私が貴方の姉です
さて、お昼ご飯を食べがてら次にやるべきことを纏めようか。
最優先事項は三姉妹のテイムだ。次に三姉妹の教育と役割分担、並行して戦術の構築と私の修練も必要だろう。大抵、死霊使いとは良い顔をされないものだし、私の設定もかなり『危うい人』感が出ている。
最近のNPCは高度な人工知能が積まれていると聞くし、厄介ごとがあるのは目に見えている。
因みに今日の献立は炒飯……米と卵を一緒に炒めた物をそう言うなら。
『炒飯の作り方?米と卵を一緒に炒めりゃいいでしょ。調べるまでもない。』と提唱し始めて早5年。
朝日が「ちゃんと調べた方がいいよ?」と言っているがまあ、大丈夫でしょう。
──昼ごはんを食べ終えた私はいつも通り教会内、腐った長椅子からスポーンする。
若干嫌だけど、座り直した私は指南書を虚空から取り出す。
『Step.2 不死者を《テイム》使役
必要な物は主に2つ、死体と魔法石である。
本来、不死者は死体に残留する生への渇望が魔力と結びつくことで生まれる存在である。これは「魔」とは具現化した欲であり、「魔術」並びに「魔法」とは意図的に起こす奇跡であることに由来する。
つまり、不死者とは死にかけの状態で強く「生きたい」と願ったが故に起きてしまった悲劇である。
これを死霊使いは自身の都合が良い様に捻じ曲げることで従順な不死者を生み出すのだ。
具体的には、まず死体の体内に魔法石を埋め込む。次に魔法石の内部に魔力を注ぎ込む。たったこの2つの工程で『不死者・劣種』を意図的に作り出すことができる。不死者・劣種は常にMPを消費し、MPが0を切ると活動を停止してしまう。また、不死者共通の弱点として防腐処理を施さなければ、腐敗によるステータスダウンが進行してしまう。
しかし、使役せずとも製作者の命令を聞く他、極稀に製作者の魔力に適合し通常の不死者に進化することがある。
そして、死霊使いはLv.10になると魔法: 不死者使役を習得できる。
基本的には、不死者・劣種を大量に作りそれらを率いてLvをあげ、不死者使役を習得したら改めて不死者・劣種を使役するのが良いだろう。』
─────────────
「そういえば、Lv見てなかったな。」
流石に上がってるはずだ。という訳で、ほいっ
◇◇シイタケ◇◇
Lv:11
種族:菌人 所持金:0G
本職:死霊使い
副職:薬師、神官
HP:162/162
MP:92/92
状態異常:貧血
・スキル:菌使役、死霊使役、闇魔術、死体回、採取速度上昇、調薬、黄泉神の加護、暗闇の住民、七死八生、集中、ど根性、応急処置、窮鼠猫嚙、作業効率up、菌根ネットワーク、操魔術
・魔法
不死者使役
マナショット
マナマシンガン
ダーク
ダークボウル
ダークショット
ダークマシンガン
ボディコントロール
・技
菌糸体
菌糸縫合
子実体❲❳
胞子拡散
装備:古ぼけた魔導書、穢れた銀の銃、アイテムポーチ、破けた修道服、黄泉神さまのネックレス
アイテム:調薬台、死霊使いの指南書、調合書、防腐処理済みの死体×17、防腐処理済みの腕×14、布切れ×63、防腐処理済みの足×23、防腐処理済みの肉塊×44、防腐処理済みの肉片×107、ルナストーン×3
《《称号》》
[狂人]
狂った行動を行ったプレイヤーに贈られる称号。この称号を持つものは状態異常:誘惑、洗脳、萎縮、恐怖を無効化する。
[死に急ぎ]
連続で50回死んだ者に贈られる称号。この称号を持つものは蘇生時間が1分短縮される。
[自傷体質]
自傷行為を50回行った者に贈られる称号。自傷ダメージを軽減する。
[貧血体質]
大量の血を失った者に贈られる称号。常に状態異常:貧血を受ける。また、状態異常:貧血によるデバフを無効化する。
[殺戮者]
1分で10体のモンスターを屠った者に贈られる称号。連続でモンスターを倒すと1分間、STRとINTが上昇する。この効果は最大10回まで重ね掛けできる。
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おお、ちゃんとLvが上がってる。死霊使いらしいこと一切してないけど。なんなら、不死者共をソロで片付けちゃったけど。
まあ、そんなこともあるよ。
とりあえず、テイムをしないとね。私はポーチの中を漁り、マツタケ、ツキヨタケ、マイタケとムーンストーンを取り出した。
それにしても、綺麗なものだ。まだ不死者として日が浅いからか、綺麗な肌をしている。
私のキャラと比べると、血が抜けたように真っ白で縫合した跡もあるけど綺麗なものだ。
さて、ルナストーンを入れる必要があるんだけどどうしようか?
