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天才女優の亡霊〜ある学園で起きた怪異  作者: 浅川
第三章「Re: 乃戯高学園の怪談」

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 カチャとドアノブが回った音。



 慎重そうにドアを押して、ひょっこりと隙間から覗いてきた人がいる。



 安西さんだ。こちらも、可愛いなまったく。



 そうか。ここまでしてくれるのか。恋焦がれる乙女は。



 それで、こんな露骨な求愛をしてあとはこっちから告白してくれることを期待するってか。



「斉田君……なにしているの?」



 安西さんは僕に用はない。

 藤井さん、あとは任せました。



 僕が藤井さんになって警戒心がほどけたみたいだ。



「あ……。ご、ごめん、安西さん……僕が情けないばかりに……」



 突如として号泣する藤井さん。両膝を着いてしまった。



 これは何か、二人だけの秘密があるのか。



「どうしたの、藤井君。いきなり、そんな謝ってきて。泣かないでよ」


「僕があの日、勇気を持って抱きしめてあげていれば、安西さんは一人で帰宅することなく、事故死なんてしなかった……僕が……」


「あれは……私も、はしたなかったというか……順番があるよね、こういうのって。それより事故死ってどういうこと?」



 安西さんは自分が一度は亡くなっているとは自覚していないのか——




 ……なんだこの、湯気のような白い煙は……充満していく。



 そこで突如、首を絞められたようだ。



 何者かが強迫している?



 煙は砂嵐のように荒れ始めた。



 稲妻のような激しい点滅、ベールを被った何か。



 こいつは死神か何かか?



 あっ、これはまずい。殺される。



 助けて、助けてと言いながら僕はもう直視できずにいた。



 僕はこの砂嵐が過ぎ去るのをじっと待っていた。

 穴に隠れるように



 わかりました、わかりました。もうしません。



 このままそっとしてやり過ごします。だって僕だって嬉しいかったから……。




 なんとかならないのか——?


 そう、なんとならないのか、とは彼女を生き返らせることはできないのか? ってことだ。



 僕はそれを血眼になって追い求めた、海を渡る冒険家のように。



 それができる秘宝があろうものなら、僕は肌を切って血を流すことすら厭わなかったさ。



 それを、実行してくれた人がもういたみたいだった。



 その人に警告を受けた。



 侵すなと——



 煙が晴れる。



 安西さんの愛しい顔が僕の眼前に——



 えっ、これって……キ、キスってやつですか……。



 ……その行為には何の迷いもないようだった。



 僕なんかでいいの?



 あっ、そっか。違うわ。



 安西さんのキスは藤井さんに捧げられたものだ。



 四つん這いなんかさせて……藤井さんの方からやってあげればいいのに。

 藤井さんは草食系だったか。



 うん? 後退りしてしまったのは僕の意志なのか……。

 この感触は僕のもの……?



 これはちぎりの接吻くちづけらしい。

 お互い仲良くやろうという。



 何が契りの接吻だ。これは口封じのキスだろう。



 ……そう強がっていられるのも長くはなかった。



 過去を侵さない引き換えに、天才女優の接吻……。



 契約は成立だ。



「……保坂さん……あの、写真撮らない?」



 僕と保坂さんが付き合うにはどうすればいいのか?



 初手に配られた五枚のカードだけで、スペードのロイヤルストレートフラッシュを揃えることが条件だ。



 その初手にきた手札は交換すら許されない。



 正攻法ではとてもではないが不可能だろう。



 だけど、僕はそれをやってのけてしまったんだ! はっはは。



 証拠を見せてみろって?



 ふふ。……はい、これが証拠だ!



 なんと、全部がジョーカー!



 山札やまふだに五枚もジョーカーがあるなんてイカサマも甚だしいって?



 だってしょうがないじゃん、()()()()()()()()()()()()()()()()んだから。



 だが、五十二枚のカードに五枚のジョーカーがあったとしても……その全五枚が僕に配られる確率もまぁまぁ低い。



 ……もしかしてこの山札は全部がジョーカーだったのかもねー。



 最強の山札だ。製造過程でそんな欠陥品が忍びこんでしまったのかなー。



 チンパンジーが出鱈目にタイプライターを打ったとしてもいつかハムレットの一節を書き上げる確率だって理論上ゼロじゃないんだ。



 山札が全てジョーカーであったトランプがあったっていいじゃない。



 ()()()……五枚のジョーカー。



 なんて背徳な役だ。



 ここまでしないと不可能を可能にするなんて事はできないってことか……くそ。



 鏡を見ればどこからどう見ても僕と保坂さんが頬を寄せ合っている。



 その鏡に向かって写真を一枚……僕の左手、五本指が彼女のお腹に優しく食い込ませても嫌な顔ひとつしやしない。



 それどころか、その手の甲に彼女の手を重ねてくれる……。



 ピースをしながら、はにかんでいるようだ。いつもの勝ち気な保坂さんはどこにもいない。



 これは……これは幻なんかじゃない。真実だ。



 なのに、なのに、なんで()()()()()()()()()()()()()()()()()……。



 記録しつづけるしかない……僕達の愛の営みを。



 幻に侵されないように……!




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