八かの危険な賭けだが、ヴァーカードは遭えて飛んでくる火の玉群に突っ込んで行った。

――ギュイーーン!

『おおぉーーーっ!!』


一発目、これは最初から見えていたのでなんなく避けれた。

続いて二発目。一発目との距離が短い火炎弾を急旋回でなんとか避ける。

しかし息を付く暇も無く迫る三発目。

二発目を回避した時点で避けれるスペースが無い程、火炎弾は接近していたが、止まる事無くヴァーカードもその場で急降下に切り替える。

しかしいくら落ちても、燃え盛る火炎弾の炎と熱さしか感じず、羽根が焦げ付き始める。

もはやこれまでかと思った瞬間、エンゴウや街の景色が見え、炎に体を掠める様にバーカードは三発目の火炎弾を振り切った。


(よし!これで!!)


全ての火炎弾を回避した事に心の中に安堵が広がる。

後はエンゴウに接近するのみだ。

そう思い、さらにスピードを上げ急降下をしようとした時、バーカードの眼前に今までで最大級の火炎弾が飛んで来たのだ


『なにぃ!?』


四発目の火炎弾の突然の飛来に、さすがのヴァーカードも対応しきれ無かった。

エンゴウはヴァーカードが火炎弾の連続攻撃に立ち向かっていた時に、予め四発目の火炎弾を撃ち込んでいたのである。

飛んで来る火炎弾は、先程の奴の倍はありそうな物で、とても回避する時間は無い。

火炎には火炎とこちらも炎を吐き出すが、隕石にライターで挑む様な物でまったく意味を成さない

迫り来る火炎弾の炎が、ククルの小さい体を燃やそうとした時だった――


「ミラージュ!!」


突然ヴァーカードの前に透明な鏡が現れた!

鏡は立ち鏡程の大きさで、遥かに大きな火炎弾を吸い込むと、なんとエンゴウの方に撃ち返したのである。

ヴァーカードは、鏡が吸い込んだ火炎弾を反射させて跳ね返したのだと瞬時に見抜いた。


ドカーーーン!!!

《ラアァァ―――――ッ!!》


跳ね返された火炎弾はエンゴウを守る『見えない壁』に当たって爆発したが、衝突の際に起こった爆煙まで防げ無い。

猛然と立ち上る煙りのおかげで暫くの間時間を稼ぐぐらいは出来そうだ。


『ミラージュ・・反射防御魔法か』

「ふぅ、間一髪って所でしたね」


『エデン』の世界の住人ならミラージュと言う魔法は誰でも知っているが、あれ程強力な物はヴァーカードでも見た事が無い

声のした方向に振り向くとヴァーカードがいる場所の遥か先、港に停めてある帆船の一つに傷ついた焔に肩を貸しながら、黄金の杓杖をこちらに向けているシュウの姿があった。


『《悠久の監視者》・・君の魔法だったか』

「すいません、彼を助けていたのでサポートが遅れました」


すぐにヴァーカードが飛び寄ると、シュウは声を発さぬまま呪文を唱える。

すると、ヴァーカードの回りを青白い光が包み込み所々焦げていたククルの体が、あっと言う間に元に戻ってしてしまった。


「へっ!誰も助けてくれなんて言ってねぇ!それに良いのか?

俺達が戦おうとしてんのは無敵のモンスターなんだぜ?」


助けてもらった事への照れ隠しか?焔が悪態を突くが、シュウは気にせずまた呪文を唱える。

焔の体が回復したのを確認するとシュウは彼を立たせ、爆煙に包まれているエンゴウに眼をやった


「仕方無いですよ。ユーザーを守るのがシステムの仕事ですし・・・。

それに、たまにはハジメにカッコイイ所も見せないとね?」

『フッ・・そうだな。

相手が無敵であろうと、私達は絶対にここで奴を倒さなければいかないのだから』


ワザと軽口を叩くシュウにヴァーカードがニヒルな笑みを浮かべる。

余裕を見せる二人に焔が何か言おうとした時、爆煙の中から無傷のエンゴウが這い出て来た。


《ラアァァ――――!!》

『いくぞ二人共。奴の能力が分かった今、ここからが本番だ!』


シュウ、ヴァーカード、焔がそれぞれ構える。

――だが、この戦いの先に悲しい別れが待っている事を、まだ誰も知らなかった・・・。


(続く)

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