FILE:10『旅団(パーティ)』
更新がかなり遅れました(>_<)これからも気長にお待ち下さい(笑)
『まず順を追って説明しよう』
白い竜になったバーカードが静かに語り出した。それに寄ると彼は以前からWB社の依頼で、システムの網から抜けたバグや悪質なハッカー達を始末する(掃除屋)の役目を請け負っていたのだと言う。
何故、WB社が彼を選んだのかは聞かされていないが、恐らく彼の実力と素性を知って仕事を依頼しても問題は無いと判断したのだろう――とバーカードは考えたらしい。
これにはシュウも驚いて
「そんな!会社がユーザーにそんな事させてるなんて聞いた事ないぞ!?」
とまくし立てたが、それれも予期していたのかバーカードは特に驚きもせずに、
『私の情報がシステムにあまり知られてなかったのがその証拠だよ。
もし私が失敗しても個人ユーザーが勝手にやったと言い訳をするため、極力関係者にも知られない様にしたのだろう』
と、皮肉を込めて説明した。
だが、今から約半年前。バーカードはWB社からとある事件の調査を依頼される。
それは出現ポイントが違うエデンのモンスターが突然現れ、ユーザー達を襲っていると言う物だった。
『しかし当のモンスターが襲う場面を見た者は無く、確かな証拠も無い。極めて現実味の薄い事件だった。
・・だが、調査を進めて行く内に私は遭遇したんだよ。
少年が「クロウ」と名付けたあの烏のモンスターに』
さして広く無いホームの中でバーカード以外言葉を発する者はいない。
彼の話に寄ると、とある情報を聞き付け、ある地点に駆け付けたバーカードはそこでその場所の景色が突然乱れ、フリーズ現象を起こしているのを目撃したのだと言う。
そこでは同じ様に冒険をしていたユーザーが現れる筈の無いモンスターに襲われていて、空中にはあの黒い球体――クロウがいたのだ。
『クロウは全てに置いてエデンの規格を越えた存在だった。
特徴は出現した地域を一定時間フリーズさせ、召喚したモンスターでユーザーを襲わせる。そして襲われたユーザーは二度とログインして来ない。・・・何故ならゲームオーバーとなったユーザー本人が行方不明になってしまうからだ』
「なっ!」
バーカードの言葉を聞いた瞬間、シュウが息を飲むのが分かった。
『エデン』を管理するWB社が確認出来ないモンスターがいると言うだけでも信じられないのに、そのモンスターに負けるとユーザー本人が行方不明になってしまうと言う。システムのシュウには到底理解しがたい話だろう
「馬鹿な!いくら『エデン』が仮想現実の世界だからってユーザーに影響を及ぼす筈が!?」
『私は事実を述べているだけだよ《悠久の監視者》
――ラビィ、例のリストを画像に出してくれ』
「あいあ〜い!お待ち下さ〜い」
バーカードを頭に乗せたまま、ラビィが巨大コンピューターを操作し始める。すると巨大な画面に数人の男女の顔と名前が映し出された。
どれも『エデン』で使っているキャラの顔と本人の顔の両方が載っていた
『私達の調査では、既にこの五名がクロウの被害に合い行方不明となっている。
嘘だと思うなら彼らのユーザー情報を調べて見ると良い』
白き幼竜に言われてシュウが額のバイザーを装着する。暫くするとピッ!と言う音と共にバイザーが光り、シュウの細目が大きく見開かれた。
「全員の情報がアクセス不可だと!?馬鹿な、ただのユーザー達になんでこんな強固なガードが!?」
絶句しているシュウに対し、バーカードは鋭い目線を向けながら、
『WB社が被害者達の情報を隠蔽したんだよ。
君も少年が襲われた時、見ていたのなら分かる筈だ。
あれはただのゲームオーバーでは無い。まるで新種のコンピューターウィルスがキャラをユーザー事破壊している様だった』
と、説明した。
シュウは信じられない様だが、ハジメはなんとなくバーカードの話を理解する事が出来た。
あのクロウが持っていた赤き杖の光線を受けた時の痛み・・・。あれは間違いなく現実の物だった
シュウを黙らせるとバーカードはさらに説明を続ける。
クロウの存在を知った彼は調査を続ける内にその驚異と、被害の数を知り驚いたと言う。
