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放置ゲー世界で二度目の転生をした俺が、忘れてた前世の力を取りに行ったら一億年分溜まってて今ヤバい  作者: コータ


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1/3

成人の儀式と、魔獣の襲撃

 俺はこの世界が、前世から一億年経過した世の中だと知っている。


 ちなみに前々世はまったく異なる地球という世界で生きており、転生は二度目になる。


 俺の名はゼイン。今はただの村人だ。でも前世以前は変わった経歴を持っていた。


 先日思い出さなければ、何も考えることがないまま村人として人生を終えていただろう。


 なんとも数奇な運命だ……というか、こういうの他の人もあるんだろうか。


 試しに村の長老に「じいちゃんさ、前世の記憶とかある?」と聞いてみたら、「ワシの先生はみんな死んだよ」と返答された。


「いやいや、先生じゃなくて前世だよ」って言ったけど、そのまま過去の学校トークが始まったので退散した。


 耳が遠すぎなのかボケてんのか。声は常に裏返ってるみたいな感じだし、あの爺さん謎だらけだわマジで。


 話が脱線したが、ともかく俺はここイタメヤトゴシ村で通算三度目の人生を過ごしている。


 そのことに気がついたのは、一個下の幼馴染レーゼが十五の誕生日を迎えた頃だった。


 ちょうど村で小さなお誕生日パーティーが開かれていて、俺がなけなしの金で買ったプレゼントをやったら喜んでた。


 なにしろ嬉し泣きまでしてたくらいだ。そんなに感動するほどの物じゃない気がするが。


「ありがとう! ゼインのお誕生日も、とっても素敵なものをプレゼントするからね。成人の儀式もあるし、きっと素敵な一日になりそう」

「……十六歳が大人っていうのも、なんか不思議だよな……俺がいた世界では十八……十八?」

「……え? どうしたの?」


 あまりに不思議な感覚だったことを覚えてる。それまではただの村人の記憶しかなかった。


 だがしかし、突然ありとあらゆる映像がファーっと記憶の中に流れてきて、前世とさらには前々世の全てを思い出しちゃったのだ。


 これは衝撃的過ぎた。レーゼの青い長髪がファサファサ触れているのに気づいた時は、多分十分くらいは過ぎてた。


「いやー、悪い。たったまま寝てたわ。徹夜してたんでな」

「え? 嘘! でも、ゼインならあるかも!」


 納得されたのが逆に痛いが、俺は変人で有名だし、そのくらいなら気にならない。


 さすがに前世と前々世の記憶を思い出したとは言わなかった。マジモンのヤベー奴だと思われるし。


 それから数日経って、色々と調べものをした。膨大な資料を図書館で漁った。


 すると驚いたことに、前世が一億年前であることが分かってしまった。


 調べているうちに分かったが、かつての文明はもう滅んでいた。栄えるものいずれ衰える、そして消え去ってしまうは世の常。


 しょうがないっちゃしょうがないが、なんとなく寂しい気持ちになる。


 それにしても驚いたのは、この世界にいる歴史学者はやけに事細かに調べ上げているということ。


 一億年前から今に至るまで、多くの文明や国が生まれては滅んでいった歴史が、図書館の資料で確認できるとは思ってもみなかった。


「とんでもない未来に転生しちゃったんだなぁ……」


 ある時、もう過去を調べるのはやめにした。前世は遥か昔であり、関わりはもうないはずだ。


 ちなみにここはあるゲーム世界と瓜二つだった。


 そのおかげで俺はあの厳しい毎日を生き抜くことができた。その詳細はおいおい語るとしよう。


 どんなショックもやがてはおさまる。俺は過去の歴史より、思い出に馳せることに意識が変わっていった。


 いろいろと過去のことを考えながら畑仕事をするようになった。今世の両親は優しいし、友人もいるし悪くない毎日だ。


 かつての大変過ぎる日常を思い出し、ふと今世はボーナスタイムなのでは? と思うようになる。


 だって前世では、それはそれは大変な思いをしたし。冒険の日々といえば聞こえは良いが、要するに殺し合いの毎日だった。


 俺はその日々を全うしたと思っている。人より苦労したし、貰った対価などないに等しかった。


 だからきっと神様が不憫に感じて、俺にボーナス人生をくれたのだろう。ありがとう神様!


