ちょっとだけ違う日常
死にたいって思ったことありませんか?
恥じることなんてありません。
きっと誰でも一度は考えることなのです。
そう思うことこそが、今、幸せである証なのですから。
きっかけなんてなんでもよかったんだと思う。
今日はちょっとだけいつもと違っていた。
そんないつも通りの日常。
でも、いつも違う。
同じ一日なんてないってわかってる。
だから、ちょっとだけ違うなんて当たり前。
そう、今私が立っている場所は
いつもの場所よりもちょっとだけ風が強く、
いつもの場所よりもちょっとだけ見晴らしが良く、
いつもの場所よりもちょっとだけ高く、
いつもの場所よりもちょっとだけ危険なだけ。
そんな場所の、申し訳程度に備えられた柵の外側に私はいる。
下を見ると普通ならきっと身がすくむほどなんだろう。
けれど、今の私の目には綺麗に映った。
そこに飛び込んでしまいたい欲望に駆られる。
きっと私は壊れてしまっている。
ちょっとだけ、いつもと違う私なんだ。
何で私、ここにいるんだろう。
今日はいつも通りに、恋人と遊ぶ予定を立てていた。
私はいつものように着ていく服に迷ったものだ。
いつもよりちょっとだけ時間をかけて。
けれど、いつもの時間よりちょっとだけ早い時間に家を出た。
そして、いつもとはちょっとだけ違う光景を目にした。
彼が、私の知らない女性と歩いている光景。
人違い?
いや、私が彼の姿を見間違えるはずもない。
ぐるぐると何かが頭の中を巡る。
いつの間にか彼と知らない女性の姿は見えなくなっていた。
ふらふらとしながらもいつもの待ち合わせ場所に急ぐ。
そこには、いつも通り彼が待っていてくれた。
いつも通りのはずなんだ。
だからいつも通りに動け、私の身体!
そんな私の願いも空しく、私の身体は彼のいる方向とは逆の方向へと走り始めた。
後ろから声が聞こえた気はしたが、私の身体は止まってくれなかった。
きっかけはきっと些細なことだった。
少なくとも他人から見ればなんてことのないものだろう。
それでも、私には私がここにいる理由には十分だったと思える。
少しずつ腕から力が抜けていくのを、半ば楽しんでいると後ろから扉の開く音が聞こえた。
「こんなところにいたの?何でいきなり走っていってしまったんだい?」
毎日のように聞いていた声。
その声はいつも通りだろうか?
「さあ、戻ろう?今日はきっといつもとはちょっとだけ違うことがあると思うんだ。」
そんなことは知ってる。
散々ちょっとだけ違うことがあったんだ。
今更何があったって興味を惹かれたりはしない。
「今日はさ、君の誕生日だよね。」
え?
一瞬、時間が止まったように感じた。
彼は友人に頼んで、直前までプレゼントを選んでいたと私に告げる。
その瞬間だ。
突然腕にすごい力が入る。
涙も止まらない。
さっきまで綺麗に見えていた景色が違ったものに見える。
怖い、怖い!怖い!!!
恐怖で動けなくなった私の身体を、いつの間にか彼の腕が支えていた。
ゆっくりと柵の内側に戻る。
そこから先はあまり覚えていない。
ただ、わけもわからず泣いていたことだけは覚えてる。
今日は、ちょっとだけ違う出来事があって、
ちょっとだけ違う場所で、
ちょっとだけ違う私になれた。
END