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09.第5部隊

女性部隊はちょっと調子に乗っているようです

 第一部隊全員が起きたのは昼過ぎ、早くしないと食堂で昼食を食いっぱぐれる時間だった。全員が必死に駆け込み、なんとか昼食に間に合った。駆けて来る途中、妙に違和感を感じたが、なんだったろうと全員が首を傾げる中、パシャが小声で「あ」と気付いたように声を漏らした。


「死体、消えてたの、皆が片付けてくれたの?男の人の死体どうしたの?」

「いや、俺たちは片付けていない」

「そそ、片付けたのはどっかの行き倒れ2人だけ」


 食べるスピードが遅かった所為か、元々遅かった所為か、デザートメニューに差し変わった食堂に、甘いものを求めて甘党達がやってくる。


「……っそうよね~」

「なんでいきなり第3だけ襲われたのかが謎だけどねえ」


「あ…待ってくれ、第3になんかあったのか?」

「えー情報おっそーい。隊長の癖に」

「悪い、全員深夜行軍帰りで今さっきまで寝ていた。山頂の記録ポイントを見てくれれば解る」

『えっ俺らアリバイ作り要員?』

『あんまりっすよ隊長ー…』


「なんか凄い怪物の死体と、副長と隊長の死体が有ったって。一般兵も皆死んだらしいわよ」

 それは、パシャが見た第一部隊の最初の結末だ。

「普通の死体と違ってたらしいよ。なんか上半身と下半身を引っ張って千切ったようなのとか、握り潰されたようなのとか」


 ただの尻尾切りでそこまでやるのか。

 ……もしやとは思ったが、騎士団内部にも組織が食い込んでいるようだ。


「あ。君が噂のパシャちゃん?うわ―…本当にちっちゃい…」

「いやーこれで凄腕はないっしょー…噂アテになんねー…」

「すまんが、ウチで一番強いのはパシャだ。それは間違いない。が、強いことと凄腕な事は意味が違うから、凄腕か?と聞かれると違うと思う」


「ほっほう、第一で一番強い、と隊長が言い切るかねえ。まあ女子だから将来第5に来る可能性高いし、いっちょ手合わせ頼みたいんだけどいっかな、()()()()()

 きょとんとパシャは瞬きする。もぐもぐしてる口の中身をごっくんしてから口を開いた。

「まだご飯中。あと、食べて直ぐの手合わせは嫌だから。訓練後、修練場でいい?」


「うわ。いっちょ前にタメだし」

「ウチのパシャは副長だが、タメ口で何か失礼にあたるか?」

「マジか。あんたら阿呆なんじゃないの?チビに何やらせてんだよ」


「隊長は阿呆じゃないよ。凄いんだよ!」

「あーもうだめだこいつウザい」


 態度の悪い女性騎士がパシャの食べかけのごはんを蹴って地面に落す。楽しみに取っておいたデザートは中身が床に零れ落ちてしまった。パシャの体が電撃を受けたようにビクッと震える。

「私の食べ物を奪うのか、お前」


 パシャの体から殺気が溢れ、蹴り飛ばした女性を睥睨(へいげい)する。

「殺す。外に出ろ」

「あぁ?上等だよチビ」

「木刀にしとけよー」


「あのまま始めそうだから、俺取って来る」

 サッと第一で一番足の速い団員が素早く修練所まで行き、木刀を持ってくる。

「パシャとそこのアンタ!ほれ」

 投げ渡した木刀は確りと両名に渡った。


「名乗れよ。アタシはサアシャ・ブランドン」

「パシャ・コーストロード」


「あん?潰れたスラムの孤児院じゃねーか。お前孤児か」

「だったらなんだ」

「いいや~?そんな奴に負ける気がしねえってだけさ」

「…パシャのご飯を奪っただけで飽きたらず、皆を馬鹿にするお前はそんなに偉いのか。実力見せてもらうぞ」


 統率を介して、戦闘と暗殺のリベラルを解放する。

 サアシャが切りかかった時にはパシャは既にそこには居らず、回り込んで相手の利き手を痛打する。

 ぐるりとサアシャの体を回りこむように、脇腹、背中、逆側の脇腹、左手小手、そして鳩尾に突き。


「ゥァアアッ!ガッ…なんだコイツ…痛ッ…早いしチビだし当てづらい…ッ」


 両手の小手を痛打され、マトモに木刀を持てないでいる相手の横っ面に飛び回し蹴り。そのまま後方へ回転して背後に降り立ち両足を狩る。両膝裏に痛打。倒れこんだ女性騎士の利き手側の小手を木刀の先で抉りながら見下ろす。


