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教会探索



 腐れ縁(しんゆう)に「一緒にやろう!!」とVRMMOを押し付けられてしまった渋々始めた私。


 キャラクリを終え、『Other Dimmension Online』の世界に降り立った私は、


「早速見てみよう。ステータスオープン!!」


 ノリノリでゲームを楽しんでいた。


 私の言葉と共に視界にステータス画面が表示される。


◇◇シイタケ◇◇


Lv:1

種族:菌人(クサビラビト) 所持金:0G

本職(メインジョブ):死霊使い(ネクロマンサー)

副職(サブジョブ):薬師、神官


HP:126/126

MP:82/82


・スキル:菌使役、死霊使役(ネクロマンス)、闇魔術、死体回収、採取速度上昇、調薬、黄泉神の加護、暗闇の住民


魔法(マジック)

マナショット

ダーク

ダークショット


(アーツ)

菌糸体(マイセリウム)

子実体(フルーティングボディ)❲❳

胞子拡散(マッシュプロージョン)


装備:古ぼけた魔導書、穢れた銀の銃、アイテムポーチ、破けた修道服

アイテム:調薬台


──────────


 今更だが、何故に修道服。種族を1000種類も用意するようなゲーム会社だし、思考盗聴技術も無駄に使っているのか?考えても仕方ないし無視しよう。


 スキルは、説明が見れないと。不便だね?地道に検証するしかなさげかな。

 

 と、なると魔法と技を試す以外にやるべきことはない。

 私の意思に反応してか、ブオンという効果音と共に右手にくろずんだ銀製の銃が、体の左斜め前方に浮遊する本が出現する。


「そこは便利なんだね。『マナショット』。」


 体を構えて引き金を引くと軽い脱力感と共に紫光が銃口から放たれる。

 あくまで魔力弾を使うからか反動は無し、片腕だけでも十全に扱える。MP消費は5、扱いやすい。3秒程経ってMPの回復が始まった。量は1秒に付き1MPだ。連発は禁物と。


「『ダークショット』ッ。」


 次に強化版っぽい奴。先程より強い脱力感と共に漆黒の弾丸が放たれる。

 ステータスを確認してみると、MPが10減っていた。更に自然回復の開始は8秒とかなり遅い。

 威力の検証をしたいけど、敵モブが見当たらないし後回しだ。


「『ダーク』。」


 次は名前だとよく分からない魔法。強烈な脱力感と共に私を中心とした半径7m程が暗くなる。

 それと共に力が湧いてくる。

 消費は20。自然回復は…………10……………20、遅すぎる。発動中は回復なしか。


「『マナショット』、『ダークショット』。」


 試しに魔法を撃つと、マナショットは変化無し、ダークショットは弾がテニスボールサイズに変化していた。

 う〜ん、ステータスupでは説明がつかない。『ダーク』の効果は闇属性強化で、力が湧く感覚はスキル『暗闇の住民』の効果なのだろうか?

 判断材料が少な過ぎて分からない。


 仮に考察が当たってるとして、つまり『ダーク』は発動にMPを20も消費して自然回復も不可にする癖に、闇属性だけを強化する技ということになる。最低でも、MPが1000はないと普段使いは出来ないだろう。

 第一、そこまでインフレするにしてもLv1が扱える性能をしていない。


 VRMMOなら、繰り返しスキルを使うことでスキルを強化したり、或いは『MP自動回復』みたいなスキルを取得したりするのが鉄則だ。

 つまり、使い続ければメリットがあるからLv1の状態で習得している可能性がある。

 

 検証のためにも維持し続けよう。


「『マイセリウム』。」


 サモンは一旦飛ばして次は(アーツ)とやらを試してみる。


「……なんか左腕が疼く。」


 なんとなく、無いはずの先の感覚があるというか、とにかく左腕に意識を集中して伸ばすイメージをする。 

 次の瞬間、左腕のウニョウニョが伸び地面を教会の床を侵食していった。なるほど、このウニョウニョは菌糸だったのか。範囲は大体、半径10mくらいかな。


「『フルーティングボディ』『マッシュプロージョン』。」


 その上からキノコが生えて、胞子を放出する。出せる数は1、2、3、4、5本が限界。胞子は敵がいないから(以下略 。

 何より、どの技もMPの消費がない。ただ、疲労は感じるしMPの様に回復もしない。

 

 今できる検証を一通り終わった。


「一旦セーブして、昼ごはん食べるか。」

 

 探索を始めるか迷ったけど、腹が減っては戦はできぬとも言うし私はセーブをして『ODO』を閉じた。



◇◇◇◇◇



「丈乃ちゃんは初期地点どこを選んだの!!」


「朝日、うるさい。」


 スマホ越しから響いた腐れ縁の叫びに注意するが、


「そんなことより、アホイヤ教国?バカタリヤ帝国?もしかして、モンスターを選んじゃってマヌケリア連邦になったの?」


 朝日は私の声を無視した。そもそも、丈乃()スキスキモードが発動した朝日を止められる人って居るのだろうか?