そしてバーカードの報告を聞いたWB社は、秘密裏に事件の鎮静化をさせるために彼にノイズ事件対策用パーティー『ゴースト・ハッカーズ』を結成させ、被害の拡大を食い止めていたのだーー。
『ここまでの話で何か質問があるかね?』
ふぅと一息を入れ、長い説明に休憩を入れたバーカードが聞くが、ホームの中で誰も言葉を発する者は誰もいない。
ただラビィのキーボードを叩く音だけが延々と響いていた。
「・・貴方はあのモンスターがなんなのか知っているんですか?」
思い詰めた表情で入口の小さな階段に腰掛けていたシュウが聞く。
もはや彼にバーカードの言葉に反論する意志は無い。
実際に自分の眼の前で可愛い甥っ子が襲われたのだから、信じるしかないと考えたのだ。
『今の段階でクロウの正体や目的については分かっていない。
分かっている事は神出鬼没に現れ、ユーザーを破壊するウィルスをばらまく極めて危険な存在だと言う事だけだ』
「もうチームの説明は良いでしょう?バーカードさん」
と、バーカードが長い首を降りシュウの質問に答えていると、それまでソファーに寝そべっていた焔が突然起き上がり、話に割り込んで来た
ハジメは、さっきいきなり襲って来たり、不機嫌な態度ばかり取っているこの男の事をあまり好きでは無かった。
『焔、今はまだ説明の途中だ』
「もう良いでしょうが!!俺はね、これだって随分と我慢した方なんだ。
だってそうだろ?突然連絡が取れなくなったと思ったら、ククルの姿で帰って来て、素性も分からないこんな奴らにノイズの話をしだしたんだ。
大まかな部分は話したんだから、今度は俺達に説明してくれ!
コイツらはなんなんだ?クロス・パウロで一体何があったんだ!?」
焔が凄い剣幕でまくし立てるが、バーカードは至って冷静に話を聞いている。
横で見ていたハジメは怖くてしょうがなかったのだが、どうやらチームのメンバーにとっては焔が怒るのはもう慣れっこらしい。
言いたい事を言って肩で息をしている焔だったが、バーカードが鋭い視線を送っている事に気付くと、彼は気圧された様に後ろに一歩後退した。
『今からそれを説明しようとした所だよ。ラビィ室内の電気を・・』
バーカードの指示にラビィがまたキーボードをパチパチ叩くと、ホーム内の明かりが消え室内が薄暗くなった。
すると白き竜はハジメの肩に乗り直し天井を見上げると、両目が突然光り出しなんらかの映像を映し出したのだ。
「これは・・ホログラムか?」
『ククルには見た映像を記憶させる機能が付いているのだ。報告などをするのに楽な様にね。
こんな姿では煙草も吸えんが中々使い勝手の良い体だよ』
ホログラムの映像はクロス・パウロの荒野から教会の闘いまでの一部始終を映していた。
ここではすでに何があったはハジメ達も知っているので内容は省くが、クロウの圧倒的な強さに焔だけでなく、一心不乱にキーボードを叩いていたラビィまで映像に釘付けになっていたのが印象的だった。
「くそっ!!俺がついていれば!」
苦虫を噛み潰した様な表情で焔が拳を壁に叩き付けた。
ハジメ達がいたせいでバーカードがやられた事より、自分がその場にいなかった事を悔やんでいるらしい。
『今考えると、少年達は私をおびき寄せるために利用されたのかもしれない。あれは恐らく罠だったのだ』
「罠?」
シュウが聞き返すとバーカードは一度頷いてから
『あの時、ノイズの動きは明らかにおかしかった
同じ地点に連続して現れた事など今まで一度もなかったからな。
恐らくクロウは、ノイズを追う邪魔な私達を始末するためにエビル・ゾンビを囮に使い、クロス・パウロで一網打尽にしようとしたのだろう。
・・だが、おびき寄せられたのは私だけ。私もまたこうしてククルの姿でエデンに残る事が出来たのだから、正に九死に一生を得たと言った所か』
と語った。
しかし、もしバーカードの到着が後少し遅かったらハジメ達は囮のモンスターに確実に餌食になっていた筈である。
そしてゲームオーバーになったら一体どうなっていたか分からないのだ。
そう考えるとハジメは改めてバーカード達が、自分とは次元の違う事件を追っているのだと認識出来た。