 ……という肯定的な解釈をしていたわけだが、実は崩れるきっかけがあった。至極あっさりと。


 前置きが長かったが、ここからが俺の話したいことだ。


 ある日、俺はとうとう十六の誕生日を迎えた。早朝からレーゼが起こしに来て、誕生日を迎えたことをお祝いしてくれる。


「帰ったらお誕生日パーティーをするよ! 無事に戻ってきてね」

「パーティーはナシでいいんだけどな」

「ダメだよ。お誕生日だし、大人になった大事な記念日だよ。準備は全部僕がするからね」


 ちなみに彼女はボクっ娘というやつだ。昔の俺の一人称が移ったらしい……そんなことある?


「ああ、じゃあ行ってくる」


 レーゼと両親に見送られて、俺は村近くにある一番高い山に登ることになった。


 途中、道すがらいろんな村人達が声援を送ってくれる。大袈裟だけど、小さな村では一大イベントなのだ。


 実は、この村にはだるい成人の儀式がある。


 十六歳の成人を迎えた奴は男女関係なく、ある山の頂上に置かれたお宝を取りに行く決まりになっている。


 これは本来、その年に成人を迎える奴がまとまって参加するもの。でも残念ながら今年成人を迎えるのは俺しかいなかった。


 なので、俺の誕生日がそのまま今年の儀式をやる日になったというわけ。


 なんというか、こういう試練的なものはダルい。できればやりたくないが、村で平穏に生きていくためには、最低限必要なこともある。


 ちなみに、その年にどう考えてもクリアが困難な人員しかいなかった場合、村にいる戦士が同行してくれる救済システムがあるらしい。


 でも俺は一人でやれとのご命令だ。なんて酷い。


「あーあ、めんどくせ」


 一人愚痴をこぼしながら、徒歩一時間くらいで山にたどり着いた。立て札には【セントイタメヤトゴシ山】と書いてある。


 村所有の聖なる山ということにしたい、という意図が分かるネーミングだ。まあそれはどうでもいい。


 俺はあくびをしながら、その山を淡々と登っていった。


 ◇


 山道を三十分ほど歩いたところで、一つの洞窟を見つけた。


 この洞窟を通らないと、上手く頂上へは辿り着けない仕組みになっている。


 絶壁を登れるなら他ルートもあるが、魔物の邪魔が入ると最悪である。


 村の周辺で一番高い山、とは言っても、実際のところは小山サイズ。この洞窟を進み終えた頃には、ほぼ頂上に辿り着ける。


 でも、ここはただの村人にはなかなか大変な場所だ。なにしろファンタジー世界でお馴染みの、魔物が隠れている場所だから。


「けっこういやがるな。間引いてないのか」


 毎年村周辺では魔物を一定数減らす、間引きというものが行われている。


 でも、この洞窟には仕事をサボってたんじゃね? と疑問を持つほど魔物がいた。


 まずはスライム。このゼリー状の生物に説明はいらないだろう。続いてフライングバット、要するにデカいコウモリだ。


 それから巨大クワガタ、巨大バッタと分かりやすいメンツが続いている。


 一定フロアごとに、数匹程度に固まっているようだ。


 奴らは俺を見るなり、「獲物だ!」と言わんばかりに襲いかかってくる。


「あーあ。だる」


 でも前世で実戦経験がある身からすると、この辺りの超初級モンスター達はどうってことなかった。


 ただの村人と言っても、歩いて棒を振れるなら倒せる奴ばかりである。


 しかしこいつらときたら、一億年前から何も変わってないな。


 俺は適当に棍棒を振り、適当に急所をぶっ叩いて、魔物を倒しながら上へと進む。


 しばらくボコっていたところ、魔物連中はこちらを襲ってこなくなった。「ピィー」とか言いながら逃げ去っていく。


 道中では岩をあるパネルに置かないと扉が開かないトラップとか、やけに迷路になっている道があったりする。


 まあ、そういう知恵を絞る的なことも、村の大人には必要ということだろう。


