今日も少しずつ
深夜二時、時計の針が刻む規則的な音だけが、静まり返った自室に響いていた。 カーテンの隙間から差し込む街灯の薄かりの中に、自分の影が長く伸びている。卓上に置かれた冷めたお茶を一口含み、深く息を吐き出すと、胸の奥に澱んでいた記憶の欠片が、堰を切ったように溢れ出してきた。
振り返れば、自分の歩んできた時間は、後悔と愚かさの足跡で埋め尽くされている。
かつて、自分の目の前でなりふり構わず汗を流し、泥臭く何かに打ち込んでいた誰かがいた。その姿を見たとき、自分は素直に称賛するどころか、「そんなに必死になって格好悪い」と斜にかまえて鼻で笑ったのだ。熱狂することを冷笑し、冷めた態度を取ることで、自分がどこか高い場所にいるかのように錯覚していた。だが実のところ、自分は傷つくのが恐ろしくて、何ひとつ真剣に努力してこなかっただけだった。本気を出して失敗し、自分の限界を知るのが怖かったのだ。 だから、本当に大切な、人生を左右するような局面に立ったときほど、あらかじめ自分に言い訳を作るために手を抜いた。「本気を出さなかっただけだ」と思いたいがために、一番最後の最後、踏み止まるべき瞬間であっさりと諦めて逃げ出した。
そうやって努力から逃げ回りながら、そのくせ自分を善く見せたいという虚栄心だけは肥大化させていった。 体や心が限界を迎え、弱っているときほど、頑なに無理を重ねてみせた。ボロボロになりながらも平気な顔をし、周囲からの助けを拒んで強がることこそが「偉い」ことなのだと痛烈に勘違いしていた。それは強さなどではなく、ただの愚かな頑固さであり、自傷行為に過ぎなかったのに。 自分がそんな虚構の鎧を纏っていたからこそ、誰かの弱さや脆さを目の当たりにしたとき、それを受け入れる寛容さを持てなかった。「なぜ自分と同じように耐えられないのか」と他者を攻撃し、誰もが自分と同じ強さや冷たさ、あるいは同じ歪んだ忍耐力を持っているはずだと決めつけ、勝手に期待しては勝手に失望した。
泣きたいほど苦しく、情けない夜があっても、涙を流すことすら「負け」だと感じて必死に我慢した。そうやって己の悲鳴に耳を塞ぎ、自分の心をじわじわといじめ続けていたのは、他の誰でもない自分自身だった。 そうした自分への暴力は、やがて周囲へと溢れ出していった。自分を心から心配し、寄り添おうとしてくれた身近な人を、無神経な言葉や冷淡な態度で悲しませた。自分にとってかけがえのない大切な人を、自分の都合で容赦なく傷つけた。
自分の内側にある感情の扱い方も、驚くほど拙かった。 嫌いなものや理解できないものを容赦なく突っぱねて排除する一方で、心から好きなものや大切にしたいものを「好きだ」と素直に口にするのが恥ずかしく、曖昧にごまかし続けた。その場の空気を壊さないためだけに、心にもない愛想笑いを周囲に合わせて振りまき、そのくせ自らの行動や選択は、好きか嫌いかという極めて個人的で浅はかな感情だけで決定していた。
「群れている奴らは弱い」 そんな言葉を吐き捨て、自分は一匹狼気取りで孤独を選んだ気になっていた。だがそれは、人との関わりの中で生まれる摩擦や傷つきから逃げるための、ただの臆病な逃避に過ぎなかった。自分を本気で好いてくれ、大切にしてくれた人の存在を大事に扱うこともせず、逆に相手の発した何でもない言葉や態度の中から、悪意や不快感ばかりを異常な精度で拾い集めては、「世間は自分に冷たい」と被害者ぶって閉じこもっていた。
生きることのすべてを、頭の理屈だけで割り切ろうとしていた。 「なぜ生きるのか」「これに何の意味があるのか」と、あらゆる出来事にいちいち理由をつけたがり、胸の奥で確かに蠢いていた自分の素直な感情を、論理という冷たい言葉で押し潰した。誰かが温かい手を差し伸べてくれたときすら、「自分にはそんな手を受ける資格はない」とか「どうせ裏があるのだろう」と斜めに見つめ、その差し出された手を強く振り払ってしまった。
ごめんなさい、と言わなければならない局面では、くだらない自尊心が邪魔をして言葉を喉の奥に飲み込んだ。その一方で、本気で謝罪する気もないどうでもいい場面では、その場を事無きを得るために「ごめんなさい」を軽々しく連発した。 「ありがとう」という感謝の言葉はめったに口にしないくせに、自分が誰かに何かをしてやったときには、相手からの感謝を当然のように期待した。感謝されないと勝手に不満を募らせ、不機嫌を撒き散らした。
