03.冒険者ギルド
やっとダンジョンに挑戦です
次の日パシャは、朝ごはんでまた号泣し、おまけで付けてくれたミニパフェで涙を止めてふにゃふにゃしていた。
1日に二度もこんなに美味しいものを食べる事が出来るなんて、本当に嬉しいし贅沢だ。この宿屋に来てよかった。
店員に注意されるまで、ふにゃふにゃのままダンジョンに行こうとして止められた。冷たい水で顔を洗ってスッキリさせると、覇気が戻ってくる。ダガーを剣帯で両脚に装備し、腰にはガンベルトを着けた。最初は願望のリベラルが出してくれたお嬢様セットで行こうとしていたが、店員さんに、冒険者には冒険用の格好がある、と止められて、また願望のリベラルが仕事をしていつの間にやら部屋に一式揃っていた。
パシャが背負えるリュックもあるが、小さくないだろうか?何か素材というのを剥いで持って帰る必要があるのだ。でも可愛いくまさんリュックだ。
――大魔法のリベラルを使用しますか? はい いいえ
はい、を選ぶと、勝手にオートモードが掛かり、くまさんリュックに『不汚不壊』『容量限界なし』『時止め』『重量無視』の4つを付けられた。冒険者装備全てに『不汚不壊』を付けられる。形見の巾着と割り銭にもつけておく。
きちんと着替えて動きやすい事を確認。短剣を素振りしてみるがなかなかいい感じだ。剥ぎ取り用のナイフはリュックの中である。今度こそは店員さんにも文句を言われるどころかくまさんリュックを背負った幼女の可愛さに思わず抱きついて頬ずりする店員さんを止め損ねた。まあいい。いつもお世話になってるんだからこれくらいは…。
その後は早速ギルドへ行くと、受付嬢さんにも撫でられ捲くってすりすりされた。くまさんリュックの威力が高すぎる。なんとか離して貰って、ダンジョンに出るモンスターと、剥ぎ取り部位を確認する。そしてあるモンスターに釘付けになる。『まるまろうさぎ 角兎の変異種。レアモンスターで、出逢えれば幸運。攻撃はして来ないが足が速い。肉が非常に美味』
『肉が非常に美味』!このモンスターは、もし狩れたら宿屋へ持っていって調理して貰おうと心に決めるパシャだった。飢餓や腐ったものを食べる日々は体に刻み込まれている。こと食に関してパシャは非常に貪欲だ。彼女のご飯に手をつける輩は殺される覚悟をすべきだろう。
一先ず出る敵の情報は頭に入れ、ダンジョンに向かった。それをつける男には気付かなかった。
初心者用ダンジョンは、兎に角可愛いモンスターが多く、パシャは苦笑いする。が、そんな事で戦意を削がれたりはしない。戦闘のリベラルを使わずに、なるべく地力を上げる様、自力で攻撃する。短剣の手本は昨夜宿屋の部屋で戦闘のリベラルを使って確認済みである。しかし、悲しいほどパシャには戦闘の才能がなかった。パシャは暫く頑張っていたが、なかなか攻撃を敵に当てられず、諦めて戦闘のリベラルを使用する。オートモードで可愛い敵を鏖殺している
まるまろうさぎも2匹狩ったので、奥に進む事にする。10階層のダンジョンで、此処をクリアした証を取らないと他のダンジョンには行けないらしい。因みに解体は、剥ぎ取り用ナイフを当てると勝手に綺麗に分解されて部位毎にくまさんリュックへ仕舞われた。肉が美味しいもの以外は証明部位と素材になるものだけ、と徹底している。オートモードは、レベルが上がり辛くなるまで階層で鏖殺し、上がりにくくなったら次の層へ、と移動している為、結構のんびりした気分だ。どうして地下に降りてるのにずっと太陽が見えるのか、パシャは凄く不思議に思った。
地下に降りるにつれ、段々敵が可愛くなくなって来る。まるまろうさぎが1層にしか出現しないのはきっとこの所為に違いないとパシャは思った。
9階層、もうすぐクリアの所まで来ると、ちょっとわくわくする。運動音痴で散々孤児院で馬鹿にされていた私が、ダンジョンのクリア!夢みたいである。其処に、「助けてくれ」と呼ぶ声が聞こえた。
見ると、エリアボスである大猪を背後に引き連れている。返事をする間も無く敵を擦り付けられる。