 洞窟を抜け、緩やかな坂道を登りきったところで、見晴らしの良い頂上へと辿り着いた。


 今日は快晴なので、村と付近の山々がよく見渡せる。ピクニックに最適だなーなんて思いつつ、いかにも意味深な宝箱へと足を進めた。


 頂上に一つだけある、がっしりとした赤い宝箱。中を開いてみると、鷹を思わせる紋章付きネックレスが入っていた。


 これは成人の儀式までに、村の誰かが宝箱までやってきて入れておく決まりになっている。


 このネックレスを持ち帰れば、晴れて大人と認められるのだ。


 年々デザインが違うようで、俺のはけっこう派手な気がした。悪くない。


「すげー、金メッキみたいじゃん……ん?」


 ちょっとお得な気持ちになっていたが、それを吹っ飛ばすような嫌な予感が脳裏を掠める。


 村の少し先にある森から、黒い煙がいくつも立ち上がっているのが見えたからだ。


 前世の経験からか、ヤバいことが始まる時が分かっちゃう。


 今世ではなるべく関わらずに生きるつもりだけど、なんせ自分が住んでる村が近い。だから今回は行ってみることにした。


 山を走って降りながら、一気に森へと向かう。それにしてもまだ十六歳だからか、筋力もスタミナもなかなかある。


 こういう身体的な良さっていうのは、若い頃には分からなかったりするけれど、前世でおっさんと呼ばれる年齢まで生きた身からすれば、ありがたくてしょうがない。


 そう余計なことを考えながら森を突き進むと、めちゃくちゃエグいものがいくつも見つかった。死体だ。


 甲冑を纏った男女が、十名以上は転がっていた。


 しかもみんな首から上は食い尽くされていて、鎧から露出していた箇所も無くなっている。


 敵は集団で、かつ獰猛な人喰い。恐らくは魔獣の類じゃないか。


「ゆっくり眠ってくれ。あんた達の仇は討つ。だから、悪いけどいくつか貰っていくよ」


 俺は彼らが幸福な転生ができることを願いつつ、転がっていた鋼の剣や弓矢を拾っていく。


 遺体の姿形から、大体誰だったかは察しがついていた。


 ここで死んでいるのは、この辺りの地区を警備するデイナコ騎士団だ。


 辺境にあたる俺たちの村付近にも、常時三十名程度の人員を割いてくれていた。


 しかし、今回の相手はそんな人数じゃ太刀打ちできなかったと見える。


 彼らがやられたら、次は村に侵略の手が伸びることは想像に難くない。


 俺は血の滴るほうへ、つまり黒い煙がいくつも立ち上った先へと走り続けた。現場に辿り着くのに、そう時間は掛からなかった。


 俺は茂みに隠れつつ、何が起こっているのかを見極めようとする。


「あー、やっぱり魔獣か」


 魔物の一種であり、獰猛さにおいては特出している存在。ブラッドウルフと呼ばれる、熊より大きい獣集団だ。


 そんな化け物と必死に戦っているのは、やはりデイナコ騎士団だ。しかし、数が随分と減っている。


 魔獣達に囲まれ、四方からリンチされている者、少しずつちょっかいをかけるように、徐々に削られている者、あるいは威嚇され、前進を阻まれている者。


 状況は様々だが、このままでいけば全滅は間違いなしだ。


 この時、人一倍勇敢に戦っている女騎士が俺の目を引いた。金髪のポニーテールが遠くからでもよく見える。


「怖いだろうに。やるな」


 このまま騎士達がやられるのを、ただ見ているわけにはいかない。


 とは言っても、俺は今ではただの村人だ。前世では力があったが、今はない。


 だから真っ直ぐ向かっていったら簡単にやられてしまう。というわけで、狡いが不意打ちをさせてもらうことにする。


 この辺りの木は太くて高い。枝もそれなりに丈夫なので、案外人が乗ったりしても大丈夫。


 俺は村で習った木登りでささっと上がると、走りながら枝をジャンプしていった。


 こういうの、子供の頃だったら楽しかったろうな。精神年齢おっさん以上の俺には、全く娯楽じゃないけど。


