08.なりそこないの群 下
襲ってくるなりそこない達にとどめを刺します
気がつくと、ご飯を食べ終わったプレートを返却口に返していた。見知った仲間の死体がごろごろ転がって居たのを思い出し、パシャは食べたばかりのご飯を吐きそうになる。暫く考え、オルソーニに相談しに向かった。
「団員を今夜だけでもこの宿舎から追い出したい?なんでまた」
「全員殺されるから」
「待て――戻ってきたのか。お前も殺されたんだな?」
パシャは自分が体験し、見てきた事をありのまま説明する。オルソーニの顔がぎゅうっと歪む。
「解った、あいつらには深夜行軍演習とでも言って、いつも使ってる山の演習場へ行かせる。1晩はかかる筈だ」
案の定、やっと寝る前の自由時間を楽しんでいた団員達に総スカンを食らうが、団長とパシャの表情が凍りついたように真剣なものだと言う事に団員が気付く。喋れないナニカが有るのだと言外に告げられたのと同じだ。
「――仕方ないですね!!じゃあ深夜行軍行って来ますよ!帰ったら何があったか言える範疇で聞かせて貰いますからね!」
「わかった。すまない、早く行ってくれ」
団員たちがブーブー言いながら行軍に行くのを見届け、パシャは全ての入り口にワイヤーと手榴弾で簡易トラップを作る。知能が有る様には見えなかった為、こんな見え見えの罠でも掛かるに違いないという確信があった。
「団長、絶対にこのワイヤーを引かないで。死ぬから」
侵入できるなりそこないはこれでかなり数が減る筈だ。念の為、見え辛い透明のワイヤーを使った。
団長が襲われていたのはメインの玄関だ。人間も居たので真正面から入る事でささやかな矜持でも満たしていたのだろう。細身の癖に大剣使いだった。舐めて掛かると痛い目に合いそうだ。手榴弾を警戒し、厚くバリアを張って10m離れた位置で伏せ、長椅子の下で待機する。 各所、僅かなズレがありながらもそれぞれが爆発した音が聞こえた。
「ぐぁああああ!!!卑怯な…」
行き成り攻め入ってきて卑怯もクソもあったもんじゃない。影から様子を伺うと、手榴弾の中身で目と胸、腹に破片を受け、既に瀕死である。超能力で目に刺さった破片を脳に達するまで押し込む。声にならない悲鳴を上げ、男は死亡した。
なり損ないはそこそこタフであったようだが、爆風と破片でかなりやられており、死亡4、瀕死1という状態だ。瀕死のなりそこないに迫撃砲で攻撃し、その場をクリアにする。ちゃっかりサイフも頂いておく。一応リベラルを持っていないか探ったが、この男は1つしか持っていないようだった。回収する。ふと、横に団長が居ない事に気付く。
「団長…?」
夢遊病のようにふらふらと大きななりそこないの手元まで歩く団長。
「…リベラル!」
大きななりそこないの右目はリベラルが光る。なんらかの特異能力で団長を引き寄せたと見るべきだ。大きななりそこないの手が長い。迫撃砲で顔の位置を狙って撃った瞬間、団長が正気に返るのが解った。
「団長!大丈夫ですか!」
「後ろだパシャ!!」
まだバリアは生きていたが、他の入り口から入り込んだ怪力のなりそこないにバリアごと砕かれ、両手で頭と足を掴まれる。目の前が暗くなったパシャが最後に聞いたのは、ぶちぶちという自分の体が千切れる音だった。
気がつくと、ご飯を食べ終わったプレートを返却口に返していた。パシャはまだ掴まれた感触が体に残っているような気がするのを振り払い、団長の元へ走った。
前回と同じように説明するが、一つだけ違う事がある。大きななりそこないの存在だ。リベラルを持ち、団長を操っているように見えた。場をクリアしたら、一旦おおきななりそこないが来たのとは逆方向になりそこないを始末して、最後に背後から強襲したい。
そう、考えを話すと、団長は頷いた。
「どうせ正解ルートなんて解らない。それで行こう」
