10.試合
オバさんはなんでもゴリ押しとヒステリーで罷り通ってきた様子ですね
最初はパシャの武器が飛び道具である事を知った第5部隊隊長は、それを認めるのを渋った。スタート位置から全く動かなければ使ってもいいなどと言い出したりした。その場合、魔剣を使用する第5隊長も動かないか、全員木刀で試合するかを選ばせようとすると、逆切れ気味に、「だったら飛び道具でもなんでも認めてやるわよ!」と恐ろしく乱れた書き殴り文字で返信が届いた。
何があっても魔剣は使いたいらしい。毒蠍と言われる魔剣は、切るたびに相手の体に毒を残す。徐々に体が動かなくなっていく毒だ。最後は木偶同然となった相手を甚振るのが趣味なのだとか。解毒薬は柄に仕込んであるらしいが、それを渡すかどうかは使用者の一存で決まる。貰えなければ年単位で療養が必要となる厄介な剣だ。故に、なかなか間合いまで踏み込めないのも特徴だったが、パシャの銃器はそれを覆す。第5隊長はそれを渋ったのだ。
試合日当日、部隊総合練習場にて、無関係の部隊長達にあみだ籤を引かせて審判を決める。第9部隊隊長が審判となった。第5隊長はそれにも不満をぶつけ、最初に話を通した第4隊長にさせるべきだと主張したが、誰もが納得する公平さが重視され、第9部隊隊長がそのまま審判についた。アイコンタクトを取っている場面をみれば、誰もが第5部隊隊長と第4部隊隊長が八百長を仕込んでいる事くらいは丸解りになっていた。どこまでも狡っからい女だ。
そしていざ試合、となった時には重装甲で全身を固め、銃弾が通らないようにしてくる。もうぽかんと口をあけるしかない。その隊長の鎧を見つめてパシャは言う。
「禄に身動きも取れまい。本当にその装備で構わないんだな?」
「余計な世話よ。貴方の銃弾が通らないからってケチをつけるのはやめてくれないかしら」
「通らない?いつ私がそんな事を言った。まあいい。始めてくれ」
使うのは戦闘機器全般のリベラルのみ。
「はじめ!」
ズドドドド!
両肩に2発、両膝に2発、計4発を連射し、パシャは頽れた第5隊長に尋ねる。
「ここからは拷問に近くなるが、まだやるか?」
パシャの銃弾は魔弾だ。無機物に当てるか当てないかは銃弾精製時に指定出来る。今回は勿論無機物には当たらないよう設定されている。
「ひ……卑怯よ!何故鎧を着た私に銃弾が当たるのよ!何かズルをしているに違いないわ!」
「お前は魔弾も知らずに喧嘩を売ってきたのか?」
「魔、弾?」
「私の魔力で精製された弾だ。無機物に当てるかどうかは精製時に決めることが出来る」
「ひ、ひきょう、卑怯ですそんなのナシだわ!」
「お前が認めた書面を今此処で出してやろうか?それとも五月蝿い口を壊してやろうか?どっちが好みだ。後、降参か否か5秒以内に決めろ。決めなければ次弾を打つ。全関節を壊してやる」
「ひっ…」
「ごーぉ、よーん、さーん、にーぃ、い」
「こ、降参、降参するわ!」
「第1部隊、パシャ・コーストロードの勝利!」
第1陣営側は、余りにも当然の結果すぎて全員拍手も疎らに苦笑している。
逆に第5陣営側は、「私が一人で全員倒すからゆったり観戦してて」と言われてその心算で来ている。ブーイングの嵐だ。
「流石に先鋒くらいは倒してくれないと困るんですけどォ~」
「一応自分の得意武器くらいは持って来てますけど、あんなのが相手なんて聞いてないし!」
「あたしムリムリ、あんな速さの攻撃捌けない!」
「うーん。うちのラブリュスは有機武器やけど、タマ弾けるかは解らんなぁ」
「ちょっと!マトモに戦えそうなのはカスリだけなんだからもっと自信持ってよ!…大将まで回らなさそうだけど…」
「ゆうて、この試合負けたらなんかペナルティあんの?」
「ないけど…でもチビに3人抜きとかされたら私らの評判地の底まで落ちるわよ」
「安心し。先鋒戦で既に評判は地下に行っとるわ」
「次鋒、早く上がってきなさい」
「は…はいっ」
自前のブレードを構えながらも、涙目で震えてる相手にパシャは嘆息する。
「はじめ!」
ドパン!
利き腕の肩だけ打ち抜き、パシャは相手の反応を見る。虫でも観察するような目つきに、相手は即座に降参した。
「降参!降参です!!」
「第1部隊、パシャ・コーストロードの勝利!」
「ちょっと早すぎるんじゃない!?」
「ムリムリって言ったじゃない!!」
「速度で掻き回せないかな…まあ弾丸の速度の方が速いデスケド」
「中堅、はやく上がりなさい」
「あ、ハイ!」
中堅が定位置までつくと、審判は頷く。
「はじめ!」
ズドン!パリン!
