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そして茨は蔓延り出す

主人公が前話以上に黒いです。

作者の強かな女の子はジャスティス!な趣味が全力で出ています。


ロンは知らない。

紅薔薇姫が示す本当の意味を。

明かす気もない、彼を手に入れるその日までは。


この呼称は表面上は私の赤髪と翠眼を指している。

だが裏をかけば全く別物となるのだ。


人は薔薇を見て真っ先に浮かべるのは幾重もの花弁であろう。

触れるまでその棘には気付かない。


と、それを念において例えている。

そうこれは私の気位の高さを風刺しているのだ。

見事に皮肉った物だと思う。




おそらく辞めさせた護衛が流しているんだろうが確かな証拠はなく。

それに調べるほど興味がそそられる話題とは言い難い。

時間を使うには下らなさすぎる。あながち外れていないのもあるか。


私はロンより前に二人護衛を持っていた。

どちらも私の夫の座を得るべく、送り込まれた貴族のボンボンだ。

騎士というのは一番傍に存在する異性、よって意識が向きやすいのだ。

だから純粋に私を守るというよりか下心満載でやってきた訳だが。


先にネタばらししよう、私は自衛ができる程度には強い

姉上ほどではないが剣も使える、魔法とてお手のもの。

だから本当であれば護衛なんぞ必要なかった。

むしろお荷物以外の何物でもない。金魚の糞を誰が好き好むか。


ただ有力貴族の申し出を断って父の立場を悪くするのを避けたいが為に、

仕方なく引き取っただけである。

でもやっぱり嫌々だと悪い者を引き寄せてしまうらしい。


一人目は男達に絡まれた時、私を置いて逃げた。

仕方ないから自分で始末して。もちろん護衛はクビ。

二人目はちゃんと外敵からは守ってくれたけれど、

私を性的な意味で襲ってきた。

まだ初潮が始まったばかりの子供相手に何欲情してるんだと

かなりドン引きしつつ、押し倒される前につるし上げて。

これなら前の方がマシだとは思ったが、結局どっちもどっちだ。


理由を説明するのも億劫で、問答無用で辞めさせたから、

自らが気に入らなかったからだと誤解されたが、反論は一切行わず。

ちゃんと問題点はある。でも実際にそれも一因だからだ。


もうこりごりだと、私は護衛を拒む為にも大人しくする事に。

面倒事を避けるように図書室に籠もるようにした。

しばらくすると二度の解雇で随分減っていた護衛候補達は

思惑通り完全にいなくなったが、私はそれでも図書室に通い続ける。


「……やっぱり凄いなぁ」


夢見がちな童話を閉じて、窓の外へ視線を。

この部屋からは騎士団の鍛錬場が見える。

私がここに来る理由の九割は本よりもここからの観覧だ。

初めは騎士を務める姉の姿を見ていたのだが、

最近、目を向けるのは専ら彼ばかり。


「ふふっ、やっちゃえやっちゃえ」


今日は月に一度の模擬試合。

この日だけは階位完全無視の無礼講に下克上。

一番、彼が輝く日だ。


短い灰色の髪を揺らしながら、

彼は格上の貴族をどんどん蹴散らしていく。

見ていてなんとも爽やかな気持ちになれる光景だ。


彼の名前はロン、男爵家の次男坊。

幼い頃に父親から見限られ、騎士団へ押し込められたらしいが、

