16.衝突
ナビゲーターさんの勘は鋭いですね
それは昇りの2時頃の話。団員達は日頃の訓練を乗り越える為、基本的に早寝早起きだ。降りと昇りの狭間の時間辺りで起きているものは居なくなる。いつもならば交代で不寝番をする者が居る筈が、今日に限って居ない。組織の者は少し不審に思いながら、なりそこないを引き連れて第一番隊隊舎へと侵入する。
物音一つしない――と思っているとガチャッと扉を開けようとする音が聞こえる。パシャ・コーストロードの部屋だ。開ける音ではなく開けようとした音なのが問題だ。急いでそちらへ向かう。
あの組織が何か気付いてパシャを浚おうとしているのではないか?先を越されては目もあてられない。急行すると、黒尽くめの男が居る。違うこれは――暗殺者か!何故窓から入らずわざわざ扉から…
「パシャを殺す心算か、何処の手の者だ!」
急に声を掛けられて一瞬ビクッとした暗殺者だが、目的が同じなら放置して問題ないと結論づけたのだろう。
「!? お前も殺しに来たのか?だったら一緒に殺せばいい」
「違う。我々は身柄を預かりに来ただけだ!殺す事など考えられん!」
これは違う。教団の者が殺すという結論に達する事など有り得ない。何処の組織の者なのか不明だ。
「なるほど――教団のどっちかだな、お前ら」
「答える必要などない!!行け、なりそこないども!」
こちらは核心に迫れないでいるのに、あちらは簡単に教団の存在を指して来る。思いも寄らぬ邪魔が入った、と男は舌打ちをする。
背後の闇に控えていたなりそこないが5体、黒い男に襲い掛かる。男は慌てて避けるが、空ぶった手が壁に当たり、壁面を抉った。
「なんでこんな怪物が街中に!?ええい、面倒な…なんて馬鹿力だ…」
其処に上品なスーツの男が物音を聞きつけて駆け付ける。何故今なんだ。何故明日ではないんだ。こんな所でぶつかり合っていては成功するものも成功しない!
「誰だ!?何故こんな所で戦闘を…やはり魔女様はパシャ様であられたか!」
なんて間抜けな質問だ!やはり魔人教は情報が遅い。
「情報遅いんだよお前ンとこはいつもいつも!!パシャは魔女ではない!オルソーニもな!」
なりそこないの攻撃を掻い潜りながらスーツの男は軽やかになりそこないの顔部分を抉り取る。
腕だけは立つ。耳が遅いだけなのだ、魔人教は。争う場所の問題で、重要人物がどちらかというのはもうばれてしまった。面倒この上ない。
「とはいえ。貴方の所の者と、良く解らないですが暗殺者が此処に来ていると言う事は、パシャ様に何かがあるという事でしょう。私共は丁重に丁寧にお願いをして来て貰う心算ですが…貴方方はスマートではないですね」
丁重?丁寧?それは薬品を使っていう事を聞かせるだけの体のいい言い訳に過ぎないだろうが!
「全員目的の人物が同じなら、退散して貰うしかねえな」
コイツは本当に何処の組織のものだ?選りによってパシャを殺す、と言い出す奴に心当たりがない。有るとすれば第二王子派が、第一王子派の台頭を嫌って仕掛けてきたという程度の推測しか出来ない。
それぞれが腕利きを集めただけあり、なりそこないが素早く排除されていく。暗殺者の右足を握りつぶしたのみで、なりそこないは居なくなった。
そこに高い子供の声が響く。
「動くな!!」
自分も含め、争っていた3者共々びたりと動きが止まり、微動だに出来なくなる。目の前に標的が居るに関わらず!
