表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天才女優の亡霊〜ある学園で起きた怪異  作者: 浅川
第二章②「もう一人の幽霊?」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/44

19

 ピンポーン。それが起床するスイッチだったのか。



「おはよう。よかった。斉田君が僕を見つけ出してくれたように、斉田君にも見つけてくれる人がいて」



 達観したような藤井さんが天井になっていた。



 ……今は何時ですか? いえ、いつですか。あれからどれだけ時が経ったのですか?



「午前十一時。……幸運にも十五時間ほどしか経っていない」



 またチャイムが鳴る。ということは今日は土曜日だ。



「訪問者は宅配の人かい?」


「家事代行サービスの人です。週に一回か二回ほど来てもらっているのです」


「家事の代行……そんなサービスがあるのか。斉田君みたいな一人暮らしがこの時代は多いってこと?」


「まぁ、そんなもんです。母親が家事をして父親は仕事、子供は学校へ、そんな家族像もスタンダードではなくなっているのです」



 起き上がった、はず。



 怪我をしているわけではないのに片足を擦りながらドアへ。



 こうして体を動かしていること自体がぎこちなくてしょうがない。



 まるで何年も意識不明だったみたいだ。痛っ……くるぶしの皮が剥けていて出血していた。



「僕が不用意なことをしてしまったばかりに……斉田君もあわや僕のようになりかけていたのかもしれない。この家事代行の人が訪れなかったら斉田君は……一年でも眠ったままであったろう」



 ここまで無遅刻無欠席の僕が一日でも無断欠席すれば学校の先生が電話をかけてきてくれるはずですので、一年はないと思います。



 僕はまだ社会的には死んでいません。



「すみません、遅くなって……」



 家事代行の岩田さんには今日は日用品などの買い物だけにしてもらった。



 いつも通りの買い物だと一時間くらいで終わってしまうので、スーパーを何度か往復してもらい賞味期限の長い食料、飲料など大量の買い溜めをお願いすることで最低利用時間を稼いだ。



「斉田君、なんか顔色が真っ青だよ。幽霊みたい。病院行った方がいいんじゃないの?」


「そうですね。考えておきます」



 幽霊みたいか。地に足がついている気がしないし、そうなのかも。



「近所のおばさんみたいな人だったね」



 まさにそうです。近所のおばさんが個人でやっているので。



「個人でも広告収入得られたり、ビジネスをやっていたりこの時代の人は自立しているね。ところで調子は?」

 眩暈がします。あれで僕の魂はどこかへ吹き飛ばされたのですかね。それでとろい泳ぎでまたこちらへ戻ろうとしている……。


「斉田君はあれで……四次元を生きる人類では不眠不休で稼働できるなら二年かけてやっと吸収できる量のあらゆる情報をたったの二秒でもろにくらってしまった。

 次元が多くなればなるほどそれだけ一度にくる情報量も膨大になるんだよ。斉田君の脳はそれで律儀に順を追って処理をしようとしている。魂というか意識とやらは二年後へ先に行ってしまわれて、その情報を拾っていきながら徐々に回復していくのかもね」



 二年分(不眠不休という注釈付き)の情報量を二秒で……。



 この症状は二年は治らないってことですか?



「いいや、人間の順応力は一級品だ。この体験は数ヶ月もすれば斉田君は脳の基本能力が底上げされてスーパーヒューマンになっているだろう。モチベーションが低くても常人なら敵わないくらいのパフォーマンスができるってこと」



 なんかいやに詳しくなりましたね。



「僕も順応したってことさ。バルク生命体に」



 やはり僕にとっての雷は藤井さんになったか。



 もう逆らえない。四次元の下等生物が高貴な貴族の飼い主になれただけでも幸せなことか。



 もう僕の人生は藤井さんに預けてもいいんじゃないのかな……。



 藤井さん……()()()()()()()()()()()()()()()()()



「僕だって完璧なバルク生命体ではないんだよ。

 そう奴隷になったみたいに思わないでくれ。感謝だってしている。僕は斉田君なしにはこうしてはいられないし、それで現代の子達と演劇を間接的にもやれることができたんだし。昨日も言ったけど長くはこうしていられない。

