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始めの一歩は怖いよね、それでも進んでみようよ



 朝、それは穏やかな時間、


「丈乃ちゃん、いつになったら一緒に遊べるの!?」


 だと、良かったんだけどなー。


「今日、ダンジョンから出る予定だから。そしたら、合流しよ。だからさあ、は・な・れ・てくんないかなー!!」


 起きた時、朝日が私にしがみついていたのだ。しかも、上半身は服の中に入り込み足は絡めた状態で。動きづらいったらありゃしない。


 何とか服の外には追い出したが、それでも足は絡めたまま。このままだと、起きれない。


 なので、


「仕方ない……。」


「ん?丈乃ちゃん、私の顔に何かあああああ//!?耳!!耳舐めないで!!」


 お母さん曰く、こうすれば大抵の人間は腰砕けになるらしい。

 それは朝日も例外ではないようで、


「あああああ//もう無理ィィイイ!!」


 力が抜けた彼女は奇声を上げながら、ベッドの上から滑り落ちた。


「んじゃ、朝ごはん作ってくるから。」


 私は悠々とベッドから降り、寝室を出ていった。


「丈乃ちゃんの……えっち。」




──丈乃流、クソ雑クッキング!!イエイ!!


 まずは卵を割り、かき混ぜます。いい感じになったら、フライパンに油をひき火を入れます。


 温まったら、食パンと卵を入れます。いい感じに焼けたら皿に盛り、蜂蜜をかけます。


 そうすれば完成。


「今日の朝ごはんはフレンチトーストだよ。」


「丈乃ちゃん、色々違くない?」


 朝日は何を言っているのだろうか?


「普通は砂糖入れるし、数十分は漬けるんだよね。でも、めんどいじゃん。」


 お嬢様の朝日としてはあり得ないクオリティなんだろうけど。

 でも仕方ないでしょ、めんどいじゃん。



──それから、いつも通り朝帰りしてもらって『ODO』の世界に飛び込む。


 これから、姉妹たちとキャッキャうふふ、楽しい楽しい冒険が幕を開ける──


「シイタケちゃん?」


「……おいシイタケ」


「お姉様……。」


 ………およ?私が湧くと青筋を立てたマツ姉、ツキ姉、マイちゃんが待ち構えていた。何かしたっけ?……………あっ。


「ごめん、3人を教会に置いて行ってたね。次からはちゃんと仕舞っていくよ。」


 勿論、『ODO』にもテイマー職と言えばの従魔を入れておく謎空間は存在する。「いや、シイタケ。そうじゃねえよ。」

 まあ、厳密には某建築ゲーのインベントリみたいなもので、『死霊使いの指南書』をはじめとするアイテムも入っているのだけど。


「おい、シイタケ!!聞いてんのか?」


「えっ、ああごめん。聞いてなかった。」


「えぇ……。」


「………………………。」


「それで、何が言いたいの?」


「お前、マジか?」


 何でツキ姉とマイちゃんは引いているんだろう。マツ姉はさっきから下を向いてプルプルしているし。

 何処とは言わないけど丸出しのものもプルプ……………、





 私、3人に装備を着せてなくね?


「あー、えーと。私たち姉妹でしょ?気にしなくも──」


 最期に見たのは、ゼロ距離まで近づいたマツ姉の満面の笑みだった。



──それから、40秒ほどで復帰した私はすぐさま服を取り出して3人に献上した。


「ふふっ良い服ですわね。これでさっきのことはチャラにしてあげます。」


「えっ……。殴ったのでチャラに──」


「な・に・か・い・い・ま・し・た・か・?・?・?」


「ヒェッ!?」


 私の言葉が気に障ったのか、セイラー服を着たマツ姉がズイッと笑顔を近づけてくる。マツ姉コワイ。これが怨嗟(カースト)上位の女子高生……?