 とにかく走り続け、奴らが射程距離になったところで、ひたすらに弓を引いた。


 まずは、一番必死に戦っていた姉ちゃんを正面から襲っていた奴。続いて、ミンチにされかかってる可哀想な大男の周り。


 とにかく、どんどん狙っていくことにする。


「一つ、二つ、三つ」


 俺は矢の腕には、そこそこ自信があった。奴らの急所が額にあることも、前世の知識から分かっている。


 狼の群れがこちらに気づいた時には、すでに四匹目がのけぞって倒れていた。


 とにかく広範囲に矢を放ち、一匹ずつ確実に仕留める。こうなってくると、ブラッドウルフ達は騎士だけに集中していられない。


「今だ!」


 苦痛に顔を歪めながら、女騎士ちゃんが叫ぶ。そして自らが持つ槍で、赤い魔獣を貫いていた。


 彼女に呼応するように、劣勢だった騎士達が息を吹き返していく。もう死んじゃってる奴もけっこういるが、全滅の危機は脱した。


 赤い狼達は、俺のことが鬱陶しくてたまらないとばかりに、大木を登って食い殺そうと目論む。しかし、あいつらの欠点は木登りなんてできないこと。


 獣がまごつく間にも、俺はただひたすらに矢を放つ。ブラッドウルフがどう動き、どこに矢を放てば額に命中するか。そういった予測は前世から得意だった。


 魔獣というのは、動きがパターン化しやすい。


「数多いな。めんどくせー」


 森の奥からもブラッドウルフの増援が来る。これもしかして、普通に百匹以上いるのかな。


 でもやるべきことは変わらない。矢を放って放って、とにかく仕留めるのみ。


 当初は間違いなく劣勢だったが、明らかにこちらに傾いていた。そういえば無傷の騎士も僅かながらにいるなぁと思いつつ、弓を引きまくっていた。


 勝利まで後少しだったが、こういう時に邪魔が入るのはよくあることである。増援が減ってきたなというタイミングで、森の中に甲高い音が鳴り響いた。


「犬笛か」


 この音が鳴り響いた時、先ほどまで殺すことしか頭になかったはずの集団が、まるで統制の取れた軍隊のように鮮やかに引き返していった。


「ま、待て貴様ぁ!」

「よせ! もう追うな」


 頭に血が上ったガタイの良い騎士が、怒りを露わに追いかけようとしたのを、さっきの姉ちゃんが止めていた。


 深追いして勝てるほど、騎士達の戦力は恵まれていないことは確かだ。だからこの選択は正しい。


「厄介なことになったなぁ」


 騎士達は呆然としてた。多分だけど、もう半数以上はやられちゃってて、多分十名ちょっとしか生存してない。


 特にたった一人の女騎士は、周囲を落ち着きなく見渡して、どうしていいか悩んでいるようだ。


 で、考えが纏まったのか。まずは俺のところにやって来た。


「私の名はミュウ。デイナコ騎士団の長を任されています。何方か存じていないが、礼を言わせていただきたい。貴方の協力のおかげで、私達は勝利できました」


 え、騎士団長なの?


 どう見ても十代くらいの女子なのに、これは珍しい。それともこの時代じゃ普通なのか。


 とりあえず、素性を知られると後々めんどくさいかも。一緒に戦ってくれ! とか始まると大変だ。


 幸い、ここから俺の顔はよく見えないはず。そこで、ある人の声真似をしてみた。


「ほっほ。それは良かったのう」

「貴方はイタメヤトゴシ村の方ですね。素晴らしい腕前……感服いたしました。お名前を伺っても良いでしょうか」

「ふむ。ワシはロブ。村で一番長生きしておるよ。しかし、あれは厄介な連中じゃな」

「ええ。ですがこの後、体勢を立て直してから一気に叩くつもりです」

「いや、しばらく守りに入ったほうがええ」

「守りに? 何故です」


 ミュウという女子には、あまり状況が分かっていないらしい。


「あの犬笛、ブラッドウルフを統率している奴がおる。あれだけの猛獣を操るってことは、それなりに高位で危険な魔族であろう。狼達が眷属する他ないほど、強大な敵であること間違いない。ワシの経験がそう言っとる」