「で、これからどうするんスか?バーカードさんでも勝てなかった相手なんでしょ?」
ソファーでうなだれていた焔が聞いて来る。さすがに先程の映像を見れば彼でもクロウがどれだけ強いのかが分かったのだろう。
『確かにクロウの強さはゲームの標準を遥かに超えている。恐らくどれだけレベルを上げてもこの世界ではクロウには勝てないだろう。
だが、まだ私達には希望の光がある。――それは少年、君だ』
と、突然バーカードに名指しされてその場にいた全員の視線がハジメに集中する。
だが1番驚いていたのは呼ばれたハジメ本人だった。
「えっ!ボ、ボクが?」
『そうだ。
実はクロス・パウロに行く前、万が一に備えて私はククルにキャラのバックアップデータを入れておいたのだ。
もし私が敗れ、ウィルスに感染したとしてもバックアップデータで復活出来る様にな。
だが、アクシデントによりクロウの攻撃に少年まで巻き込む事になってしまった。
そこで急遽、私はバックアップデータを少年の物に書き換え少年を救う事にしたのだ。
私がこの姿になったのは、恐らく少年が感染された部分がまだ手だけで余ったデータがククルとして私を再構築したのだろう』
バーカードが説明した後ハジメは思わずゴクリと唾を飲み込んだ。
バックアップとか難しいパソコン用語は良く分からなかったが、危うく自分も行方不明になる所だったと言うのは理解出来たからだ。
『だか、やはり応急処置では完全なコピーは望めなかった様だな。
君を呼び出した時、その左手を見て分かったのだが、少年のキャラは未だウィルスに冒されてしまっている。
手首のブレスレットに宿った私のデータが完全に侵攻を遮断しているに過ぎない』
「なんだって!?」
ヴァーカードの恐ろしい言葉にシュウが叫んだ。ハジメもまた驚きに声も出ず、真っ黒になってしまった自分の左手を見る。
自分の部屋で眼が覚めた時のあの激痛はやはり『エデン』と関係あったのだ。
「じゃ、じゃあこのままじゃハジメのキャラクターもいずれウィルスに・・・!?」
『いや、その心配は無い。今も言ったが少年のウィルスは私のデータが完全に押さえ込んでいる。そのブレスレットが破壊されでもしない限りひとまず安全な筈だ。
・・そして少年のウィルス。それこそ私達にとって希望の光なのだ』
焦るシュウを落ち着かせてからヴァーカードが鋭い目付きで真っ直ぐハジメを見る。
その視線を受けてハジメは、何か自分にとって重大な事を言われる気がした。
「ヴァーカードさん?あんた・・・まさか!」
『お前の考えている通りだよ、焔。
少年には私達の仲間になってもらう。そしてそのウィルスに冒された左手を解析させて欲しい』
その瞬間、周りにいた全ての人間がハジメの方を向いた。
シュウはア然としラビィは眼を丸くし焔は怒りの表情を浮かべている。
ただ一人、当の本人であるハジメだけが何を言われたのか良く理解出来ずキョトンとしていた。
「え?ええええ〜〜〜〜っ!!!」
「あい〜ヴァーカードさん本気ですかぁ??」
「な、何考えてんだ!!あんたはこのガキのせいでそんな姿になったんだぞ!?」
ようやく気付いたハジメの驚愕の叫びを皮切りに、三種三様の感情が交差する。
だがヴァーカードは平静な態度を変えない。どうやら彼は、自分が決めた事を説得して押し進めるタイプの様だ。
『お前達が反対するのも判るが、これが最善の策なのだ。
少年に感染したウィルスを調べればクロウに抵抗出来る手段が見つかるかもしれない。
それに、これ以上犠牲になったユーザーを助ける事だって出来る筈だ』
「それはハジメのキャラをモルモットにするって事ですか?」
メンバーの二人を説得していたヴァーカードに今度は厳しい表情のシュウが聞く。
元々ハジメを『エデン』から遠ざけるためにここへ来たシュウがチームの勧誘を心良く思う訳無いだろう。
『そうではない。チームの一員として共にノイズと闘ってほしいと言っているのだ』
「そこが腑に落ちないんですよ。
貴方はハジメのウィルスが希望の光だと言ったが、バックアップデータで押さえ込む事が出来るのなら何故、もう一度作ってクロウに挑まないんです?
