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最強幼女は特殊スキルで繰り返す世界を生き抜く  作者: 安威 ソウジ
第一章 私は死ねないようだ
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1.その日、私は2度死んだ

思いつくままにスタートしてみました

挿絵(By みてみん) 

 今日は良い捨て場が見つかった。ラッキーだ。

 スラムを徘徊するガリガリの幼女は、まだ腐りの浅いパンを選って口の中に放り込み、咀嚼も雑に飲み込んでいく。早く食べなければ、他の子供や大人に獲られてしまう。腐りきってもう食べようがないパンしか残らなくなった頃、()()が光った。


「…なんだこれ…」

 綺麗な6面体で虹色に輝く、スラムには似合わない輝きだ。

「お嬢ちゃん、悪いけどそれは私の落し物なの。返してくれるかしら」

 幼女はムッとした顔で馬鹿にする。スラムのルールを知らんのかこの女は。

「バーカ、スラムのモンってな見つけたモン勝ちなんだよ。ンな事も知らねーのかよ」

 言いながら、振り向いた幼女の額に当てられたのは銃口だった。幼女の記憶はそこまでだ。



「ハァ…ハァ…何…何だ今の…」

 夢でも見たのだろうか。でも、目の前にはさっきと同じ、腐りの浅いパンが大量に見える。がっつきながら、下に煌く6面体が落ちるのを見た。ドクン、と心臓が脈打つ。不自然に見えないよう、そっと足先でその6面体を横に避ける。これでもし変な女が来ても勝手に持っていくだろう。安心して残りを口に入れようとしたその時、声がした。

「ごめんなさいねお嬢ちゃん。見られちゃったからには生きていられると困るの」

 ゴリッと後ろ頭に鉄の感触がした。


「ハァ…ハァ…ハァッ…ど、しろと…」

 嫌でも幼女は理解させられた。自分は殺され続けている。そして何故か死ぬ度に此処へ戻ってくるのだ。

 これほど良い捨て場は5日ぶりだ。ずっと食べていないお腹がギュウギュウして痛い。立ち去ろうとしても、飢えに(あらが)えずに泣きながらパンに(かじ)りつく。がつがつと粗雑に咀嚼(そしゃく)し飲み込みながら、六面体が出て来た時も、パンと一緒に飲み込んだ。途端に酷い激痛が体を襲う。まるで体を1から作り直しているかのような痛みだ。痛みに耐えながらも最後までパンを(むさぼ)る。


 丸まって転がりたいが、スラムでそんな事をすれば寄って(たか)って身包(みぐる)みを()がれる。剥がれるほどの財産はないが、今着ている服は3日前に捨て場で拾った、珍しく穴があいていないTシャツとパンツだ。持って行かれると困るのだ。


「お嬢ちゃん…サイコロみたいな綺麗な石を見なかった?」

「知らん。ここにはまだ食べられるパンが一杯あっただけ。残りはもう腐りきってて食べられない」

「そう……何処に隠したか吐きなさい…あれは適合者こそ見付からないけれど、最高の能力者を作る為の大事なお姉さんの宝物なの。早くしないと撃っちゃうわよ?」


 そう言いつつ、既に引き金に指を掛けているのが解った。そんなに銃が撃ちたければ自分を撃てばいいのに!ギラリと底光りする目で幼女が女を睨むと、銃口が上を向き、女の顎下に添えられる。


「…は?何…してるの私…?ちょ…」


 パン!と軽い音で女の命は終わった。地面に()み込んで行く赤と零れた脳漿。がくがくと脚を震わせながらも、幼女は女の身包(みぐる)みを剥ぐ。綺麗な下着、綺麗なシャツ、綺麗な上着、財布、銃とその弾。指輪も剥ごうとしたが、ガンとして剥がれない。それどころか音声が聞こえてきた。