「口だけか、第5とやらは」

「五月蝿……っくううう痛い!ダウンした相手にまだ攻撃掛けるのが礼儀かよ!」


「降参するか死ぬまで攻撃が続くのは当たり前だろう。お前は敵がダウンしたら攻撃やめるのか」

 ギリギリと歯軋りし、サアシャはなんとか立ち上がろうと膝を震わせる。


「誰が降参なんかッ……」

「そうか。では続きをするんだな?」

 パシャの口元が三日月のようにニヤリと裂ける。


「ひっ…」

 それからはかなり凄惨な拷問のような立ち合いとなった。サアシャの振るう木刀は当たらず、パシャの木刀は吸い込まれるように相手の関節を一つ一つ潰すように痛打していく。足首と膝をどっちも潰されたサアシャの目に涙が浮かぶ。後は顔でも潰してやるか、というパシャの呟きが聞こえたのかサアッと顔色が変わる。


「こ、降参、降参します。顔は嫌!」

「…根性のない。うちの連中の方がまだやれるぞ。第5ってのは随分ヌルいんだな」


「ぁあああああああ!!」

「…ッフッ!――寝とけ」

 パシャが踵を返した瞬間、サアシャは渾身の一撃を頭に当てようと襲い掛かる。パシャは振り向き様にその刀を打って飛ばし、サアシャの首に一打入れて昏倒させる。そのまま木刀を持って室内へ戻ってくる。


「………」

「どうした。何処か痛めたか?」

「パシャのごはん………」


 ぼろりと涙を零しながら、床に落ちた唐揚げを口に入れようとするのを、オルソーニは止めた。


「ダメだ、騎士団では落ちたものを食べるのはやめろ」

「――まさか捨てるのか!?」

「当たり前だ!いいからこっち来い」


 まだ半分程しか食べていない美味しいごはんを捨てる、という信じられない暴挙に、パシャの思考は停止する。

 まだ腐ってない、まだ食べられるのに、どうしてか解らない。


 しかも挑発するように、サアシャの同僚が、落ちたごはんをぐりぐりと踏み(にじ)った。


「――殺す、お前も殺す!!」


 殺気に満ちた声に、踏み(にじ)っていた女性の動きがびくっと止まり、そおっと足をどける。しかしその下には、ぐちゃぐちゃになった唐揚げとオムレツがご飯と一緒に黒い土のついた足跡で(にじ)られており、今度こそ食べられなくなっていた。


「団長、はなして」

「ダメだ。いいからちょっと付き合え」

「~~~~~~~!!!」

 思わずパシャは団長の腕に歯を立てる。

「痛ッ!!おま、噛み千切るなよ!?」


 オルソーニは行きつけの中でもそこそこ値段の張るレストランにパシャを連れ込み、自分の一番のオススメを注文してやる。自分はドリンクのみだ。


「あいつら、飢えた事なんかないんだ。平気で食べ物を粗末にする奴は、ゴミ漁りしなきゃメシが食えなくなればいい」


 まだ頬に涙を伝わせながら、悔しそうにパシャは言う。


「言いたいことも解るし、俺もパシャには賛成なんだ。だがな、あそこで落ちた食べ物を食べるとお前は(あなど)られる。第一部隊の副隊長は落ちた飯でも平気で拾って食べる意地汚い奴だ、と面白おかしく噂される。体格のハンデがあるのにそんな汚名までつけば、団では(すご)(にく)くなるぞ」