貴方の腕ならそれぐらい簡単な筈だ」
シュウの言葉にヴァーカードが初めて表情を曇らせる。
彼はヴァーカードの言動から一つの真実に到達した様だ。
そしてヴァーカードの様子からしてそれは当たっているのだろう。
暫くシュウの顔を睨んでいたヴァーカードだったがこれ以上隠し切れないと判断したのか、またニヒルな笑いを浮かべた。
『さすがシステムと言った所か。確かに今の私にバックアップデータを作る事は出来ない。
先のクロス・パウロの闘いでウィルスに感染したせいか、先程から何度ログアウトしようとしてもゲームを辞める事が出来ないのだ。
恐らくウィルスにキャラが破壊された事でリアルの私の体は−−−消失したのだ』
「なんですって・・!?」
シュウの驚きの声とほぼ同時にラビィがコンピューターを操作し、画面に新たな映像が現れる。
それはまだ《黒の勇者》だった頃のヴァーカードの情報だった。
「確かにヴァーカードさんのログイン時間は、丸一日繋いでる事になってます。
普段の接続時間を考えると、これはちょっと異常ですね〜?」
「つまり貴方は自分が闘え無くなった代わりにハジメを闘えと言っているんでしょ?
そー言う事なら、この話は聞かなかった事にします。
貴方の使命や状況には同情するが、ハジメをこれ以上危険な目に合わせたくないんだ!」
ヴァーカードの真意を知ったシュウはハジメの手を引き、さっさとホームの入口へ向かう。
急に動かれて驚いたヴァーカードは慌ててハジメの肩から飛び立ち、またラビィの頭へと移る。
その間にもシュウに連れられたハジメはドンドンホームの入口へと近づいて行った。
『待ってくれ。君が少年を守りたいと思う気持ちは十分分かる。だが決断するのは君では無く、少年なのだ。
せめて少年の気持ちを聞いてからでも立ち去るのは遅くないんじゃないのか?』
ヴァーカードの言葉を聞いてハジメの足が止まった
ノイズの事を聞いた時は本当に怖かったが、このままシュウと出ていけば恐らく二度と『エデン』はプレイ出来なくなってしまう。
しかしヴァーカードの仲間になれば待っているのはあのクロウとの恐ろしい闘いだ。あんな怖い思いは二度としたくない。
それに大丈夫だと言われても、いつ左手の侵食が始まるか分からない。
従兄弟に付いて行ってもここに残っても後悔しそうだ。
極端過ぎる二つの選択にハジメは悩んでいた。
「ハジメ、来るんだ」
歩みを停めた甥っ子をシュウが優しく促す。だがハジメは動かない。
まだ答えが決まっていないのに、ここを出て行ってはいけない気がしたからだ。
『聞かせてくれ、少年。君の答えを−−』
「ヴァーカードさん。それにシュウ兄ちゃん!ボクは・・・ボクは!」
ウィーーン!!ウィーーン!!ウィーーン!!