ブーイングされながらも団員たちを行軍に見送り、トラップを仕掛けて回る。本来ならば安全圏は200mは必要で、直ぐ傍で爆発したなら、人間ならば即死でおかしくない。多分あの人間は、ある程度なりそこないを盾に使ったのだろう。私達がこうして分厚く張ったバリアに守られながら地に伏せ、10mは離れて来客用の長椅子の下に入り込んでいるように。 各所、僅かなズレがありながらもそれぞれが爆発した音が聞こえた。
「ぐぁああああ!!!卑怯な…」
状況は解っている。すぐさま超能力で目の破片を脳まで押し込んで殺し、迫撃砲で瀕死のなりそこないを片付ける。財布とリベラルの位置は覚えているのでさっさと掻っ攫って鞄に押し込む。そのまま団長の手を引いておおきななりそこないと逆方向に走る。次の入り口では2匹残っていた。迫撃砲で手早く始末する。
入り口は全部で4つ、半分クリアした事になる。3つめ、生き残り0、見渡すが動いているものはない。最後の4つめへ、緊張しながらそっと音を抑えて走る。何かの影が見え、迫撃砲を構えるが、相手は団員だった。
「エルゼルトさん、残っちゃダメって言ったでしょう!!」
茫洋とした目をしている、と気付いた時には。――トス。そんな軽い音で、団員に目から脳までを剣で貫かれ、私の目の前は暗くなった。
気がつくと、ご飯を食べ終わったプレートを返却口に返していた。エルゼルトに貫かれた目が痛む気がした。団長の下へ走り、前回と同じように説明をするが、付け加えてエルゼルトが行軍に行かず残っていたようだと話す。
「ああ…年中反抗期みたいな男だからな…」
今回は行軍へ行く様に指示した後、ある程度団員が出て来るのを待ってエルゼルトの部屋へ入る。
「うわ、何すか。俺は行きたくないんで」
「…そんなに私を殺したい?」
「何の話……」
「貴方が残ると、貴方が私を殺す羽目になる。それでも残りたい?」
「意味わっかんねえんだよ!!何の話をしてるんすか!!」
「今から起こる未来の事。お願い今日だけは従って。帰って来たら殴ってもいいから」
「なんでそんな…真顔で………っっ!わかった解りましたよ!行軍してくればいいんでしょう!!」
ざっと用意を済ませ、エルゼルトは表で待っていた団員達と合流し、行軍に行くのを見送る。ほっと息をついたらさっさとトラップを設置していく。バリアを分厚く張って、長椅子の下で待機する。各所、僅かなズレがありながらもそれぞれが爆発した音が聞こえた。
「!?」
男の悲鳴が聞こえない。あちらでも未来がずれる何かがあったんだろうか。正面玄関、瀕死が1、迫撃砲で撃破、クリア。さっきと同じ方向へ走り、次の入り口で2匹、迫撃砲で撃破、クリア。3つめ、生きているものなし。クリア。4つめが問題だ。人間の男も、リベラル持ちの大きななりそこないも、そっちに居るのだろうか。
最後の入り口の様子を伺うと、人間の男は足を一本持っていかれた程度ですんだようだ。散々悪態をついている。なりこないの死体は5あるのに、何故か10体ほど殆どダメージのないなりそこないが居る。一撃で確実にあの大きななりそないを仕留めたい。
「――大刀降り落ちん」
愚痴で忙しい人間が気付く間もなく、大きななりそこないは両断され、茶色くシワシワと萎んでいく。
ぱかりと口を開いたまま男が叫ぶ。
「僕にオルソーニを近づけるな!!!なんかオカシイ幼女もだ!!ほら行け!!オルソーニは捕縛だ、覚えてるな?」
パシャが迫撃砲で5匹ほどなりそこないを片付けている間に、男は悲鳴を上げながら目潰しを投げつけてくる。痛い。目が開かない。気配だけで腰の銃を抜き打ちすると男に当たったようで悲鳴があがる。
「なっ、なんで見えないのにっ…ええい幼女は一旦置いてオルソーニだ。殺してないだろうな?」
パシッと音がしてオルソーニの呻き声が聞こえる。
「これを食え」
リベラルか!なんとか目を開こうとするが、どうしても痛みで開けていられない、開けてもボンヤリとしか辺りが見えない。
――アノ男ヲ助ケタイナラコウ言エバイイ――――――
「オルソーニ!私の従僕となれ!拒否権はない!」
「わ、かった」
顔を背け、リベラルを含まないように唇を噛んだようなもごもごした返事が返って来る。
