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腐れ縁からの貢物



 東西南北、全てが夕焼け色に染まった空。太陽が4つもあるのか?と言われればそういう訳ではなく。それどころか、光源なんかどこにも無く。空全体から紅の光が降り注いでいる。

 周囲は枯れ木に枯れ草、何故か泥濘(ぬかる)んだ地面。生命を感じない異様な森、その中に佇む半壊した教会。

 そんな不気味な景色の中、


「このゲーム!!最ッッッッッ高!!!!!!」


 奇声を上げる少女がいた。




──遡る事、数時間前。それは無事志望校に受かり数ヶ月の春休みを1人家でダラダラ過ごしていた時のことだった。


 ピンポーンッ


「下に潜り込んで、上下(うえした)B、上下B、上下B──」


 ピンポーンッ


「右いって上下B、左いって上下B、上下B置いて、ガードからのB──」


 ピンポーンッピンポーンッ


「真ん中いって上下B、上下B、上下B──」


 ピピピピピピンポーンッピンポピンポーンッ


「ダブルブラホ来るから、全力疾走──」


 ピンピンピンポーンピピンピンポーン


「あーもう!!さっきからうっさいな、誰って……あ゙あー!?死んでる!!」


 私の手から数十年前のゲーム機が滑り落ちる。

 ボスラッシュ中に現れた闖入者に、頭の血が昇った私はインターホンも確認せずにドタバタと玄関へ走り荒々しく扉を開けた。


「やっほー、丈乃ちゃん。」


 すると、背が高いほんわかした雰囲気の美少女が玄関に立っていのだ。


「朝日ぃ!!インターホン連打しないでよ!!気が散る!!」


 私は少女──朝日乃愛へ怨嗟の言葉を吐き出す、


「あ゙あ゙あ〜。1週間ぶりの丈乃ちゃん吸い〜。やはり、ロリっ子は世界を救う。」


 が、朝日は私の言葉をガン無視して体を擦り寄せてきた。


「やめろ馬鹿!!腹に顔を押し当てるな、私の臭い吸うな、汚い濁声出すな。」


「良いですな。背中に感じる生ゴミを見る視線。ゾクゾクしちゃう……。堪らない。」


 スラリと伸びた手足、出る所は出た体。整った目立ちにぷっくりとした唇。陶器の様にすべすべした白い肌。

 14歳ながら既に完成している美貌を持っている。

 まさに立てば芍薬座れば牡丹、しかし私が関わればラフレシア。それが私の腐れ縁(しんゆう)、朝日乃愛という人間だった。


「はぁ〜……………で、まさか私の臭いを嗅ぐためだけにきたの?」


 鼻息を荒くし顔を擦り付ける朝日に気力が失せた私はさっさと帰ってもらおうと、言外に「用がないならさっさと帰れ」と言った。


「勿論それもあるけど、はい貢ぎ物(プレゼント)。」


 しかし、用事はあった様で、何処からともなく彼女はラッピングされた長方形の板を取り出し私に差し出した。サイズからしてゲームカセットのパッケージ、最新機種の『VR2085-ATX』用だろうか?いや、家にある『VR2082-──


「丈乃ちゃ〜ん?」


 っと、私は気づかぬ内に考え事に更けてしまっていたようだ。


「あ〜ごめんごめん。ありがとうね。」


 物欲しそうな顔をしていたのでおでこにキスをしてやりつつ「ひゃあっ//丈乃ちゃん、大胆//」、プレゼントを受け取る。

 彼女は度々私にプレゼントを渡すのだ。

 内容は色々と。今回の様にゲームの時も有れば、お菓子だったり、花だったり、下着だったり、指輪だったり。「丈乃ちゃ〜ん?」

 後ろ2つは断ろうとしたが無理やり押し付けれた。「お〜い、かえっておいで〜?」しかも、下着は何故かサイズがピッタリだったし、指輪は宝石付きで薬指に丁度──


「た・け・の・ちゃ〜ん!!」


「ごめん。また自分の世界入ってた。」


 どうにも私は自分の世界に入る癖がある。「……その// 、さっきの//キ……また入ってる。」あっ


「本当にごめんね。嫌だったらいつでも縁切ってもいいから。それかお詫びにキスしようか?」


「そ//、そういうこと言わないの!!と、とにかくこ、こここここ今度一緒に遊ぼうね〜ッ//。」


 何故か顔を真っ赤にしながら、朝日は家の前に止まっていたリムジンに急いで乗り込んでいった。

 体調悪かったのかな。まあ、お見舞いをする義理はないけど、3日間泊まり込んでお粥でも作ってやろうかと私は考えた。

 っと、危ない。さっさと玄関締めないと、また家に入るのを忘れてしまう。


 ──鍵も掛けリビングまで戻った私は朝日から貰ったプレゼントを早速開けた。


「『Other Dimensions Online』………。なんかテレビのニュースでやってた気がする。」


 確か結構人気な作品でパッケージ版はどこのお店も品薄と聞いていたが、態々わたしの為に買ってくれたらしい。とはいっても


「……VRMMOか。なんで?」


 私はそれなりにゲームオタクだと自負しているが、VRMMOは好んで遊ばない。いや、ソロで遊べるなら問題ない。でも私の偏見だと『VRMMO』っていうのは大抵、名前も知らない誰かと一緒に遊ぶゲームだろうに。