突然だった。
ハジメの声を遮って部屋に赤ランプの点滅と警報が鳴り響いたのである。
ホーム内には一瞬で緊張感が走り、ラビィがまた世話しなくコンピューターのキーボードを叩いている。
何が起こったか分からなかったハジメは不安な顔をしてシュウにしがみついた。
「な、何・・・?」
『ラビィ、何が起こっている?』
「あぃ〜!!これは大変ですぅ!コンピューターが画像の乱れを感知しました。出現ポイントは・・・クロスピアの中みたいです〜!」
ラビィの報告は全員の視線をコンピューターに集中させるに十分だった。大勢のユーザーがいる街の中にノイズが現れたと言うのだから当然である
こんな事態はさすがに初めてなのか、ヴァーカードの表情にも驚きが走っていた。
「街の中だぁ!!おい、冗談だろ!?」
『ラビィ、正確な出現ポイントは分かるか?』
「あい。・・え〜出現ポイントは3−Bの25。場所で言うと〜?・・・この港みたいですね〜?」
焔の叫びと共に聞かされたラビィの報告に、ヴァーカードは再度ため息をつく。
しかしすぐに小さな顔を上げると、意志の宿った強い瞳でハジメ達のいる方向に振り返った。
『ラビィ以外を除く全員はすぐに外へ出ろ!フリーズが始まったらここに閉じ込められてしまうぞ!』
(トロイ)からの退避命令が出された時、真っ先に反応したのはシュウだった。
不安げなハジメを小脇に抱えると一目散にホームの入口へと走り出す。
続いてヴァーカードが飛んで入口から飛び出し、最後は焔が外へと飛び出すとホームはあっと言う間にラビィだけになってしまった。
『ラビィ、後はまかせたぞ』
「あいあ〜い!おまかせ下さ〜い」
扉が閉まる合間、ラビィがこちらを振り向かず袖から出ていない手を振る
キーボードを叩く音だけを響かせながら、(トロイ)の扉がゆっくり閉ざされた――。
ハジメ達が外へ出た時、既に街のフリーズが始まっていた。
さっきまで聞こえていた波の音も、リアルに造られた海の様子も今は無い
音も無く、風景も止まってしまったクロスピアは何処か殺風景な気がした
「ラビィさん、大丈夫かな・・?」
「あいつは年がら年中あそこにいるから大丈夫だ
それよりテメーの心配した方が良いみたいだぜ!?」
(トロイ)の入口であるボロ船を見ながら上の空のハジメに、獣のうめき声を上げながら焔が忠告する。
見ると港の空に、二度と見たくなかった黒い球体が現れたのだ。
黒い球体はあっという間に形を黒く大きな翼へと変え、メンバーの前にその正体を現した。
――バチバチバチっ!!
『クロウ・・・』
ヴァーカードが自分の姿を変えたモンスターを睨み付ける。
一方、無言のまま翼を広げたクロウは左手に持っていた水晶髑髏をそっと前に差し出した。
すると、水晶髑髏からドロドロとした真っ黒い涙が流れ、地上にほんの一滴だけ落ちて行った。
『――――っ』
降下した黒い涙は地面に広がると、エビル・ゾンビの時と同じ様に巨大な赤いゲートを作り出す。赤いゲートにはクロウの胸と同じ文字で『※*』と書いてあった。
「※*・・・炎業?」
ゲートに浮き出た文字を口にしたハジメをシュウとバーカードが驚いて見るが、ハジメは気付かない。
その間に赤いゲート内では新たなモンスターが形成され、その姿をハジメ達の前に現した。
「こいつは・・デケェ!!」
圧倒された様子で焔が叫ぶ。
赤いゲートから出て来たのはなんとも不気味なモンスターだった。
全身を血で染めた様な真っ赤な体毛で覆い、クロウと同じく白骨化した丸みを帯びた頭には眼も鼻も無く、ただ巨大な口と牙だけが生えている。
四つん這いの四肢も指や爪だけが白骨化して飛び出しており、同じく先端が鋭い骨のハサミになっている尻尾を三つも生やしながら、ゆらゆらと揺らしている。
それは一言で言うなら地獄の番犬。
クロウの邪魔をする者を噛み殺す巨大な魔獣――それがエンゴウの姿だった。
『やはり私の考えは正しかった様だ』
視線を戻したヴァーカードが厳しい表情でつぶやく
ハジメを除く全員が身構える内に、巨大な魔獣はゆっくりと赤いゲートから出て来た。
『やはりノイズは私達を邪魔者だと考えている。奴はここで私達を全員始末するつもりなのだ。』
《ラアァォォ−−−−っ!!》
目覚めたエンゴウが恐ろしい雄叫びを発する。
始まりの街・クロスピアで、ノイズとの命懸けのバトルが始まろうとしていた・・・。
(続く)