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退路は茨で塞がれた

『謳われぬ末姫』『騎士姫の初恋』『不器用陛下の両片思い』『賢姫が愛した庭師』

とリンクしておりますが、読んでなくてもおそらく大丈夫です。

心持ち下品なのでご注意ください。

ようやく王女様達の物語も終盤にさしかかってきましたね。

今度の舞台は第二王女様の恋となります。


彼女には幼い頃よりひたむきに想う方が。

そして彼もまた王女様に恋情を向けております。


ですが王女様は拒まれるのを恐れ、彼は自分の立場をわきまえ、

二人は互いの気持ちを言い出せないままでした。

そうこうしている間に二人はすっかり年頃になってしまい……

おや、どうやらそんな関係にも転機が訪れたようです。


ではでは、いつものよう始めるといたしましょう。

姫君と騎士の、ある夜のお話を。




俺、ロンは男爵家の次男坊というなんとも微妙な立場に生まれた。

顔は平凡、頭は悪く魔法も全く使えない。野心何それ美味しいの?

と貴族らしくない俺は剣の腕だけが取り柄だと断言できる。


そんな俺は早々に父から見限られ、

城の騎士団に放り込まれる事となった。

脳筋な自分と剣は非常に相性が良かったらしい。

ひたすら鍛錬にのめり込み、メキメキと剣技を成長させていった。


だが一つ問題。

さっきも言ったが俺は爵位が低い。

それを表すかの如く、顔も普通を絵に描いたような男だ。

なのにどんどん出世していくもんだから、

周りのお貴族様からは物凄く嫌がらせされたのである。


自分より劣っている奴が偉くなったら腹立つよな、うん。

目の上のこぶなのも理解できるさ。


でも鼻水垂らしてた頃から実力主義を見せつけられ、

すっかり雑草魂が身に付いていた俺は普段逆らえない代わり、

模擬試合でとことん憂さ晴らししていた。

泣き寝入りなんて性に合わん。


そんな完膚無きまでしめあげる姿を陛下に見初められ

13才の時、俺は第二王女様の護衛役に選ばれる事となった。




初めて彼女に会った時の感動は忘れない。

ラドゥガの紅薔薇姫とか言われてる位だからほのかに期待してたさ、

でも彼女の美しさは俺の理想より遙か上へ位置していたのだ。


ヴィアンクルージュ様、通称ビアンカ様。

年は俺と同じ。でも当時から彼女の美貌は冴え渡っていた。

腰まで伸びた真紅の髪、ぱっちりとした深緑の瞳、

肌も透き通るように白く、つやつやの唇は桜桃みたいで。

完璧という言葉は正に彼女の為にあるのだと思った。


ただ見た目通りのお姫様なら相手をできる自信がなかった。

でも彼女はそんな人形のような外見とは裏腹に、

やたら行動力があり、快活でさっぱりとした性格。

それでいて気遣いもできる、主にするには最高の人だった。


最初から意識していたが、あくまで主として仕えるつもりで。

でも姫はさっきも語った通り、美人で優しくて、しかも常時傍にいる。

となれば、なんとなく予想されていただろう。当然の事だ。


気付けばぞっこん。そしてさらっと失恋。

というのも彼女に好きな相手ができたのだ。

ただ幸いにもまだその恋は成就していないらしい。

お互い告白すらできず、

ずるずるとその関係が続いている訳である。




そんな不毛な片思い歴六年目に入った現在、

俺は崖っぷちにいた。

人払いしていたのが運の尽き。

おかげで誰もこの状況を止める者はいない。

しかも朝になるまで誰もやってこないのだから。


「あの、姫様……」


簡単に現状を説明しよう。

密室 in 倒れる俺 on the 姫。所謂馬乗りである。

逆だったら謝り倒して解決するが、

何分彼女が上であるから逃げるに逃げられない。


彼女は引くどころか、むしろ体重かけてくる。

だから尚更動けずにいた。

とはいっても姫は軽い。こんな悩ましげな体付きにも関わらずだ。

だから物理的な問題ではなく精神的な問題なんだろう。


(完全に目据わってんなあ……)


悠長な事言ってる場合じゃないが、

まさかここまで酒が弱いとは。

べっろべろじゃないか。早めに抜け出してきて良かった。

いや俺にとっちゃ全然よろしくない状態だけどな!

