第一話:悪役令嬢、ドレスで絶叫する
「は!? なんで俺がこんなフリフリのドレス着てるんだよ!?」
朝っぱらから、俺の絶叫が豪華な天蓋付きベッドの部屋に響き渡った。目の前には、でっかい鏡。そこに映ってるのは、金髪の縦ロールがキラキラ輝く、めっちゃ美人な女の人だ。青い瞳、陶器みたいな白い肌、ド派手なドレス。まるで絵画から飛び出してきた貴族の令嬢って感じ。
でも、問題はそこじゃない。
この体、俺じゃねえ!
「待て、落ち着け、佐藤悠斗。まずは状況を整理だ…」
俺は深呼吸して、鏡の中の自分——いや、この女の人をじっくり観察した。
金髪、青い目、めっちゃゴージャスなドレス。
名前は…なんか頭に浮かんでくるな。
イザベラ…イザベラ・フォン・クロイツェル!?
「うそ、まじかよ! あのクソゲーの悪役令嬢!?」
そう、俺、佐藤悠斗、28歳独身サラリーマン。昨日まで残業でクタクタになって、コンビニ弁当かっ食らいながら寝落ちしたはずなのに、目が覚めたらこの状況だ。
どうやら俺、去年ハマった乙女ゲーム『キラキラ☆ロイヤルハート』の世界に転生しちまったらしい。しかも、よりによってヒロインのライバル、超絶嫌われ者の悪役令嬢イザベラ・フォン・クロイツェルに!
「いやいや、冗談だろ!? イザベラって、ゲームの終盤で婚約者の第一王子にフラれて、断罪されて国外追放されるバッドエンド確定のキャラじゃん! こんなん最悪すぎる!」
俺は頭を抱えてベッドに倒れ込んだ。フカフカのマットレスが体を受け止めるけど、そんな優雅な気分にはなれない。だって、イザベラの運命って、
・ヒロインに嫌がらせしまくって、
・貴族社会でフルボッコにされて、
・最後は「この悪女め!」って王宮から追い出される、
ってシナリオなんだぞ! 誰がこんなハードモード引きたいんだよ!
「よし、こうなったら運命を変えるしかない!」
俺はベッドから跳ね起きた。幸い、ゲームのストーリーは全部覚えてる。イザベラがやらかすイベントを回避して、ヒロインと敵対しなけりゃ、バッドエンドは防げるはずだ。
「よーし、まずはイザベラの性格を改めるぞ。傲慢で高飛車なキャラ設定は捨てて、愛されキャラにチェンジだ!」
と、意気込んだその瞬間、
ドンッ!
部屋のドアが勢いよく開いた。
「お嬢様! お目覚めですか!? 至急、支度を! 第一王子殿下からの緊急の呼び出しです!」
現れたのは、メイド服を着た若い女の子。焦った顔で俺にまくし立ててくる。
「え、ちょっと待って!? 第一王子!? いきなり!?」
俺の心臓がバクバクした。
第一王子、ルーカス・ヴァン・ロゼフォルト。イザベラの婚約者で、ゲームのメインヒーローだ。めっちゃイケメンだけど、ヒロインにベタ惚れしてイザベラをポイ捨てする冷酷な奴でもある。
こんな早い段階で王子と対面とか、シナリオ的にやばすぎる!
「急いでください! 王子殿下が直々にイザベラ様を指名して…!」
メイド(たぶん名前はリナとかだったはず)が俺の手を引っ張って、ドレッサーの前に座らせる。
「ちょっと、待って、状況説明して! なんで王子が俺を…いや、イザベラを!?」
「それは…その…王宮で何か大変なことが起きたらしく、イザベラ様にしかできない相談があると…!」
リナがオドオドしながら答える。
「は!? 俺にしかできない相談!? 何!? ゲームにこんなイベントなかったぞ!?」
頭がパニックになりながらも、リナに押し切られてドレスを着せ替えられ、髪を整えられ、アクセサリーをジャラジャラつけられた。
鏡に映る自分は、ますますゴージャスな貴族令嬢。
「うわ…これ、めっちゃ美人なんだけど…俺、こんな姿で王子に会うのかよ…」
内心のオッサンと外見の令嬢のギャップにクラクラしつつ、俺は馬車に押し込まれた。
王宮までの道中、俺は必死にゲームの知識を整理した。
『キラキラ☆ロイヤルハート』の舞台は、ルミエール王国。貴族社会のドロドロした権力争いと、ヒロインの恋愛を軸にした乙女ゲームだ。
イザベラは公爵家の令嬢で、第一王子ルーカスの婚約者。序盤はヒロインをいじめて目立つけど、中盤以降はヒロインの逆襲で立場が悪くなり、最後は断罪イベントで終わる。
でも、今の状況はゲームのシナリオと全然違う。王子がイザベラを呼び出すなんて、序盤のイベントには出てこなかった!
