十六話
気まずい。本当に気まずい。ライチのことを教えてと俺に言い寄ってきたくせに、校門を抜けた途端に一言も喋らなくなった。教えてと言った癖に何も聞いてこないのかよ、走って撒いてやろうかな。
気まずさゆえか、俺がイライラしているのを何となく感じ取ったのか、山根蒼衣の心境なんてさっぱりだが彼女は小さく口を開く。
「えっと、松村君って何が好きなの?」
ふざけてんのか?沈黙の末やっとひねり出した言葉がこれか。俺が女だったら間違いなく手が出てる。
「食べ物で言うなら、卵焼きだ。甘いやつ」
ため息をつきたくなるのをグッと抑え、事務的に答える。そんな俺を横に山根はメモを取るように手帳に書き出す。電柱にでもぶつからねぇかな。そんなことを考えていると、メモを書き終えた山根が顔をあげ再び口を開く。
「じゃあ、松村君ってどんな子がタイプなの?」
なんだこいつ、付き合ってんのにそんなこと気になるか?女子ってのはよくわからんな。
「タイプかぁ、考えたことないなぁ」
いろんな系統の子と付き合っては別れを繰り返しているライチが外見にこだわっているようには、とても見えなかった。ただ一つ、ライチが一目ぼれするような人たちはみんな、手入れされていて艶のある髪の毛の持ち主だった。
「そうだな。強いて言うなら髪がきれいな子。じゃないか」
「髪の毛がきれいっと」
そう呟きながらまたメモをする。
こんなことが、あと二、三十分ほど続くのか。本当に、適当な理由をつけて撒いてやろうかと思う。
それからは、目的は何だ?となるような質問だったり、そんなことも知らないのに告白したのか?となるような質問だったりに答え続けた。多分後にも先にもこんなに疲れた下校はないと言い切れるほど疲れた。
別れるころにふと目に入った手帳には、びっしりと文字が詰め込まれていて鳥肌が立った。でも、今までこんな熱量でライチに好意をよせている奴はいなかった。もしかしたら...なんてことを考えてしまう。
自分にとって嫌なことだったから、すぐに考えるのをやめたが、本来それがライチの幸せなのだ。ライチが幸せに笑って過ごす未来があった時、隣に俺が立っているなんてありえないのだ。
きっと今は体育祭の余熱だったり、告白された勢いで付き合っているだけだと思う。ライチ自身、山根のことはあまりよく知らなかったようだし、だから三か月いや、卒業までこのカップルが続いたのであれば、俺は心から応援をしよう。でもそれまではそれを、彼女のことを憎んでしまうこと免罪符としよう。