オートモードは何故か、大猪以外に男にも注意を払っているようだ。眼球から脳天までダガーを埋め込んで大猪を倒したオートモードは、背後からナイフで刺そうとしてきた男の首を一瞬でへし折った。
どうやらギルドカードを出すときにサイフから出したものだから、紙幣に気付かれてしまったようだった。首から下げられる、カードだけを入れる入れ物が欲しいと思った。思った瞬間、手の中にカードケースが現れる。
「君か」
聞こえたのはそれだけ。次の瞬間には、パシャの意識は闇に消えた。
9階層へ入ったばかりの階段脇にパシャは居た。と言う事は死んだと言う事だ。ぞくっと背筋が震える。誰とも知れない声からして多分男がいつの間にかパシャの傍に居て、一瞬で死んだという事だ。
9階層では全てを無視して10階層を目指す事にする。すると、エリアボスに当たってしまう。瞬時に反応したオートモードがエリアボスを瞬殺するが、殺した瞬間にオートモードが反応して、横っ飛びに避ける。袈裟切りの刀が、パシャの消えた空間を薙いだ。
「へえ…ルーキーなのにマスターを倒したって本当なのかな?」
さっきの声だ。パシャは少し身を硬くする。
「リベラルウォームを知ってるだろう。君は。困るんだ。横合いから掻っ攫われるのはね!返してもらう!」
パシャは腰から銃を引き抜き、戦闘機器全般のリベラルを展開、間合いを取って連射する。
「く…この、しぶとい…」
何度も刀の間合いに入ろうと近寄ってくるのを、後退りながら躱し、脚に集中して弾幕を作ると、流石に無傷とは行かなかったらしい。呻き声が聞こえる。
トスッ
「は…はは、お前が大金なんて持ってるから悪いんだ…何処だ…ない、サイフがない…」
首を後ろから刺されたパシャは、段々と意識が遠くなって行き、暗闇に飲まれた。
9階層へ入ったばかりの階段脇にパシャは居た。困った。レベル上げをしてもしなくても殺される。
1度目の方が、願望のリベラルを発動させカードケースを出現させるまで男が現れなかったことを考えると、先にストーカーとエリアボスを始末する方がいいように思えた。今度は最初から銃でスタートさせる。すると、やはりストーカーがエリアボスを引き連れてやって来る。それを辿り着かせる前に頭部を狙い撃ち、エリアボスを先に倒す。
次いでストーカーもその頭部を消し去る。
離脱より一拍遅れてパシャの首の位置を刀が薙ぐ。その1拍と刀を空ぶった分のロスタイムで充分な距離を確保すると、先ほどと同じく、脚に弾幕を張る。
「ぐうっ…この…」
13発程脚を貫いたようで、男の機動力は奪われた。念の為、両肩にも打ち込んで攻撃力も奪う。
「どうしてわたしを狙うの?」
「お前が…リベラルウォームを持っていそうな怪しい人物だからだ。怪しいなら殺して持ってるかどうか探ったほうが確実だろう?」
「りべらるうぉーむって何?」
「それは…ガボッ」
何かを言おうとした瞬間に、男が大量の血を吐く。
大丈夫か確認しようと男の様子を伺うが、ぴくりとも動かない。多分死んでいる。けれど、万が一があって近寄れない。銃で眉間に穴を開ける。なんだか怖い組織のようなものがある気がして、大魔法のリベラルで骨も残さずに焼き尽くす。全て塵になったのを見届け、エリアボスの素材を鞄に仕舞って、幼女は9層を後にした。
10層、最終層だ。ボスが1匹しかいない変わった層だと聞いている。だったら大きいような気がしたので銃装備のままやってきた。
中に入ると、さっき倒したエリアボスより3回りほど大きな、そして綺麗な白い毛並みの熊だった。毛皮が売れると聞いたけど、確かにこれは売れそうだ。なるべく顔だけ…できれば目を狙いたい。毛皮に傷が付かないから。
戦闘機器全般のリベラルはさっきより大きな間合いを取る。大きいのだ。一歩が大きいに違いない。
「グオ…ッグルルルルル…」
すっと頭を下げたと思うと、一瞬でフロアの端から端まで駆け抜けるタックルを仕掛けてくる。慌てて避けるが、頬に1条の爪痕が残る。暗殺のリベラルが短剣を持ち、瓦礫から這い出してくる熊の背に飛び乗る。首筋に2発、溜まらず顔を上げた熊の眼球にそれぞれの短剣を奥まで差し込む。
