71章Side:潤奈① 留守番
「…ん…。」
「お目覚めですか、主?」
朝八時。潤奈は布団の中で目を覚ます。いつもと変わらぬ宇宙船の寝室の天井が目に入る。
「…おはよう、フォンフェル。」
「おはようございます、主。私が起こす前に起きられるとはさすがです。」
「…ありがとう、フォンフェル。」
「ふふっ、まだ少し寝ぼけてますね。朝のシャワーへどうぞ。着替えの用意はできております。」
潤奈は起き上がり、布団の片付けをする。
「あぁっ、主!布団は私が片付けますから!」
「…大丈夫。ありがとう、フォンフェル。」
布団を綺麗に畳んで持ち上げた後、壁の隅に置き、シャワー室に向かった。パジャマを脱ぎ、熱い湯を全身に浴びる。
「…そっか、今日は道人と愛歌、深也は水縹星海岸に行くんだっけ…。時間的にもう向かってるよね…。私は留守番かぁ…。…みんなでミスパトを作ろう、って話…なかなか実現できないな…。」
髪を洗った後、バスタオルを巻いて髪をセットする。
「主、手伝いましょうか?」
「…だ、大丈夫!自分でやるから…!」
フォンフェルの気遣いは嬉しいが、シャワー室に急に現れるのはいつも驚いてしまう潤奈。
髪をセットした後、用意された着替えを着てちゃぶ台がある間に向かった。
ちゃぶ台には白米と味噌汁、卵焼き、ほうれん草のおひたしが置いてある。
フォンフェルの作った料理はどれも輝いて見える。
「…フォンフェル、料理上手になったね…。」
「はい、愛歌から頂いたこの本のおかげです。」
フォンフェルは『和食の極み』という本を見せる。フォンフェルの器用さには毎度驚かされる。
「私は主のために和食を極めてみせます!
それでは、主。私は洗濯に参ります。その間にどうぞ、お召し上がりを。」
フォンフェルは一瞬でその場から消えた。
「…いただきます。」
潤奈はフォンフェルが作った朝ご飯をよく味わって食べた。
食器を片付け、デュラハン・パークへ向かう準備をし、宇宙船の外へ出た。
「…じゃ、行こっか。」
「はい。では、私に…。」
フォンフェルは潤奈をお姫様抱っこし、跳んだ。次々と民家の屋根を飛び跳ね、物凄い勢いでデュラハン・パークへ向かう。
「…フォンフェル、いつ発作が起こるかわからない身体なんだから、気をつけるんだよ?」
「ご心配感謝します、主!ですが、大丈夫!これくらいじゃ、私の身体は悲鳴を上げませんよ!」
最近はデュラハン・パークに向かう時はこんなやり取りは潤奈にとっては日常と化していた。
あっという間にデュラハン・パークのモノレール乗り場に辿り着いた。
「それでは主、私は消えます。用がある時は姿を見せます故、では!」
そう言うとフォンフェルは一瞬で消えた。潤奈はフリーパスを使い、モノレールで開発エリアに向かう。
今日は博士に呼び出されているからだ。 潤奈はモノレールの窓から見える海を眺めて楽しんだ後、モノレールから降りる。
「…よし、博士の研究室は、と…。」
潤奈は通路を歩き、博士の研究室へと向かう。
迷う事なく、無事に辿り着けた。フリーパスを通してパスワードを入力し、自動ドアにノックをする。
「…博士、入りますよ?」
「おぉっ、潤奈君か!待っておったぞ!入りたまえ!」
潤奈は自動ドアを開き、博士の研究室に入る。
机にはたくさんのファイルが無造作に置いてあり、ロボットの玩具もたくさんある。ホワイトボードには色んな数式が書いてある。
「すまんなぁっ、散らかっていて。」
「…いえ、いいんですよ。」
同じ開発者の父の部屋もかつてこんな感じだったので潤奈は思い出せて微笑ましかった。
「そうだ、良い茶が手に入ってな。今、出してあげよう。」
博士は冷蔵庫を開けて、お茶を淹れる用意を始めた。
「大樹君は今日は?」
「…はい、大樹は朝は用事があると言ってました。昼からパークに来るって言ってましたよ?」
「そうか、そうか。潤奈君がパークに一人なのは珍しいのぉ。あぁ、座ってよいぞ。」
