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第十話:ヒロインと冷酷イケメンに囲まれ、心も胃も限界突破

クロイツェル家の屋敷、私の部屋。 絨毯の深緑が月光に照らされ、壁の金箔装飾がキラキラと怪しく輝いている。 窓の外では、秋の夜風が木々の葉を揺らし、遠くでフクロウの低い鳴き声が響く。 静かすぎる夜だ。 こんな夜に限って、何か起きる。


私は――佐藤悠斗、いや、悪役令嬢イザベラ・フォン・クロイツェル、ベッドの上で「呪われた魔導書」を握りしめ、額をシーツに押し付けて唸っている。


「ヒロインと冷酷イケメンが俺の屋敷に来るだと!? さらに賊まで!? 俺の胃、もう宇宙規模で限界だよ!」


舞踏会での闇の門の騒動、国王の鋭い視線、腕に刻まれた光る紋様…。 あの魔導書がすべての元凶だ。 この分厚い革表紙、触るたびに冷たくゾクゾクする感触、ページに刻まれた古代文字は読めないのに、なぜか頭に直接響く不気味なメッセージ。


『裏切り者の影が、君に迫る』


さっきのメッセージが脳裏でリピート再生される。 裏切り者って誰だ? ヴィクター? レオン? それとも…まさかエレナ!? いや、ヒロインが裏切り者って、ゲーム『キラキラ☆ロイヤルハート』の設定崩壊しすぎだろ!


「ゲームじゃ、俺はエレナをいじめる悪役令嬢なのに、なんでヒロインが俺に好意的? ヴィクターに至っては、俺を嫌うライバルキャラのはずなのに、なんでグイグイ来るんだよ…!」


頭を振って混乱を振り払おうとするけど、ダメだ。 サラリーマン時代の記憶がチラつく。 残業続きで徹夜したプレゼンの朝、胃薬を飲んで上司の詰問を耐えたあの感覚。


「いや、あの時よりヤバいぞ。今は命かかってるんだから!」


魔導書を隠し扉に押し込み、鍵をかける。 だが、心のどこかで思う。 この本、ほんとに隠しきれてるか? 王宮のスパイネットワーク、賊の執念、国王のあの目…。 みんな俺が持ってるって気づいてるんじゃないか?


そこへ、窓枠に影。 聞き覚えのあるチャラい声が夜の静寂を破る。


「よお、令嬢。ヒロインちゃんと公爵の坊ちゃんが来るって? 賑やかな夜だな!」


「レオン!? またお前!? いい加減、窓から入るのやめろ!」


黒髪に赤い瞳、暗殺者風のイケメン、レオン・ヴァルドが窓枠に腰掛けてニヤリと笑う。 月の光が彼の顔を照らし、鋭い輪郭と怪しい魅力が際立つ。


「エレナって、めっちゃ可愛いよな。イザベラ、ライバルとして負けるなよ」


「ライバル!? 俺、ヒロインと張り合う気ねえよ! てか、お前、なんで毎回現れるんだ!」


レオンの気楽な態度にイラッとするけど、舞踏会で賊から助けてくれたのは事実。 味方…なのか? でも、あの「獲物」発言、絶対裏あるよな。


メイドのリナが慌ててドアをノックし、息を切らして飛び込んでくる。


「お嬢様! エレナ・リリエール様とヴィクター・フォン・グレンツェル様が応接室でお待ちです! 至急ご準備を!」


「うわ、早すぎ! リナ、ちょっと待って、心の準備が…!」


だが、リナの勢いに負け、俺はドレッサーの前に引きずられる。 今日のドレスはエメラルドグリーン、金のレースが燭台の光を反射してキラキラ。 鏡に映るイザベラの美貌は、まるで絵画の貴婦人だ。 金髪の巻き髪、碧い瞳、完璧すぎる顔。


(こんな美人なのに、中身は胃痛持ちのサラリーマン…。このギャップ、キツすぎる!)


リナが髪に飾りをつけながら言う。


「お嬢様、ヴィクター様は真剣なご様子でした。エレナ様も、なんだか緊張されて…」


「緊張!? ヒロインが!? やばい、なんか大事な話になる予感…!」


応接室の扉を開けると、暖炉の炎がパチパチと音を立て、壁の肖像画が厳かに見下ろす。 豪華なシャンデリアの光が、ソファに座る二人を照らしていた。


エレナ・リリエール、金髪に青い瞳、ふわっとした白いドレスがまるで天使。 舞踏会で俺が助けたせいで、キラキラした目で俺を見てくる。 ゲームじゃ敵のはずなのに、この好意、なんなんだ!?


ヴィクター・フォン・グレンツェル、黒髪に灰色の瞳、冷たく鋭い視線。 ゲームのライバルキャラなのに、なぜか俺にこだわる。 スーツの裾がビシッと決まり、貴族の威厳が漂う。


「イ、イケメンとヒロインの圧、すごい…! いや、俺は男だ! いや、今は女…!」


心の中で葛藤しつつ、貴族令嬢らしくお辞儀。


「イザベラ・フォン・クロイツェル、エレナ様、ヴィクター様、ご訪問ありがとうございますわ」


(声、可愛すぎ! 毎回慣れねえ! 胃がキリキリする!)


レオンがドサッと隣のソファに座る。


「よお、ヒロインちゃんと公爵の坊ちゃん。イザベラの護衛、レオン・ヴァルドだ。よろしくな」


ヴィクターの目が一瞬鋭くなる。


「また貴様か。イザベラ、なぜこんな得体の知れない男を側に置く?」


(俺も知らねえよ! 勝手に絡んできたんだ!)