「あのさ、その、ワタシにはこういうかっちりした服は──」


「素直にゴスロリが良かったって言いなよ、ツキちゃん?」


「ちょっ、お前!?ふざけんじゃねえ!!」


 一方、羨ましそうにマイちゃんを見ていたツキ姉とそれをいじるマイちゃんの絡みは癒しだ。守らなければ、この世界。


 って、駄目だ駄目だ。今日はやるべきことがたくさんあるんだ。


「私に注目(ちゅうもーく)!!」


 長椅子に立ち上がりそう言えば、姉妹たちが私に顔を向けてくれる。


「今から、私が戦闘時の皆の役割を振り分けるので耳の穴かっぽじってよーく聞いてください。まず、マツ姉。前衛を一任します。」


「ええ、長女として貴方たちのことを守ってみせますわ。」


 マツ姉は威風堂々と宣言をした。コワイけど、頼りになるよね。


「ツキ姉。私とマツ姉の援護をよろしくお願いします。」


「ちっ、やっぱワタシはサポートか……。ま、任せてくれや。」


 ツキ姉はやっぱり不服なようだけど、身体能力は私以下だけど『菌使役』の扱いはこの中で1番だ。援護役が適任だろう。


「最後にマイちゃん──」


「ふふん、あたしは最終兵器(マスター・ウェポン)だよね。」


「──控え(ベンチ)。」


「なんでぇ!?」


「当然です(だろ)。」


 マイちゃんは速いけど、SPDが低いであろう私たちと比べたらだからね。

 流石に前線に立たせるのは不安がある。まあ、フォローはしてあげないとね。


「安心して。Lv上げはするつもりだし、今言ったことはあくまで机上論。実戦を踏まえたら変わるかもしれないから。」


「そ、そうだよね。あたしの強さ絶対にわからせてやるんだから。」


「(可愛くない?)」


「(そうですわね。)」


「(……まあ、そうだな。)」


「3人ともどうしたの?」


 おお、さっすが姉妹。一名を除いてアイコンタクトはバッチリだ。いや、これさ……。


「マイちゃん、がんばれ。」


 とりあえず、サムズアップを送ろう。


「本当にどういうこと!?」


 察しは悪いと、脳内メモメモ。よし、それじゃあ──


「それじゃ、行こうか外の世界へ。」





──サクサクサクッと、土を踏む音がする。以前と違うのは、3()()分の足音がすることだ。


「本当はマイちゃんも一緒だと良かったけどね。」


「そこは、仕方ありませんわ。」


「つってもよう、片腕で歩かせるのは偲びないだろ?」


「いや、あたしいるんだけど。」


 ん?何か聞こえてきたな。幻聴かな?


「魔導書に捕まってもらって飛ばそうとか考えたんだけどね、体重がね……。」


「おーい。」


「アイツ見た目の割に重いよな。」


「ぶち転がすよ?」


「そうですわね。わたくしでも指の力だけでは持てませんわ。」


「その基準は何?」


 にしてもマイちゃんはいいツッコミをする。もうちょっと無視しても──


「………ふふっ、上半身しかないとしても片腕で余裕を持って持てるのはおかしいよ。だって体重の半分で25kgはあ、──」


「「「黙れ!!」」」


 私と一緒にマツ姉とツキ姉も声を荒げ、マイちゃんを睨みつけた。しかし、当の本人はどこ吹く風といった様子で意地の悪い笑みを浮かべている。


「ふっふっふ、あたしを無視するのが悪いんだよ。」


 だからと言っても酷くないか。身長が144cmぐらいしかないのに、170cmはある朝日と体重が同じくらいなの気にしてるんだから。


「さあさあさあ、私に謝罪をするのだ!!そして、長女の座を──」


「……シイタケ。」


「オーケー。」


「渡さああああ!?」


 私が魔導書を仕舞うと、ベシャッ、と音を立ててマイちゃんが地面に落ちた。へっ、ざまぁ見い。


「よし、行くか。」


「ダンジョンの外ってどんな感じなんだろうな?今から楽しみだぜ。」


「わたくし、おしゃれしたいですわ。」


「「ええ〜……」」


「ちょっと、あたしを置いてくな!!」


 


──まあ、そんな感じで雑談をしながら歩いていると、


「お、ゲートってあれか?」


 それが見えてきた。


「そうだよ。」


「凄いですわね。」


 枯れた森の中、妙に開けた広場に鎮座する渦。紅の光が降り注ぐ中、相変わらず青く輝きその存在を主張している、出入り口。

 よし、


「昼飯食べるから一回抜けるね。」


「へっ?」

 

「おい、ちょっと待てこのタイミングで──」


 ツキ姉が何か言い終わる前に、足元から現れた光に3人は呑み込まれて消えた。


「今日は何にしようかな?」


 暢気にそんなことを考えながら私はログアウトした。



◇◇◇◇◇



 さてと、お昼ご飯は何にしようか。うーん、そうだね。


「偶には凝った料理でも作るか。」


 ま、軽くだけどね。


 フライパンに油を入れ、火を通す。


 温まってきたら、豚肉のブロックを入れて軽く焼く。表皮が焼ける程度で大丈夫だ。


 焼けたら煮込み鍋に移し替え、醤油、酢、黒胡椒、黒糖、ローリエ、ニンニクを適宜入れて煮込んでいく。


 いい感じにできた、自家製アドボだ。


 米も炊いてあるね。


 サラダは…………めんどいし有り合わせの野菜を持ってごまだれドレッシングをかけて、ああちょっと出過ぎ!!


