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第一村人が知り合いでした



 朝起きる、机からハサミを手に取る、左腕に刃を向ける、それを突き立てようと──


「駄目駄目、無駄に心配されちゃうよ。」


 私はハサミを元の位置に戻し、私は左腕を掻きむしりながら寝室を後にした。




──昨日は結局、ダンジョンの外には行かなかった。3人が私のペースに合わせてくれるというのだ。


 「嫌だ。」と言ったがマツ姉とツキ姉が「ロールプレイをするなら、姉役である自分たちに従え」の一点張り。

 なら、マイちゃんは妹だからいけるだろと考えたけど「私たちの善意を踏み躙るの?」と真顔で言われて撃沈。


 さすが、私の分身。私の扱い方がわかっている。

 とりあえず今後一切、私の死体は使役しないことを決意した。


「あ、焦げちゃった。」


 そんなことを考えいたから、はたまた無意識に「不味いもん私に食わせたい」と思っていたのか。

 フライパンの上には焦げたパンケーキがあった。


 ……ホットケーキじゃないよ、パンケーキだよ。


 まあ、できたものは仕方ない。フォークを突き刺し咀嚼する。



「うえええぇぇぇぇ、不味(まっず)。」

 

 クソ苦いや。



◇◇◇◇◇



「みんな、待たせたね。今度こそダンジョンの外に、……ううっ、ちょっと待ってストレスで吐きそう。」


「「「ダメじゃん!?」」」


 おお、綺麗な総ツッコミ。じゃなくて、みんなを安心させないとね。


「大丈夫、文化祭とか吹奏楽コンクールがある時は、1週間前からこの調子だから慣れてるよ。」


「「「大丈夫じゃねえ!?」」」


 おかしいな、お母さんは経験がいっぱいあるっていうと、みんな信頼してくれるって言ってたけど私の場合は適用されないの。

 それもそうだよね。何私が信頼されると思ってんだ自惚れてるのか?気持ち悪い。


「やっぱり、私がいると迷惑かけるよね。3人で一緒に行きなよ。」


 そう言うと、3人は私を仲間外れにして輪を作った。やっぱり、私いらない子だったんだ。


「おい、マイ。聞いてた話と違うぞ。」


「1日おけば大丈夫という話はなっだのです?」


 なんか話してるし。どうやって私を処理するのか相談してるのかなー?


「……、あー。もしかしたら、テンション高い状態がずっと続いてたから、その反動でテンションと自己肯定感がダダ下がりしてるかも?」


「なんですか?その面倒臭い性格は?」


 来世は植物か虫になりたい。感情を消したい。


「精神科行けよ。」


「『私が生きた時間を否定するみたいで嫌だ。』っ言うと思うよ?」


「「本当に面倒臭いですわ(じゃねぇか)!!」」


 どうしようかな、でも死ぬの怖いな。


「シイタケ姉様!!」


 んん?私はこの世界には存在しませんよーだ。だから聞こえてましぇーん。


「このダンジョンにはあなたを殺す存在はいないけど、外には沢山いるんじゃなーい?それに、死んでくれる人を探してる人もいるかもよ?」


「3人とも、何座ってんの?さっさと行くよ。」


 私は切り替えが早いんだ。いつまでもウジウジなんかしない。

 およ?何で3人とも化け物を見るような目をしてるんだ?


「私の姉妹(したい)のくせに私がイカれてるの知らなかったの?」


「何だコイツ。」


「意味がわりませんわ。」


「2人とも、シイタケ姉様のことは理解しなくても大丈夫だよー(棒)」


 さあ、冒険の旅にいざ出発!!