「同士イーシュリー!返事はまだか!リベラルウォームは相手の手に渡ると厄介なんだ、サッサと回収して戻れ!」


 指輪からはまだ音声が聞こえていたが、幼女――パシャは持てるだけを手に持ち、その場を逃げた。後には、全裸で頭から血を流した女だけが残った。


 パシャが(ねぐら)にしている、ほぼ崩れた協会の一部でやっと一息をつく。スーツにスカートは幼女には着れるものではない。シャツは残しておきたい。腕まくりをすればワンピースのように着れるからだ。石鹸で洗ったいい匂いのするものなんて初めてだ。下着。これも入らない。裏市でスーツとセットで売ればそこそこの値段になりそうだ。


 その辺りで気付く。体を組み替えるような激痛が治まっている事に。生き残るのに必死過ぎてあの苛烈な痛みの中、女相手に良く平然としていられたものだと自分でも感心する。


 財布を見て驚いた。見慣れた石貨や鉄貨や銅貨が殆ど入ってない。割り銭もない。見たこともない銀色と金色の通貨が多く入っており、紙幣まである。紙幣を持てるのは余程のお金持ちだ。一応パシャは、その銀貨や金貨、紙幣の価値を自分なりに把握していた。以前に酔狂な老婆が教えてくれたからだ。其の中に、女の身分証明書や建物に入るキーカードなどが入っていたが、こんなものを持っていれば足がついてしまう。


 ズタボロに割って火を着けようとすると、勝手に火が出た。思わず後退(あとずさ)る。物語でなら昔聞いた事がある。魔法使いがいて、こんな風に火や水を出し、空も飛ぶのだ。でもそんな事よりも、身奇麗な格好になって、お金を持っていても不思議ではない服を着たい。そうでなければ、折角の金も何の役にも立たない。


 そう思うと、いきなりシャボンのような泡が一瞬で全身を覆い、一瞬で消えた。髪の毛がくちゃっと纏まって顔に降りてこなかったものが、一気にサラサラになって少女が綺麗なプラチナブロンドである事が解った。綺麗にしてみれば、顔もかなり可愛らしい。頬がこけていなければもっと可愛らしいだろう。そこに、お嬢さんが着そうなそこそこ上品な服が体を覆う。靴下も、靴もある。この靴を売るだけでどれだけの食料が買えるだろう。石パンなら100個くらいは買えそうだ。


 服が何処から現れたかも解らないが、今夜は解らない事ばかりが起こるので、パシャは気にするのを止めた。しかし、この格好では裏市に出られない。自分が標的にされて身包みを剥がれるからだ。勿体無いが、残していくしかない。サイフもだ。足が着く。買い換えてこのサイフ自体は処理しなければならない。パシャは巾着のような割銭1枚入った自分のサイフに、女のサイフの中身を移す。サイフにまだ膨らみがある事に気付き、パシャはそれを外に出す。


 ――6面体だ。多分パシャが急場を凌げたのも、あの良く解らない六面体のおかげだと思う。アレと同じものが6つある。――これを全部飲めば、せめて冒険者としてやっていくか、上手くすれば騎士団員として雇って貰えるかも知れない。サイフを綺麗に燃やしてから、息を吸い込み、パシャは全ての六面体を飲み込んだ。


 ――7ツノりべらるうぉーむノ摂取ヲ確認。人型兵器トシテノ基盤ヲ脳裏に刻ミマス。使イ方ハなびげーとサレル為、安心シテ御利用クダサイ――

 そんな聞き覚えのない機械的な音声が脳裏に響いたかと思うと、パシャは一気に気を失った。


 ――願望ノりべらる、既ニ解放ヲ確認。

 ――戦闘ノりべらる、解放ヲ開始。

 ――生キ残リ(サヴァイバー)ノりべらる、解放ヲ開始。

 ――大魔法ノりべらる、解放ヲ開始。

 ――戦闘機器全般ノりべらる、解放ヲ開始。

 ――暗殺ノりべらる、解放ヲ開始。

 ――知識ノりべらる、解放ヲ開始。


 何――。何だ、何を言ってる?魔法?そんなの御伽噺の産物だ。でなきゃ孤児院だって誰かが魔法を使って助けてくれた筈だ。カッツェ姉ちゃん…ヘログ、マティシア、コルボ、ヘックス兄、…シスターアンジェ、トルキス司祭さま。


