17.それから
団の平常運転と魔法のお話ですね
騎士団元帥の養女として迎えられたとはいえ、別になんらかの贔屓もなく、順当に依頼をこなすパシャ。世界に魔法は戻りつつあるが、特段何かが変化する訳でもない。第一部隊団員がサササッと鍛錬で器の大きさを広げ、大きな魔法を一足早く使い始めた事くらいか。そしてそれを知った元帥に、難しい依頼は全部第一部隊に集まるように仕向けられた。
依頼をこなしていると、稀にコアが見付かることもある。そういう時は暗黙の了解でパシャに渡す事になっていた。 コアを複製できるのはパシャだけだからだ。貪欲な団員達は、まだまだ器を拡げる事に熱心で、2個目、3個目のコアを手に入れることを視野に入れている。
因みに今団員の中で欲しいコアのナンバー1は願望と戦闘機器全般が競っている。少し離れて戦闘のコアと言ったところだ。しかしその次に欲しいコアは全員一致で統率のコアだった。
今回は冒険者ギルドからの依頼で、スタンピードを食い止めて欲しいというものだった。少し前なら全員が物凄い顰め面を晒していただろうが、全員が自分の魔法を試したがっている。想像力がものを言うようで、魔法に関しては、パシャよりも団員の方が器用に使いこなしている。それもあってか、器の広がるスピードが速い。パシャも団員に倣って飛空魔法や重力魔法などを真似したりと、全員がライバルで切磋琢磨が出来ている良い状態だ。
隊員全員が飛空魔法で現地を下見する。ダンジョンから町の3キロ圏内までずらりと魔物が犇いている。
「じゃあ私とオルソーニさんで空から奥の方の集団を叩いてくるから、この周辺のは地上からよろしくね!」
「了解!1匹たりとも町には通さないっすよ」
「統率に嫉妬」
魔法は1度に1つしか使えない。それは統率があっても同じだ。だからパシャもオルソーニも、飛空魔法を使いながら、戦闘機器全般で焼夷弾や地雷原、手榴弾などを作って対応する。スキルを解除すれば消える為、地雷が残ったりはしない。
敵が疎らになってくればマシンガンや迫撃砲、レールガンで撃破していく。ダンジョンの入り口が見える頃、漸く他の団員が追いついてくる。ダンジョン外の敵はクリア、という事だろう。
「パシャ、すまん魔法打ちすぎた…」
「わかったよ…ってMPポーションは全員に渡してあるよね!?」
「いや…もう後1本しかなくて…」
「わかったよ!じゃあもう後5本だけだからね!」
「俺も!」
「俺だって欲しい!」
パシャの鞄にはもしもの為のHPやMPのポーションが入っている。どれも願望のコアから作り出したものだ。100本単位で入れてきて良かったな、と思う。それでも全員にどっちも10本づつ配っていたというのに、どれだけ大きな魔法を連打したんだろうか。オルソーニ以外の全団員がパシャからMPポーションを受け取って嬉しそうだ。
もしやトリガーハッピーのように、マジカルハッピーってあるのかな、と勘繰ってしまう。
以前ナビゲーターさんが言ってた。魔女の第二人格はトリガーハッピーの気があるって。
スタンピードを食い止めるには、一旦ダンジョンの最下層までクリアする必要があるそうだが、生憎この中には誰もダンジョン経験者が居ない。初心者ダンジョンをクリアしたパシャくらいだ。携帯食や飲み物などは持っているけど足りないものも出て来るかも知れない。そこは願望さんに頑張って貰いたいところである。
全員自分の鞄はそれぞれ自力でアイテムボックスのように時空魔法と空間魔法で処理してある。入れる分にはいくらでも入りそうだ。団では魔物など倒すだけだが、冒険者ギルドでは、倒した魔物から素材とやらを取るらしいのだ。雑魚敵の分まではとても覚えられなかったパシャ達は、ボスの死体を全部持ち帰るから、と言って渋々了承して貰った。だって、雑魚敵は…。
「いけー!フレイムバースト!」
「こっちだって!エレメンタルカッター!」
「……溶岩」
「フレイムエクスプロージョン!」
跡形も残らない。持ち帰る以前の問題だ。
団員の笑顔が煌いている。魔法撃ち放題で物凄く嬉しいのが伝わってくる。余分な魔法まで撃つからMPポーションが足りなくなるんじゃなかろうか。
9層まではそんな風に代わる代わる団員達が魔法を撃って進む。10層はボスの階らしい。
岩のフロアを泳ぐように鮫の背びれが見える。ギルドで聞いたボス情報によるとロックシャークと言うらしいが。
「岩柱となって鮫を押し上げろ!ロックピラー!」
「土中の金属よ立ち上がれ、アイアンキューズ!」
「火よ岩を溶かせ、溶岩」
打ち上げられて、串刺しにされて、最後に火で溶かされる…ちょっとバーベキューみたいだな。
あ、しまった!ボスの死体持ち帰るって言ったのに!