「絶対私に向いてない。でも、朝日も分かってるよね?」


 朝日はやばい奴で、いつも1人でいようとする私にベタベタしてくるうざい奴で、私が唯一迷惑かけても良いやって思える奴だ。

 けれども、私の趣味趣向への理解はバッチリだ。小学生の頃はどういう訳か毎日のように私とお揃いの服を着ていた。もちろん、着る服を教えたことは一度もない。


 要するに、朝日が私に好きじゃないゲームを贈るはずがない。今までのラインナップも、まあ、2人で協力するゲームが多いな。それでも、不特定多数の誰かと遊ぶゲームなんて貰ったことがない。

 ……………何を考えているんだか。


 まあ物は試しだ。万年ソロプレイヤーのお眼鏡に適うかなと、斜に構えた気持ちで私は押入れに仕舞っていたVRヘルメットを掘り起こした。






──目を開くと真っ白な世界にいた。


 何も無い空間、それを見渡しているとこれまた真っ白な炎の様な物が近づいてきた。

 視認性が悪いなと思いつつ、私の所に来るまで待つ。

 待つこと、10秒ほど。炎は私の前で止まった。


「始めまして、シイタケ殿。私はサポートAIのホワフレと言います。」


 渋めのイケボで恭しく?炎は私に自己紹介した。因みに『シイタケ』は私が使っているアバターのネームだ。設定でゲー厶でのネームもこれで固定している。


「早速ですが、キャラクリをしましょう。」


 ホワフレの光が強まると、目の前にマネキンが現れた。1から自分で作るのか、面倒くさい、朝日に押しつけ……あっそうだ。


「ねぇホワフレ、アバターの流用ってできる?」


 確か、朝日が作てくれたけどVRMMOを普段やらないから放置されていたアバターのデータがまだゲーム機に残っていたはずだ。私がそれを流用できないかと聞いてみると、


「出来ますよ。少しお待ちを。」


 みるみるうちに、マネキンの姿が勝手に変わっていく。


 身長は154cm、真っ黒な髪が生え同じく黒い瞳が描き込まれていく。塩顔の一重、何故か「近づくな」という意思を感じる人形(ヒトガタ)

 ほんの3秒でマネキンはリアルの私に近い姿に変わった。


 ここから少し手を加える。髪は蛍光ピンクの紫メッシュに、瞳もピンク、睫毛を長くする。唇はぷるっぷるに。

 う〜ん、背を縮めてみるか。このだらしない腹と尻もキュッとさせて。手は……うへッ隻腕にできちゃうの?あっなんか注意書きがあるけど知らん私は止まんないぜ。あ〜、ちゃんと傷も入れられちゃう。左腕を5cmだけ残して落としちゃおう。で、脇下から肋に向かって爪痕をズバッと通す。ああ〜、良いですよ良いですよ、最っ高に可愛い。あっ、シイタケ目に出来ちゃう。左右別々にもできちゃう。じゃあ、右目シイタケ左目虚ろにして、前髪で左目だけ隠す。髪型はストレートのロングにしちゃおう。


 ……少し興奮しすぎた。まあでもこれで朝日以外は私だと分からないはず。


「できたよ。」


「では、種族選択を。」


 今度は正方形の枠に簡単なアイコンと種族名がが入っただけの選択欄が出現する。


「ヒト、エルフ、ドワーフ、オーク、ゴブリン、ウェアウルフ、スノーマン?、グレムリン?、ちょっと待って多すぎない?」


 軽くスクロールをしてみると、どんどん種族が出てくる。1000ぐらいは用意してそうなんだけど。

 この中から選ぶの?アイコンと名前以外の情報ないし、大変すぎない?


「絞り込みも出来ますよ?」


 と言われましても。どういうのが有るのか知らないし。遊ぶ前に調べておけば良かった。


「はあ、面倒くさいしランダムとかない?」


「承知しました。」


 ありゃ、ダメ元で言ってみたけどあるんだ。


「ラララランダム♩〜ラララランダム〜♩おまかせ選択ランダム〜♩ラララランダム〜♩──」


 ……なんか南国風の陽気なBGMまで流れ始めホワフレがそれに合わせてうたい始めたんですけど。しかもだいぶ音痴だ。それで良いのか、ホワフレ?

