15.養子
お爺ちゃんは心配性です
目覚めると、枕元の椅子にオルソーニが居た。
「…おはよう、パシャ」
「………おはよう…なんでここに?」
「――サイラニス、って名前に覚えがないか?」
「お父さんの名前だね」
「――――――はぁ!?」
「私、パシャラニエ・ケイティス・リ・トラド=デュクリメントだった」
「あ…あの時の初子…!!そ、うか…そうだな、パシャだもんな…」
「でも魔女もいるよ」
「何処に?」
「此処に。私の器を広げる為に同化してくれてる……ねえ、サイラニスじゃなくて、オルソーニさんは、誰が好き?ディコレッタ?」
「――いいや。お前さんだな。こんな年齢差で笑われるだろうが」
「ディーナー契約してるから、年齢操作できる。毎年1歳若返って、丁度いいところで止めればいい」
「そんな事できるのか?」
「なんなら今10才程若返ってみればいい」
「どうせなら魔女と同じ18くらいになってみるか…」
オルソーニが目を閉じて集中すると、体の厚みが細くなり、腕の筋肉も嵩が減る。少し顔にも幼さが戻り、肌がぴちぴちになる。日焼けしていた肌も白くなった。
「あ―…学校出たてのヒヨコん時の俺、だな…」
鏡を見ながら呆然とオルソーニが呟く。サイズの合わない服がずり落ちそうで危ない。
「…年齢に問題ないのは解ったが…お前の気持ちを聞いてない」
元の年齢-1歳に体を戻しながら、オルソーニは顔を隠しながら問う。耳が真っ赤だ。
「私は最初からオルソーニさんが1番好きで特別だったよ」
「そうか…でも安心しろ、育つまで手は出さないから」
「オルソーニさんのそういうとこ安心できて好き」
にっこりとパシャは笑った。
「…元帥に会いに行こうか」
面会の申し入れをすると、あっさりとそのまま通された。廊下に並ぶ面会希望者達の視線が痛い。
「で、思い出されましたかな、魔女様」
「どちらも魔女ではありませんでした」
「――いやいやいや、そんな訳は…」
「前世はサイラニス・ウディス・ド・エルク=デュクリメントです、初めまして子孫」
かぱりとカリエストの口が開く。
「この時代に飛ばされてきたので前世はないよ。魔女の第一子、パシャラニエ・ケイティス・リ・トラド=デュクリメント。この場合も子孫になるのかな?」
「い…いや、待て。それではあれだけの魔法を行使出来る訳がない」
「そうだね。魔女は居るけど、此処に居るよ」
パシャは自分の腹の辺りを押さえて目を瞑る。
「私の器と同化して、私を助けてくれてるの」
「我らに魔法が使えるようには出来んのか!?」
「出来るけど…昔と同じ、蝋燭を灯す程度のものだよ」
「何故だ!!」
「受け取る側の器が小さいから。研鑽し、器を広げてからなら、大きな魔法のコアも使えると思う」
「昔魔女は、その小さな力さえ戻せなかっただろう?」
「魔法の力とマナの相性の問題だね。コアと同じように、でも薄く薄く力を限定したコアを作って飲んで貰えれば戻るよ。魔女はずっとその事を考えてたから、答えが出たみたい」
身を乗り出していた元帥は疲れたようにぼすっと椅子に座りなおす。
「では、今それを儂にくれるか」
「――はい」
落ち着いてナビゲーターと器の中の力が導くままにコアを精製する。ただし本当に薄い、透明に近い色のコアだ。
「どうぞ」
躊躇う事無く元帥はそれを口にする。激痛が走っているのか脂汗を掻いて震えている。
「言い忘れてたけど、最初のコアを口にする時は凄く痛いよ」
思わず元帥はパシャを睨む。
暫くして痛みから解放された元帥は、指に火を灯す。その光に照らされて、元帥の潤んだ目元が光る。
「…魔法だ」
「その今使える魔法を何千回も何万回も使っていれば器が増えていくから。広がった、と思ったらまた連絡してくれたら大きい魔法も渡してみるよ。………市民に配ったりするなら、今渡したコアを定期的に持ってくるけどどうする?」
「ああ…そうだな。奪ったものは返さねばならない。そうしてくれると助かる。激痛が走ることは注意書きしておこう」
「わかった。ある程度溜まるたびに此処に持ってくるよ」
長く掛かる事だろう。永遠の命を持って尚、終わらせる事が出来るのか解らない。
でもこれは自分達が大魔法を使える代わりにやるべき尻拭いである。
――ごめんなさい…私がしなきゃならなかったのに…
「ふふ、魔女が謝ってるよ、オルソーニさん」
「お前は謝って貰っとけ。俺は特に関係ないのに魔法使わせて貰ってるからな」
「元帥さん、もし鍛錬して器が広がったので大きい魔法が使いたいって人が居れば連れて来て貰っていいですか?」
「これ以上の尻拭いを君がするのかね?」
「はい、お母さんに拡げて貰った器のお陰で何度も命拾いしてる。それに…直接じゃなかったけど、お母さんに逢いたかったから、オヤコーコーしようかなって」