「溶岩ストップ!!死体持ち帰らないと!!」
既に中身はぐずぐずに溶けて居そうだけど。
「溶岩よ、冷えて固まれ――で、いけそうですか?」
「外見的には問題ないから押し通そう!ボスは後2体居るけど、どっちも跡形なくしちゃダメだからね!」
このダンジョンは50層らしい。後は30層と50層にそれぞれボスが居る。皆が好きに魔法が撃てる雑魚敵階層が多いのは有り難い。
嬉しそうなところ、心を鬼にしなければ。パシャはキッと団員達を見上げた。
「嬉しいのは解るけど、無駄撃ちが多いから!ちゃんと皆連携して!人の獲物に更に魔法重ねたりしない!順番に撃っていけばいいから!」
「あー、解ってるけどつい…体が反応しちゃって」
「ついじゃないの!もう追加くれって言われてもポーションあげないからね!」
「えー…」
「あー…了解…」
そんなにテンション落さなくて良くない?
撃ち放題ではないにしろ、そこそこ魔法が撃てる通常階層では、イキイキし始めたのを見て、ホッと息をつく。
29層までテンション高めで来た一行だが、30層でまたボス戦だ。
「跡形なくさない!原型留めるの厳守!」
中にはフェンリルが居た。と思ったら。
「鉄の処女」
すぐに団員の魔法で見えなくなった。暫くそのまま待ってみるが、開かない。
「…これっていつ開くの?」
「敵が死んだら開きます」
そのうちにギギギィーっと鉄の像が真ん中から割れるように開き、血塗れのフェンリルをぽいっと出したら消えて行った。
鉄の処女を打った団員は抜け駆けを責められ、次のボス戦には不参加、という事で話がついた。
そしてまた雑魚階層である。皆にこにこしていて大変に気持ち悪い。モンスターに囲まれながら笑顔って怖いよ!
49層まではにこにこしてた団員達が、50層に到達した瞬間から緊張感が半端ない。そんなに怖いのかな、と思ってると全員でじゃんけんし出した。誰が魔法使うか、1発で死ななかった場合の2番手、3番手まで決める心算らしい。じゃんけんに打ち勝ったマヴェルナがにこにこ顔で扉を開ける。其処にはドラゴンが1匹居た。
『其方たちが挑戦し…』
「大刀降り落ちん」
えっ なんか言いかけてたよ。聞かなくて良かったのかな!
ドラゴンの倍は有りそうな大刀が、ドラゴンの首を一刀で落として消えていく。ごめん、何を言いたかったのか、私は聞きたかったよ…。
冒険者ギルドで預かったカードを出口の傍の出っ張りに置くと、何かが記録されている様子だった。
で、確か光ってる輪の中に入って。
「リターン」
無事にダンジョンの外へ転送される。そこからは全員転移で冒険者ギルドまで戻り、カードを提出。カードを調べて問題ない事を確認してもらう。
ボスの死体を何処に置けばいいか聞くと、あからさまに「持ってないじゃないか」という顔をしながら素材置き場に案内してくれる。鮫とフェンリルまでは良かった。ドラゴン入らない。
「ドラゴン置く場所ないですか」
「えっ…じゃ、じゃあこっちに…」
案内された場所にはドラゴンが置けた。良かった。
「ぉお、嬢ちゃん、元気にしとるか?虐められとりゃせんか?」
「ギルドマスターさん、お久しぶり!大丈夫、すっかり馴染んでるよ!」
「冒険者ギルドにパシャは渡さんぞ」
「はーやれやれ、こっちに来てくれるかと待っておったんじゃがなあ…すっかりフられてしまったのう」
「マスター、査定が…」
「ほ。なんと綺麗なボス素材じゃ…こりゃ値が張るのう」
値段交渉は以前と同じくオルソーニさんがマスターとバトルして、そこそこの金額を勝ち取ったようだ。マスターが少し渋い顔をしている。
後は皆で隊舎に戻って第10部隊に終了の書類を提出して終わった。
最近は大体こんな日常だ。
後は、外部からも器を拡げた人が大魔法のコアを求めてくることもある。偶に器のレベルが足りてない人も来るが、先に手を繋いで魔力で確認してからでないとコアを渡していない。もう少し頑張って拡げて来て下さいね、というと大抵はガッカリしつつも納得はしてくれる。
まさか騎士団で暴れ出すような人は居ない。…酔っ払いでさえなければ。
団の皆が、次はどんな魔法を開発してくるのか、私も楽しみだ。
あと1話で完結します。どうぞ最後までお付き合い下さいませ!
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