脳に達したその攻撃で、ボスは倒れた。ほっとしてボスを仕舞おうとした瞬間、何かキラッとしたものが目に入る。
「リベラル…ウォーム?」
初心者ダンジョンボス層の壁を破壊しなければ取れないという難解な場所に誰が隠したのだろう。まあ、今気絶したり全身に激痛が走っても困るので、くまリュックに入れておく。
頬にヒール。ボスも解体してリュックに仕舞う。ほぼ無傷の為高く売れそうだ。
カードを置く場所があったので置くと、何かが記録されるようにピッピッピと音が鳴り、ピ――ッという音で終了したようだ。一先ずカードはサイフに入れず、ポケットに仕舞っておく。宿に帰ってからカードケースを出そうと心に決めた。そして一つ困った事に気付いた。このくまさんのリュックから無限に素材が出て来る所を見られたらどうしよう、と。今度はくまリュックが危険だ…ギルド長に相談しようと思った。
ギルドに戻ると、また受付嬢さんからの熱烈な歓迎を受ける。その時に、パシャは囁いた。
『受付嬢さんとギルド長にしか見せられないものがある』と。
広い場所を要求したので、ギルドの今未使用の倉庫へと3人で来た。パシャはそこに討伐部位と買取部分を分けて出していく。
「…あの、パシャちゃん…明らかにくまのリュックに入る量じゃないんだけど…」
最後にずるりと引き出したボス素材だけでも充分過ぎる許容量オーバーだ。
「ひ…ひみつのクマちゃん…」
説明が出来る気がしない。そもそも大魔法のリベラルがオートで突っ走った結果だ。
「貰う時に特別なクマちゃんだから、信用してる人にしか見せちゃダメって…」
「…それはそうだろうの。この事がバレたら、嬢ちゃんを殺してでも奪い取ろうとする者が出るわい。儂とこのメリッサが君の担当という事になろう。他の者に任せないようにするんだぞ。よしここには買い取り査定の者を呼んでおくから、嬢ちゃんはメリッサ君にカード処理をして貰うとええ」
パシャは安堵で目を潤ませながら頷いた。
「はいっ…!」
フロントに戻り、カードを処理している受付嬢の指がぴたっと止まる。
「討伐数が異常だわ…それに…人間、ね」
「サイフを寄越せと襲われた」
「そのようね…。見覚えのある要注意人物だわ。もう一人は…画像も出ない…?妨害電波でも装着してるのね。貴方の命を狙ってきたの?」
「はい、リベなんとかを寄越せ、と言ってたが良く解らない」
流石にこれは嘘だ。パシャはもうリベラルウォームについてある程度の知識がある。
「ふうん…こんな小さい子に寄って集っていい大人が…呆れるわ。はい、処理終わったわよ。頑張ったわね、レベル20よ」
「わあ、嬉しい!」
それがどれくらいのレベルかも良く解らないけれど、初心者用のダンジョンの、たった1回だけの挑戦で稼いで来たレベルだ。多分まだまだ下の下のレベルなのだろう。受け取ったカードをポケットに入れていると、受付嬢に聞かれた。
「素材売却した金額はカードに入れておくわ。使いたいときはいつでもココで出せるから気軽に声を掛けてね」
「はい、ありがとう」
――ああ、ぬるい。ずっと戦闘をして血に塗れて最高にいい気分になりたい――
ばっとパシャは振り返る。誰も居ない。ただの幻聴だろうか。
――頑固なペルソナめ。本性を出せよ。もっと全身で生きてるって感じたいだろう?――
パシャは両耳を塞いで宿へ戻り、降りの食事時間だったので、急いで食事を掻き込む。デザートだけはゆっくり食べた。自室へ戻ると鍵を掛け、カードケースを出してギルドカードを収めて、首から掛ける。
室内着――以前拾った穴のないTシャツ――に着替えて、ベッドに横になる。サイコロ状のリベラルウォームを飲み込むと、其処で意識が途絶えた――。
今度はどんなリベラルウォームでしょうか。いいものが出るといいですねえ。
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