──ゲートに触れた瞬間、『ブォン』というノイズのような耳障りな音が私の脳内を通り過ぎる。

 その不快感に一瞬閉じ、再び開けば、周りにはゲート、ゲート、ゲート。疎に生えた木は、空を覆い隠すように枝葉を広げ、更には濃霧が漂っている。


 ゲートが放つ光だけが頼りの、不気味な森に私は到着した。


[『現世(オリジンワールド):迷いの霧森』に到着しました。]


 久しぶりのシステムボイスを聞き届けていると、続々とみんながゲートから姿を表す。


「おお!!すごいね。なんか、異世界みたい。」


「ワタシたちがいた方が異世界何だけどな。」


「不思議な森ですわね。これ全てが別の世界に繋がっているのでしょうか?」


 その異様な風景に見惚れていると、後ろから小枝や枯葉が割れた音ような乾いた音がした。


「みんな!!気をつけて。」


 早速モンスターのお出ましかと私が身構えていると、


「失礼だなー、種族は淫魔(サキュバス)だけど私は善良な……うげええ!?椎名さんがいっぱいだ!!」


「はいっ?」


「はっ?」


「んん?」


「あら?知り合いですか、シイタケちゃん。」


 えっ?いや、ちょっと待って?えっ?


「えーっと。んんッ!!しいn……シイタケちゃん久しぶりー。すごいね、友達ができないからって自分の人形を作るなんて寂しいね。」


 木の幹からひょっこりと出てきたのは、ピンクの髪色の小悪魔少女だ。

 何故か初対面のはずなのに子憎たらしい表情を浮かべながらこちらを煽ってくる。失礼極まりないな、この子達は私の姉妹だぞ?


「だから私が一緒に遊んであげようか?」


「結構です(だ)(ですわ)。」


「ええっと、まず誰でしょうか?」


 なーんて言えるはずもない。私の心臓はノミ並みに弱いのだ。



 ……ん?何か驚いてるな。目を見開いて口ぱくぱくしてる。


「いや、ええっとまず私、『はるかぜ』だけど……。声だけじゃ気付けなかったよね。ごめんね。」


 そう言いながら頭を下げる少女を見る。私はその名前と顔に脳内で検索をかけ探す。

 たっぷりと時間を掛けて、漸く私は記憶の中から見つけ出した。

 一度、周りに誰もいないことを確認してから私は少女、いや()()に声をかける。


「もしかして、颯太君?」


「名前呼びはやめて欲しいな。」


 ごめんと呟きながらマジマジと春風邪さんを見つめる。

 ピンクの髪に立派な角や翼に目がいってしまったが、確かに顔は記憶の中の春風さんそのものだった。


 最近会ってないけど、真っピンクのワンピースを着るような子じゃなかったはずなんだけどな。

 何があったんだ?


「あっ!?私が気付けたのはあれ、えっと覚えてる?2年ぐらい前だけど、家に行ったことあるじゃん。その時に朝日さんと一緒に作ったアバターに似てるなって思って。それに、その時にシイタケちゃんが出した無茶な要望の要素もあって、例えば左腕の欠損とか。それで気付けたの。」


 …………あー。春風さん居たなー。今、思い出した。最近は疎遠になってたから、存在自体忘れてた。


「それで、シイタケちゃん。えっと、大丈夫?ゲシュタルト崩壊してない?」


「……えっ何。カタパルト解体?」



◇◇side春風邪◇◇



 昔、とあるVRMMOでその事件は起きた。そのVRMMOは従魔を作る際、使役者の性格をベースに従魔の性格が作られるシステムを使っていたのだが。


 1人のプレイヤーが「従魔が本当の俺で、現実の俺は偽物なんじゃないか?」と精神崩壊をしたのだ。

 曰く、その人は元々病んでいたらしいが、万が一というのはある。結果、殆どのVRMMOでは精神性のコピーの類はやらなくなった訳だけど──


「私は大丈夫だよ。私の死体から作った不死者だから、私の別人格が入っただけでしょ?」


「いや、えっと……。何?何を言ってるの?」


 シイタケちゃんの話によると、シイタケちゃんにそっくりなこの子たちはシイタケちゃんが使役している不死者らしいけど、そうだとすればおかしい。

 本来、不死者という種族は明確な意思を持たない。特に魔法石を用いて無理やり成立させた個体は進化をしようとも自意識なんて芽生えないのだ。


 しかし、この子たちは明らかに自意識を持っている。異常事態だ。


 そして、更にシイタケちゃんの「別人格が入っているだけ」という説明が私を混乱させる。意味がわからない。このゲームに別人格を自動で切り取って植え付ける仕様があるとでもいうのか。