始めの合図とほぼ同時、パシャは相手のイヤリングを打ち抜く。
「盗み撮りも盗み聞きも感心しないな…組織の奴か。安心しろ、この試合では殺さないでやる」
「ハ…ハハまさかぁ………違う、と言っても納得しなさそうだね」
「お前だけ目が違う。他の奴らと違ってずっと私を観察していた」
「仕方ない。アンタは殺す」
「此処でか?」
「別に此処でもいいじゃないか」
「待ちなさい、故意に殺害をする事は禁じ…ぐぁあっ!」
パシャと同型の小銃。――つまりこれは女の私物ではなく組織のお仕着せか、とパシャは納得する。
審判の耳を吹き飛ばした本人は全くの無表情。
「そうもいかなくなっちゃったの。邪魔するなら全員撃つ」
「団長、殺戮許可は下りますか?」
「問題ない。これは危険人物だ。下手に生かすと被害が広がる」
ふっと息を吸うと、『カスタム。連射モード』と呟き、女に照準を合わせるや否や引き金を引く。
ズドドドドドドドド!
女は咄嗟に横っ飛びして転がるが、肩口を少し持っていかれている
「この銃が連射出来るなんて聞いた事ないんだけど!」
「私がカスタムした」
ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド
なるべく事情徴収出来るように体の中央部と頭は避けて手足を奪いに掛かる。右手、左足は貰った。残りは左手・右足だ。女も散発的に撃っては来ているが、暗殺のリベラルはあっさりと全弾避ける。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド
マシンガンに切り替えてもいいが、組織の人間が見ている上に衆目が多くて誤魔化せそうにない。この銃だけで乗りきる、とパシャは力を篭める。撃ちおとした風を装って超能力で相手の小銃を弾き飛ばした。
「あうっ…あ、あは、魔女様に栄光あれ!!」
左手と右足を奪った瞬間、女は奇妙な笑顔でそう言い残すと自爆した。パシャは嫌な予感に従って伏せて居た為特に外傷はないが、びっしょり血肉を浴びてしまって気持ちが悪そうな、でも少し恍惚としたような顔をしている。
試合は3タテで第1番隊の勝ちとし、詳細は聞き取り後に話す、との事。第5番隊は寝耳に水の状態のようで、誰もが中堅の女の仕出かしに唖然と口を開いている。それでも同じ隊である為、第5番隊の者は全て事情徴収となった。
聞き取り中、尋問官相手に爆発した者があと1人居たそうだ。同型のイヤリングをつけていた為、イヤリングをつけた者を探すと、同じ型のタイピンをした者が3名捕縛され、尋問官が怪我をしないよう防弾ガラス張りの仕切られた部屋で聞き取りを開始したが、全員が爆発。
上部にも1人居た為、数名掛かりで捕縛、しかし思わせぶりな発言ばかりで肝心の問いには何一つ答えないまま自爆。事件として傷跡が残った形となった。
この思わせぶりな発言に何度か魔女の名前が出たため、魔女事件と呼ばれることになった。
「第5部隊、第1部隊の幼女に3タテ、かあ」
壁新聞に事件の発端と共にこの事実も公表され、今第5部隊は火が消えたようなお通夜モードだ。
「わざわざそんな事書く必要ないのにな」
「いや、その件でお前の事を見直す動きもある。こっちとしちゃいい流れだ」
「ごめんくださいー」
「?」
第1番隊の修練場に先日の試合の大将だった女性が来ていた。
ついピリついた反応になる者が多数だ。
「いやーうちの隊長、このままやとアカン、いう事でウチが代わりに隊長やる事になりましてん」
「はあ…」
「こちらさんにはえろう迷惑掛けてしもた、いうんで陣中見舞いですわ、どうぞ」
菓子の大箱をオルソーニに預け、ぺこりと頭を下げる。
「じゃあ、迷惑料として、有機体の武具って見せて貰える?」
パシャがちょっとわくわくした目で5番隊長を見つめている。
「ぅわあ…えぐいとこ突いてきますなあ…じゃあちょっと失礼して…」
長袖の外套を脱ぎ捨てると、ノースリーブの肌が出て来る。
「雷斧雷盾!」
腕の甲側に盾、右腕はそのまま斧と化している。
「あ、生まれ持ってのスキルなんで、なんぞ魔術道具的処置で加工したとかやないです。雷いうんは生体電流が他の人より強くて、其処から派生したスキルやったんでそんな名前ですわ。だから触っても感電したりはしませんな」
「す、すまんうちのチビの我侭でそんな秘密事項を曝させてしまって…」
「いやいやこれで漸く痛み分けって気分でスッキリしましたわ。チビちゃんごめんな、オバサンはヒステリーでなあ」
言いながら、さっさと武具を引っ込めて長袖を着る。パシャは頭を下げてお礼を言った。
「んーん。見せてくれてありがとう!凄いね!!」
「さよか。お気に召したんやったら幸いやな。ほな、長居すんのも迷惑の内やと思うんで、今回はこのくらいで失礼しますわ。多分隊長は放逐になると思うんで、わざわざ復讐まではしに来ぇへんと思うけど、一応気ィつけたって!」
その次の日、元第5番隊隊長の死骸が発見され、魔剣が奪われているのが発覚する――
組織に魔剣を奪われると厄介ですね。
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