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二十二話

 あいつといると本当に腹が立つ。相手に寄り添うようなコミュニケーションを学んでこなかったのか?腹の虫がおさまらない。ここまで他人に腹が立ったのは生まれてこの方初めてだ。やり場のない怒りに悶々としながら帰路を歩いているとふと声をかけられる。

「お!きひろじゃん。何してんの?」

 聞きなじみのある声に振り返ると、陽だまりの中に部活終わりの格好をしたライチが立っていた。

「ライチじゃん。部活終わり?一人?なんか久しぶりだね」

「そーだよ。きひろは?」

「俺も帰り。この後飯でも行かない?」

 たった三か月そこらの期間だったが、ライチが生活の一部になっていた俺にとってライチがいないその時間が本当に長いものに感じていたのだ。だからこそ、偶然だったがこうして重なった時間が本当に色づいて見えたし、この時間を少しでも引き延ばそうと思えた。

 いつの間にか俺の中で燻っていた怒りも消え、俺の中はライチ一色になっていた。

「あーごめん、今回はパスで」

 その一言で色づいていた俺の世界は一気に崩壊した。

 いつもであれば笑って「ラーメン!」と言うはずなのに、俺から目をそらして少し気まずそうにしてこうこぼす。

「この後蒼衣と予定あるんだよね。」

 見たことのないその表情に俺は、脳みそを直接瓦礫で殴られたような衝撃が走る。

 俺に見せたことのないその表情でどれだけ山根と話したのか?俺が見たことのないその仕草は一体誰からうつされたものなのか。俺が見てない間に一体どれだけ穢れを付けられたのか。

 許せない。

 俺のライチを穢した存在も。その原因となれ合っているライチも。

「あー、そうか。」

 腹の底で燻るこのどす黒い感情に蓋をするように、ライチに気づかせないように、何とか言葉を絞り出し、逃げ出すように俺は歩き出す。

「待ってよ。一緒に帰ろーぜ」

 逃げ出そうとした俺の手をつかみ、何も知らない純粋無垢な声で話しかけてくる。

「あーそういえば俺、夕飯作る準備しなきゃ」

 振り返ることのできない俺は、何とか作り出したその場しのぎの嘘でライチの手を振り払う。俺の声がどういう風に聞こえたのかはわからない。震えていたかもしれないし、怒りが現れていたかもしれない。もしかしたら棒読みだったかもしれない。

「そっか。そうだよな。きひろは忙しいもんな!」

 俺の言葉に対して少し間をあけてライチが言葉を返す。ライチがどんな表情だったのか、俺は見ることができなかった。振り返ることなく足を進めた俺の後ろで、いつもの足音が聞こえることはなかった。

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