04.オーク掃討戦
ゴブリンさんがお留守です
――起床ヲ確認。オハヨウゴザイマス。統率ノりべらるノ解放ニ成功。以後、複数ノりべらるノ力ガ必要ナ時ハ統率ヲオ使イ下サイ。全りべらるノ力ヲ一度ニ引キ出ス事モ可能デス。願望ト戦闘機器全般ヤ、生キ残リト知識ノりべらるナドガ相性ガ良イデス。
そう言えば、今まで必死で忘れてた。私、魔法を使えている。そもそも大魔法のリベラルがあるのだから、多岐に亘る魔法が使いこなせると考えた方がいい。冒険者ギルドのマスターとメリッサさん以外にはもう絶対にこの力を見せない。怖い。恐れられるのも迫害されるのも怖い。異端だと排除されるのはもっと怖くて悲しい。
適合者が見付からないって女の人は言ってた。私はどうなんだろう。これは適合しているのか?それともココから先に急に適合出来なくなって体が壊れたりするのか?
――御忠告マデ。りべらるガ適合スルノハ、世界デ貴方タダ1人デス。…全部、集メテクダサイ。自ズト真実ガ見エルデショウ。ヒントヲ1ツダケ。『世界ヲ穢シタ魔女』。――デハ、マタ。
「世界を…穢した魔女……んー…聞いた事ないな……」
ただ、無性に苛立つ響きをしている、とパシャは思った。何故かは解らない。
取り合えず昇りのご飯の時間だ。パシャの残念な頭は、ご飯とデザートを前にして、魔女の話などスッカリ忘れてしまった。
ギルドへ行くと、指名依頼があるという。依頼者はオルソーニ、森に繁殖して数が増え過ぎたゴブリンを新兵を連れた演習も兼ねて退治しに行く、といったもの。ゴブリンくらいなら新兵だけで充分だろうし、私が混ざったところで大差ないのではと思う。多分これは、オルソーニの様子伺いだろうな、気にしてくれてると示してくれたんだな、と思った。
指定された場所へ行き、依頼書を見せる。するとその爺さんは唖然としたと思えば顔を真っ赤にして喚いた。
「オルソーニ!!!!オルソーニは居るか!!!」
「はいよ…おお、来てくれたか嬢ちゃん!今日はちょっと腕前拝見したくてな。敵が多ければ少なくとも戦闘してる姿が見れるだろ?ギルドでは上手くやれてるか?」
「はいっ!初心者ダンジョンをクリアした!」
「しょ…初心者ダンジョン…?お前が言う未来のエースは本当にコレなのか!?」
「はっ、間違い有りません、団長殿!」
「ああああああもういい!儂は払わんからギルドへの依頼料はお前個人で払えよ」
「はあ?!いやまぁそのくらい別にいいですけどね!」
数が多い…遠方からでも減らせる銃の方がいいだろうとパシャは選択した。
森の中は、いつもと雰囲気が違っていた。あちらこちらに食い散らかされたゴブリンの死体が転がっている。正直、オルソーニが予想していた数の倍は居たようだ。そして今はそれらを喰らう大喰らいが居座っている、と。気を張って周りを見渡すオルソーニは、団長へ囁く。
「これは…場合によっちゃ撤退戦の練習になりそうですな」
「フン…何が出る事やら…あの子供は足手纏いになるようなら儂は切るからな」
「私が面倒見るんで余計な事考えないで下さいよ」
未だ敵影が見えない、とオルソーニが目を凝らしていると、ズドン、と何かを撃ち抜く音が聞こえた。
「何だ!何があった!?」
焦ったオルソーニが見たのは、マシンガンを構えたパシャだ。統率者より、願望と戦闘機器全般を同時に呼び出している。
「オークですね。多分キングが居るかと。ジェネラルが出て来てますから」
ズドドドッドドッドッドドッドドドドドドドドドド!!!
凄まじい連射の音が響き、微かに見えるオークの広場?のようなものの一画が赤く染まるのを見たオルソーニは愕然とする。剣を扱う者ではなかったのか?今使っている武器はなんなんだ?