ツキヨタケは詰め物をした部分にいられるけど、他の2人はどう入れるか。
マツタケは、縫合部が胸にあるからそれをうまく動かして表面をコーティングする形で入れる。
マイタケは……おうふ。よく見たら右目が裂けてる。右目に埋め込んじゃうか。シイタケ目だし、物理的に輝いてもいいよね。
準備が完了したから魔力を込めていく。君たちは私の姉妹なんだと、これから4人ずっと一緒なんだと。
浪漫を詰め込んでいく。
暫く魔力を流していると変化が起きた。
徐々に3人の体がピクピク痙攣し始める。さながら、心配蘇生をしているみたいだ。
加えてルナストーンの色が変わる。輝く月のような青味かかった白から、赤、紫、青、黒、複雑なコントラストの宇宙の思わせる色合いに。
そして、遂に3人はその体を動かし、
「ありがとう、妹ちゃん!!」
「ありがとうございます。シイタケちゃん。」
「その……ありがとよ、シイタケ。」
流暢に声を発した。
「へっ?」
「およ?」
「あら?」
「んん?」
発する音は違えど、4人は息のあった姉妹のように首を右にコテンと下げた。
「いや、いやいやいやいやいや!?何で!?」
思わず私はみんなに疑問を投げかけるが、
「知らん、ワタシに聞くな。」
「そんなの、あたし達は同じだからでしょ!!」
「それでは言葉が足りませんわ。マイタケちゃん。」
「そうかな?」
全員わかっていないようだ。というか、声がほぼ私と同じ!!ええっと待てよと今のはツキヨタケ、マイタケ、マツタケ、マイタケの順に言ったはずだ。
マジでどうしようか、
「えぇ、とりあえずステータス見よう。」
うん、これぐらいしか思いつかなかった。
にしてもなんか、このゲーム始めてからずっとイレギュラーが起こっている気がするけど、本当にどうなっているんだ。飽きはしないけど、流石に疲れるよ。
「シイタケちゃん、どうかしましたか?」
と、マイタケのステータスを見ないと。
◇◇マツタケ◇◇
Lv:1
種族:血盟不死者
HP:80/80
MP80/80
スキル:生者感知、痛覚遮断、防腐、菌根ネットワーク、菌使役、暗闇の住人、全力、火事場
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なんか、おかしいぞ。種族が不死者・劣種じゃなくて血盟不死者になっている。どういうこっちゃ?
「血盟不死者って何かわかる?」
「分かんない!!」
「知らん。」
「すみません、わたくしも分かりませんわ。」
うん、三者三様過ぎるだろ。
いや、今はそんなこと良くて、
「指南書になんか載ってたりしないかな。」
「いや、載ってるわけ──」
「あったよ!!」
いつの間にか、マイタケが指南書のページを開きドヤ顔を決めていいた。
「マジかよ!?」
「……早いですわね。」
「あたしのことはこれから、ゴッドスピード・ダンシングマッシュと呼び給え。オーホッホ。」
本当に騒がしくなったもんだな、っと感慨に耽ってる場合じゃないな。
『血盟不死者
主人となる死霊使いと血の契約を結んだ特異な個体。ステータスそのものは通常の不死者と相違はない。しかし、高い知能と潜在能力を秘めており、磨けば怨霊系や高位不死者を遥かに凌ぐ力を手に入れるだろう。』
血の契約?そんなの結んだ覚えなんて……あっ。
「もしかして、私の血が流れてるから?」
この子たちは私の体だ。当然、私の血が流れているわけで。撃ち殺した?不死者たちは血がドロドロしていたのか出血があまり無かったはずだし、体内に残っていた血が反応したのかなぁ。
うん、バグ染みた判定だけど大丈夫……なのかなぁ。
「妹ちゃん、君天才か?さすが私の妹。そして、さすが1番上の姉たるあたし。有能にも程があるな。」
そんな私の心配は露知らず、マイタケはドヤ顔で2人を煽っていた。
「んだとおッ!!調子に乗りやがって。」
それにツキヨタケは早くも乗せられている。大丈夫かな、妹ながら今後が心配だ。
「ええ、確かにマイタケちゃんは有能で姉として誇らしいですわ。」
対して流石は大人なマツタケ、余裕を持って……うん?
