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07.なりそこないの群 上

長いので2つに分けます><

 オルソーニは、事件に巻き込まれて以来、パシャの事が解らなくなっていた。少し抜けているが、陽気なパシャと、血と暴力を好み、少し知性を感じる、怒りを表すことの多いパシャ。


 出合った頃には完全に分離して考えていたそれが、先日以来、事件のショックで分離した二重人格なのではないかと思えてきたのだ。段々混ざり合って来ている様にも思う。ともすれば、どちらなのか見分けがつかない事がある。事件がなければ陽気なパシャで居る事が殆どだが。まあどっちもほぼ敬語を使い慣れてない、という1点に於いては同じだ。


「聞いてますか隊長!」

 ばん、と机を叩く音でオルソーニは我に帰る。


「え、あ―すまん。何だって?」

「俺がパシャから一本取れたんですよ!誰もまだ取れてないんですよ!?凄くないですか!!」

「おお…そりゃ凄い。俺も今度挑んでみようかな」


「え、でも順番待ち長いですよ」

「順番待ち?」

「パシャから一本取ろうって奴らが大体常に30人は並んでるんで」


「パシャの休憩は?」

「……………そういえばないですね」

「そんな状態で一本とって嬉しいのかお前」

「すいませんちょっと皆に注意喚起してきます……」


 机を叩いていた時の覇気は何だったのかと言うくらいガックリ肩を落とした部下に溜息をつく。

 模擬戦時間いっぱいずっと相手をするなんて並大抵のスタミナでは出来ない。さぞかしボロボロになっている事だろう。オルソーニは食堂でジョッキに2杯の冷えたスポーツドリンクを手に入れて、模擬戦場へ向かう。


 汗だくで座り込んだパシャと、謝っている部下たちが目に入る。

「パシャ」

「おる、そーに…、さん」


 まだ肩で呼吸している幼女に、差し入れのドリンクを渡してやる。

 ぱあっと顔を輝かせて飛びついたパシャはジョッキ一杯分を一気に飲み干した。もう一杯差し入れてやると、今度は少し落ち着いて口を付けながらお礼を言う。


「ありがとう~…ダメかと思った…汗になって溶けちゃうかと…」

「す…すまんパシャ、俺ら気付くの遅くて…」


「んーん、それだけパシャと手合わせしたいって思ってくれたんでしょ?嬉しい…」

 いつもの笑顔を浮かべる余裕がやっと出て来たようだ。


「これからは1日5戦くらい、時間置いて相手してくれねえか?」

「うん。わかった」


「よし、俺らはあっちで誰がいつ挑むか決めて来ようぜ」

「おう」

「わかった」


 模擬戦場の隅っこで紙を広げてわいわいやりだしたのを見て、パシャは嬉しくなる。

「大分仲間って思ってくれるようになったよ」

「パシャはもう確り仲間だよ」

「ふへへ…」


 まだ汗もひかず顔の赤みも取れないまま、それでもふにゃりと笑うパシャは可愛いと思う。

 そう言えば女子風呂がない事に気付いた。女子隊は第5だ。第5まで行かねば風呂に入れない。今迄どうしていたんだろうかと考えると冷や汗が出た。


「なあ…パシャ、お前、風呂はどうしてる?」

「ふろ?なにそれ」

「あー…体を洗って綺麗にする…」


「あ。今の季節は気持ち良いね、井戸水を頭から被るやつでしょ?」

「いや違う。えっ…お前どうやって体綺麗にしてるんだ?」

「こうやって…」


 ぶわっと泡が出て、パシャとオルソーニを包むとぷわんと消える。オルソーニは髪も体も服も全てサラサラのピカピカになっている事に気付いて、暫く沈黙する。第5まで毎日入りに行けと言うより自室で出来る分、こっちの方がマシだと思えた。