「魔女のわたしは騎士を得た。彼を従僕に任ず!」
私とリベラルを共有状態にし、リベラルで死ぬ事のない体をオルソーニにやった。これで問題なく…
「そのリベラルを食え!」
ガリッ、と男の指ごと食い千切る音がした。
「ウァアアアア!!!僕の指、指が…!!足を奪っておいて指まで!!!…でももうお前は終わりだ、リベラルを食っちまったもんなあ!!せいぜい使えるなりそこないになってくれよ!」
オルソーニがリベラルを食べている間に、私は水を呼び出して自分の目を洗った。よく見える。同じようにオルソーニの目を洗ってやる。食ったばかりのリベラルを発動しているのか、自分を押さえつけた二匹の怪力のなりそこないを振り払い、顔の部分を拳で打ち抜く。
「ばばばばばばかな!!!お前が?お前が適合者なのか!?聞いてない…こんなの聞いていない…!」
私は始めて食べたときに酷い痛みを覚えたが、オルソーニは違うのだろうか…いや、痛みに耐えているのか、酷く歪んだ顔で力を行使しているようだ。
こそこそと逃げようともがいている男は、残ったなりそこないにオルソーニを殺せと喚き散らしている
私は腰の銃で男の額に穴を開けた。ドサリと男が沈み、迫撃砲に持ち替える。残り3匹、全て蹴散らした。
財布の位置は覚えているのでさっさと掻っ攫って鞄に押し込む。なりそこない(大)からもリベラルを回収した。
暫く脂汗を流しながら歯を食いしばって壁に凭れていたオルソーニは、やっと痛みから解放されたのか、はぁっと大きく息を吐き出した。
「お前に殺されるのかと覚悟するほど痛かったぞ」
「私も初めて食べた時は激痛だったが、目の前に敵が居たから痛がってる暇はなかったな」
「そりゃ御愁傷様なこって…」
「いきなり従僕にしてすまない。リベラルをお前も使えるようになったが、代わりに私の言葉にはある程度逆らえない」
「いんや。どうせならとことんまで巻き込んでくれて嬉しいぞ」
「そ…そうか…へ…へへ」
パシャはオルソーニにぎゅうっと抱きついた。拒否されなかっただけでも凄いのに、オルソーニはもっと凄かった。
安堵からか、目が潤む。力が抜けて立っていられない。自分がもうすぐ気を失う事を察知したパシャは、どうせなら、とリベラルを口に含む。そのままオルソーニに凭れて寝た。
「待てパシャ、俺も今体が限界で動けない………まあ、仕方ねえか。長い夜だったしな」
そろそろ夜が明けようとしている。くらくらしてきたオルソーニも、壁に凭れていつの間にやら眠っていた。
行軍から帰って来た面々はぎょっとした。あちらこちらに化け物の死骸、1人は人間が死んでおり、その傍でボロボロになった団長とパシャが眠り込んでいる。
「なんかあるんだろうとは思ってたけど…」
「そりゃないっすわ団長~~~。俺ら足手纏いですか~」
「……特殊能力持ちだったんだと思う」
「なんだそれ」
「パシャが、俺に殺されるって言ってたから、最低でも操られる可能性があったって事だと思う。大人数だと操られる幅が広くて危険だから、少人数で対応したかったんだろ」
「まあ、邪魔臭いからこの二人にはベッドへ行って貰うか。俺パシャ運ぶ」
「あっおま…隊長重いからって…2人で運ぶか…筋肉達磨を…」
行軍で疲れている面々だったが、仕方なさそうに2人に手を貸す。そして自分たちも自室へ戻って眠った。
起きたらあの怪物の残骸と人間の死体はどうしようかと思いながら、未来の自分にぶん投げた。
リベラルは傀儡のリベラルと超人のリベラル(10秒のみ)だった。
夢の中、オルソーニにナビゲーターが最低限の説明をし、消える。その後にモヤモヤした気分が残った。夢うつつ、オルソーニは自分の記憶を探る。
――待て。見覚えがあった。あの男は確か、第3部隊の広報――?
オルソーニが同じ仲間になってくれた事で、パシャさんは泣くほど嬉しいようです。
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