「あと3分の2…ふふ血の海だ」
べろり、とパシャは舌なめずりする。
「こっちの方がいいかな」
迫撃砲を何処からか取り出し、幼女は10発続けてぶち込んだ。
あらかたの敵が居なくなっているのを確認し、先ほどのマシンガンに装備を変える。残党を連射で叩いて広場は血と屍のみとなった。
「広場クリア。残りは洞窟内に居ると思うが出来れば燻して広場に引きずり出したい」
ガチャっと音が鳴ったと思ったら、マシンガンも何処かへと消えている。
しかも広場はオーク500体、ジェネラルが2体居たという。
団員を先導し、オークが広場から出るならどの道か、を団員と話し合っているうちに、大将はオルソーニを呼ぶ。
「お前…ナニを連れてきた?怪物の類じゃなかろうな」
「…未来のエース、ですよ」
オークの広場に着くと、酸鼻な光景が広がっている。先ほど殺されたばかりなのだ。血と臓物の臭いが充満している。新兵の中には嘔吐する者も出る中、パシャはその臭いにうっとりと目を細めた。
――誰だ?これは
オルソーニは目の前の少女が本当につい先日の少女だという自信がなくなりつつあった。
知識のリベラルから、燻すと煙が猛烈に出る樹木を教えて貰い、幼女は木の枝を集めて運んでいる。
呆然と見ていたオルソーニは、慌てて木を切って木片を作り、燻す材料を作って運ぶ。
幼女がパチンと指を鳴らすと、木片の下の方から炎が見え、物凄い量の煙が噴出した。
「エアコントロール」
その呟きで、こちらに漏れる煙はなくなり、全て洞窟内に煙が流れ始める。
数分もすると、溜まりかねたオーク達が飛び出してくる。新兵は足が竦んでなかなか動けないで居る。
パシャは腰に差した銃で出て来るオークを片端から殺して回る。
「ふ、ふふ。出て来た敵を撃つだけ、なんてゲームみたいだねえ!」
にこやかに告げるパシャに掛ける言葉が見付からない。
洞窟はUの字を描いているようで、もう一つの入り口か出口か解らない方から巨大な蜘蛛が遁走しようと地面に降り立つ。そして迫撃砲1発で腹を見せる羽目になっている。どてっ腹には大きな穴が開いている。
――A級モンスターの鬼髑髏…1発か…。
道を塞いでいた蜘蛛が居なくなったからか、そちらの出口からもオークがどばっと湧いた。数が居て纏まってるなら好都合、とばかりに、そのまま迫撃砲で殲滅する。うっかり奥の入り口に気を取られていたパシャに、直ぐ傍の方の穴から飛び出したオークが襲い掛かる。
「遅い」
腰の銃を抜き撃ち、正確にこめかみを撃ち抜く。
「あの、新兵さん達かオルソーニさん、どっちかの穴を担当して貰う訳には?」
言われてハッとする有様だ。呆然としている場合ではない。オルソーニは頬を叩いて喝を入れると、奥の入り口の方を担当しに行った。
煙から逃げようと集まっていたようで、奥の入り口からはオークが沢山飛び出してくる。全て一刀で斬り捨てながら、オルソーニはパシャの事を考えるのを一旦やめる事にした。今それどころではないからだ。
「ゴルゥルルル…」
ズシン、と足音が地震のように響く。主が出て来ようとしている。十中八九オークキングだ。オルソーニは自分がハズレを引いたことを確信する。声がパシャの方から響いて来るからだ。
「オークキング1、ロードが3」
冷静に呟いたパシャの言葉に凍りつく。決して幼女や新兵に任せていい相手でも数でもないからだ。
ピンと背筋を伸ばしたパシャは、また見慣れない大きな武器を洞窟内に向けている。
キン、と鼓膜を揺さぶるような鋭い高音が響き、次いでバスゥン!!と音が鳴ったと思えばオークキングの首が洞窟の奥まで飛んで行くところだった。続けて3発。オークロード達がそれぞれ頭部を同じように失う。あと数歩で洞窟を出れたであろう洞窟の主たちは、寝る場所も洞窟の中となったようだ。獲物をマシンガンに変更し、暫く洞窟を警戒していたパシャだったが、ふう、と息をつくと武器を仕舞って腰の銃のみで洞窟内に乗り込む。
「待て、危な…!くっ」
煙のなかったUの字の側にはまだオークが居る。ただ、パシャは何かを確信したように奥へ踏み込んだ。Uの字のオルソーニ側の直線部分にしかもう敵が残っていないという事に違いないだろうが、オルソーニはパシャの視力に驚きを隠せない。
――何処まで視えているんだ…!!?
