FILE:1『始(スタート)』
―ボクは死にたくない。
ボクはこの世界が大好きだ。
この空も、咲き誇る花も、海も、山も、そしてこの世界で生きる人々全てが好きだ。ボクにとってこの世界はかけがえの無い物なんだ。だから――。
ボクは死にたくない。
消えて無くなるなんて嫌だ。忘れられるなんて嫌だ。もう・・もう二度と
「あんな思い」
はしたく無い。
ボクは死にたくない。ずっと生きていたい。そう、『永遠に』――。
それにはどうしたら良い?何か、何か方法は無いか!?考えても考えても良い方法が見つからない。
こうしてる間にも皆、ボクを殺す
「あれ」
は着々と生まれようとしているのに・・・。嫌だ。嫌だ!!ボクは死にたくないっ!!
誰か、誰か助けて!!死にたくない死にたくないしにたくないシニタクナイ――。
ボクは死にたくない!?
――だったら生きようよ、新たな世界で。
新たな世界??
――そうだよ。この世界で生きられないんなら、新しい世界で生きれば良いのさ。
ダメだよ。ボクはこの世界でしか生きられない。
―そんな事は無いさ。君がやろうと思って出来ない事など何も無い。
もし君がその気になるんだったら力を貸すよ?私も。
本当に?出来るのかなぁ・・ボクに。
―ああ。君と私が力を合わせれば不可能な事など何も無い。さぁ、始めよう!新世界への旅を。
・・・うん。
「始〜!お兄さんから何か届いてるわよ〜?」
「はぁい!今行く〜!!」
従兄からの届け物と聞いて、始は勢い良く部屋を飛び出して行った。
2階に続く階段を下り、台所にいた母が持っている小包を見ると、それを引ったくりまた大急ぎで部屋に戻る。
後ろから母の小言が飛んで来たがそんな事にはもう構ってられない。
階段を一段跳ばしで駆け上がり、部屋のドアを閉めると期待に胸を踊らせながら小包みの包装用紙をビリビリと破っていく。白い箱の蓋をドキドキしながらゆっくり開けると、そこには――。
「やったぁ!!」
思わず少年が歓声を上げる物が入っていた! 中に入っていたのは『エデン』と書かれた古代遺蹟を表紙にしたゲームだった。白い箱にはゲームと一緒に手紙も入ってあったので、まずそちらを先に開く。
「ハッピー・バースディ♪今回の誕生日には特別なプレゼントを用意したよ。それがなんなのかはゲームをプレイしてからのお楽しみ。では『楽園』で会おう。」
綺麗な字で書かれたその文面を見て始は思わずにんまりと笑う。すぐ様プレゼントを送ってくれた(彼)にゲームが届いた事を携帯でメールし、電話線を外してゲーム機の準備をする。
コントローラーと一緒にネット用に装着するヘッド・バイザーも忘れない。そして『エデン』をセットし、そっとスイッチを押した。―ゲーム機のロゴが浮かび上がったかと思うと、すぐに表紙と同じ画面が浮かび上がる。
(プッシュ・スタート)の文字と共にコントローラーのボタンを押すと、バイザーに埋め込まれたメモリーチップからゲーム機が始の個人ID情報を読み取って行く。
そして真っ白な画面に切り替わったかと思うと(キャラ設定)や(オプション)など様々な項目が並べられた設定画面の部屋に変わった
「ん?」
始が逸る気持ちを抑えられず、早速(キャラ設定)で自分のキャラを作ろうとすると、その一つ下の(メール)の項目に何故か(NEW)のマークが付いてるのに気付いた。
このマークには見覚えがある。新着メールのマークだ。初めてプレイする筈なのに何故?と首を傾げながらもメールを開いてみる。するとメールの送信者は(彼)だった。
「Welcome・Toエデン。このメールを見ていると言う事はゲームが届いたと言う事だね。プレゼントは(キャラ設定)の中に入っている。それでは『楽園』で会おう。」
「うわぁ!!」
メールを確認するとすぐ様始は(キャラ設定)を選択する。するとそこには――。
キャラ設定が終わり、ゲームスタートを選択すると周りの景色が変わり始め、ただの部屋が真っ白い何も無い世界に変わって行く。そして始自身の体も変わり始めた。
これがネットゲームの醍醐味であるバーチャル世界である。始の体も現実の物からキャラ設定で作った姿へと変わっていく。
青髪のおかっぱ頭。現実とほぼ同じ年令の少年の姿。そして、キャラ設定の通常衣裳には無いエメラルドグリーンのサイバー衣裳の服装に両腕のブレスレット。衣裳と髪の色以外は現実の姿と変わりは無い。名前も良いのが思い付かず
「ハジメ」
にした。
『ようこそ!禁断の聖地エデンへ!!』
「!?」
突然、声がしたかと思うと空中から巨大な光が現われた。始が驚いて見ているとそれは人の形になり、やがて翼を生やした白いローブの少年に変わる?少年はぽかーんと口を開いてる始を見ると慈愛に満ちた笑顔を浮かべた。
『ボクの名はウィング。聖地エデンで君達、ユーザーをサポートする者。さぁ共に行こう!永遠なる聖地で君の新たな冒険が待っている!!』
ウィングが高々に宣言すると、持っていた杓杖を空に掲げる。すると真っ白い世界が真っ二つに割れ、まるで扉の様に開く。そしてその奥に光の世界が待っていた。
(この先にエデンが待ってる・・・。僕の冒険が始まる!)
新たな世界への期待と不安を胸に秘め、始は光の世界へと飛び込んだ。
(続く)