「魔族……!」


 ここまで説明してようやく事態を察したのか、騎士団長は顔を蒼白にした。


 でも、生き残っている騎士のうち強そうな奴が、この話し合いに割って入ってきた。


「団長! この老人は素人です。我々が耳を貸す必要など——」

「ワシは用がある故、失礼する。良いか、ここが正念場ぞ」

「あ、お待ちくださ——」


 俺は顔を隠したまま木から木へとジャンプし、その場を離れていった。


 遠くからさっきの姉ちゃんの声が聞こえたが、待っている場合じゃない。


 村が危機に瀕していることは間違いない。だから、不本意だけど戦う力を取り戻さないと。


 急いである場所に向かわなくてはいけなかった。


 ◇


 一億年前の忘れものを取りにいく。


 幸いにして、その場所はここから遠すぎるということはない。


 地図を見てすぐに分かったのだが、俺はかつてこの近くで過ごしたことがあった。だが、ずっと東に行かなくてはならない。


 どうしようかと迷っていたら、ありがたいことにケンタウロスの群れが襲ってきたので、ぶっ飛ばしまくって一頭だけ捕まえた。


「走れ。目的の場所まで送ってくれたら、殺しはしない」

「ひ、ヒィイ!」


 剣を首に突きつけると、大柄なケンタウロスはあっさりと言うことを聞いた。


 しばらく背中に乗りながら、これまでのことを思い出している。


 ここで話す必要があるだろう。かつての俺たちの世界について。


 まず、この世界はあるゲームと瓜二つだった。そのゲームの名前は、放置ファンタジーという。


 非常に高難易度のRPGで、あまりにも難しすぎて俺以外に遊んでいた奴を知らないほどだ。


 そのゲームには一つ、特異なシステムがある。放置システムといい、自身のステータスをとあるクリスタルに預けることができるんだ。


 で、預けた日数が長ければ長いほど、能力値が大きく上がっていく仕組みになっている。


 苦労して強さが減った状態で物語を進めて、後々力を返してもらいに行くという流れだった。


 それと、預けられる力と種類はプレイヤーが任意に割合を決めることができる。


 当然、多く預ければ預けた分だけ強くなれるが、受け取るまでは弱体化を余儀なくされる。


 このシステムはなかなかに難しいが、使わなかったプレイヤーはいないはずだ。


 なぜなら放置ファンタジーは、この放置システムというものを上手く運用しないと、後半になるにつれて戦いが厳しくなるから。


 リアルタイムで時間が流れる仕様で、プレイヤーは決められた日数のうちにクリアしなくてはならなかった。


 非常に変わったRPGだ。まさか転生した先の世界が、放置ファンタジーと同じだと気づいた時は衝撃だったなぁ。


 出てくる登場人物とか魔物とか、国とか見てれば嫌でも予想できたけど、決定的なのはクリスタルを見つけた時だったわ。


 俺は前世では、まさにヒイヒイ言いながら戦い続けたもんである。


 なんと、全ステータスの九割をクリスタルに預けていた。


 しかも、預けたままで魔王やら邪神やらを倒した。縛りゲーのさらに縛りゲー的なことを、現実でやっていたイカレ野郎だったのである。


 っていうか、クリスタルのこといつの間にか忘れてたし。


 今度取りに行こう。そう思っては忘れての繰り返しで、結果的に力を返してもらうことがないまま死んだ。


 まさか今世で、その力を頼りにすることになるとは……人生何があるか分からんねホント。


 でも一抹の不安もある。クリスタルっていうのは、普通は長くても数ヶ月で回収するものだ。


 どんなに根気よく貯めた人でも、一年くらいで回収してる。っていうか、それ以上は貯まらなかったような?


