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天才女優の亡霊〜ある学園で起きた怪異  作者: 浅川
第三章「Re: 乃戯高学園の怪談」

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 演劇部とは文化部なのか?



 その問いに僕はノーであると本日、結論を出したいと思う。



 六月の中旬に体育祭がある。今日がその日だった。



 うちの学校は校庭ではなく近場の競技場をレンタルして行うらしく、そこまで貸し切りバスで移動した。



 幸いにもその日の気温は下がり二十五度を下回っていたので運動をするには快適な一日であった。



 その競技の一つにクラス対抗リレーのみならず、部活対抗リレーというものがある。体育祭で目玉となる競技でもある。



 運動部は運動部で、文化部は文化部だけで競争をする。



 クラス対抗リレーと同様に運動部は男女でも別になるが、文化部は人数不足もあり男女混合でやる。



 そうなると体力のある男子が多い部活が有利になるのでは? と一般的には思われるだろうが、運動神経抜群の男子が文化部に所属していることは基本ない。



 なんなら壊滅的な運動音痴で、女子より運動神経が劣っている男子だっている。



 この競技のメインは運動部による争いなので、前座である文化部のリレー競走は公平でなくても良いということなんだろうな。



 我が演劇部は文化部のカテゴリになるわけだが、先月に出来たばかりの部活で人数も必要最低人数である五人とギリギリで、部員も一年生だけ。



 二年生、三年生の部員もいて人材が豊富な部活には勝てるわけがないと下馬評は下位であった。



 それでも最弱とされていたのは鉄道研究部か美術部であるらしいので最下位ではない。



 毎年、文化部で優勝争いをしているのは吹奏楽部、和太鼓部でそこに軽音部がたまに脅かす、とこの三つの部活が部活対抗リレーの三強とされている。



 なぜこの三つの部活が強いのか?



 吹奏楽部、和太鼓部、軽音部に共通しているのは楽器を演奏すること。楽器を演奏するとはそれなりに汗をかき、体力がいる動作だ。特にドラム、和太鼓なんてそうだろう。



 吹奏楽部と和太鼓部は練習メニューに筋トレとランニングがあるので文化部の中では身体は日頃から鍛えられている。



 軽音部は筋トレなどはしていないものの、なぜか何のスポーツもやってこなかったのに五十メートルを六、七秒台で走る俊足の男子が卒業して部員が入れ替わっても二、三人は所属しているので上位に食い込めている。



 どの学校行事もそうだが参加することに意義があるもの。そんな勝ち負けなんてどうでもいい……とはならなかった。



「演劇部を舐めるなー優勝するぞー!」



 演劇部の下馬評が低いことで闘争心に火がついてしまったらしい安西……いや保坂部長。



 演劇部の練習メニューに視聴覚室前の廊下での走り込み、校外ランニングが追加された……。



 その走り込みも数分間それなりに速く走って一分間休憩、また走るこれを繰り返す……と陸いわくサッカー部でもそのトレーニングが採用されていたそうなので運動部仕込(じこ)みのトレーニング法であった。



 しかも、五人が短距離を走ってみて悪くない人材が揃っていることが判明してしまった。



 保坂さんは休日は河川敷でランニング、ジム通いをする人であったので走ることはお手のものであった。その足は単に細いだけでなく鍛えられていたのだ。



 陸は元サッカー部。足は遅かったと言うがそれはサッカー選手の基準では遅いだけであって、並以上の速さは備わっていた。



 川村と相川さんは……なぜだがスポーツもしてこなかったのに足がそれなりに速かった……ここにもいたか、なぜか足の速い人材が……。小柄で体重が軽いのが功を奏しているのかもしれないとのこと。



 僕は……運動神経は悪くないが足は遅い。僕だけが不安材料であった……。くそっ。



 だが、僕さえ足が速くなればもしかして優勝を狙えるのでは? という流れになってしまい……。



 リレーだから個人競技ではなく団体戦である。



 バトンの受け渡しの重要性も承知している保坂さんは、そこに勝機があるのではとどんどん練習することが増えていく。



 かくして体育祭まで演劇部は陸上部へとなってしまったのだ。



 それで迎えた体育祭当日。



 結果はというと……なんと優勝してしまったのだ……!



 あいつら陸上部じゃなかったのかよ! という批判もあったくらいここにリソースを注いでしてしまったので当然と言えば当然なのか……?



