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最強幼女は特殊スキルで繰り返す世界を生き抜く  作者: 安威 ソウジ
第一章 私は死ねないようだ
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06.なりそこない

パシャは皆に受け容れてもらえるでしょうか?

「依頼がしたい?」

「はい、コーストロード孤児院を潰した男たちの情報を…出来れば(ねぐら)なんかを」

「依頼するにはお金が掛かるぞ?」


 アークロジーが、提示した額は、パシャに払える額であったため、料金を支払う。


「意外にお金を持っておるんじゃな」

 苦笑したパシャはアークロジーに囁く。


『返り討ちにした組織の人のお財布を頂いた』

『なるほど…』


 ふ、と笑うとアークロジーはパシャの頭をぽんぽんと撫でた。

「では依頼として引き受けようぞ。連絡先は第一部隊のパシャ宛でいいんじゃな?」

「はい!」


 オルソーニと第一部隊の面々と一緒に団へと向かう。コンパスの違いから、パシャはオルソーニの腕に座らされて移動している。少し重い空気の中、パシャが口を開いた。


「今日は迷惑をかけた、ごめんなさい。早く倒さないと危ないと思ったら先走ってしまった」


「や、俺らは別に…楽出来たし。依頼料良かったし」


「俺は反省して欲しいかな。大の大人が揃ってチビに追い抜かれる情けない気持ちを理解して欲しいね」


「んー。俺も単独突撃が癖なら直して欲しい、もうソロ冒険者じゃなく団に入るんだから」


「ああ。元ソロ冒険者?――え?12以上?嘘だろ」


「あ、えーと…ごめんなさい、私8歳」


「ああ、その年齢なら納得」


「パシャ・コーストロード、8歳、今日から団に入るのでよろしく」


「敬語使おうぜ」


「いや、副隊長で俺らの上司に当たるみたいだぞ」


「まじか。まあ…今日の戦闘見てたら解らなくは…ないかな…」


「いやでも年齢がさ…」


「団で序列より年齢って気にした事今まであるか?」


「……ないな」


「じゃあこの子だけ特別にそんな事強制するなよ。むしろ俺らが敬語使うべきなんじゃねえ?」


「私は別に、敬語はいらない…です」


「ホラ本人が身の程弁えてんじゃん」


 そこにオルソーニの拳がゴツッと当たる。


「序列優先が団の規定だ。突撃する癖は徹底的に叩きなおす。それで納得してくれ。一応重傷者や死人が出ずに済んだ。結果だけ見れば恩人でもある。災害級相手で死人0って今迄あったか?」


「ない…ですね」


「でもそいつだけ特別扱いされてるようでなんか納得出来ないんです」


「だから、突撃癖は叩きなおすと言ってる。それ以外に何か特別扱いがあったか?」


「え…あ……ない…ですね…」


「お前らはな、ぽっと入ってきた新人が大殊勲を上げたもんだから、悔しいんだよ。でもそれを認めたくないからチビがズルをしたように感じて絡んでいる。男の癖にねちっこいのは関心せんな」


「…そーですね。新人であの戦闘力は卑怯ですよ。立つ瀬がない」


「だから上司になっとるんだろうが」


「ああ、そういう…」


「部隊関係なく新人連れて演習行った事あったろ。オークが巨大コロニー作っててな。オークジェネラル2、オークロード3、オークキング1が率いる500以上の規模だった。別口で鬼髑髏も居た」


「え?新人負傷者なしの死人0で快挙でしたよね!?」


「ほぼ全部パシャが倒した。遠隔から銃でな」


「今日から軍に入るんでしょう?何故その子が?」


「ギルド依頼して戦闘力を測る為に同行して貰った」


「そういう件なら突出しても外部の話だから納得もできるんですけどねえ」


「あー、解りました、解りましたよ。これから突撃癖を叩きなおすっていうなら納得しますよ。でも、先行して視認出来ない距離の敵を払ってくれるのは有り難いのでこれからもお願いしたいですね」


「そそ。問題はその後だよな」


「直すつってんだからもうガタガタ言うなよ、なんか女々しいじゃん俺ら」


「そうだ。悔しいなら特訓でもなんでもして自分の力を上げろ。相手に嫉妬しても1銭の得にもならん」


「特訓であのレベルの戦闘力に?…いつまで掛かるやら」


「パシャは生来の特殊スキルが群を抜いて優秀だ。機密事項になるので話せないが、追いつくにはそんじょそこらの特訓程度じゃ無理だ。が、お前ら、生まれ持った能力が凄いからって差別するのか?」