 僕と斉田君は持ちつ持たれつの関係だ。それまではお互いにエンジョイしようじゃないか」



 ……ずっとはいられないんですね。



 ちょっと休んでいいですかね? 油断しているとふらついてしまうくらい疲れているので。



「ああ。お休み」



 藤井さんは僕の心が読めるようになっていた。



 これもバルク生命体だから得られる情報の一つか。



 食欲はなかったがカロリーメイトを食べて、僕はベッドへ。



 重力で底が抜けそうなくらい深い眠りにつく。




 この人は安西さん?



 これは夢だ。たまにみる、この人と夢の中で会っているつもりになって、コンタクトをしているような夢。



 これは二人で同じ夢をみていると思っているんだけど、安西さんはもういないから……。




 ……暗い。深夜三時くらいだろうか。



 えっ、日曜日じゃなくて月曜日……ってことは朝になったら学校へ行かなければならない……。



 スマホのロック画面に表示されている曜日を見て僕は呆然とする。



 日曜日はずっと寝ていたのか。自覚しているよりも重度の疲労だったんだな。



 お腹空いた。何か食べるか。食欲はある。



 冷蔵庫からサラダチキンを。開封して電子レンジで温める。



 冷えたミルクティーをコップにいで飲み干す。



 安西さん……会ったことはないはずなのに会った気になって、今も会いたくてしょうがない。



 夢にまで出てきてしまった。



 これは恋なのか? 保坂さんはもういいってことか。



 学年トップの美人からお亡くなりになった天才女優へ……僕はもっとマシな恋はできないのか。



 身の丈に合っていないどころか亡くなっている人を好きになってどうする。



 夕焼け空と見間違えそうなオレンジ色だ。



 休日を満喫していないのに登校するのは損したみたいだが、月曜日は演劇部がある……いや、部活はテストが終わるまでもうないんだった。



 それでも行くしかない。申し訳ないが藤井さんと家の中で二人っきりは地味に耐えられない。



 僕の隣はポッカリと空いている。藤井さんが居るからだ。



 この細い空洞を他の乗客はどう思っているんだ。



「僕もこうして電車に乗って通ったな、懐かしい……のか正直、よく分からないね。

 あれから三十年以上の月日が経ったらしいけど、僕からしたらまだ卒業して数年しか経っていないような気がする。時が止まっていたってこと」



 老けていませんもんね。目覚めて僕に話しかけた時もそんな感じだったのですか?



「あのリハーサル映像はなんて懐かしいものを! と思ったけど、本当に人間が三十年も眠っていたらもっとぼーっとしていてもいいだろう。なんなら斉田君の方が長い眠りから覚めた人って風貌だったけどね」



 四次元とバルク空間では時間の流れが異なるってことはありそうだな。



「そうだね。相対性理論によって時間の流れは絶対的なものではなく相対的なものだって科学的には証明されているんだろう」



 話しかけたつもりはなくても胸の内は筒抜けだったんだ。



 そうですけど……こっちでは三十年経っているのにあっちではまだ一年も経っていないほどのタイムラグが出るなら、おちおちそんな空間へは行けませんね。



「未来へ片道切符の旅行へ行きたい人はためらうことなく行くだろうけど」



 と、SFトークをしていたら駅に着いた。



 いつものように階段を降りると……あの日のように保坂さんの後ろ姿が。



 あの日と比べれば仲は深まった。



 保坂さん、おはよう! と挨拶できる仲にはなった……どうしようかな。



 あれ、保坂さんが歩みを止めた。首を斜め下に。



 何か気配を感じている……?



 えっ、こっちへ振り向いた。



 そして、満面の笑みを……それは僕に向けているの?



 そんなわけない。他の友達なのかな……だがあたりに同じ制服の生徒はいない。



「あっ、()()()!」



 藤井君って……ってあれ……どういうこと。



 そこに、居たのは保坂さんではなく、あの、安西未佐さんだった。

 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