「ほら、今の内に捕縛捕縛。絶対抜けられないように指も拘束してね。関節外しで逃げられないよう別個固定拘束も」
「「「「「「おう!」」」」」」
こうなってはもう、逃げる事など出来る筈もない――。
ナビゲータの進言により、パシャ達は今迄第二部隊隊舎に了解を得て隠れていた。一番隊隊舎に3つの組織の手の者が忍び込むのを確認してから、隊舎の近くで状態を確認。
案の定潰し合いが始まったのを見て、なりそこないの居なくなったタイミングで突入。傀儡を使って捕縛という流れだ。すぐに怪しまれないよう、窓に全てカーテンと鍵をかけ、自室の扉にも全員が鍵を掛けて出て来ている。
普段はそこそこズボラな団員達はそこまで丁寧な施錠をしたりしないのだが。
パシャの傀儡で、聞き取りはスムーズだった。むしろ聞いてない事までぺらぺらと良くお喋りしてくれた。暗殺者には依頼の出所を隠した心算で居たようだが、依頼者の面が暗殺者に知られており、その上部を考えると簡単に答えが出た。
軍務伯御息女誘拐殺人未遂、と言う事でそれぞれの組織のトップが裁判に掛けられる。特に人法教はなりそこないなどの非道な手口で何人もの犠牲者を出していた事を強く糾弾される。証人として実行した3名が召喚されており、パシャからの傀儡での聞き取りに素直に答えたものだから、それぞれのトップは苦虫を100匹は噛み締めたような顔をしている。教団2つについては今回の襲撃だけでなく、これまでの襲撃についても言及され、更に罪が上乗せされた。
それぞれのトップは斬首、実行犯は20年の労役、教団は解散、というシンプルな結論が言い渡される。
教団の解散には、全ての団隊が動員され、徹底的な更正プログラムが組まれた。
「しかしナビゲーターさん凄かったね」
「まさか本当に3つ巴で襲いに来るとは…」
実行犯達が連行され、やっとバタバタしたのが落ち着いた面々は、広さの関係で会議室で語り合う。
「偶然とはいえ、間抜けにも程がありますよねえ…いやでもこんな事ってあるんだなあとしみじみ思いますよ」
「パシャ大人気だったな。何処から情報が漏れてたのか解らないけども…つーかある意味俺等一般団員の方がパシャの事解ってないんじゃないですかこれ!?」
情けない顔でこちらに詰め寄る団員に、パシャは困ったような顔になる。
「うーん…話してもいいけど、微妙な気持ちになるだけだと思うんだけど…それでも知りたい?」
「流石に外部より事情知らないのはもっと微妙な気持ちだと思うんで、出来れば知りたいですね」
「まず、パシャは魔女ではないよ」
「誰もそんな事疑ってないと思うぞ」
「そお?でもパシャの中に魔女さんが居るの」
「はあ!?どういう事???」
「今回の聞き取りもそうだけど、パシャがちょっと変わった能力使うのは知ってるよね?」
「あー、聞いても無駄かと思ってたわ」
「あれは大昔に魔女が残したコアを取り込んで使えるようになったの」
「え、じゃあ俺等もコア取り込んだら使えるのか」
「ううん、出来ない。なりそこないになる」
「なりそこないってじゃあ…全員元は人間……?」
今迄倒してきた数を思い出したのか、ぞっとした顔をする団員。
「そうだね。で、パシャの中にある器を大きくしてくれて、なりそこないにならずにコアを使えるようにしてくれてるのが魔女。パシャのお母さんなんだよ」
「パシャ、其処まで話すと混乱するからやめときなさい」
既に団員は混乱しており、何を訊けばいいか解らずに汗をかいている。
「コアを使えるようにするには、器を拡げないとダメなの。普通に小さい魔法を延々使って鍛錬しても拡げられるけど、パシャの場合は最初から魔女さんが拡げてくれてたから使えたの」
「じゃあ団長が最近使えるのは?」
疑問が解消したらまた次の疑問が出て来る状態で、まだ団員は混乱気味だ。
「んーと、パシャが団長を好きだったから、旦那様になってもいいって思って、器を共有出来る契約をしたの。だからパシャが使える能力は使えても、持ってない能力は使えないよ」
「あー…それで伴侶、ね。了解っす」
「俺はなんで急にパシャが軍務伯の養女になったのか訊きたいな」
「うーん。オルソーニさん、話さないと理解出来ないと思うよ」
「そこ突かれるとしょうがないな」
「パシャの本当の名前はパシャラニエ・ケイティス・リ・トラド=デュクリメント」
「それって軍務伯の養女になるから改名したんじゃなかったのか?」
「違うよ。それと、オルソーニさんの前世の名前がサイラニス・ウディス・ド・エルク=デュクリメント。長男だったから跡継ぎだね」
「隊長の前世まで!?」
「其処に嫁いだ魔女さんがディコレッタ・アスール・ミ・レストゥム=デュクリメントになって、第一子が私、パシャラニエ・ケイティス・リ・トラド=デュクリメントなの」
「いや待て。魔女って昔の人だろ?500年とか前の。なんでお前が出て来るんだ?」
「うん、魔女さんが魔法を試してる時に、近づくなって言われてたとこに使用人が私を抱いて近づいちゃって。怖くなって私を放り投げて逃げちゃったの。それで次元の狭間を超えて、500年後のスラムの孤児院に辿り着くの」
そこで言葉を切ったパシャに、団員が詰めていた息を吐く音がする。
「なんか…やけに壮大な話で聞いちゃって良かったのかと後悔しそうです」
「え――現実にそんな話ってある?」
「あったからここにパシャがいるよ」
「まあもう、過去がどうでも俺等の仲間なんだからいいじゃんか」
「パシャもそう思う」
「まあでもこれで外部の奴らより、俺等の方が多分パシャに詳しくなった気がする」
「ここまで知ってる奴らは他にはおらんと思うぞ」
聞きたい事は聞き終えた筈ではあるが、そのままダラダラとお喋りの続く第一団隊の面々だった。
ちなみにまたパシャは奢って貰うのを忘れていた。
色々秘匿されてきた団員達にとってはモヤモヤが一気に晴れた気分でスッキリしたでしょうね
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