己の境遇にも負けず、努力家で実直な青年らしい。


らしいというのは私も姉上から聞いただけで、

実際に話した事は一度もないからだ。

いつもこうやって遠目で眺めているだけ。


でも姉上の言ってる事はまず間違いなさそうだ。

男爵というと五爵で一番低位。だが彼はとても強い。

また耳に聞く限り団長やうちの家族にも一目置かれ、

だからよく伯爵や侯爵達に絡まれているのだ。


私もここから何度か目にした事がある。

そんな状況でも普段は身分差から手出しできない。

だがたこ殴りにされるわけではなく、彼は見事にかわしていく。

そして模擬試合で本領発揮。こてんぱんに伸してしまうのだ。

負けず嫌いで一筋縄にいかないのはわかった。でも、もっと彼を知りたい。


だから私は彼を傍に置く事にした。

もうすぐ彼は私の騎士となる。

父上に思い切っておねだりしてどうにか許可を取ったから。

前にあんな事があったから最初は反対されたけど、

最終的にはしぶしぶながら折れてくれた。

ただ私が直々に見初めた事は秘密。だって恥ずかしいもの。


二度ある事は三度あるになるか、三度目の正直か、

彼はいったいどちらに転ぶのかしら。

胸一杯期待に膨らませて、私はその日を待ち続けた。




彼を雇った後、始めの春夏秋冬を越えたのは、

とても短い時間だったように思う。

その後もひととせはあっという間に流れて六度目の夏が来た。


「やっぱりここにいらっしゃったんですね」


庭にある一番大きな木。

その上で微睡んでいれば下から声をかけられた。

やっぱり迎えに来てくれたんだ、と嬉しくなる。


「ちょ、危ないですって!姫!」


顔を見ずとも誰なのかわかっていたが、

落ちないよう身を乗り出してみた。

案の定、彼が慌てふためく。

その困った顔も好きだから彼をからかうのはやめられない。


「受け止めてね、ロン」

「はっ?!ちょ!待ってくださ……」


彼の発言が終わる前に、

私は太い枝に足をかけて、思いっきり宙へ飛び出す。

ベル状のスカートが空気でふわりと更に膨らんだ。


口ではそう言っているものの、

彼は私を受け止める準備を終えていた。

何度も繰り返されたこのやりとり。

もう体が覚えているのだろう。

反射的に広げられている腕へと飛び込む。


「ほ、んと、止め…て、くださ……」

「ふふっ」

「笑い事じゃありませんって!」


ぜーぜーと彼が荒い息を吐く。

しっかり私を抱きしめたままで。

添えた手から伝わる鼓動はひどく早い。


「でもロンは絶対に私を傷つけないでしょ」

「……そうですけど、万が一の事が」

「そうならないように頑張って」

「え、ええー……」


私の命令に怒る訳でもなく、

ロンはいつものよう、眉を下げながら曖昧な笑みを。


私はよく無茶な命をするが、

彼は困惑しながらもちゃんと付き合ってくれる。

だから私は付け上がって彼を更に騒動へ巻き込むのだ。


どこの子供だと言われそうだが、

嫌がる事をしてでも私は彼の気を引きたい。

こうやって抱きしめてくれるのだって、

普通に言ったら絶対逃げられるもの。


「姫様って六年前から変わってませんよね……」

「私としては随分変わったと思うけど」

「中身です、中身!