「あー…みっともないですね。了解しましたよ」


「…悪かったなチビ」


「上司だって言われただろ!」


「あー、すみませんでしたパシャさん」


「「「「すみませんでした」」」」」


「あ、いや、別に私は問題ない。仲良くして貰えるなら嬉しい…です」


「でもクマのリュックは気が抜けるので、団のお仕着せが揃ったら改めて欲しいです。俺ら遊びに行く訳ではないですので」


「わかった、そうする。今持ってる鞄がこれしかないので暫く我慢して貰えないだろうか」


「後で揃うって解ってて今ないものを買えと言うほど切羽詰ってはおりません。ですが解って頂けたなら幸いです」


 重苦しい空気がなんとか解れてきた。どうやらパシャは第一関門を突破できたようだ。オルソーニは安堵の息を吐く。


 その日の夜にリベラルを食べて眠った。超能力のリベラル、というものを手に入れた。


 1週間ほどオルソーニが様子を見ながら全員で訓練をしたところ、徐々にパシャは第一部隊に馴染んで来ているようだ。新人が音を上げる訓練メニューを、戦闘のリベラルを使って同じように、もしくは優秀な成績でこなしている所が大きい。


 これで新人と同じように音を上げていたらまた摩擦が生まれていただろう。なりだけが子供の、優秀な上司だと認めて貰えたようだ。


 ただ、食事の配膳口に手が届いていなかったりするのは苦笑されていた。その時に傍に居る誰かが代わりに受け取って渡してやるのが風物詩になっている。


 お仕着せも届き、鞄や靴なども揃った為、余計に関係は緩和された。勿論全ての装備に「不汚不壊」がついており、鞄には「無限収納」「時止め」「重量無視」が付与されている。


 そんな中、ギルドからの返事が届いた。(ねぐら)を見つけた、と。

「オルソーニさん。私今度の非番に行って来る」

「何処に?」

「復讐に」


 その瞳の其処に暗く燃える影を認め、オルソーニは溜息をついた。

「俺も一緒に行っていいか」

「どうして?」


「スラムだから許される、って蔓延(はびこ)ってる阿呆共が気にくわねえ」

「…じゃあ、ついてきてもいい。ボスはパシャがやる」


 非番の日、パシャはオルソーニと共に出かけた。相手はスラムに襲撃を絞っているようで別の領に移っており、移動に半日掛かった。二人とも私服でなるべくボロを着て来ている。目立たぬよう移動しつつ、報告にあった館へ忍び込む。館はダミーのようなものだ。あえて見張りも置いていない。本拠地はこの地下にある。


「3段目右から5番目の本を抜いて書架を反転させて…これか、入り口は」

「助かった、私じゃ手がとどかない」

 オルソーニが入り口に手を掛けようとするのをパシャが止める。


「罠がある」

 生き残り(サヴァイバー)のリベラルを使って罠を解除する。それからゆっくりと警戒しながら扉を空ける。その時点で微かに喧騒(けんそう)が聞こえてきた。少し長い廊下を罠を解除しながら歩き、突き当たりの扉に罠がない事を確認する。自分とオルソーニを茨のバリアで包む。


「何だ…これは」

「この中から出ちゃ駄目」


 言いつつ、マシンガンを呼び出して扉を開ける。

 犯されている女に当たらないように、檻に囚われている子供に当たらないように。それだけを気にかけて男共の大半を連射の餌食にする。

 ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!


「何ぐあっ」

「へ?あぐっ」

「うがああ」

「敵ガッ…」


 いきなりの強襲に反応出来なかった男たちはポカンとした顔で死んでいった。


 マシンガンの連射が止むと、オルソーニが女をまだ放さない男の首を次々飛ばし、女性達を一先ず座らせぼろい外套を掛けてやる。


「…何者だ」

「復讐者だよ」


 ボスとその取り巻きは既に戦闘態勢だ。子供が御しやすいと踏んだのか、3人程がナイフで切りかかって来る。が、今のパシャとオルソーニは茨のバリアで守られている。ナイフの刃が折れ、高圧電流に(さら)されて焼け焦げて弾かれる。魂は地に還った。残りの雑魚を、オルソーニが剣で捌いていく。