でも他の狼達に狙われて、あげく美味しく頂かれるよりかはマシだろう。


今日はちょっとした夜会が開かれていた。

王女である姫はもちろんの事、護衛の俺も参加していた。

普段彼女は軽く食事を摘むぐらいだというのに、

何故か今夜は酒をあおりにあおって。

案の定酩酊し始めたから慌てて彼女の部屋まで戻ってきた訳だ。


こんな姿を晒すのは屈辱だろうと、

俺だけで看病をしていたら、ふらーっと彼女が立ち上がって。

支えようとしたらこの体勢になってしまった訳である。


「……ロン」


すーっと彼女の綺麗な手が俺の頬を撫でる。

表面を滑っていくその感覚に背筋がざわついた。

傾いちゃいけない方向に気分が動いていく。


「さわって」


その台詞を聞いて、一瞬意識が飛んだ。

大変魅力的なお誘いだがそれ受けたら終わるよな。色んな意味で。

どうにか理性を保っているが体は正直だ。どことは言わん。

ただ反応し始めているのは事実である。


「私の体じゃいや?」


生唾を呑み込む。彼女の体は正に俺の理想。

ただでさえ元が扇情的だというのに、

今夜は纏った服装がいっそう拍車をかけていた。

大胆にも肩を露出させ、またそのたわわな胸を強調するドレス。


酒のせいか、ほんのり赤らむ肌。

それは鼻先にあるやわらかそうなソレも例外ではない。

見ちゃいけないとは思うが目が離せない。

ぶっちゃければ俺は巨乳派である。

だからその視界の攻撃は非常に効果覿面。


「姫、男にそんな事言っちゃいけませんって!」


野郎共の汗臭い裸体を思い出し、

どうにか気分を萎えさせてはいるもののいつまで持つか。

そんな最中に彼女は俺の手首を取った。


そして押しつけられるマシュマロのような感触。

むにゅ、とそのけしからん胸に俺の左手が埋まる。

瞬間、思考回路が一気に吹き飛んだ。




爽やかな朝だ、だからこのまま死にたい。

朝起きたら姫に腕枕してました、すっぽんぽんで。

否定しようにも妙に体がすっきりしているとか以前に、

そもそも酔っていないから鮮明に覚えてる。


取り返しの付かない事をしてしまったと悔やむ俺に対し、

穏やかに眠る彼女がすりすりと身を寄せてきた。

甘えるような仕草が大変可愛らしい。

が、吸い付くような素肌に昨日の記憶が甦って居たたまれない。


「……おはよう」


自責の念にかられていれば目覚めた彼女が俺に声を掛ける。

ぶわっと脂汗が吹き出た。

硬直する俺に彼女は軽蔑の目で見る事も罵る訳でもなく。

無邪気にふにゃりと笑う。加速する罪悪感。


「……ロン?」


シーツを纏った彼女が心配そうに俺の顔を覗き込む。

過ちの後だというのにその瞳はあまりに綺麗で。

ぐちゃりと顔が歪む。いびな笑みを浮かべ、


「ちょっと切腹してきます」

「どうしてそうなるの」


半泣きで訴えたらつかさずツッコミが入った。




裸のままはまずいという事で互い服を着込む。

姫は寝台の上に座り、俺は床へ直に正座。

そんな俺を姫は不思議そうに見つめる。


「……そんな所じゃ足痛いでしょう?」


いらっしゃい、そうぽんぽんと隣を叩く彼女。

なんでこの方はこんなに優しいんだろう。

俺は自分をむさぼり食ったケダモノだというのに。


「俺には隣に座る資格なんてありません……」

「誰が決めたの、そんな事」

「それは」

「貴方の主は誰?」

「……ヴィアンクルージュ様です」

「じゃあ私に逆らっちゃだめよ」


にっこり、姫は華やかな微笑みを携えながら正論を述べる。

宥めるようなそれは実は命令なのだと気付き、

遠慮がちに彼女の隣に腰掛けさせてもらった。

そんな俺を見て、何故か彼女は苦笑い。


「昨夜何があったか、覚えてる?