「いいか、こうやって体とか服を綺麗にしてるのは内緒にするんだぞ。普通は風呂に入ったり洗濯したりするもんなんだ」

「へえー。どうやってるのかなって思ってた」


「うむ、だが、お前が入れる風呂は第5部隊まで行かないとないんだ。だから丁度いいからその魔法で毎日綺麗にしとけ」

「んー…うん、解った」


 パシャとしては風呂というものに興味があったが、遠いところを夜に往復するのは面倒だなという思いもあった。

 そして面倒さが勝ってしまった。1度行けばきっと毎日行かないと納得されないだろうと思ったからだ。




「アレでしょ?わざと第一部隊隊長が居るときに襲ったんでしょアイツ。馬鹿だから~。人質として使って戦いにくくするんならもうちょっと人選ってあるよね。ていうか、隊長巻き込んだんならもう部隊ごと標的にしても問題ないんじゃない?え?目撃者を増やすなって?どうせ見たって関係ないよ。全部持っていくから!全滅でしょ、第一部隊。…はいはい。アンタのオルソーニ嫌いは知ってますけどねえ?団と切り離して狙うのは無理がありますよ。それこそ街中で襲わなきゃならなくなる。――オルソーニだけ狙って部下は欲しかった?馬鹿言わないで下さいよ、再配備されるに決まってるでしょう!それに問題は幼女の方でしょう。隊長の事ばっかり言ってますけど。一番見られたくない所を見られて、リベラルも奪われてる。ま、幼女だけに宝石かなんかと勘違いしてる可能性もありますけどね。――はいはい。口だけじゃありませんよ僕は。ちゃんと働きますって。だからC-94塔の連中借ります。え?また作ればいいでしょ。ゲンブツなくて作れるんなら経済的じゃないですか。ハイハイハイ、今夜動きますよ。じゃ、準備があるんで」


 男は通話石の魔力を切った。はあーと疲れた溜息を吐きながら愚痴る。

「学生時代に彼女取られたからってねちっこ過ぎるでしょ…ああもう…」

 コツコツと足早に自室を後にし、戦闘の準備を始めた。




 今日のパシャのごはんを取ってくれたのはオルソーニだった。お礼を言っていっぱいおかずの乗った豪華なお皿に鼻歌が漏れる。第一部隊の面々は苦笑しながらその音痴な鼻歌を聴いている。


 第一部隊の皆の傍に陣取って、椅子の上に膝立ちしながらご飯を食べる。子供用椅子は団にはなかったのだ。隣に座ったオルソーニが椅子を寄せ、膝の上にパシャを乗せてやる。


「それじゃ食い辛いだろう」

「いつもこうやってるよ?」

「まあ、俺が居るときは乗せといてやるから食べろ」

「おお…確かに食べやすい」


 ごはんを食べているときのパシャは解りやすく幸せそうだ。にこにこしながら小さな口一杯に頬張ってもごもごしつつほっぺを両手で押さえている。団員はそんなパシャを見るのが好きだ。自分の飯も美味くなったように感じるからだ。


 デザートが付いて来た日は特にキラキラした目でそれを見て、一口づつ蕩けそうな顔で食べるものだから、思わず自分の分を差し出す団員が出て来る。食べすぎは良くないので、誰か1人が差し出したらそこで終わりにしろと団長に注意されている。


 そんな当たり前の日常が今日も終わろうとしている。



 それは全員が寝入った頃に起こった。侵入者アリのブザーがあちこちで鳴り響く。全員が起床し、直ぐに戦闘準備を整え、ブザーの鳴った辺りへ近いものが駆けつける。


 其処に異形の姿を見て、団員たちは目を瞠った。異形の動きは遅い。腹の辺りの顔はへらへらと笑っていて、剣を通しても効いているのかいないのかが解らない。焦って間合いを詰めて腕を獲ろうとした団員が、化け物二匹に掴まれる。上半身と下半身を大きな手で握った異形は紙でも破るような容易さでその団員の上半身と下半身を千切った。

「ウァアアアアアアアガッ」


「ピート!…皆、近づきすぎるな、あいつらの間合い結構広いぞ」

 短い足に不釣合いな長くて大きな手が脅威だ。そのうち、指を切り取ってから、掌を切り落とす戦法に出るが、じりじりとなかなか進まない。そうこうしている内に、また1人体を千切られる。その地点最後の一人は大きな手で握りつぶされ、口から内臓をはみ出させて死んだ。



 その頃パシャは、リベラルを持たない異形に驚きつつも、迫撃砲で一匹づつ確実に仕留めて行き、1箇所をクリアしていた。パシャを見た団員たちは、他の地点への増援に向かう。クリアしたパシャもまた、他の地点に援護に向かう。


 ふと隊長を見かけてそちらに向かう。すると、異様な光景が広がっていた。千切られ握られ、殺された仲間達の中、隊長だけは捕らえられ、リベラルを食べさせられようとしている。


 勿論隊長はそれを食べるとどうなるかを前回の事件で知っているため、必死で顔を逸らしている、その顔を摘まんで固定され、下顎を――

「うああああああああああ!!!」


 迫撃砲でなりそこないを引き剥がして殺す。押さえつけている方のなりそこないも。やっと隊長を自由に出来たとホッとしていると、切羽詰った顔の隊長が「逃げろ!」と叫んで走り寄ってきた。後ろからの鈍い衝撃にパシャは血反吐を吐く。


「な…に…?」

「貴方、邪魔なんです」


 大剣がパシャの華奢な背骨を砕いて胸の中央から剣先が出ている。それを確認した辺りでパシャの意識は途絶えた。



守る対象が多い程守りきるのは大変ですね。パシャはどうするんでしょうか。

読んで下さってありがとうございます!少しでも楽しく読んで頂けたならとても嬉しく思います(*´∇`*)もし良ければ、★をぽちっと押して下さると励みになります!

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