「そうでしょそうでしょ!!まあ、お姉ちゃんが有能なのは世の真理だよね?」
流れ変わったな。
「おいちょっと待てぇ!!1番上はワタシ──」
「「それだけはないッ(ですわ)!!」」
「何でだよ!?」
ツキヨタケはいよいよ沸点を超えたのか、文字通り怒髪天を突き、体の至るところからキノコが生えてくる。
いや、待って。マツタケは『菌使役』を持っていなかったはず。そもそも、私の死体から生まれた個体なのに別個の自我が有るのは──
「だってあたしが1番上だもん。」
「いいえわたくしが──」
「だあーッ!!まどろっこしいな!!こういう時は──」
と、また聞き逃していたな。それより、なんか皆の視線が鋭くなって──
「「「肉体言語するしかねぇだろ(ないですわ)(ないよね)!!!!!!」」」
いや、これは流石に
「皆の強さを見るために観察するしかないよね?」
◇◇◇◇◇
先行はツキヨタケ。両手に子実体を纏ったツキヨタケ……ツキはマツに突貫した。
対してマイは素手でそれを受け止める。
取っ組み合いに入った2人、押しているのは……マツだ。以外と腕っぷしはマイが上らしい。
「あたしのこと忘れないでよね?」
そこへ──2人の足元へマイが飛び込んでくる。マイは体の断面から素早く菌糸体を地面に張ると、勢い良く高速回転して2人の足を払った。
地面にパンチをし、反動で再度浮き上がり足から着地したマツ。
背中から巨大なキノコを生やし、受け身を取ったツキ。
既に菌糸体を解除して、2人を挑発するようにドヤ顔を決めるマイ。
「マツがパワータイプで、ツキがテクニックタイプ?何でだ?……ツキは菌糸体で埋めてる部位があるからその差……かな。マイはスピードタイプ、片腕でよく動けるね。」
雰囲気はマイが1番強そうだけど………、速いと言ってもあくまで3人の中。それにドヤ顔を決めてるけど、よく見ると息が上がっている。
やはり戦闘はマツとツキに任せるべきか。
今度は3人同時。
ツキが菌糸体で床全体を覆う。それを見越してかマイはすぐに飛び上がり、マツは菌糸体に足を囚われてしまう。
「ッ!?」
が、そんなのお構い無しと言わんばかりに菌糸体を引き千切り飛び上がるマツ。
「!?ゴリラがッ!!」
驚きか疲労か、振り返ったマイは空中でバランスを崩し、
「口が悪い妹は折檻しないとッ──」
「ちょ、離……やめ──」
右腕をマツに掴まれてしまう。
「ですわね!!!!」
「ガハッ!?」
そしてマツは思いっきり地面にマイを叩きつけた。容赦なさすぎ……。後、死体のなのに私より動けてない?
「おいおい、マジかよ……。」
マツの蛮行にツキも引いている。
「そんなこと言ってる暇ありますの?」
「イッ!?」
ええ、なんか空中で進行方向を転換してるんだけど。物理法則仕事してくれ。
そんな私の思いは露知らず、マツは腕を思いっきり振りかぶり、
「ちょ待っ!?タンマッ!?」
「──戦場では誰も待ってくれませんわよ?」
満面の笑みでツキの脳天にスレッジハンマーを叩き込んだ。
「ふぅ。分からせ完了です。」
「えっあっ、…………お疲れ様ですマツさん。」
えぇ〜、怖っ。床割れてるし。なんか、マツだけ世界観違くない?
──それからマイは1分、ツキは5分で再起動した。負傷はマイが肩を脱臼、ツキが頭頂部陥没といったところだ。マツはだって?無傷だったよ。
とりあえずマイは無理やり嵌め込み、ツキは頭に詰め物をして治療した。
にしても、自分の脳みそを見ながらクチュクチュしたのは何かこう……変な感じがした。
今度、手先が器用そうなツキにやって「なんか変なこと考えてないか?」なんでもないよーだ。
……とにかく、姉妹の順番は『マツ→ツキ→私→マイ』で決定した。
「納得いかないよー!!妹ちゃん──」
「違う、でしょう?」
「くっ、シイタケね、ねえ、シイタケ姉様は戦ってないでしょ!!」
「これが主従関係というものだよ。」
ふふっ、ここぞとばかりにマイにゲスいドヤ顔を決めておく。
「クッソー!!下剋上してやるんだから!!」
Oh!マイちゃん私に向かってRoar……カワイイカワイイね。
「……あの2人、なんか似てるな」
「そうですわね。」
◇◇マツタケ◇◇(ステは中略)
四姉妹の長女であり、屈指のパワーファイター。不死者なので痛覚がなく、常に火事場の馬鹿力状態である。そのためか、困ったらすぐに暴力で訴えかける。
◇◇ツキヨタケ◇◇
Lv.1
種族:血盟不死者
HP:70/70
MP:100/100
スキル:生者感知、痛覚遮断、防腐、菌根ネットワーク、菌使役、暗闇の住人、操魔術、精密操作、肉体制御
四姉妹の次女であり、意外にもテクニックタイプ。菌糸体の保有量が他の姉妹より多く、扱える量や範囲かなりある。しかし、性格ゆえか使いこなせておらず、コンプレックスを抱えている。
◇◇マイタケ◇◇
Lv.1
種族:血盟不死者
HP:40/40
MP:90/90
スキル:生者感知、痛覚遮断、防腐、菌根ネットワーク、菌使役、暗闇の住民、操魔術、虚弱体質、軽業、俊敏、並列思考、器用、魔力制御、貪欲
四姉妹の末っ子であり、溌剌とした性格に違わずスピードタイプ。姉妹と比べて、ステータスは最低値だが軽い体重、強力なスキル、頭の回転の速さが合わさり不死者にしてはかなり速い。