博士はお茶をオボンの上に乗せて机に置いた。潤奈は空いているパイプ椅子に座る。
「…はい。ここの所、道人たちと一緒に行動する事が多かったですから…。でも、パークの守りを任されたからには私もがんばらないと、ですね…!」
潤奈は両手で握り拳を作って張り切った。
「うむ、その意気じゃ!まぁ、何事もないのが、平和が一番良いんじゃがな。」
「…それはもちろん、そうです。」
「でも、わしは今日も多忙じゃ!もし、水縹星海岸でジークヴァルたちが戦闘したら潮風を浴びてしまうからのぉ〜。三機分点検せにゃならん!困ったもんじゃよ!」
博士は潤奈と共に笑い合った。
「その笑顔、グッド!とてもグッド!おはよう、潤奈!」
「あ、グルーナさん!」
この部屋に置いてある小型モニターにグルーナの姿が映る。
「今日も元気ね、我がマイファンであり、フレンド!君の笑顔が私の創作意欲を掻き立てるっ!」
グルーナはスケッチブックを持って鉛筆ですらすら書き出した。
「私はやっぱり自分のパッションを直に書ける鉛筆が大好きよ!アナログ最高!デジタルも勿論最高っ!」
グルーナは書いている途中に鉛筆を持った右手を上に上げて喜んだ。
「何やら盛り上がっておるのぅ…。まぁ、賑やかで良いが…。」
「…あの、博士。それで今日私を呼び出した用件は…?」
「おぉっ、そうじゃった、そうじゃった!今日は留守番を任されたメンバーにせっかくじゃから、わしの研究品を見せてあげようと思っての!大サービスじゃ!大樹君がいないのが残念じゃがの。」
「…本当ですか?それは楽しみです…。」
潤奈は両手で小さく拍手する。
「あの式地博士の研究品が見られるなんてレアよ、レア!くぅ〜っ…!画面越しなのが残念!」
グルーナは自分を両腕で抱きしめて顔を左右に振り、今の自分の立場を悔しがった。
「では、早速見せようか!まずはこれじゃぁっ!」
スクリーンに新型のデュラハンの設計図が映る。パワーショベル型とジェット型の二機が映る。
「…こ、これって…?」
「うむ!名付けて、『アディション・デュラハン』じゃ!」
「…アディション…!?」
「デュラハン!?」
「良いリアクションをありがとう!詳しく説明しよう!」
博士はスクリーンに映る設計図を更に増やした。
「このデュラハンはデュラハン・ハートを使わずに新たな動力源『エンチャント・アクアジェネレーター』を使うつもりなんじゃ。」
「…エンチャント・アクアジェネレーター?」
潤奈は右手の人差し指を頬に当てて頭を右に傾け、?マークを浮かべる。
「和訳すると『魔法をかけた水の発電機』
ってところかしら?良いネーミングだわ!」
「うむ!シンプル・イズ・ベストじゃ!エンチャント・アクアジェネレーターはわしの知人、江端千太郎博士が考えた新型ジェネレーターじゃ!」
モニターに江端千太郎博士の顔写真が映される。白髪で眼鏡をかけた優しい顔つきのお爺さんだった。
「このジェネレーターは名前の通り、水で動くんじゃ。ただし、普通の水ではなくて、調合された特殊な水じゃがの。その水を体内で循環させ、エネルギーを発生させる事ができるんじゃ。」
「…つまり、補給がいらない永久機関って事ですか?」
「その通りじゃ、潤奈君!」
「アンビリーバボー…!?素晴らしくエコな動力源ね、博士!」
グルーナは右手でサムズアップし、博士もモニターのグルーナにサムズアップし返す。
「更にそれだけではないぞ?もし、ジークヴァルたちがヘッドチェンジを使い切ってしまった際、アディション・デュラハンはディサイド・デュラハンと合体する事ができるのじゃ!もちろん、デュエル・デュラハンとも可能じゃ!しかも、制限時間はなしじゃ!」
「…えっ?誰とでも合体できるんですか?すごい…。」
潤奈は右手を口に当てて驚いた。
「もう二機ともボディの製作に取り掛かっていての!現在調整中じゃ!乞うご期待!」
「さすがね、博士!これならオーガに金棒よ!」