エレナが小さく微笑む。


「イザベラ様、レオン様、舞踏会でお助けいただいて…本当にありがとうございました。私、感謝の気持ちを伝えに来ました」


「エレナ!? ヒロイン、めっちゃ良い子! ゲームの設定、どこ行った!?」


「エ、エレナ様、恐縮ですわ…その、お気になさらず…」


(やばい、ヒロインのキラキラした瞳、眩しすぎ! 心臓バクバクする!)


ヴィクターが暖炉の炎を背に、冷たく切り出す。


「イザベラ、舞踏会の闇の門の騒動についてだ。君の刻印が反応した。魔導書の在処を話せ」


「!?」


(直球すぎ! また魔導書! 隠してるのバレバレじゃん!)


「ヴィクター様、わたくし、そのような物、存じませんわ…」


必死でしらばっくれるけど、ヴィクターの灰色の瞳が鋭く光り、まるで心を見透かすよう。 胃が縮こまる。


エレナが恐る恐る手を挙げる。


「イザベラ様…私、舞踏会で見たあの光…刻印の力が王国を救ったんですよね? 私も、ルミエール王国のために力になりたいんです…!」


「エレナ!? ヒロイン、なんで俺にこんな協力的なんだ!? ゲームじゃ俺が君をいじめるはずなのに!」


頭の中でゲームのシナリオを反芻する。 イザベラはエレナを陥れ、ルーカスに嫌われて断罪される。 それが定番ルートだ。 でも、今のエレナは俺を信頼してる。


(このズレ、チャンスか? それとも罠か? エレナ、ほんとに裏切り者じゃないよな…?)


「エレナ様、ありがとうですわ…でも、わたくし、よくわからないのですわ…」


レオンがニヤリと笑う。


「ヒロインちゃん、いい心がけだな。イザベラ、さすがに隠し事はバレバレだぜ。魔導書、持ってるだろ?」


「レオン! お前、味方だろ!? 疑うな!」


ヴィクターが冷たく言う。


「イザベラ、クロイツェル家とグレンツェル家の盟約を思い出せ。魔導書は両家の秘密だ。裏切り者が動き出している今、君が鍵だ」


「裏切り者!? またそれ!? 誰だよ、教えてくれよ!」


頭がぐるぐるする。 クロイツェル家とグレンツェル家の盟約、闇の門、裏切り者…。 ゲームにない情報が多すぎる。 サラリーマン時代の資料整理スキルをフル動員しても、頭整理しきれねえ!


その夜、屋敷の書斎で一人、魔導書を手に持つ。 燭台の炎が揺れ、革表紙に不気味な影を落とす。 ページを開くと、またしても勝手にめくれる。


『刻印の者よ、裏切り者の影はすぐそばに。真実の鍵は、君の決断に委ねられる』


「すぐそば!? 決断!? やめてくれ、俺、ただバッドエンド回避したいだけなのに!」


腕の刻印は、月光に照らされて青白く光る。 触ると、熱いような冷たいような、奇妙な感覚が全身を走る。


「この刻印、ほんとに俺の体に何か宿ってるんじゃ…? 魔導書の力って、こんなヤバいもんなのか?」


サラリーマン時代、怪しい投資話に引っかかりそうになった時の直感が蘇る。 あの時も、なんかヤバいって感じた。 でも、今は命がかかってる。 逃げ場ないぞ、俺。


そこへ、リナが慌てて書斎に飛び込む。 暖炉の火が彼女の焦った顔を赤く照らす。


「お嬢様! 緊急です! 王宮から新たな使者が!」


「また!? 今度は誰!?」


「第一王子ルーカス殿下と第二王子カイザー殿下が、至急お話ししたいと!」


「ルーカスとカイザー!? 王子コンビまで!? 俺の胃、もう存在しないよ!」


窓の外で、聞き覚えのある声。


「よお、令嬢。王子たちが来るって? 面白そうだな、俺も混ぜろよ」


「レオン!? またお前!? 窓から入るの、いい加減やめろ!」


レオンがヒョイと書斎に飛び込む。 月の光が彼の剣の鞘に反射し、キラリと光る。


「イザベラ、なんか大変なことになってるな。魔導書の件、王子たちも本気だぜ」


「本気って何!? 俺、ただ平和に生きたいだけなのに!」


その瞬間、屋敷の外でドンッと大きな音。 窓の外、庭の木々が不自然に揺れる。


「!? 何!?」


リナが悲鳴を上げる。


「お嬢様! 屋敷の外に怪しい人影が! また賊です!」


「賊!? また!? 魔導書狙ってる!?」


レオンが剣を抜き、ニヤリと笑う。


「令嬢、準備しろ。今回は俺一人じゃキツいぞ」


「準備って何!? 俺、戦えねえよ! ただのサラリーマンだぞ!」


窓の外で、黒いフードの影が動く。 月光に照らされたその姿、まるで幽霊だ。


「イザベラ・フォン・クロイツェル…刻印の者よ、魔導書を渡せ…!」


「!? またお前ら!? しつこいんだよ!」


刻印がピカッと光り、魔導書が勝手に開く。 書斎の空気が急に冷え、燭台の炎が揺れる。


『裏切り者の影が、今、君を試す』


「試す!? やめてくれ、俺の人生、もう十分試されてるよ!」


庭の闇から、複数の人影が屋敷に迫る。 レオンの目が鋭くなり、俺の心臓はバクバク。


(この状況、ゲームの知識じゃ対処できねえ! でも、魔導書と刻印が鍵なら…俺、なんかやらなきゃいけないのか!?)


胃がキリキリするけど、どこかでサラリーマン魂が叫ぶ。


「締め切りギリギリのプレゼンだって乗り切ったんだ。なんとかするしかねえ!」

読んでくれた皆さん、ありがとうございます! 感想やブックマークや評価も良かったらお願いします!作者のモチベーションがUPします笑

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