 と、話聞いてなかったや。確か……


「アホだかバカだかマヌケだか知らないけど、初期位置なんか知らされずに変な空の森に飛ばされたよ。」


 今更なんだけど私が飛ばされたの何処なんだ?まあ、良いか。


「あちゃー、異空間(ダンジョン)が初期位置かぁ。しかも、見つかってる場所は洞窟か遺跡だし……。」


 朝日は何をぶつぶつ言ってるのだろうか。あっカップラーメンできた。


「お昼ごはんを食べるから切るね。」


「待っ」


 よし、通話終了。食事は黙々と食べるのが主義だ。学校だとみんな食べるときにしゃべってるけど、家でもあんな感じなんだろうか?

 う〜ん、分からん。そもそも、朝日以外と一緒に食べたことある人なんて居ないし。朝日も食事中は意外と静かだ。無言でおかずをぶん取ってくるけど……。一応、お嬢様らしい?どんな教育をしたらあんなお嬢様が生まれるんだ?


 いや、そんなことより予定を決めようか。とりあえずは教会内の探索。次に外の森だ。


 と、早く食べないと麺が伸びてしまう。アクセントのレモン果汁を入れてと。

 ズズッと勢いよく私は麺を啜った。



◇◇◇◇◇



「さて、探索しようか。っと、ダークを展開しないとね。」


 ダークを展開してと、改めて周囲を見渡す。灰を被り薄汚れた石英の床、割れて土が露出している部分もある。周りに落ちている黒い塊は……木炭?長椅子が焦げた物かな。

 崩れているが、おそらく縦長の建物。向かい合うパイプオルガンと壊れた大扉、僅かに破片を残すのみのステンドグラス。


 素人目から見るとキリスト教の礼拝堂っぽい。だけど、十字架に磔にされたキリストの像はない。礼拝堂にある物か知らないけど。


 パイプオルガンに近づいてみる。瓦礫に押し潰されて弾けそうにない。手前には神父さんが色々説いてそうな台が綺麗に残っている。


「……怪しいよねぇ。」


 何故これが綺麗に残っているのか。ファンタジー的な観点で見ると保護魔法が掛けられていたからだというのが1番あり得る。

 じゃあ、何故これに保護魔法を掛けたのか。


「んっんんん〜〜。動けっこの!!」


 押してみるが動いてはくれない。何か仕掛け(ギミック)があるのだろうか?


 あるのはパイプオルガンくらいだ。それも鍵盤が押し潰されて弾くことはできない。鍵盤を使った仕掛けの線はなし。


「この瓦礫、どっから来たの?」


 確かに壁や天井は崩れてはいるが、周囲に落ちているのガラスの破片ばかり。その殆どがステンドグラスで構成されていたと推察できる。


 改めて瓦礫を見る。石英……ではない。灰色でざらざらしている。崩れた壁というより落石が近い。しかし周りは森で崖もなければ斜面もない。


「……仕掛けが潰されたと思わせるためのブラフ?」


 何故、誰がこんな事をしたのか。いや、今はそれより仕掛けを探すべきか。


「あのパイプ、なんか変。」


 瓦礫をよじ登り近づいてみる。すると、違和感に気づく。パイプの一部分だけ妙に色褪せているのだ。触ってみると、動きそう。グラグラしている。よく見るとパイプの中腹に切った後が2本、間隔は10〜15cmか。

 引っ張ってみるとハンドルの様に伸びた。それを更に捻ると回りだし、台が沈み始めた。


「ビンゴだ。」


──回すこと10秒、台が完全に引っ込み地下への階段が姿を現す。


 いや、杜撰すぎない?メタ的な観点で言えば、始まりの地にLv100のモンスターがウヨウヨと居たら批判待ったなしだけど、もうちょっとこう、なんかないの?