 ロンが言った事も」


忘れようにも忘れられる訳がない。

姫に意中の相手がいる事を知っていながら、

好き勝手にその柔肌を蹂躙した挙げ句、

身勝手な告白を重ねて。ああホント誰か俺を殺してください。


「正直に答えて、ロンは私が好きなのね」

「……はい」

「じゃあ、どうして」


真摯な眼差しに、ごまかしは利くまいと正直に話した。

それに彼女は疑問を続ける。


ならば何故無理矢理犯したのか。

そう責められるつもりでいたのに、

彼女が発したのは全く違う質問だった。


「私の知らない誰かと結婚しようとしてるの?」


俯きながら彼女がぽつりと呟く。

団長から勧められただけでまだ決まった訳じゃない。

でもその話は内密だったというのに、何故彼女がそれを知っているのか。

そして何故こんな事を彼女が気にする?


「だめよ、」

「姫……?」


いくら剣を磨いても、心までは強くなれなかった。

弱虫の俺はこの不実の恋をすっぱり諦めたくて。

けれど、それには何かきっかけが必要だった。


彼女への想いを断ち切るのに十分な理由。

それをどうするべきか、

悩みに悩んでいた時に降って湧いたお見合い話。

最低の考えだとは思ったが利用すべきだと。

きっと結婚という鎖は俺を騎士の座に縛り付けてくれる。


だから昨日の時点での明日、よって今日、その話に乗るつもりでいた。

このような状況に至った以上はそういうわけにもいかないが。


「誓ったじゃない、私の事、ずっと守るって。

 なら私より大切な人を作らないで」


確かに彼女が語る事は正しい。

でも俺じゃなくとも、いや俺よりももっと、

素晴らしくて姫を守ってくれる人はたくさんいる。

だったら俺のちっぽけな約束など忘れたらいい。

わざわざ固執する必要なんかないんだ。


「破るなんて許さない」


荒げた声ではない。でも彼女の一言は強く響く。

ぽたり、ぽたり、と瞳いっぱいに溜めた滴を落としながら、

縋るような目で俺を見た。

あの、気丈な姫が泣いている。その事に俺は動揺するばかり。


「……勘違いしないで、私は誰でも良かった訳じゃない」

「ひ、め?」

「ロン以外なら迷わず叫ぶわ。

 助けてロンって、そしたらロンは絶対に救ってくれるでしょ?」


確認されるまでもない。

俺は彼女が求める限り彼女を守り続ける。

でもその護衛に襲われたならどうだ。

そんな気持ちが顔に出ていたらしい、彼女はふっと笑って。

俺の頬に手を伸ばす。跡は残っていたが、彼女の涙はもはや乾いていた。


「私は一国の姫よ?味方はロンだけじゃない。

 いつだって貴方を切り捨てる人を呼べるの」


強かに俺に真実を教えこむ彼女。

頬に触れていた手が唇をなぞって。

それから啄むように口付ける。

反応をする間もなく行われ、俺は間抜け面で再び固まった。


「でも私もロンと同じ気持ちだから」


彼女が俺を罰しない理由を語る。

とびっきりの笑顔で。とてもあどけない顔だった。

いつも見せる妖婉なそれではなく、

まるでいたずらを仕掛けた子供のように。

無邪気と表すべきなのにどこか黒いものを感じるのはどうしてだろう。


心を囚われ、身も捕られ。

もしかして犯したつもりでいた俺こそが、

逆に奪われていたのかもしれない。


白いドレスを纏った彼女の隣で、

ウェディングベルを背景に、

そう気付いた時には何もかも遅すぎた。

権力者が執着すると怖いのです。

もう一話は薔薇と言うより女王蜂ビアンカ様視点。

お付き合い下さりありがとうございました!

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