「………」

 パシャには、憧れだった騎士団が、一気にくすんで見える出来事だった。

 そんなパシャの気持ちが解ってしまうオルソーニは、パシャの頭を撫でる。


「第5なんか気にすんな。お前はずっと俺と居りゃあいい」

 ずっと下を向いていたパシャが、顔を上げてオルソーニを見る。


「…うん。気にしない。でも今度からご飯は守る。気を抜いたパシャが悪かった」


 丁度注文した品がサーブされた。まるまろ兎の詰め物入り丸焼きとバゲット、スープだ。

「これっ…まるまろ!!美味しいやつだ!!」

 早速パシャは丸焼きに(かじ)りつく。あの時宿屋で食べたのより美味しい。肉汁もたっぷりでパシャは頬を押さえてにこにこ顔になる。


「食い切れなきゃ俺が残りを食ってやる。美味しいからって食いすぎるなよ。午後も訓練はあるんだからな」


「んー!んふぁっふ!」


 結局食堂でも半分食べていたパシャはここでは残りの3分の1がどうしても食べられなくてダウンした。


「まるまろ…3分の1…」

 悔しそうに呟くパシャに苦笑して、オルソーニは「また連れて来てやる」と約束した。

 残った分は捨てられる事無くオルソーニが全て平らげてくれたのをほっとしながら見つめていた。


 団に戻ると異様な雰囲気が流れていた。

「やっと帰って来た…」

「遅いっすよ隊長……」


「相手の言いたい放題で試合が決まっちまいましたよ」

「しかも勝ち抜き戦で、先鋒に隊長が出て来るみたいですけど」


「パシャ、先鋒やる」

「じゃ、俺は2番手辺り貰うかな」


「何をのんきな…まあ、二人がそれでいいなら、後は実力順で大将まで決めちまいますけど」

「獲物は木刀でいいんだろう?」


「いえ、それが…」

「なんでもあり、と」


「馬鹿な!死人が出るぞ!特にパシャの相手が危ない!」

「あちらさんも、隊長が魔剣を使いたいようで…はぁ。危ないって注意したんですけど聞く耳持たずで…なんなんですか第5。横暴過ぎませんか?」


「あー…ちょっと女性だからって甘い扱い受けてるからな…お花畑がかなり居るようだな――第5へ通達、死人が出た場合、そちらで責任を取る事。こちらは何があっても責任は取らないしクレームも受け付けない。その場合に於いてのみ、武器の自由化を認める。こちらの先鋒のパシャは銃がメイン武器である事も了承して貰う。拒否した場合双方木刀にて勝負する事」


 オルソーニは言いながら、同じ内容を2枚ペンで紙に記す、そして指輪になっている印章の蓋を外して捺印する。


「誰か届けてきてくれ。1枚は判貰って持ち帰れ」

「あ、じゃあ俺が」


 はああ~とオルソーニは息を吐く。こんな内容で試合だなんて。

「パシャが暴れたい放題じゃねえか…」

 一方のパシャはごはんの恨みを晴らすチャンスだと鼻息荒く試合を望んでいる様子だった。


 おかしい、自分は組織の陰謀が団内にもあり、第3部隊を潰した件について聞き取りしたかっただけの筈なのに。


 翌日、張り出し新聞に知りたかった事はあらかた書かれていてオルソーニはホッとした。

 最悪第一に責任を(なす)り付けるような文章があればどう対処しようか悩んでいたのだ。

 ただ、第3の隊長が関わっていたのは解るが、誰が第3の隊長までも粛清(しゅくせい)したのかだ。


 まだ上の位階の方に、黒幕の1部が居るだろう事は容易に想像がつく。そしてリベラルの存在を知ったオルソーニとパシャを今後も何かと狙うに違いない。



「…試合なんかしてる場合じゃねえと思うのは俺だけか…?」


魔剣VS銃器、どんな魔剣かによって有利不利が決まりますね。一体どんな魔剣なんでしょう。

読んで下さってありがとうございます!少しでも楽しく読んで頂けたならとても嬉しく思います(*´∇`*)もし良ければ、★をぽちっと押して下さると励みになります!

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