14.ディコレッタとサイラニス
500年前から現在へつづくお話ですね
ディコレッタは不満だった。例えばディコレッタが掌大の炎の弾を生み出して的を破壊すると、凄いと褒め、嫉妬の念は感じるのに、自分がそうなれるとは全く考えてもいない人々に。努力もせず、魔法に対して真摯に努力した自分を嘲る癖に、自分は姫のような才能はないからと。
やりもせずに才能があるとかないとか解るわけがない。
そんな変わり者の自分を、軍務伯の長男であるサイラニス・ウディス・ド・エルク=デュクリメントだけは笑わなかった。一緒に努力してくれた。確かに自分には及ばないかも知れないが、サイラニスの腕はどんどん上達し、器も育っていった。
姫はサイラニスを気に入ってあちこちへと行動を共にした。その頃には、サイラ、コレッタ、と呼び合うようになっていた。山の狐や川の竜神、海の主、野を駆けるフェンリルの長。皆コレッタの友達だというサイラを気に入って偶にお喋りする仲になっていった。
それもコレッタが空間転移という魔法を修めていた為、移動が容易であった所為もある。一緒に練習し続けたサイラもそれなりに魔法が使えるようになって、コレッタを嘲った人々の鼻を明かしてやった。
魔法に依る戦果で殊勲を上げ、立派に父の跡を継いだ。
それでも人々は少し試しただけでやはり才能がない、と勝手に見切りをつけて真面目に修練する人間は殆ど居なかった。そのうち2人は結婚し、1児を儲ける。だが、その子はディコレッタの魔法練習中に絶対に近寄るなと言っておいたにも関わらず、使用人が抱いて通り掛かり、次元魔法に囚われてしまう。幼い子を取り落とし、使用人は逃げてしまう。
魔法は子の魂を千々に砕いてその体は次元の狭間へと消えてしまう。取り乱しなんとか我が子を助けようとディコレッタは狂乱するが、叶わず。その場で嘔吐し、泣き崩れた。
罰しようにも使用人は金だけ持って逃げてしまっており、見つける事はできなかった。悲しむディコレッタをサイラニスは慰め、2人の間に更に1男2女を儲ける。初子であった子の事は忘れられなかったが、可愛い子供達に癒されてだんだんディコレッタは元気になっていった。
その頃には、自分が全く成長も老いもせず、18の頃の容姿で止まっている事に気付く。サイラニスは年相応に老けていくのを目の当たりにし、置いて行かないで、と何度も請うが、どうすればいいのか2人には解らなかった。
わが子も育ち、孫も出来、サイラニスがとうとう寿命を迎えた日、ディコレッタは泣いた。サイラニスが居ないまま誰にも理解されないまま生きるのは苦痛だった。
子は世論を信じ、ディコレッタの努力を嘲っていたのだ。ただ自分よりも若い容姿を保ち続ける母親を疎ましくも思っていた。
ディコレッタは徐々に森に住むようになり、人の近寄らない場所で魔法を研鑽する。その内にディーナーというシステムを構築し、従僕にした相手が好きに年齢を操り、老いる事無く傍に居られる魔法を開発したが、サイラニス存命のうちに完成しなかった自分を責めた。
どんどん厭世的になって行く中、ディコレッタは小さな魔法を集めて大きくする方法を編み出す。人々が持つ蝋燭を灯す程度の炎や一口分の水を生むささやかな魔法を集め、大魔法を使えるレベルの魔法へと昇華させる。他にも超能力や願望、統率など、色んな力を集めて昇華させた。
そして、他の人に分ける事が出来る様、コアを生み出し、望む者に与えていった。だが、研鑽し遥か高みへと成長していたディコレッタの器は他の人間の器とは訳が違うという事に気付かなかった。人の役に立とうと生み出したコアは人々を怪物に変え、急に使えなくなった火の魔法などは使えないまま。
ごくごく一部の真面目に修練した人間だけはなんとかそのコアを自分の力にする事が出来た。
人々は弾劾した。蝋燭を灯せるだけでもいい、魔法の力を返せと。それ以外にも独占している力を戻せと。
ディコレッタは焦りながらも先ずは魔法以外の力を空気中のマナに溶かし込んで人々へ還元した。だが、魔法の力だけはどうしても人の中に戻すことが出来ない。それを出し渋っている強欲な女だと謗られ、ディコレッタは牢に閉じ込められる。