 ボスだけは様子が違った。パシャが伸ばした手の延長線上、首に幼い手形を刻んで徐々に持ち上げられる。最後の足掻きか、持っていた投げナイフを全てパシャに投げつけるが、1本だけ肩口に刺さった以外は避けられた。


 統率を介して超能力と戦闘機器全般のリベラルを発動させているパシャは――笑っていた。


 まるで遊ぶように、急所ではない場所ばかりを腰の銃で撃ち抜き、その返り血を浴びながらうっとりと笑う。


「お前の血はちょっと臭すぎるな!」


 鼻を吹き飛ばし、耳を吹き飛ばし、掌を、脚の甲を。徐々に末端から中央へ。その頃には出血で男の命はほぼ尽き掛けていたが、止めも頭は狙わない。腹部の臓器に何発も当てる。酸欠も相俟ってどんどん力が抜けていく男はやがてカクリとその体から完全に力が抜けた。


 ぴくぴくと震える様を見るとまだ瀕死だ。そうでないと困る。この男はパシャの逆鱗に触れたのだから。眼窩(がんか)に指を突きこんでぐちゃぐちゃと掻き混ぜながら(えぐ)る。両目を同じように(えぐ)った。細い息を漏らす男の口を短剣で耳まで裂く。指を一本づつ切り落としていた途中で、やっと男の呼吸は絶え、心臓の動きが止まった。


「なんだ。つまらん。弱い男じゃねえか。弱い、弱い、弱い、弱い、弱い!」


 弱いと言う度に男の体に無造作に短剣を振るう。もう男が出血していない場所を探す方が難しい。

「こんな弱い男に私の家族は殺されたのかよ!!なあ、もっと強くなきゃダメだろうが!!なんでこんな弱い男が奪って許される!?せめて抵抗の一つもしてみせろよ、なあ!!」


 ガッ、ガッ、と男の体を蹴るパシャも血塗れだ。

 オルソーニはそっとパシャの肩のナイフを抜き、頭を抱く。


「もう…いいだろう。そんなクズの為にお前の足を痛める事はない」

「……………」


 暫くそのまま震えていたパシャがカッと目を開いた。


「逃げろ!」

 声と共に、もしかしたら元は人間だったのかも知れない、という程度に型崩れした化け物がギイッとドアを開ける。 2匹だ。どちらも片目に虹色を宿らせている。


「ただの人間と一緒だからねえ、隙が狙えるだろう?なりそこないと俺の相手をしてくれよ」

 2匹の『なりそこない』と組織の人間。ぱらぱら、とカードをシャッフルさせていた指が踊る。カードが舞ったと思えば二人の体に突き立った。舌打ちをしてパシャがバリアを張りなおす。


「ヒール」

 カードがパラパラと床に落ち、オルソーニとパシャの傷が癒える。


「くっ…!?」

 なりそこないを切ろうとオルソーニが剣を振るうが、まるで全て読まれているように攻撃が避けられる。そしてカウンターで飛んで来る平手はバリアに弾かれる。ビリビリと感電した様子は見られるが、弱ってるかどうかも見分けがつかない。顔であるだろう部分は、ずっとへらへらと笑っているからだ。


 横合いからガシャッとパリアが砕かれる音がする。慌ててそちらを見ると、パシャが吹き飛ばされている。間一髪でオルソーニが壁に突っ込むところを庇って抱きとめる。


「なんて怪力…ッ」

「こっちはずっと避けられてる、変だ」


 ゲホッ、と咳込んだパシャの口から血が吐き出される。折れた肋骨が肺に刺さったようだ。


「ひー、る。ヒール。ヒール」


 繰り返してやっと回復する間にも、人間の男から投げナイフが飛来し、パシャの体に刺さる。致命傷はないが、非常に動き辛い。その間怪力はオルソーニに両腕を落とされていた。


 逆に避けるほうのなりそこないに人間も範囲に含めて避けようのないマシンガンの弾幕をくれてやる。弾が当たる度にびちゃびちゃと肉を撒き散らし、どんどんみすぼらしくなる。パシャはバリアを厚く展開させ、手榴弾を投げ込む。