 後、何で左腕が無いのかもわからない。出血してないということはキャラクリの時に腕を捥いだということだ。普通はやらないでしょ。


 わからない、シイタケちゃんが何を言っているのか、何をしたいのか。情報量が多い。

 錯乱した私はシイタケちゃんの従魔に視線で助けを求めたが、


「ワタシにもわからん。」


「同じくですわ。」


「うーん?」


 遠い目をしながら、セーラー服を着た従魔と軍服を着た従魔は匙を投げた。

 残ったゴスロリ半身従魔はたっぷりと、30秒は唸り続けこう言葉を紡いだ。


「シイタケ姉様は繊細で図太い心を持ってるからね。TPOに合わせて作った人格が1人歩きしても気にしないんじゃない。知らんけど。」


 地面に体を投げ出し、投げやり従魔は抽象的な答えを出した。


「そうそう、そういう感じ。」


 シイタケちゃんは納得しているみたいだけど、私たちとしては何もわからない。


「春風邪さん。他人のことを無理に理解しなくていいんだよ?」


 私の肩に手を置きながらシイタケちゃんは言う。


「もういいや、何かあったら朝日が全部メチャクチャにするだけだし。」


 考えるだけ無駄だ。



◇◇sideシイタケ◇◇



 それから、春風さんが美味しいものを食べたいと言うので、私たちは彼女について行き、『ゼリーヌ村』という近場の小さな村の小さなお店に来た。


「お待たせしました。どうぞごゆっくり。」


 私と春風邪さんの2人で──従魔は入店禁止だったので3姉妹には泣く泣く引っ込んでもらった──窓際の席に座る。曰く、この店は拘りの一品で勝負しているらしいので待っていれば勝手に出るらしい。


 窓から外を眺めると、住民のスライムたちがせっせと果物やら肉やらを大量に運んでいる。春風邪さんが言うには、明日の夜から祭りをするらしくその準備をしているらしい。

 そのためか、店の中はすっからかんで程なくして料理が来た。

 店員の粘液人(ゼリーマン)が運んできたのは、オレンジ色のゼリーが乗ったヨーグルト。


 イケイケな雰囲気を出している春風邪さんが選んだ店だから、キラキラしたスイーツが出るものだと思っていたんだけど。

 店の雰囲気もこうなんだろうか、灯りが蝋燭だし蓄音機からBGMが流れているし。かなり、古臭い雰囲気で。


 正直に言えば、かなり好きだ。


 スプーンで窓から差し込んだ光を反射しキラキラと輝くそれを掬い上げると、全体がプルプルと震える。


 パクッと咥えると、甘酸っぱいヨーグルトとさっぱりとした蜜柑の味が混ざり合い、口の中でハーモニーを奏でる。素朴だけど、繊細な味わいだ。

 私が頬を綻ばせながらそれを黙々と食べてると春風邪さんが話しかけてきた。


「いやー、会うのは久しぶりだったけど覚えられてて良かったよ。どう?ド田舎の店にしては美味しいでしょこのヨーグルト。」


 私は春風邪さんの問いにこくりと頷いた。やっぱ、食べながら話すのは苦手だなぁ。


「んでさ、これも何かの縁だし2人で今から一緒に遊ばない?」


 春風邪さんはヨーグルトを食べながらも合間合間に言葉を紡いでいる。


「ッ……、いや…………辞めておきます。」


 私は言葉に詰まりながら返事を──


『食事の時は静かにしなさいよ!!』


 ッ!?殴られてない……ね。お母さんはここに居ないんだ。スプーンを置いて頬をぺたぺた触っても血の感触は伝わらない。

 