 一億年も無意味に残してた奴なんて、多分俺以外にいないと思う。


 もしかしたら、クリスタル自体壊れてるかも。いや、その可能性のほうが高そうだ。だって一億年だもの。


「他の手を考えるべきか」

「ギャー」


 俺はケンタウロスのケツを棒で叩きながら、もっと可能性のある選択肢がないか考える。


 でも、あの魔獣使いを短期間で倒す方法なんて、他に見つかりそうもなかった。


 まる二日かけて、俺はとうとうその地に辿り着いた。


 疲労困憊で死にかけのケンタウロスとお別れし、草原の中心に佇む遺跡を見上げている。


「あった!」


 言いようのない感動で、思わず叫んでしまう。


 かつては白くてキラキラした、最新鋭の遺跡って風貌だった。でも今じゃ黒ずんでひび割れて崩壊寸前。


 でも残っていた。俺のかつての記憶に、唯一当てはまる場所。


 懐かしさが込み上げると同時に、確かめずにはいられなくなる。


 あのクリスタルは今も残っているか。ヒビ割れがひどい室内に足を踏み入れた。


 ここはかつて聖域と呼ばれていて、誰しもがおいそれと入れる場所ではなかった。


 地下に進む階段も残っている。よく無事でいられたもんだ。


 でも崩落する危険性はある。細心の注意を払い、かつての面影が残る階段を降りていく。


 ここにはいくつものクリスタルがあったはずだ。うろ覚えだった記憶が蘇るにつれ、違和感が生じてくる。


 地下を降りきった先には、四つの台座とクリスタルが置かれていた。


 それぞれが異なる色に輝きを保っている。一億年が経ったというのに。


「今も使っている奴いるじゃん」


 四つあるクリスタルのうち、三つが光り輝いている。誰かの力が預けられている証拠だ。


 つまり今もなお、このクリスタルを活用している人がいるということ。


 伝統が続いてるって感じがして、なんだか嬉しくなった。さて、ではそろそろ俺のクリスタルを見にいくことにしよう。


 通路を真っ直ぐ進むと、今度は螺旋階段があった。しばらく降りていく。


 降りきったところで、何か奇妙な感覚に囚われた。でかい扉があるのだが、これはかつてはなかったものだ。


「立ち入り禁止……?」


 しかも、立ち入り禁止の立て札と、やたらとお札のようなものが貼られまくっている。


 この先に悪霊でもいるっていうのか。


 一体俺のクリスタルがある場所に、何が起こったというのだろう。


 だが、ここで引き返すわけにはいかない。自分より何倍もでかい扉を、ゆっくりと両手で押す。


 軋むような音を立てながら、趣のある扉が押し広げられていく。


「んん?」


 視界にはまったく記憶にない、白に満ちた世界が広がっていた。っていうかクリスタルどこ?


 たしか、この位置から数歩くらいで触れる距離にあったはずなのに。


 不思議に思って真っ白な世界を歩いてみると、遠くのほうにふわふわした光が見えた。


 近いようで遠いそれは、歩いても歩いても辿り着けないのではないかと不安になる。


 歩き続けていると、急に風が吹いてきた。そして風景が変わる。


 いつの間にか俺は、どこか分からない浜辺を歩いている。かと思えば山道を進んだり、夜の城に変わったり、景色がありえない変化を繰り返していった。


 おかしい。一体なぜこんなことに。俺が力を預けていたクリスタルは、一体どこまで行けば見つかるのだろうか。


 考えながら歩くほど、景色の変化が激しくなる。


 その時、ふと気がついた。これは過去に俺が見たことのある記憶ではないか、と。


 浜辺なんて何処だか覚えてないし、山道なんて星の数ほど歩いた。


 夜の城だって、そういえばこんな城あったなーと思わないこともない。


 そんな推測を裏付けるかのように、今度は風景の中に人や動物が現れるようになる。


 これはすぐに理解できた。かつての仲間や敵、親に知り合いといったあらゆる存在が、現れてはすぐに消えるのだ。


 しかし、みんなに声をかけてみても、誰も反応なんてしない。まるで自分が透明人間にでもなったみたいだ。


「く……」


 不意に視界が歪む。かつての懐かしい顔を目にするうちに、涙腺が緩んでしまったらしい。


 そして気がつくと風景は、地球にいた頃に変わった。


 オフィス街、電車の中、かつて通った学校、昔の友達……徐々に時間が巻き戻っていく。


 一体どうなっているんだ。


 いつしか俺は、また真っ白な世界に戻ってきていた。何処まで歩き続けていたのか、もう分からない。


 確実に分かることは、七色に光り輝く大きなクリスタルが、目の前に浮かんでいたということ。


「こんな色してなかったよな」


 虹を思わせる眩い光が、白い世界を超えて広がっているようだ。


 クリスタルはもう、俺が知っているそれとは違っている。一億年も放置したせいだろうか。


 しばらく眺めていると、白い世界が急激に暗くなり、周囲に星が輝き出した。まるで自分が宇宙の中心にいるみたいだ。


 その宇宙みたいな世界で、クリスタルは無限の輝きを放ち続けている。


 正直、この結晶に触れることを躊躇ってしまう。一体何が始まるのだろう。


 でも、もう引き下がる道はない。俺は静かにクリスタルに手を伸ばした。


 力を取り戻すためには、秘密の言葉を伝える必要がある。それは力を預けた人間か、管理者と呼ばれる存在しか知り得ないもの。


 その言葉を発するだけで良いのだが、この時少しばかり躊躇した。


 あの頃の自分が、いかに安直なワードで設定していたことか。なんとなく恥ずかしい。


「一生楽して暮らしたい」


 この一言を発した瞬間は、何も変化が見られなかった。


 しかし、徐々にだがはっきりと異変が生じていた。やがて七色の輝きが、視界全体を埋め尽くしていった。


 この世が終わるのではないか。


 そう思えてしまうほどの、絶大な爆発が目の前で起こったのだ。

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