 まあ、文句をつけても仕方ないか。


 私は地下への階段に踏み込んだ。


 暗い地下室。私の動きに合わせて壁の蝋燭に緑色の火が灯っては消える。見える範囲は精々目と鼻の先といったところだ。

 私がダークを展開しているのもあって、かなり不気味な雰囲気だ。


「ホラーゲームみたいだねー。やったことないから知らんけど。いきなりお化けとか出さないでねー。もし出したら一生遊ばないから。」


 怖すぎて私の口が止まらない。初めてジェットコースターに乗ったときよりはマシだけど。


 両壁には鉄扉が付いている。どれも鍵が付いていて開かなかったけど。歩くこと数十分、何故か破壊された鉄扉があったので入ってみた。そこにあったのは果たして、


「蔵書室か……。何で?」


 回収した禁忌の書を保管していたのか?いや、そんなものなんて焚書にすれば良いんだしおかしい。近くにあったメモ帳の様な1冊を手に取り内容を見てみる。


「何々、『ゴブリンが女性にはらm……。」


 すっと、元の位置に戻し別の1冊を取る。


「え〜っと、『身代わりに最適、フレッシュゴーレムの作り方』。『ゾンビとアンデッドの違い』。『新魔法!!女性にはらm……。さっきのと作者同じじゃねぇか。」


 本を次々と手にとっては戻していくが、明らかにやばい表紙の本しか出ない。


「『お手軽、魔物拷問法』、『最強ッッ!!キメラの作り方』、『完全攻略!!絶対に安全な悪魔契約』、……碌な本が無い。」


 というか、ゴブリン云々の奴と女性に○○せる魔法の奴は研究記録にしか見えなかったけど、まさかここで……。いや、やめておこう。


 改めて本棚を見るとぎっしりと本が詰まっていて、荒らされた形跡は無い。しかし、埃は被っている。


「よく分からないね。置いていくぐらいなら、燃やせばいいのに。……考えるだけ無駄か。おっ、これは良さそう。」


 私が手に取ったのは、この中だと珍しく背表紙が入った本だ。


『死霊使いの指南書』


 それがこの本のタイトルだった。他にも掘り出し物がないか探してみると、調合書も見つかった。


 ホクホクとした気持ちで私は蔵書室を後にした。



──それからも探索を続け、遂に目的の場所を見つけた。


「やっぱあるよね。」


 目の前には一際大きな鉄扉。その上には『Requiescat In Peace』──R.I.P(安らかに眠れ)と彫られていた。

 所謂、地下聖堂というやつだ。

 しかしこんな奥地、それも明らかにヤバそうな部屋たちより先にあるのか。この世界では死体を忌む風習があるのか?

 直前まではそう考えていたが、扉を押しのけ殺到した者を見て確信した。


「ア゙ァー!!」「ウウー!!」「ガアァァー!!」


不死者(アンデッド)が大量にいるなんて、碌な教会じゃないね。」


「グルルゥゥゥ!!」「ガウガウー!!」「ア゙ァァー!!」


 次々に現れた不死者たちは私を囲い込んだ。しかし、幾ら待てども攻めては来ない。1、2m程距離を取った状態を維持していた。


「囲うだけ囲んで威嚇するだけ?何を警戒しているのか知らないけど、先にいかせてもらうよ。」


 ダークを維持する余裕はなし。即座に切る。

 MP全回復まで後10秒、


 ──4秒、右手を構える。


 ──3秒、銃身が姿を現し右手に収まる。


 ──2秒、不死者たちが固まった表情を動かす。


 ──1秒、不死者たちが今更構えようと、


 瞬間、正面3体の額に穴が開く。


「「「ア゙ァァァー!!」」」


「来たね!!」


 うめき声を上げ、距離を取っていた不死者たちが私に雪崩込む。


 向かい来る不死者の顔面を次々とぶち抜く。


 浮遊する魔導書をファンネルの様に使い、横から飛び出した不死者の腹にめり込ませる。


 後ろから来る不死者を蹴り飛ばす。


 しかし、幾ら処理すれども不死者たちは殺到する。魔力消費とそれに伴う疲労感。

 引き金を引くけど弾が出ない、魔力切れ。銃身を顔に叩き付ける。

 しかし、首が曲がったのも気にせずに伸し掛かる。伸し掛かった奴が頭を食べようと、横向きにひん曲がった腐った顔を擦り付けてくる。

 周りのゾンビは私の体を噛み砕き引き千切る。


 痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、











 痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、良い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、良い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、良い、痛い、痛い、痛い、良い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、良い、痛い、良い、痛い、痛い、痛い、良い、痛い、痛い、痛い、良い、痛い、良いい、良い、良い、痛い、良い、痛い、良い、良い、良い、良い、良い、良い──


 









「……ここは?……私、死んだのか。」


 気づけば、周囲は真っ暗闇で。目の前には『リスポーンするまであと3分』と文字が浮かんでいた。


「デスペナルティ、重いな。」


「死んだというのに、万全の肉体で甦れるというのだ。何の不満がある?」


 そう、言われまして……も……。


 瞬間、私は勢いよく跳ねその場を離れた。


「だ、誰!?」


 ゲームの中だというのに冷や汗が止まらない。直ぐ側に()を感じる。


「そう警戒するな。私は何もする気はない。だいいち──」


 全身に鳥肌が立つ。


「──貴様ごときに何ができる?」


 威圧感に押し負け膝を付く。息が乱れ、まともに呼吸もできない。


「すまんな。少し脅しすぎた。お詫びに良いことを2つ。まず、お主を襲ったのは不死者(アンデッド)ではない。」


「へっ?今なんて──」


「それと、もう再誕して良いぞ。」


「いや、ちょっと待っ──」


 言葉の意味を聞く間もなく、視界が白光に包まれ──



「知らない天井……なんてなかった。」


 紅が降り注ぐ教会に戻っていた。


「誰か知らないけど、あの状態で聞ける訳ないでしょ……。」


 本当にそれどころじゃなかった。せめて抑えてくれ。


「はぁ……まあ良いか。覚えてたら聞こう、うん、覚えてたら。」


──結局、彼女はそれを知らぬままゲームを進めることになるが、反って良い結果となったことをここに記しておく。


 

 


 

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