 私のサラダがドボドボだぁ……。


「まあ、仕方ないか。」


 かかった時間は30分か……ゆっくり食べよう。一口一口、丁寧に60噛みはしていく。



──食べ終わった。……久しぶりに「綺羅星ハーピィ ギララマグネット」をやろうかな。



──……なんか、狩りゲーしてぇ。一狩り行くか。




──…………ドラムでも叩こうか。ズズチャズズズチャズズッタラタッタッドドオンパジャーン。



◇◇◇◇◇



「「「遅い!!」」」


 現在、午後四時。森の中で正座中。


「どんだけ昼飯に時間かけてんだよおい、シイタケ?」


「そんなに食べるの遅いのシイタケ姉様?」


「もしかして、他のことでもしていたのですか?」


 私に向けて3人は左眉は顰めて、右眉を吊り上げガンを飛ばしながらその言葉を言い放った。


「……何とか言ってはどうですか?」


「ヒェっ!?」


「嘘だろ……?」


 えっ、マツ姉何やってッ……!?ああ、なんかメリメリ音を立てながら木が地面から抜けてる気がするけど気のせいだよね。


「……………ッ!?……?????????」


 ああ、宇宙猫になって考えるのやめようかな。


 引っこ抜いちゃったよ、枯れ木。枯れ木と言ってもでかいし。

 それを肩に担いでいる。そういえばマツ姉、『全力』と『火事場』って言うスキル持ってたね。

 いや、火事場の全力にしてもやりすぎだろ。せめて『筋力増強』、『剛体』、『金剛力』みたいな強そうなスキル覚えてからにしてくれないかな?


「それとも、潰されることをお望みですか?」


 ああ、やっべ。どんくらいかわかんないけど自分の世界に──


「5、4、3、2」


「ちょっ!?話すから、一旦ステイ!!」


「ハハッ……すっげえな。」


「あたしは何も見てない、これは夢、悪夢なんだ。醒めろ醒めろ醒めろ醒めろ──」


 ツキ姉もマイちゃんも顔が真っ青なんだけど、私もこうなってるんだろうな。


「いや、そのーですね……なんと言い──」


「早く言ってください。」


「あの、……その、怖いんです。」


 消え入るような声量で私は言った。


「このダンジョンには私以外に誰もいなかったから気にならなかったけど……。いざ、行こうと思うと誰かに迷惑をかけちゃわないかって、考えちゃって……。」


 例えゲームの中でも誰かと会うのが怖い。誰かの遊びを邪魔しちゃうんじゃないか。空気が読めないことしちゃうんじゃないか。

 そんなしょうもない理由で、私は引き伸ばしたんだ。死んでみんなの気が済むのなら、何度でも焚べてやろう。


「…………」


「…………」


「…………」


 数秒か、はたまた数十分か、静寂が流れ。


 


 マツ姉の手から枯れ木が落ちる。





──しかし、それは私を押し潰さず、地に落ちる。


「……いいの?3人に酷いこと、私はしてるよね?」


 私は3人を理由も言わずに放置したのだ。更にマイちゃんへのいじりを最初に始めたのも私だ。恨まれていても仕方ないはず、だというのに何故3人は私に仕返ししないのか、わからない。


「そんなの、わたくしたちも同じですわ。」  


「さっき、一緒にマイのこといじり倒しただろ。重く捉えすぎだろ。」


 マツ姉とツキ姉は優しい声色で話しかける。


「でも──」


 私にその言葉は相応しくないだろうに。


「シイタケ姉様、」


 マイちゃんだけは冷たい目を私に向けている。もしかしたら、マイちゃんならぶん殴るくらいしてくれるかもしれない。私はそう考えたけど、


「あたしたちを驕るなよ?あたしたちはあなたで、あなたはあたしたち。性格は違うけど、元は全員シイタケ姉様だ。だから、怖いのも同じだ。それでも、ご主人様(しまい)と一緒なら……と思っていたけど、ちがうの?あたしたちは信じられない?」


 ぶん殴るどころか、言葉(ナイフ)でグサグサ刺してきた。正直、暴力を振られるよりきつい。


「ごめん…………なさい。」


 さっきまでの私が悪いの()()()。素直に謝っておくに限る。


「はあ、全く。人のこと?言えないけどよ、めんどくさいなお前。」


「おっしゃる通りです。」


「はあ、ほら来な。」


 そう言って、ツキ姉が手招きしてくる。


 私はのそのそと歩き、その体に抱きついた。


 その後ろから、マツ姉も抱きついてきて私はサンドイッチにされる。その様子を、小さい子を見るような表情でマイちゃんが見つめている。


「温かい。」


「ワタシたち死体だぞ。」


 それでも、温かいんだよ。



──たっぷりと、体感10分ほど抱き合って私たちは離れた。


 ……恥ずいな。


「おいおい、何泣いてんだ?」


「知ってるけどさー、ガラスのハートだねシイタケ姉様?」


「はぁっ!?泣いてるわけ……。ッなんで泣いてるんだよ。バグだバグ!!」


 私が目元を触ると、確かに濡れた感触を感じた。恥っず!!!!


「……あれだよ、あれ。マツ姉が怖すぎて──」


「何か言いましたか?」


 そう言いながらマツ姉は枯れ木を拾い直そうとしている。


「そういうとこだよ。」


「あっ!?いえ、………これはですね。その……。」


 私が指摘してやると、マツ姉は途端にあたふたし始めた。


「「「アハハハハハハーヒャアアアウ!!!!」」」


 その動きが面白いものだから、マツ姉を除いた3人で大笑いした。


 うん、引き笑いまで同じだなんて無駄に凝ったゲームだ。


 改めて思う。やっぱ、このゲームは最高だと。

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