 いや、そこには演劇部ならではの秘策もちゃんとあった。



 それがプラセボ効果——



 飲んでも症状を改善する効果のない偽薬を飲まされたにも関わらず回復したと思い込んでしまうという意味がある。



 そう、この思い込む。



 これは演技をする上でも大事なことである。



 私はこの人のことが好き、僕はこの人のことが憎い、と嘘の感情を抱いて演技をすることもあるだろう。



 この感覚を応用して保坂さんは僕に「自分は走るのが速いと思い込んで!」と助言を頂く。



 ただ思い込むだけでなく頭の中で走るのが速い自分をイメージする、足が速くなった自分になりきれ! と背中を叩かれた。



 つまりは僕の足を体育祭当日までに物理的に速くするのは諦められたということでもあるのだが。



 だが、これが侮れなかった。



 人間の思い込みを侮るな! という藤井さんの言葉が反芻される。



 僕は二番目の走者であったのだが、スタンバイしてから何度も自分は足が速い、足が速いと念じた。正確には足の速い役になったつもりだったのかもしれない。



 それでゾーンにでもダイブしたのか。周りの声援などが消音されて、辺りは荒野にでもなったかのようであった。



 そこに一番ランナーの相川さん。



 僕にバトンを渡す直前、相川さんの顔はなんとも辛そうであった……僕を少しでも楽に走らせるためにこれまでにないくらい必死で走ってくれたのであろう。



 その想いが彼女の全身にも表れていた。



 相川さんはなんとか暫定一位で僕にバトンを……この想い、無駄にするわけにはいかないと僕はバトンを持つとポッポーと汽笛を鳴らして蒸気機関車のように走り抜けた……。



 陸は裕矢君が蒸気機関車ではなく壊れた制御不能ロボットが果てるまで全エネルギーを放出しているように迫って来たように見えたので、涙顔でバトンを受け取りその踊り狂うロボットから逃げるように走ったらしい。



 それぞれが捨て身のような全力疾走をしたので、ここでもう大きな差が開いていた。



 もはや大差で陸からバトンを受け取った川村は飄々(ひょうひょう)と走る。



 こういう場でもいつもの川村なのは心強かったが「誠、ヘラヘラするな!」と競技場全体に轟く声で保坂さんより一喝をくらったので川村も隙を無くし、無我夢中で走ることになる。



 ボイストレーニングでもすれば、あんなばかでかい声が出せるものなのか……あの声量はヤクザの恫喝にも等しかったので、対戦相手をひるませることにも成功していた。



「お前、ちゃんとバトン渡せよな」


「いや、なんかにぶつかったみたいで……あれは私のせいじゃないって!」



 ……すまない。



 これだけ圧倒するなら()()をかけるまでもなかったか。



 ここまで出番なしの藤井さんだが前年度、優勝をした和太鼓部のレーンに立ってもらい……和太鼓部のバトン渡しを失敗させられないか試みたのだ。



 相川さんによると第一走者がバトンを渡そうとすると、バトンが跳ねたみたいに真上へ浮かび走者の真後ろへ落ちてしまったとのこと。



 この致命的なタイムロスで和太鼓部は優勝戦線から脱落した。



 レース外からの攻撃という高等戦術もあり、優勝を殆ど手中におさめるもアンカーの保坂さんは綺麗なホームで容赦なくぶっち切ってダブルスコアのような勝利となった……。



 その優勝の瞬間、僕と相川さんは思わず抱き合っていた……。



 あれ、異性とこんな密着したことってあったけ? 相川さんも平気なの……。



 優勝商品としてコンポタージュ味のうまい棒が三ロット分、贈呈されるのだがこの演劇部の優勝はただの自己満足だけには留まらなかった。



 この下馬評を覆し、先輩部員のいる部活を相手しても大勝した優勝劇に僕達、演劇部は一学年では英雄視された。



 これで文化祭の演劇発表であの五人が舞台で演技するところを見てみたい、さらに共演してみたいかも……と気持ちが湧いた生徒も何人かいてくれた。



 保坂部長はこれを狙って部活対抗リレーの優勝をもぎ取りに行ったのか。さすがの戦略家であった。



 これが保坂さんと安西さん、どっちの性格によるものなのかどうかは判然としないけど……。



 ともあれ文化祭への期待を膨らませ、一学年を団結させることができたのである。今日はなんて爽快な日だったんだろう。



 藤井さんって足は早いのですか?



 帰りのバスにて。



「五十メートルの最高記録は五秒九と一度だけ五秒台を出したことあるよ。

 演劇って芸術分野ではあるけど、運動神経が良くないとできないと思うけどね。歌やダンスに、アクションや殺陣もできないといけないし。学校では演劇部を文化部にしてしまうのはどうなのかなーって思っている」



 この風来坊な芸術家も五十メートルを五、六秒台で走れるのか……俳優ってすごいな。




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