 選択欄はぴこぴことランダムに点滅し、アイコンたちが踊ったり、手を叩いたりしている。


 愉快な状況を数秒眺めていたら、デデーン!!という効果音と共に、キノコみたいなアイコンがドアップになった。名前は『菌人』………なんて読むの?


「ランダム選択の結果、種族は菌人(クサビラビト)に決定しました。」


 急にスンッてなるな……。いや、今はそんなことより、


「クサビラ……ビト?何それ?」


 聞いたこともない名前が出てきた。このゲームオリジナルの種族?


「説明を見れますよ?」


 なら、お言葉に甘えまして、


◇◇菌人(クサビラビト)◇◇


伝承

 茸で有りながら、『個』としての自我を持った種族。取り込んだ菌類を自由自在に使役する力を持つ。菌人が訪れた土地に疫病が蔓延した歴史から『不幸の象徴』とする国も有れば、枯れた土地を再生させる『豊穣神』として崇める国もある。


特徴

 固有スキル、『菌使役』により採取したアイテム:キノコを自由自在扱う。AIGが低い代わりにHP、MP、VIT、DEXに優れサポートを得意とする。

 火・氷・光属性が弱点。土・水・闇属性と一部を除く状態異常を無効化する。


───────


 う〜ん、サポートかぁ……。朝日と遊ぶ時以外はソロでやるつもりだし、何より『シイタケ』っていうPNが種族に合わせたみたいで嫌だな。

 でもなぁ〜、なんか刺さる。私の中の逆張りマイナー厨が「コイツにしろ」と訴える。ここはそうだね。


「保留で。」


 とりあえずね、絶対絶対絶ぇぇぇっ対に、万に1つにも可能性はないけど、本っ当になんとなくね、保留にしておく。

 流石に初めてのVRMMOで変な種族は選ばないよ。


「では、先に本職(メインジョブ)を1つ、副職(サブジョブ)を2つ選んでください。」


 ……ん?


「どういうこと?3つも選ぶの?」


「はい、これらに加え種族の選択に合わせキャラの性能や立ち位置が変わるので気を付けてください。」


 職業や種族の進化先が決まるとか?ていうか、立ち位置って何?このゲーム、勢力とか存在するの?まあ、私は自由に冒険する予定だし適当で良いか──


 



──吟味した結果、私の職業はこうなった。


本職:死霊使い(ネクロマンサー)


概要

 死霊系(ゴースト)不死者系(アンデッド)のモンスターの使役する戦闘職。選択するとスキル:死霊使役(ネクロマンス)、闇魔術、死体回収と装備:古ぼけた魔導書を取得する。


副職:薬師

 

概要

 素材を用いて様々な薬を調薬することが出来る生産職。選択するとスキル:採取速度上昇、調薬とアイテム:使い古された調薬台を取得する。


副職:神官


概要

 自身が信仰する神に祈りを捧げるとことで様々な奇跡の様な術を行使する戦闘職。選択するとスキル:◯◯神の加護と装備:洗礼された○○を取得する。


──────────


 良いよね、家族を失って禁忌に手を染めた聖職者って。見た目と合わせて癖を詰め込み過ぎだけど更にここで要素をひとつまみ、


「種族は──」


「菌人で。」


 私は食い気味に応える。菌人は選ばない?人生行き当たりばったりで良いんだよ。

 それにしても、ふふっ、ふふふふふふ。朝日は最高のゲームを持ってきたな。

 今なら、1分間よしよし良い子をしてやってもいいだろう。


「最後に、痛覚遮断は──」


「100%で」


「本当に宜しいですか?」


 それがないと、『ロールプレイ』に身が入らないでしょ?当然入れるよね。


「大丈夫です。」


「本当の本当に?」


「大丈夫です。」


「後悔しませんね?」


 しつこいな。


「大丈夫ですッ。」


「後悔しますよ。」


 言い切るなら態々聞くな。


「大ッ丈ッ夫です!!」


戻る/選びなおす/やり直す/無かったことにする/

言い間違いにする/がんばる


 なんかボタン出た〜。しかも、『はい/いいえ』じゃないし。勿論、押すのは『がんばる』だ。


「…………………………承認しました。モザイクは──」


「無しで。」


「…それでは、今から『Other Dimensions Online』の世界に転送を開始します。準備は宜しいですか?」


「何時でも大丈夫です。」


「承知しました、良い冒険を。」


 やっとこさ作業が終わった。次第に視界が霞始め──


 


──気がつけば半壊した教会の中に私は居た。薄汚れた修道服を身に纏った隻腕の少女。鏡はないけど見える範囲で見て、片腕で届く範囲を触ってみれば殆ど違いはない。

 強いて上げると、左腕の先から白いウニョウニョが垂れていることだけだ。


 そんな事より、まさかこのオンボロ教会は私のキャラクリに合わせたのだろうか?

 もしそうだとすれば、


「このゲーム!!最ッッッッッ高!!!!!!」


 私の春休みが今、始まる。

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