第六話:舞踏会でイケメンに囲まれても胃が痛い
「舞踏会!? 俺、ダンスなんて一歩も知らねえよ! どうすんだ、これ!」
クロイツェル家の屋敷、俺の部屋。俺——佐藤悠斗、いや、悪役令嬢イザベラ・フォン・クロイツェルは、ベッドに突っ伏して絶叫中だ。
王宮から届いた「ルミエール王国建国記念舞踏会」の招待状を握りしめながら、頭がパニック。ゲーム『キラキラ☆ロイヤルハート』じゃ、この舞踏会がイザベラの運命を決めるヤバいイベントだ。ヒロインに第一王子を奪われ、イザベラが悪役ムーブ全開でやらかして断罪ルートに突入する場面。
「こんな早い段階で舞踏会とか、シナリオめっちゃ前倒しじゃん! バッドエンド回避、どうすりゃいいんだ!?」
そこに、窓から聞き覚えのあるチャラい声。
「よお、令嬢。舞踏会で踊るの楽しみだな!」
「レオン!? またお前!? いい加減、窓から入るのやめろ!」
黒髪赤目の暗殺者風イケメン、レオン・ヴァルドがヒョイと部屋に侵入。ニヤニヤしながら俺に近づいてくる。
「ヴィクターの坊ちゃんと俺、どっちと踊るか決めたか?」
「踊る!? 俺、ダンスできねえって! てか、勝手に同伴すんな!」
レオンが肩をすくめる。
「ほら、魔導書狙う賊がウロウロしてるんだ。俺がいないと、お前ピンチだぜ」
「ピンチなのはお前のせいだろ!」
さらに追い打ち。メイドのリナがドアをノックしてくる。
「お嬢様! 舞踏会のドレス選びとダンスの練習を! ヴィクター様からも同伴の確認が来てます!」
「ヴィクター!? あの冷酷公爵跡取り!? なんで俺にこだわるんだよ!」
ゲームじゃイザベラを嫌うヴィクターが、なぜか俺にグイグイ来てる。胃がキリキリする。
「リナ、ダンス練習って…マジで!? 俺、運動神経ゼロのサラリーマンだぞ!」
(いや、イザベラとして振る舞え!)
舞踏会の当日。王宮の広間は、シャンデリアの光でキラキラ輝いてる。貴族たちがドレスやタキシードで着飾り、優雅に談笑してるけど、俺の心は真っ黒だ。
ドレスはサファイアブルーの超ゴージャスなやつ。リナに髪を巻かれ、アクセサリーをジャラジャラつけられ、鏡のイザベラはまるで絵画の姫君。でも、中身はガチガチに緊張してるサラリーマン。
「このドレス、重すぎ! 歩くだけで一苦労だよ! てか、ダンスなんて絶対ムリ!」
会場に入ると、第一王子ルーカスと第二王子カイザーがすでにいる。
ルーカスは金髪碧眼、キリッとしたイケメン。俺の婚約者だけど、ゲームじゃヒロインに落ちる予定の王子。今日は真剣な顔で周囲を観察してる。
カイザーは銀髪紫目、チャラい笑顔で貴族の令嬢たちに絡んでるけど、俺を見つけるとニヤリと手を振ってくる。
「イザベラ嬢、キレイだね! さすが俺のお気に入り!」
「お気に入り!? やめろ、フラグ立てんな!」
(いや、貴族っぽく!)
「カイザー殿下、軽薄なご挨拶ですわ」
そこへ、ヴィクター・フォン・グレンツェルが現れた。黒髪灰目の冷酷イケメン。ゲームじゃイザベラを嫌う公爵家の跡取りなのに、なぜか俺に近づいてくる。
「イザベラ、よく似合っている。さすがクロイツェル家の令嬢だ」
「え、褒められた!? ヴィクター、キャラ変わりすぎだろ!」
「ヴィクター様、ありがとうございますわ…」
必死で微笑むけど、胃がキリキリ。
さらに、レオンがスッと俺の横に立つ。タキシード姿で、めっちゃ似合ってるけど怪しさ全開。
「よお、令嬢。俺と一曲、踊らねえ?」
「は!? お前、なんでここに!? 招待状持ってないだろ!」
ルーカスがレオンを睨む。
「貴様、また現れたな。イザベラ、こいつを側に置くな。危険だ」
カイザーがニヤニヤしながら茶々入れる。
「兄貴、嫉妬? イザベラ嬢、人気者だねえ」
「嫉妬!? 誰が!? 俺は男だ!」
(いや、今は女…! もう頭ぐちゃぐちゃ!)
舞踏会が始まり、音楽が流れる中、貴族たちが踊り始める。俺は壁際で縮こまってたけど、ヴィクターが手を差し出してきた。
「イザベラ、一曲踊らないか?」
「え、ヴィクター!? いきなり!?」
その瞬間、レオンが俺のもう片方の手を掴む。
「悪いな、坊ちゃん。イザベラの最初の一曲は俺だ」
「は!? 勝手に決めんな!」
ルーカスが割って入る。
「イザベラは私の婚約者だ。最初のダンスは私と踊る」
カイザーがニヤニヤしながら煽る。
「ほお、みんなイザベラ嬢に夢中だね。どうする、令嬢?」
「どうするって、俺が知りたいよ! 胃が爆発する!」
パニックの中、なんとかヴィクターの手を取ってダンスフロアへ。ゲーム知識ゼロの俺だが、リナの特訓(地獄の3時間)でなんとかステップを覚えた。
ヴィクターの手が腰に回り、めっちゃ近い!
「イザベラ、クロイツェル家とグレンツェル家の盟約について、話したい」
「盟約!? ここで!?」
「魔導書は、両家の秘密だ。だが、裏切り者がいる。気をつけろ」
「裏切り者!? 誰!?」
ヴィクターの灰色の瞳が鋭く光る。
「今夜、この舞踏会にその手がかりがある」
その時、会場がザワつく。入口に、ふわっとした金髪の美少女が現れた。
「エレナ!? ゲームのヒロイン!?」
エレナ・リリエール、ゲームの主人公。庶民出身なのに王子の心を掴む純粋な少女。イザベラのライバルだ!
「やばい、ヒロイン登場! ここで俺が何かやらかしたら、断罪ルート一直線じゃん!」
エレナがルーカスに微笑みかけ、ルーカスが一瞬動揺した顔。
(うわ、ゲームの恋愛フラグ!? やばい、俺の婚約者なのに!)
突然、会場に不気味な気配。シャンデリアの光が一瞬揺れ、窓の外で黒い影が動いた。
「!? 賊!? また!?」
レオンがスッと俺の側に来る。
「令嬢、気づいたか。魔導書を狙う奴らが動いてるぞ」
ヴィクターが剣を構える。
「イザベラ、離れていろ。私が対処する」
ルーカスとカイザーも警戒し、エレナが怯えた顔でこっちを見る。
「何!? このカオスな状況! 俺、舞踏会で何やってんだよ!」
その瞬間、窓がバリンと割れ、黒いフードの賊が数人飛び込んできた!
「イザベラ・フォン・クロイツェル! 魔導書を渡せ!」
「うそ、舞踏会で襲撃!? 俺の胃、もう死にました!」
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