自分に注がれていた周囲の無償の愛や好意を自覚しようともせず、与えられていた日常の穏やかさや、自分という存在が受けていた「特別」を当たり前だと思い込んで貪っていた。 そのくせ、自らの器の大きさを弁えず、一人では抱えきれるはずもないほど巨大な課題や責任を背負おうとして、案の定押し潰された。そして、潰れた拍子に「なぜ自分は生まれてきてしまったのだろう」と、暗い部屋で自らの生そのものを後悔し、世界を呪った。
頭を抱え、深く息を吐き出す。 卓上の電球が静かに部屋を照らしている。部屋には誰もいない。自分の愚かさを責める他者もいなければ、その背中を優しく撫でてくれる救い手もいない。 ただ、自分が犯してきた数々の過ちと、傷つけてきた人々の面影と、歪めてしまった自分自身の心が、静寂の中に横たわっているだけだった。
「……全部、自分がやったことだ」
ぽつりと漏れた声は、あまりにも小さく、掠れていた。 人の努力を笑ったのも、努力しなかったのも、大切なときに手を抜き、最後で諦めたのも。 泣きたいのに我慢し、自分の心をいじめ、大切な人を傷つけ、差し出された手を振り払ったのも。 すべて、自分自身が選び、行ってきたことなのだ。他人のせいでも、世界のせいでもない。
そう自覚した瞬間、胸の奥から熱いものがこみ上げてきた。 ずっと我慢していた涙が、抑えきれずに目尻から溢れ出し、頬を伝って落ちた。ポタポタと畳を濡らす音だけが響く。 それは、傷つけてしまった人々への申し訳なさであり、差し出されていた温かな手に気づけなかったことへの悔恨であり、そして何より、長年自分自身の手で傷つけ、いじめ続けてきた自分の心に対する、遅すぎた涙だった。
膝の上に置いた両手を強く握りしめる。指先が震えていた。 自分は、どれほど多くのものを無駄にし、どれほど多くの温もりを捨ててきたのだろう。 過去に戻ってやり直すことはできない。去っていった人々が戻ってくるわけでもないし、踏みにじってしまった自分の過去が消えてなくなるわけでもない。
涙を拭い、顔を上げた。 暗闇の中で、深く息を吸い込む。冷たい空気が肺を満たし、痛むほどに自分の存在を実感させる。
言えなかった言葉たちが、胸の底から湧き上がってくる。 振り払ってしまった数々の手へ。傷つけてしまった大切な人々へ。そして、過ちを重ねながらも今日まで生きてきてしまった自分自身へ。
「ごめんなさい」
声に出して言った。それはもう、その場をやり過ごすための軽薄な言い訳ではなく、胸の奥底から絞り出された本物の言葉だった。 そして、愚かな自分を見捨てず、当たり前のようにそこにあってくれた時間や、かつて注がれていた目に見えぬ愛に対して。
「ありがとう」
誰も聞いていない部屋の中で、言葉は静かに空気に溶けていった。 完璧な人間になることなんてできない。明日になれば、また人の悪意を拾いそうになるかもしれないし、理由をつけて素直になれない自分に嫌気が差すかもしれない。抱えきれない重荷を背負おうとして転ぶことだってあるだろう。
けれど、少なくとも今日の自分は、自分の愚かさを誤魔化さずに直視することができた。我慢せずに涙を流し、素直に言葉を吐き出すことができた。
ふと見ると、東の窓の向こう、濃紺だった夜空の端がかすかに白み始めていた。街のシルエットが少しずつ輪郭を取り戻し、新しい一日の始まりを告げている。
過ちを消すことはできないけれど、その過ちを背負って歩いていくことはできる。 過去の後悔をすべて抱えたまま、この愚かで、矮小で、けれど愛おしい自分とともに、一歩ずつ進んでいけばいい。
深く息を吸い込み、立ち上がった。 窓枠に手をかけ、少しだけ窓を開ける。吹き込んできた朝の冷たい風が、涙の痕を優しく撫でていった。
「……ああ、今日も少しずつ生きていこう」
呟いた声は、もう震えていなかった。 新しい光の中へ、自分は静かに足を踏み出した。
ただのポエム。勉強キツすぎて書いた。受験生つら。これなら稽古してたい。
小5か6くらいの中二病真っ盛りの自分を少し脚色して書いた。今もあるけどこの時期が一番やばかった。
マジ勉強したくねぇ。大会結構いいとこまで行ったから推薦来てるけど成績落としすぎるわけにもいかんし。マジ勉強したくねぇ。マジなんなんだよy=ax²の利用って...頭こんがらがるんだよもぉぉぉ!!社会と国語は余裕なのにさぁ〜。マジめんどい。