「…魔女は人を憎んではいないのか?」
「憎いに決まってるだろうが!どいつもこいつも自分の器の小ささを棚に上げて私の所為にして!私が受けた拷問を私を刑場に引っ張り上げた全ての人間に味わわせてやりたいね!!――んんんんんっ、あ、あんまり刺激しないで、魔女にも色々事情があるので…今の人はなるべく出さないようにしてるんだけど、偶にどうしても出ちゃう、魔女の第二人格」
「そ、そうか…すまなかったな」
「あ、それとオルソーニさんは私が18になったら結婚して貰うので、見合い話は持ってこないでね」
「オルソーニ…?」
「あっ、いやこれは色々事情がありましてっ!」
「小さい児童を性的対象とみる趣味があったとは…隊長を換えたほうが良いだろうかね?」
「あのね、元帥さん。私もオルソーニさんも寿命がないから今の年齢とか関係ないよ」
「寿命が…ない?」
「魔女も何百年か生きたの。私達も同じになった。任意の年齢で止められるからオルソーニさんには周りが驚かない程度に徐々に若返って貰う心算」
「…なるほどそういう事か。結婚式には参列させて貰おうか」
「うん、…こうやって話してると、子孫っていうよりはお爺ちゃんと話してるみたいでくすぐったい…」
「ふあっふぁっふぁっ、そうじゃの、儂も孫が出来た気分じゃよ。どうじゃろう、正式にパシャラニエ・ケイティス・リ・トラド=デュクリメントと名乗る心算はないのかね?団に居るより平穏に過せると思うが」
「いいの。さっきの人のガス抜きを魔物相手にやらなきゃだから丁度いい」
「そうか…では団に所属していても良い。ただ正式に養子として後ろ盾に成らせておくれ。組織の件などが心配なのだ。力になれる事もあるやも知れんでな」
「組織の人には大きい魔法はあげたくない…なんか危なそうで…。養子の件はありがとう。何かと迷惑を掛けちゃうと思うので、今謝っておくね、ごめんなさい」
「孫に迷惑を掛けられるのも爺の楽しみのようなもんじゃよ。では手続きはしておくので、こっちに先にサインだけ貰えるかね?」
元帥ががたがたと引き出しを漁り、養子の手続き書類を見つけて出してくる。
「はい」
話が早すぎてちょっとびっくりしながら、パシャは書類にサインした。
「コアの件で定期的に逢えると思うと嬉しい、お爺ちゃん」
「ふあっふぁっふぁっ、こうなってみるとなかなかに面映い。儂も楽しみにするとしよう」
最後には、ばいばい、と手を振って元帥と別れるパシャ。オルソーニは苦笑しか出ない。
「お前が家に嫁に来るのか、俺が元帥の所へ婿入りで入るのかどっちだろうな」
「うーんどっちでもいいけど、魔女が名乗った名前や家庭の事があるから、婿入りの方が良いかも知れないね。オルソーニさんの前世も元帥さんのとこのお家だし」
「そうだなあ…まあ、結婚する事になったらもう一度意見あわせしようか」
「うん!」
大魔法の中に、時空魔法というのがあって転移が出来ると知ったパシャは、早速オルソーニの手を捕まえて団まで転移する。
「これは…便利だな」
「オルソーニさんも使えるよ」
「ん、今度試すわ」
オルソーニは礼服から着替えると、またギリギリの時間で昼食を取る事になった。パシャは相変わらず美味しそうにごはんを食べてご機嫌になっている。
「あ、隊長とパシャみっけ」
「元帥に会いに行ったんでしたっけ、上手く話は進みましたか?」
「もひーはむはっは!」
「なんて?」
「おじーちゃんだった、かな」
「そりゃパシャから見ればそうだろうな」
「いや、パシャが養子になる事になった」
「はぁ!?なんで!!?」
「元々デュクリメントの家の者だからというのと、組織に対して後ろ盾になってくれるそうだ」
「はあ…まあ…上手く行ったようで良かったです」
「多分もう、討伐依頼の詰め込みはなくなるぞ。あと、小さい火とかちょっとの水とか出す魔法が使いたい奴は寝る前にでもパシャからコアを受け取っとけ」
「へえ。便利そうじゃないですか。なあ?」
「うんうん、使えるなら貰っときたいな」
「ただし飲み込んで暫くの間は激痛で身動ぎも出来ないような状態になるから覚悟もしとけ」
「え…でも暫く我慢したら小さい魔法が使えるって考えると…うーん、やっぱり欲しいかな…」
「俺も」
「解った、じゃあパシャ、ご飯が終わったら20人分あの薄いコア作ってくれ」
「んふっふー!」
後ろ盾も出来て、人々へ魔法を還元する方法も見付かった。後は組織がどう出て来るのか。
まだ安心出来る状態ではない事に、オルソーニは溜息を吐くのだった。
無事後ろ盾が出来たけれど、防波堤となれるかは別の話ですね。組織はどう出るでしょうか
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