 パシャが(ねぐら)にしていた崩れた孤児院は元々はボロくてもきちんとした孤児院だった。教会も孤児院もこんなスラムにある為か、非常に貧乏だった。そんな中、20人ほどの子供を抱えた司祭とシスターは、国からの補助金だけではどうにもならず、何かと金策に喘いでいた。それでも腹は減る。儘成(ままな)らない現実に、子供たちには到底足りないだろう食料を、自分の分を削ってまで最後まで与えてくれたシスターも司祭も、優しくてパシャは好きだったし、尊敬していた。


 そんな折、食い詰めたスラム住人の中でも性質の悪い輩が火と木槌を持って孤児院の少ない金銭とある程度あると見込んだ食料を奪いに来た。小さすぎる子供は役に立たない、とそのまま殺された。ある程度の年齢の少女や少年は売れるからと捕縛されて連れて行かれた。司祭は殺され、シスターは散々玩具(おもちゃ)にされた挙句に殺された。


 小さな用具入れにギリギリ隠れたパシャは全部見ていた。親なんて知らない。私は此処しか知らない。どうして奪うの。おなかは減っていても、慎ましく静かに暮らしていただけなのに。男達が出て行って2日、パシャは用心の為に用具入れから出なかった。


 (ようや)く外に出た頃には、子供と司祭の死体が残る、ただのあばら家になっていた。男たちは襲う施設を探して他所へ移ったらしいと風の噂に聞く。


 (ろく)な道具もないまま、懸命に地面を掘っては死体を埋め、花を摘んできて添えた。全員の分が終わるまで随分と掛かってしまった。お腹がグゴギュウウウと獰猛(どうもう)な咆哮を見せるが、何も、ない。食料は全て男達が持ち出したようだ。井戸から水を汲んで、水で腹を膨らませて空腹を誤魔化す。


 それからのパシャは、スラムのストリートチルドレン達の仲間には入れて貰えず、一人で食料を探した。人数の多いストリートチルドレン達は穴場をいくつも知っており、手分けして食べられる物を持っていってしまう。


 パシャが見つけられたのは、3日で小さな腐ったパンが1つ。腐ったところを避けて、大事に食べた。それでも今迄健康的な食べ物に慣らされた消化器官はその腐ったパンで腹を壊し、パシャは酷い目にあった。何度か腐った食べ物を手に入れたが、パシャは戸惑いなく口に入れた。食べるものが他にないなら、それを食べるしかないのだ。


 最初はずっと腹を下していたパシャだが、だんだん消化器官が慣れて来たのか、下さなくなって来る。茎の生えたじゃがいもにだけは手を出さなかった。カッツェ姉ちゃんが毒だと教えてくれたから。それから急にストリートチルドレン達を見かけなくなった。大きな料理店が鼠退治の為に殺鼠剤を大量に仕込んだ料理を置いていたのを全部食べてしまい、生き残れなかったという。


 全ての捨て場がパシャの自由になった。それからは痛みの少ないパンや、上手くすれば半分だけ腐った果実なども手に入った。甘いものは貴重だ。パシャはサイフ代わりの薄い巾着を持っている。いつだったかヘックス兄が少し働きに行けた事があって、全員に分けて配ってくれた大事な形見だ。割り銭もその時に貰って、巾着に入れてある。パシャはそれを肌身離さず身につけている。けれど、お金を手に入れた今、巾着ではいつ破れるか解らない。早急にサイフが必要だ。


パシャちゃんは8歳です。ギルドも兵隊も、最低12~15くらいからでないと入れません。

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