 外見に関してはわかりましたから、

 布まくるのやめてください!!」


私から距離を置き、彼が溜息を吐く。

油断したところを狙って、

襟ぐりを引っ張り、胸元を見せつければ、

真っ赤になって彼は顔を逸らした。


純情な反応が楽しい、ホントからかいがいがある。

でも口で何だかんだ言ってても多少は気になるのか。

押さえてる手の隙間からチラ見してるのバレバレよ、ロン。


「もうすぐ花嫁修業の先生が来ますから」

「面倒ね」

「俺も勉強嫌いですから気持ちわかりますけど、

 ……いずれ必要になる事です」


帰りましょうと、ロンが寂しそうに笑った。

差し出される手を私は取って強く握る。


「ロンが私を妻にすればいいのよ。

 そしたらもうあんな堅苦しい事学ばなくてもいいわ」

「あはは。名案ですけど、俺は貴方の騎士ですから」


冗談なんかじゃないのに。

私の提案を彼はさらっと流してしまった。




城や街へ逃げる私をロンが迎えにきて、

私が彼をからかい無茶を振る、

そして手を繋いで、部屋へ連れ戻す。

このやりとりを私達は六年繰り返し続けてる。

それ以上は何も無い。


ロンはまるで蜂みたいだ。

紅薔薇(わたし)がどこにいても必ず見つけ出す蜜蜂。

懸命に私を守ろうとする姿も働き蜂のようだと。


ただ職蜂は雌のみで、守るのも王女でなく女王だし、

それに見返りの蜜を求めないのも当て嵌まらない。

似ているようで似てなくて、当然か。彼は人間なのだから。


ロンは蜂のように強く忠実で、それでいて無欲過ぎる。

だからこそ、私はこの騎士を愛してしまったのだ。


騎士は危険な役割だ、そして辛い仕事でもある。

それを免罪符に過去の二人は私を手にすることで賄おうとした。

もう一つ。少しでも仕事を減らしたかったのだろう。

前の護衛達は私が自由であることを嫌った。


でもロンは違う。私に何も望まない。

木登りもお忍びも咎めなかった。

何故止めないのか、聞いたら彼はさも当然のように。


『例え危険な目に合うとしても、

 それは姫にとっての幸せなのでしょう?

 俺は騎士です。姫を守る、その為に存在しています。

 だから姫の思うままに生きてください。

 何があっても、俺がずっと守り続けますから』


その言葉は私の心をひどく揺さぶった。

全く邪心の籠もらない、真白い誓い。

それを彼はくすみない笑みで言いのけたのだ。


どうして、そんな誓約を私に与えてくれるのか。

彼と違って私は何も返せないのに。


私の価値は全て私を取り囲む物だけ。

王女の地位も、纏う煌びやかな品も、紅薔薇姫の名声も、

ラドゥガの姫に生まれたから与えられただけなのに。


私の騎士、それだけを理由に彼は。

気付いて私の心は陥落した、淡い恋から燃えるような愛へと。


初めて、奪われてもいいと思った。

彼になら何を捧げてもきっと後悔することはない。

でも、彼は私へ何か求める事は無く。

ただただ彼が一方的に私へ献身を贈るばかりだった。




時は過ぎ、夜会の前日の事。

その日は珍しく、私がロンを探していた。

騎士団長に呼ばれたまま帰ってこない。

代わりに付けられた護衛を欺いて、

見つからぬよう私は城中を走り回っていたのだ。


途中、セラ姉様に会って、

彼が向かった部屋を聞けだしたのは幸い。

あまり彼に迷惑をかけるんじゃないぞ。

と長くなりそうなお小言はさっさと切り上げて。

何故か嫌な予感がしていたから。


「……!」

「…、……」


姉様に教えてもらった部屋からは

薄く明かりと会話が漏れ出していた。

そのままでは内容まで聞き取れそうもない。

気配を消して、扉に耳を当てる。

今度こそ二人分の声がはっきり届いた。


「考えてくれたか、ロン」

「……すみません」

「先方はお前の答えを心待ちにしてるみたいだから。

 できる限り早めに回答がほしい」


二人とも重苦しい様子で話している。

肝心な部分が上がってこないけれど、

私には密かに理解しつつあった。


「お前にとっても悪い話じゃないだろ?

 お相手のお嬢さんは相当、

 白銀の騎士に入れ込んでるみたいだからな」


その一言に確信する。これはロンの婚姻話だ。

幸い、彼はまだ答えを返していない。

でもきっと近々彼は答えを出すのだろう。

上官から与えられた以上、きっと拒めない。


怒りにまかせ、拳を握る。

掌に伸ばした爪がささって、血が滲み出した。

だが激情する頭は痛みなどものともせず。


(……けして許すものか)


よその花などに居座らせてやるつもりは毛頭もない。

銀の蜂は私の唯一なのだから。


団長は無意識だろうと権力を使っている。

彼にとって断れない命を下せる少ない人物だ。

だがそっちがそのつもりなら私にだって考えはある。


忘れてはならない、私は更に上を行くのだと。

王女の地位を存分に振る舞ってやろう。

私から一生離れられぬように。


計画の為に、私はその場を後にする。

自室に戻って考えるのは、偶然を装った必然。

策略を巡らせながら、私は薄い笑みを浮かべていた。


貴方は誰よりも愛しい幸福運ぶ銀の蜂。

そして私は棘を携える紅薔薇。

だから貴方を茨の奥に閉じ込めて、逃がさない。

外見はリーチェさん、でも中身は陛下そっくり。

好きな相手関連は容赦ないところまで受け継ぎました。

ここまでお付き合いいただきありがとうございました!

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