グルーナは今度はピースサインをし、博士もピースで返す。
「まぁ、わしだけの成果ではないがな。快く自分の研究を託してくれた江端博士の協力のおかげじゃ。今度、会う機会があるんじゃが、その時に改めてお礼を言わんとな。」
「…はい、私たちも機会があればその方に合ってお礼を言いたいです…!」
「うむ、そうじゃな!さて、まだあるぞ?次はフォンフェルの発作の件じゃ。まだ可能性の話じゃが、もしかしたら将来的に発作を直す事ができるようになるかもしれん。」
「それは誠かっ!?」
フォンフェルが急に潤奈の隣に現れた。
「おぉっ!?いたのか、フォンフェル!?その登場は老人の心臓に悪いぞ…!」
「す、すみませぬ…。」
自分の胸を押さえる博士を潤奈とフォンフェルは慌てて心配した。
「…うむ、今まで修理できなかったのはフォンフェルの動力部に欠陥があって、下手するとフォンフェルがもう二度と起動しなくなる危険性があったからじゃ…。」
潤奈はフォンフェルを心配そうに見た。
「そこでこのエンチャント・アクアジェネレーターの出番じゃ!この新動力をアディション・デュラハンにうまく搭載できる事ができれば、フォンフェルの不具合を直す事ができるかもしれん!まだ可能性の話で期待を持たせて申し訳ないが、わしには自信がある!将来的には絶対にお前さんの発作を直してみせるからの!」
「はい、その時を楽しみにしています、博士。」
「…博士なら信頼できる。がんばろうね、フォンフェル。」
「えぇ、ありがとう、主…。」
フォンフェルはそう言うとまた一瞬で姿を消した。
「この事は道人君たちにはまだ内緒じゃぞ?これは留守番組の潤奈君やグルーナさんにだけ、とっておきで明かしたんじゃからの。」
「…はい、わかりました。」
「OK!」
「…実は御頭防衛隊が量産型ディサイド・デュラハン計画を復活させるべきではないかと言い出しての。」
「…そうですか、そんな人たちが…。」
「今の所はデュラハン・ハートが足りんという話にしておるんじゃが、今回のエンチャント・アクアジェネレーターの事は秘密にしたいのじゃ。バレたら厄介な事になる。漏洩は避けたいのじゃ。」
「…わかりました。他言無用ですね。」
「うむ。 …おや?」
モニターに一瞬、ノイズが発生したのを博士は見た。
「何じゃ、今のは…?」
「…どうしました?」
「…いや、何でもない。」
そう言うと博士はモニターに映るアディション・デュラハンの設計図をすぐに消した。
お昼の時間になった。博士も仕事があるので邪魔はできないと思い、潤奈はモニターに映るグルーナに後から面会に行くと約束し、博士の研究室から退室した。
「…そろそろ大樹も来るかな?その前に食堂に行こ。ふふっ…!」
潤奈は食後にすぐにグルーナの面会に行けるように開発エリアから出て、モノレールで会社エリアに移動した。一階の食堂に着き、食券売機の前に立つ。
「…よし、今日もデュラハンお好み焼き定食にしよう♪」
潤奈は券をフリーパスで買った後、店員に券を渡し、椅子に座って待つ。しばらくすると店員から呼び出され、定食を取りに行き、空いている席に座って食事を始める。
「…ここのお好み焼き定食は具が毎回変わるんだ…。そこはミスパトみたいだな…。」
潤奈は微笑みながら、息を吹き掛けて冷まし、お好み焼きを食べた。
「…何をそんなに楽しく食べてるんですか、姉さん?」
「えっ…?」
潤奈は姉さんと呼ばれて横にいる女性を即座に見た。白の帽子と水色の上着にピンクのシャツ、白いロングスカートを着た女性だった。
「…!? しまっ…!?つい…!?」
女性は両手で口を抑えた。
「…マ、マーシャルなの?その格好…。何で、ここに…?」
潤奈は思考が追いつかなかった。何故この場所にマーシャルがいるのか?
「〜っ…!」
マーシャルは恥ずかしそうに潤奈の前の席にとりあえず座った。しばらく沈黙の間が続く。