「まさか…転生したことでストーリーが変わった!?」
俺は馬車の窓から見える王宮の尖塔を眺めながら、嫌な予感に襲われた。
王宮に着くと、豪華な回廊を抜けて謁見の間に案内された。
そこには、金髪碧眼の超絶イケメン、第一王子ルーカスが立っていた。ゲームのCGそのまんまの顔に、俺の心臓がまたバクバクする。
「イ、イケメンすぎる…! いや、落ち着け、俺は男だ! いや、今は女か…!?」
内心の葛藤を押し殺し、俺はなんとか貴族令嬢らしいお辞儀をしてみせた。
「イザベラ・フォン・クロイツェル、参上いたしました、殿下」
(うわ、声まで可愛い! これが俺の声なのかよ!)
ルーカスは真剣な顔で俺を見下ろす。
「イザベラ、単刀直入に言う。君の家に伝わる『呪われた魔導書』について話したい」
「…は!?」
俺の頭が真っ白になった。
呪われた魔導書!? そんなアイテム、ゲームに出てこなかったぞ!?
「え、ちょ、殿下、なんのお話を…?」
しどろもどろで返すと、ルーカスは一歩近づいてきた。
「その魔導書は、王国の歴史を操る力を持つ禁断の遺物だ。だが、今、王宮に危機が迫っている。イザベラ、君がその鍵を握っている」
「は、はぁ!? 俺が!? いや、イザベラが!?」
心の中で絶叫しつつ、俺はなんとか平静を装った。
「その…魔導書は、わたくしの家に…?」
ルーカスは頷き、鋭い目で俺をじっと見つめる。
「そうだ。クロイツェル公爵家に代々伝わる秘宝だ。イザベラ、君ならその在処を知っているはずだ」
(知らねえよ! そんな設定、ゲームになかったぞ!)
その時、背後から別の声が響いた。
「ふむ、イザベラ嬢がそんな重要な役割を担うとは、驚きだな」
振り返ると、そこには銀髪に紫の瞳、ニヤリと笑う美形の男。
第二王子、カイザー・ヴァン・ロゼフォルトだ。ゲームでは自由奔放なトラブルメーカーで、ヒロインをからかうサブキャラ。
「カイザー、余計な口を挟むな」
ルーカスが冷たく言うけど、カイザーはニヤニヤしたまま俺に近づいてくる。
「イザベラ嬢、面白いことになってきたな。魔導書、ほんとに持ってるのかい?」
「え、えっと…その…」
(やばい、こいつらに囲まれてる! どうすりゃいいんだ!?)
その瞬間、俺の頭にチラリと記憶がよみがえった。
クロイツェル家の屋敷、イザベラの部屋の隠し扉…そこに、古びた本があったような…?
「まさか…あれが!?」
俺は思わずつぶやいてしまい、ルーカスとカイザーの目が一気に俺に集中した。
「イザベラ、何か知っているな?」
ルーカスの声に、俺はゴクリと唾を飲んだ。
その夜、クロイツェル家の屋敷に戻った俺は、部屋の隠し扉を必死で探した。
「あった…!」
本棚の裏に、確かに隠し扉があった。開けると、そこには古びた革装丁の本。
表紙には不気味な紋様が刻まれ、触れただけでゾクッとするような冷気が漂う。
「これが…呪われた魔導書…?」
ページを開くと、古代文字でびっしり書かれた内容。読めないけど、なんかヤバそうな雰囲気プンプンだ。
「これ、ほんとに王国の秘密が書いてあるのか…? でも、なんでイザベラがこんなもん持ってるんだよ…」
と、その時、本のページが勝手にめくれて、ある一文が目に入った。
『クロイツェル家の血に宿る刻印は、王国の運命を握る』
「刻印!? 何!? 俺の体にそんなもんある!?」
慌ててドレスの袖をめくると、確かに、腕に不思議な紋様が浮かんでいた。
「うそだろ…俺、どんだけヤバい状況に巻き込まれてるんだ!?」
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