 春風邪さんは、ヨーグルトに視線を向けていて気付いてないね。


「えー、朝日からのお誘いなら絶対に即答でYes出すよねー?私と一緒に遊ぶのは嫌?」


 すると、私に視線を向けニヤニヤと笑いながら春風邪さんが問いかけてくる。その質問への答えは決まっている。


「朝日と約束してるからです。……朝日より先に遊んだら後ろから刺されますよ。」


「……確かになんかされそう。けど、朝日ちゃんから初めてを奪うってのも面白そうなんだけどなー。」


 本当は数少ない知り合いだし、春風邪さんと遊びたいんだけどね……。これで知り合いが減ったら元も子もないので今回は遠慮させてもらう。


「ま、気が向いたら連絡してよ。」


 その後も他愛ない会話を続けて私たちは解散した。

 


──で、まあ。セーブをして私がヘルメットを外すと、


「……丈乃ちゃんから雄の臭いがする。誰と会ってたの!?」

 

 何故か、全裸になっている私の体を朝日が嗅ぎ回っていた。


「……………。」


「誰と会ってたの!!私に内緒で!!男の人と会うなら私が同伴しないと──」


「黙れ変態。」


 私は怒りに任せて朝日の脳天に拳骨を落とした。


「嗚呼、丈乃ちゃんの愛の鉄拳。効くぅ!!」


 本当に朝日は何なんだ。……そうだ、いいこと思いついた。


「私さ、やっと朝日と遊べる状態になったんだけど、なんか今日の朝日うざ──」


「ごめんね、丈乃ちゃん。これ、新しく買った服だからはいどうぞ。」


 ゴキブリ並みの速度で朝日が私から距離を取った。そして足元には紙袋が。

 開いてみるとシンプルなシャツとショートパンツが入っていた。


 ふむ、ブランド物……ではないと。無言でサムズアップを送っとく。


 早速、私はそれに着替える……いやその前にやることがあるね。


「朝日、出しな。」


「……なっななななんななな!?何のことでやんすかア?」


 コイツ嘘下手か。


「一緒に──」


「すみませんでした魔が刺しました。」


 そう言いながら、朝日は懐から私の下着を出した。やっぱり、なんか今着てる下着に違和感があったんだけど替えられてたのか。


「………………………………なんか、変なことされてそうだしあげるよ。」


 絶対に顔を埋めてる、朝日なら絶対そうする。それに太ったのか最近キツくなってきてたからちょうど良かった。

 この下着ぴったりなんだけど……いつ測ったの?


「寛大な対応をしていただきありがとうございます。」


 朝日は土下座をした後、そそくさと懐に下着を戻した。一応、釘を刺しておくか。


「──次やったら110番呼ぶからな。」


 耳元に口を近づけて囁くように言うと、朝日の体がブルリと震え冷や汗をかき始めた。ちょっと、可哀想だな。


「わかったのならよろしい。風呂入る?」


 汗を流したままなのは気分が悪いだろう。私もちょっと嫌だし、風呂を使わせてあげることにした。


「ありがとう。じゃあお言葉に甘えさせてもらって、ちょっと借りてくるね。丈乃ちゃんはゆっくりしてて。」


 朝日は立ち上がり、私を置いて部屋を出て行こうとした。


「何を言ってるの?」


 それを朝日の腕を掴んで引き留める。


「はいっ?」


「また変なことされるのも嫌だし、私も一緒だよ?」


 私がそう言うと、朝日の全身が一瞬で真っ赤に染まった。


「た、たたたたた丈乃ちゃん//!?流石にそれは一線を越えてひゃあ//!?」


「体まで熱い。これは一旦冷やさないとね。大丈夫、私がお風呂場まで連れてくから。」


 私が触れて確認したらカイロ並みに熱くなっていた。これは不味そうだと思い、水風呂で冷やしてやるために、朝日の体をお姫様抱っこして駆け出す。


「ちょっとおおおお!?色々違うから!!ひとまず下ろしてぇ!!!!」


 抵抗する朝日を必死に抑えながら、私は全速力でお風呂場まで朝日を運んだ。

◇◇side???◇◇ 1 hour ago


「何だか無性に春風さんを刺したくなってきた。どうしたのかな?私。朝日の体見て心癒すか。」

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