毎日のように拷問官が訪れ、一歩間違えば死ぬような目に合わされる。下手に回復魔法が使えた所為で、次の日には完治している女に、拷問官は容赦がなかった。間違って殺してしまう事もあったが、ディコレッタが死ぬと、死ぬ直前に時が戻る為、誰も気付かなかった。
知らない事を話す事などできず、ただ魔法を戻す方法は本当に解らないのだと主張し続けたディコレッタは、とうとう断頭台へ上がる事になる。その時にはもう、人を信頼する事が出来ず、ただただこの恨みを、痛みを、他の理解のない者共に味わわせてやりたいと思うようになっていた。
ただ、サイラニスのお陰で、人を信じる心も一部残っていた。ディコレッタの心は荒れ、2つに分かれた。復讐を誓うディコレッタと、人を愛するディコレッタに。
断頭台の世話になる事もなく、ディコレッタは、自分の肉体を人々が欲した力のコアに分解し飛び散らせ、魂は初子の飲まれた次元の狭間を彷徨った。500年後の世界、初子――パシャラニエ・ケイティス・リ・トラド=デュクリメントは、ただのパシャとして孤児院に居た。
まだ殆ど口の聞けないパシャは、自分の名前を繰り返しぱしゃ、ぱしゃ、と言っていたのでそのままそう名付けられたのだ。砕かれた魂は、完全ではないがほぼ治癒されていた。
せめてこの子にプレゼントを上げたい。そう願ったディコレッタはパシャの器としてその体に入り込む。どうか、自分の残したコアを拾って、この子が自由に使えますようにと願いを込めて。酷い目に遭っているパシャにディコレッタは悲しむが、とうとうコアを口にした事を喜んだ。
魔法の力にはナビゲーターがついており、使い方を教えてくれる筈だ。ナビゲーターに自我が芽生え、魔女の仇を取るため体内の力の構築を兵器に寄せてしまうのは誤算だった。けれど、もうただの器としてほんの少し意識を持つ程度のディコレッタにはナビゲーターを止める事が出来なかった。
だが、オルソーニと出会うことで魔女の力が増す。これはサイラニスだとディコレッタには解った。相変わらずお人よしで、小さな子に優しくて。だから、パシャがオルソーニをディーナーに指名した時の喜びは言い表せない程だった。今度こそ、私の魂を含んだこの体は、最後までサイラニスと居る事が出来るのだと。
一方で、膨らんでいた復讐を胸に抱くディコレッタは、パシャの心に影響を与える。他人なんて信用出来ず、特に悪人の血を見る事に愉悦を感じるディコレッタ。それが出来ないならせめて魔物の血でもいいから浴びたい、と妙な欲をパシャに抱かせる。
力の増した善人のディコレッタはなんとか自分と融合させて緩和させられないかと試みる。半分成功し、半分失敗したと言えるだろう。常にパシャの心を占める事はなくなったが、何か切っ掛けがあると顔を覗かせる。
そして溶け込んだディコレッタの知識が少しパシャに影響を与え、8歳児らしくない喋り方をするようになってしまった。気味悪がられてサイラニスに見捨てられないかと心配したが、その程度の事で見放す程、サイラニスの善人度合いは小さくなかった。余計に懐に入れるように大事に扱ってくれるようになった。
ディコレッタは、オルソーニに完全にサイラニスを投影してしまい、胸がときめくのを抑えられない。――が、これはパシャの人生だ。年齢の差も大きい。期待しすぎてはいけない。
ディーナー契約は切ることだって可能なのだから。穏やかに見守り、器を守っていこうとディコレッタは決意する。悪意のディコレッタはちょこちょこ顔を出すが、そこまで壊滅的な行動を取る訳でもなく、ディコレッタは安心した。
――これが、波乱に満ちたディコレッタ・アスール・ミ・レストゥム=デュクリメントの生涯であり、現在進行形でまだディコレッタはパシャの中に居る。
騎士団元帥は子孫だった。御先祖×2に対し、どういう態度で接するのだろうかと楽しみです。
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