 オルソーニの手を引き、逆側へと伏せた。その間にヒールを使って投げナイフを落とし、癒す。

 手榴弾が爆発した瞬間、悲鳴が轟く。


「ヒグォオオオオオオ!!!」

「ギャギャギャァアアア!!」

「ギャァアアアアアア!!!」


 爆発を無事見届け、人間は死亡を確認、なりそこないは瀕死を確認。


「…大刀降り落ちん」

 なりそこないの顔部分を抉り取るように刀は振るわれ、消える。なりそこない2匹も、しわしわと萎んで行き、茶色く硬くなって動きを止めた。抉り取られた顔部分から、リベラル・ウォームを取り出し、くまのリュックへ仕舞う。


「…?それはなんだ…?」

「……………もう、多分オルソーニさんは巻き込まれちゃったから、話すね」


 パシャは自分が知ってるリベラル・ウォームの事を話した。


「私にしか適合しないのに。別の人間に使ったんだろうね。この2匹」

「逆に、マトモに扱えるパシャのような人間が襲ってくることはないんだな?」

「それはない。でも腕の立つ人間が結構送り込まれてくるみたい」


「…みたい?」

「一人目の女は実力が解らないまま殺しちゃったから」


 ごそごそとパシャは人間の懐をまさぐり、サイフを手にする。こいつのサイフも重い。開くと紙幣も見える。


「…こんなんじゃ何の慰めにもならないだろうけど、せめて巻き込んだお詫びに受け取って」

「あ?――まあそれは構わないが………ってなんだこの金額は!!?」


「こいつら凄く金持ってる。1人、サイフ奪わずに全部燃やしちゃった男が居たのが惜しかった」

「あ――こんなに持ってるんじゃ惜しかったな。――なあ、パシャ」


「?」

「ンな暗い顔するなよ。俺は自分から巻き込まれに来たんだぞ。パシャの所為じゃない」

「…っふ……」


 殆ど声を殺したまま、パシャはオルソーニに抱きついて泣いた。暫くそのまま泣いていたが、落ち着いてきた頃にぼそりと零す。


「本当は、1人で立ち向かうの、怖かった。オルソーニさんが巻き込まれたのは駄目な事だと解ってても……嬉しい、ごめんなさい」


「そういやなんでパシャにしか適合しないって解ったんだ?」

「ナビゲーターみたいな声がそう言ってた。なんでかは知らない」


「――そうか。っつーか、何も解らないままそんな状況に放り込まれたんじゃ、パシャだって巻き込まれたようなもんじゃないか」

「巻き…こまれ…ふ、確かにそうだ。あの女に会わなければ無関係で居られたな」


 漸く体が落ち着いてきた頃、女性たちと子供にヒールを掛ける。檻から出した子供も、女性たちも、孤児院は破壊されて行き場がない、と言った。数は少ないが、スラムではない孤児院に、分散させて受け容れを頼んでみる、とオルソーニは言った。それまでは軍の介護施設で暫く過して欲しい、とも。パシャは物置のような場所でこっそり女達の服を出して、まるで置いてあったかのように振舞って着て貰う。裸では移動出来ないからだ。


 ついでに着替えて体を拭いてくる、と言って小部屋に隠れ、泡で洗浄し、別の服を着る。さっきまで着ていた服はリュックに直した。とん、と壁に体を預け、目を閉じる。一番の本懐は今日遂げた。

「……皆…仇、取ったよ………褒めて…」


 つうっと伝う涙は追悼(ついとう)の涙だ。そのまま体を預け、落ち着くまで小部屋で過す。涙が止まった頃に、なんでもないような顔でオルソーニの元へ戻る。


「待たせた」

「いや、こっちも子供たちに説明してたから丁度いい」

「帰ろう」

「――だな」


 皆を連れて団に戻る。被害者たちを介護施設へ送り届けて一息つく。

「ありがとう」

「ん?」

「オルソーニさんのお陰で、本命がじっくり殺せた。凄く感謝してる」

「……」


 オルソーニの返事は、パシャの頭をくしゃくしゃと撫でる事で示した。


 その日寝る前に食べたリベラルは、怪力とサトリのリベラルだった。

オルソーニさんも標的になりましたね。軍部の上に居る貴族が関与してなければいいですねえ

読んで下さってありがとうございます!少しでも楽しく読んで頂けたならとても嬉しく思います(*´∇`*)もし良ければ、★をぽちっと押して下さると励みになります!

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