六話
———第四十八回体育祭をここに開催します。」
校長先生の長い話とが終わり、教頭先生による開会宣言で高校生活最後の体育祭が開催された。全校生徒が列に倣って各自の席へと足を運ぶ中で一番最初に行われる競技、二人三脚に出る人は列から外れ待機列の方へと向かっていく。そんな光景を眺めながら席に着くといつの間にか隣にライチが座っていた。
「何でここにいるの?」
当然の疑問を投げかける。名前の順で席を並べているから俺とライチの席が隣り合うはずないし、ライチはもっと後ろの席のはずだ。
「だってきひろの隣が良かったから」
そんな俺の疑問に対して当然と言わんばかりの表情で答えるライチ。
こいつほんっとに、俺の気も知らないで。と思いつつ表情に、声色に俺の思いが出ないように平静を装って、茶化すように返す。
「俺のこと好きすぎだろ」
周りも茶化すようなことを言っていた気がするけど、今の俺はそれらを情報して処理するほどの余裕がなかった。お調子者の周囲の悪ノリに乗っかるように俺の手に自身の手を絡める。その流れでライチは裏声で場を盛り上げるように声を出す
「私たち結婚するの!」
その瞬間頭の中が真っ白になった。体格の割に大きくてがっちりとしたライチの手、そして何より手から伝わってくるライチの少し高い体温、温かくてそして安心できるもの。体が紅潮していくのがわかる。まずいと思った俺は無理やり手を振り払う。一瞬の出来事に場が凍り付く、ライチは俺の方を見て驚いたような見たことのない顔をして固まっている。
「わ、悪い。俺ちょっとトイレ行ってくる」
何とか言葉を絞り出し、急いでその場を後にする。
背中では「実はライチのこと嫌いなんじゃね?」とか「え、あれガチの奴じゃね?」などと、憶測交じりの適当な言葉や、俺を嘲笑するような言葉が聞こえたけど相手にする余裕なんてなかった。
心臓がドクンと大きく脈を打っている。呼吸が荒くなっているのがわかる。誰にも見つからないように三階まで駆け上がり、トイレの個室で興奮している体を落ち着かせようと深呼吸をする。しばらくしてどうにも変らない状況に個室を出て、水を頭からかぶることにした。誰もいない静かな廊下に水を流す音が響く。頭に冷たい水がかかり、ようやく落ち着き出した頭は拭くものがないことに気づく。俺が出る競技に出るのは暫く先だしどうすることもできない俺は、ただひたすら流れてくる水を頭で受け止めるしかなかった。
そうしているうちに階段を駆け上がる足音と、俺の名前を呼ぶライチの声が聞こえた。
足音は止まり、俺のことを見つけたライチの第一声は、意外にも気の抜けた声だった。
「え?何してんのきひろ」