因みに銃器を扱う際のパシャの視力は8.0。特に遠視という訳ではない。近くも視えている。
奥に踏み入ったパシャは、女性を襲っている最中だった2匹を殺し、更に奥へ。オークの子供がちらほら居るのを全て殺して回る。U字の逆から来たオルソーニと合流した時には、オークはもう残っていなかった。
「女性、まだ生きてる。衛生班はいない?」
「い、いる、取り合えず毛布を持ってくる、様子を見ていてくれ」
オルソーニが居なくなり、女性たちは気を失っている。今の内に傷や欠損にヒールを掛ける。欠損には10回ほど繰り返し掛けないと戻らなかったが、なんとか傷は癒し終えた。後は体内の掃除や心のケアが必要だ。手遅れかも知れないけれど。
衛生班が駆けつけ、オルソーニと共に女性達を毛布で包んで運び出す。
「性的暴行には遭ったようですが、他に傷はないですね。きちんと清めてあげて心のケアと睡眠で治していきましょう」
「―は?!」
オルソーニが視たときには怪我も酷く、欠損すらあった。それがない?片腕が欠けていた女性を覚えていたので、その女性の欠けていた筈の腕を見る。他の箇所より汚れがないくらいで、欠けてはいない。そっと幼女を見ると、幼女は笑った。
「仕事、これで終わりか?私は役にたったか?」
無邪気に聞いてくる幼女に、ぐっと込み上げるものを堪えた。――俺は、ナニを連れてきてしまったんだろうか。エース?そんな言葉で収まるものか!この事件をほぼ1人で解決してのけたんだぞ!!
オルソーニの背筋に冷たいものが走る。
「あ、ああ。大殊勲だ。殆ど一人で倒していたじゃないか。驚きすぎて参戦が遅れた俺が寧ろダメだったな」
「やった!お仕事成功だ!!」
笑うパシャの頭を撫でてやると、やっとこの幼女が以前目の前で泣き崩れた幼女だという実感がじわじわと押し寄せる。むしろ今回、自分たちは助けられた。本来この規模のオークの一団を相手にすれば、かなり死傷者が出たはずだ。しかも新兵ばかりだ。全滅してもおかしくない。
今回はオークの必要素材をとって残りを穴に放り込んで燃やす作業をしている。疫病を発生させない為には必要な事だ。どの兵も顔色が悪い。やはりパシャが居なければ自分達がこの物量と闘っていた事を想起させられるのだろう。陣営に戻ってきたパシャに、団長は深く頭を下げた。
「先ほどは失礼な発言をしてしまった。申し訳ない。君がこれほどの手腕の持ち主だとは思わなかった。依頼量は10倍にして払おう。……騎士団に入る気は、あるかね?」
「あるです!」
「いいだろう。年齢を不問!身長を不問とし、武器は統一規格ではなく自由とする!パシャ……」
「パシャ・コーストロード」
「んんっ、パシャ・コーストロードをオルソーニ・デル・メツェルディードの元、副隊長に任命する!明日は兵舎に朝7時に集合しろ」
「はいっ!ありがとう、あの、これ…」
折角なのでパシャはオルソーニに貰った書面を大将へと渡した。大将――ベネグレッドは口元を引き攣らせながらそれを受け取り、「受領しよう」と言いながら仕舞う。
パシャのファミリーネームは孤児院の名前だ。あの孤児院に居た者は司祭とシスター以外全員コーストロード姓だ。今は、パシャが唯一の継承者となった為、解る人間は少ないだろう。
パシャが離れた隙に、オルソーニはベネグレッドに訊く。
「どういう心算で即座に雇うなんて言い出した?彼女を見たときは嫌そうな顔だったろうが」
「五月蝿い!あんな…あんなのを、他に採られて敵対でもしてみろ、想像するだけで鳥肌が立つわ!何が物凄く剣の筋がいい、だ。剣なんぞ使っておらんかっただろうが!と言う事は、彼女は最低限Wジョブを持ってるぞ」
「…ガンナーと剣士のWジョブ…だけでもなさそうなんだけどねえ」
「性格がひん曲がってる訳でもない、今のうちに調きょ…んんっしっかり精神的にも磨いてもらう。それに使えないならまだしも、使え過ぎる。採っても問題ないと儂から上に伝えておくわい」
「はっ…まあ、他所に流れずに済んで良かったと思うのは俺もだけど」
「全くそれはその通りだ」
パシャは大はしゃぎだった。これで宿屋ではなくて、多分宿舎に住まわせてくれる。余計な出費がないという事だ。ギルドには入ったばっかりだけど、元々パシャは騎士団を希望していたので、ギルドには謝って、宿屋は早めに引き上げよう。追加料金が発生する前に。
「ねえ!オルソーニさん!騎士団に入ったら住む場所あるよね?」
「あるぞ。心配すんな。3食もついてるぞ」
「3食!?2食でも凄かったのに!!1日に3回もご飯食べていいのか!!」
「いいぞ。好きなだけ食え。体が資本だからな、俺たちは」
「はいっパシャ、いっぱい食べる!」
こうして話していると、問題なく以前の彼女だと思えるし、接していて心が安らぐ。戦闘モードに入った際に見たと思った薄笑いはきっと自分の気にし過ぎだ、とオルソーニは頭を振る。
そう、だってお嬢ちゃんはまだ8つの幼女だから。
思ったより随分と早く軍に入れたパシャさんは大はしゃぎです。制服は特注になるでしょう。
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