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天才女優の亡霊〜ある学園で起きた怪異  作者: 浅川
第四章「幻の公演」

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「本番五分前でーす。皆んなそれぞれの持ち場についているね」



 キャスト部門担当の天野先生が舞台裏、袖でスタンバイしている生徒にそう小声で告げる。



 まだガヤガヤと観客がリラックスしているようでざわついている。



 袖にいる生徒は緊張で張り裂けそうなのに。この対比も演劇の本番直前ならではだ。



 幕がまだ下ろされている舞台上にいる安西さんは……精神統一しているのか目と閉じて深呼吸している。



 さて……僕はパネルの裏側へ行くとするか。そこにはさらに黒幕が垂らされていて……その裏へ……。



 酔っ払いのように倒れている藤井さん。



「……藤井さん、()()()()()()ですよ、起きてください」



 稽古も終盤になると下見やリハーサルで体育館でも稽古をするようになったのだが、藤井さんはそこでは全く姿を現さなかったのは四次元にいる実体とクロスオーバーでもしようとしていたからなのか?



 名探偵斉田の前ではこれは居場所を当てる大ヒントになるんですよ。



「ほら、これに着替えてください。サイズは合っています。ラストの衣装はそれでも大丈夫でしょう」


「どう、して……」


「どうして? これは安西さんと藤井さんの舞台だからです。()()()()()()()()()()の共演。こんな舞台は演劇ファンなら垂涎すいぜんものですよ」


「……ラバーズ、マジシャン……タロットカードか。じゃあ斉田君は?」


「僕はどうやら()()です。個人的には零の方がお似合いなんじゃないかと思いますけど。この舞台の()()()()()ためにいます」


「八番……ふふふっ。うまいね」


「ほら、時間がないです。……彼女はどう見えますか?」



 パネルとパネルの間から見える彼女はきっと……。



「……うっ、うっ」


「泣くのはまだ早いです。ようやく幕が上がります。幻になってしまった公演の幕が」


「ここまで、長かった」



 この声は? 僕じゃなかった。



「……一人寂しく無観客の体育館でたんぽぽ娘を暗唱していて、どうでしたか? 今日は何もかもが揃っていますよ」



 コク、コクと頷く藤井さん。



「僕はこの公演が終わったら……死んでもいい……。本物の俳優ってね、一生に一度だけ、運命的な舞台に立つためだけに演劇をやっているんだよ」



 客電が落ちて舞台照明も暗転。見通しが悪くなり随所に貼られている蓄光テープが頼りになる。



 これで役者は出揃った。演出家の僕は制服に着替えて客として観劇といきますか。

 

 演出家からのお達し——



 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



 これは口酸っぱく九月の稽古から言ってきたこと。



 相川さんのメンタルならやってくれると思う。



 ピンスポットが当たった天野先生がステージ下でマイクを持って一年生の出し物について話し始めている。



 そして……。



 軽快な音楽が鳴る。安西さんは板付きである。どん帳が上がる。



 センターに立つ白衣を着た安西さんが照らされる。

 


()()』が歓喜をする……。



 ……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



 未来とは、この公演の映像ってこと。



 できるわけがなかった。



 約三十年前に短編集『クロノス・ジョウンターの伝説』に収録されている『鈴谷樹里の軌跡』を原作とした台本で舞台を上演することなど。



 ウィキペディアの年表によるとこの短編『鈴谷樹里の軌跡』が執筆されて刊行されたのが1999年。



 そこからどんなに早く劇作家がその原作を読んで舞台用台本にしたいと思ったって数年はかかるだろう。2000年代に突入してしまっている。



 三十年前というのがおおよそだったとしてもこれは誤差なんてものじゃない。



 じゃあ、あの映像は何なんだ?



 画質は粗く初見では過去の映像という先入観もあり、あの生徒が相川さんなんて気が付けるわけがなかったな。



 だが、この日のために舞台の全貌がどんどん浮かび上がってくると合致するものがたくさんあった。



 相川さん、安西さんの衣装、冒頭の演技、使用されるBGM……これはパソコンで作曲できる生徒のオリジナルなので過去と被るなんてことはない。



 それに最前列の真ん中、特等席でビデオカメラを持っている天野先生。そんな特等席を教師に座らせる、そこまでしてこの公演を創設者さんの水本敏子さんは記録したかったみたいだ。



 そこに藤井さんが舞台に立っているということは……ひー兄ちゃんこと青木比呂志は僕が演じるのではなく、藤井さんが演じることになると未来は告げる。



 頑なに自分の居場所を教えてくれなかったのにどうして? 本番前までに僕が説得できる気はしなかった。



 あとは……もう僕が寝込みを襲うように引っ張り出すしかない。それができるということは僕でも藤井さんの隠れ家を突き止めることができるんだ。



 僕は家と学校の間しか往復していない……学校のどこかに藤井さんが居るとなるわけだ。



 ……三十年前、本当なら何を上演するつもりだったんだろう。



 藤井さんの記憶が辻褄が合うように改竄かいざんされていた。



 そこまでして藤井さんは今日の舞台に立たねばならなかったんだ。



 これも……()()()()の仕業か?



 原案の台本だと一時間ちょっとで終演するのだが、安西さんはことがあまりにもスムーズに進みすぎていて登場人物の大半は大人なのに人間のけがれみたいなものは一切、露わになっていない。



 これでは児童向けの作品みたいな作風にいまいちリアリティがないと難色を示して、客層が主に高校生ならもっと大人向けでもいいだろうと要所要所に波乱を追加したので上演時間が一時間四十分に伸びた。



 これでも頑張って削った方らしく、学校の文化祭でなければ二時間くらいにしたかったらしい。



 ……保坂さんだったらどうしていたんだろうな。



 ハハッと客席から笑いが起きる。さすが川村。



 川村、お前も()()()()()()()()()()()()()()かもしれないな。



 藤井さんという闖入者ちんにゅうしゃに動じることなくよく稽古通りに演じてくれている。



 まだ始まったばかりだけど、終わっちゃうのか……どこか穴が空いた気分とかこのことか。



 この出演者、今日のお客さんとの舞台はこれっきりだ。二度目はない。



 舞台とは一期一会、儚いものだ。




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