八話
そんな俺が恋というものを体験したのはそのころだった。
学校も終わり予定のない俺とライチはサッカーボールを持って、いつものように公園で遊んでいた。いつもなら他の友達もいて、サッカーをしたり鬼ごっこをしたりと、泥だらけになるのも気にせず遊んでいたのだが、その日は俺とライチの二人だけで遊んでいた。
日も落ちかけ、あたりがオレンジ色に染まりだした頃、そろそろ帰るかとボールを取りに行ったライチに言おうと思い口を開きかけた時、背中から「わっ!」という声ともに、温かい何かが抱き着いてきた。
ライチからしたら気の抜けてる俺をちょっと驚かしてやろう位の軽い気持ちだったんだろう。でも俺にとっては一生忘れられない体験となった。
ライチに抱き着かれるなんて特段珍しいことでもなくいつもならきっと、「びっくりしたぁ」なんてありきたりな反応をしていたんだと思う、けどその日は違った。ドクンと大きく跳ね上げた心臓に、感じたことのない高揚感にも似た何か。背中から伝わってくるライチの少し高い体温や、テンポよく跳ねる脈拍、耳元で聞こえる少し荒い息遣い、いつもなら気にならない、いや気づかないような些細なものまでが俺の五感を支配していた。
「きひろ?」
動かなくなった俺に違和感を覚えたのか、心配したような声色で顔を覗き込んでくる。ライチの呼びかけに我に返った俺は、何とか取り繕わなければと思い咄嗟に口を開く。
「あ、ごめん。めっちゃびっくりした」
「だいじょぶか?きひろ」
「え?何が?それよりそろそろ帰ろうぜ」
今思うとだいぶ無理があるように思えるが、ライチはそこに踏み込んでくることはなかった。
家に戻ってからもさっきの出来事が頭から離れることはなかった。背中にはいつまでもライチの体温が残っていて、耳元ではあの荒い息が聞こえてきた。ご飯中も上の空で母さんには心配をかけた。その夜は体が火照ってなかなか寝付けなかった。
その日俺はライチが恋愛対象として好きだということに気づき、これは普通ではないんだなと言うことにも気づいた。隠さなければいけないという思いから、その日以来俺は少しだけライチと距離を置くようになったし、ライチも察したのか、今までのような距離感で接してくることはなかった。




