71章 新たな一歩を共に
「…以上が私の正体と過去です。キャルベンの目的も私が知り得る限りの事は伝えられたと思います…。」
海音が語った壮絶な過去。道人たちも海音を気遣ってしまい、何から触れていいのか困っていた。
「…みおん、あなたもわたしとおなじで…さつりくをもとめられたそんざいだったんだね…。」
「はい、スランとは他人の気がしませんでした…。だから、あなたともディサイドできたのかもしれませんね…!今更悔やんでも仕方ありませんが、もっとうまい方法があったんじゃないか、と今でも後悔が尽きません…。」
海音は椅子から立ち上がり、スランに近寄ってしゃがみ、スランの左手に右手を乗せた。
「ですから、スランには同じ思いをしてもらいたくはないのです…。難しい事かもしれません、途方もない事なのかもしれません…。ですが、どうか敵対する事になったからと言って、悲しき関係のままで終わる事のないように…。」
「だいじょうぶだよ、みおん。みおんはいま、おしえてくれたよ?かんじょうをもつことのたいせつさを、せいめいのたくましさを…。」
「軽蔑しませんでしたか…?私の失態の数々を聞いて…。」
「そんなこと、ぜんぜんないよ!みおんのかこをきいたら、わたしはさらに、みおんへの、あこがれのきもちがつよくなったよ…!これからもわたしをみていてね?かならず、わたしのりそうのせんしになってみせるから…!…ううん、ちがうね!ふたりでりそうをめざすんだ…!」
スランは自分の左手に乗った海音の右手の上に優しく右手を重ねる。
「はい…!ありがとう、スラン…!私のスラン…!」
海音は重ねられた手を持ち上げ、スランと共に胸の位置まで手を運んで見つめ合った。
「あーっ、おほん!お二人さん、お熱いのは結構ですが、話を続けても?」
愛歌がそう言うと海音とスランは頬を染め、慌てて手を離し、道人たちの方を見た。海音も椅子には戻らず、床に座った。道人たちは海音の境遇にどう接すればいいのか困っていたので、こんな時は愛歌の明るい軽口には助けられる。
「あ、そう言えば…海音さん、十糸姫と知り合いだったとは驚きました…。」
愛歌が話題を振ってくれた。そう、海音の語る過去に十糸姫が出てきた時はみんな驚いていた。道人はちょうど気になる事があったので海音に聞いてみる事にした。
「海音さん。十糸姫の伝説によると十糸姫は江戸時代に十人の武者に糸を渡しているんです。」
「あ、そっか!海音さんが十糸姫に会ったのは平安時代だから、キャルベンには殺されてなかったって事になる?」
「いや、平安時代から江戸時代って何年経ってんだよ?」
かなりの長生きになってしまう事に深也が即座に突っ込みを入れる。
「うん、海音さんが十糸姫に会った時の年齢はわからないけど、平安から江戸だと軽く五百年くらいは経ってるね…。しかも、あの頃の寿命は大体四十か五十くらいだし…。」
「私も後からその伝説の事は知って驚きました…。姫が生き残ってくれた事は嬉しかったのですが…。」
「そういえば、海音。お前が町内大会に出た理由って…。」
道人たちが最初に水縹星海岸に来た時、十糸姫の糸が3位の準々優勝商品になっていた時の事を深也が訪ねた。
「はい、そうです。回収しようと思って出場したんです。あの時は驚きました。灯台下暗しです。道人さんもディフェンスダイヤトウ相手に使ってましたよね。」
海音は自分のスマホについたストラップをみんなに見せた。道人は更に詳しく聞いてみる事にした。
「海音さん、糸が反応した時、十糸姫が現れませんでしたか?」
これまで道人、深也、潤奈、グルーナと糸が反応を示したが、その時に必ず十糸姫が現れている。
「はい、私の時も姿を見せてくれました…。でも、見せるだけで会話はできず…。」
「そうですか…。」
「でも、私が親しかった頃の姫より少し大人びていたような気がしました…。でも、久々に姿が見られて良かったです、あの時は…。」
海音はその時の事を思い出したのか、ストラップを右手でいじる。
「うーん、十糸姫に関してはまだまだ謎が多いね…。」
「謎と言えば、カラクリデュラハンよ!あいつら、平安時代からいたの?」
「うん、間違いなく傀魔怪堕だろうけど、あいつら、そんな昔からいたのか…。」
前に十糸の森の洞窟で潤奈と共に見た時は江戸時代からいるのはわかっていたが、更に前の平安時代からいるとは道人も思わなかった。
「私が気になったのは十糸姫がデュラハンやアトランティスの事を知っていた事よ。平安時代に生きていた民たちのデュラハンやアトランティスの認知度がよくわからないわね…。」
大神がノートパソコンを操作しながら道人たちに話し掛けた。
「はい、当時の私も姫の発言にはあべこべさ、不自然さを感じていました…。民たちのデュラハンやアトランティスの認知度に関しても、あの頃の私は主に海底都市とこの神殿に主にいたのであまり聞いた事はありませんでしたね…。」
「これも多元分岐ってやつの影響なのかな、道人…?」
「うん…。」
みんなであれこれと考察していたが、十糸姫と傀魔怪堕に関してはもう新情報は得られない気がした。
「そうだ、海音が最後にキャルベンの宇宙船に乗り込んだ時、何でイジャネラは怪我をしていたんだろうな?突然コールドスリープまでしてよ。」
深也が話題を切り替えて今度はキャルベンのイジャネラの話をする。
「私にもそれはわかりません…。あの時、ソルワデスの姿も見ませんでしたし…。」
「戦島にイジャネラが現れた時はバドスン・アータスの砲撃でコールドスリープから目覚めて、本来はまだ目覚める予定じゃなかったけど、傷は癒えたからいい、ってイジャネラが言っていました。」
「…何を企んでいたんでしょうか、イジャネラは…?」
海音は顎に右手を当てて考え込んでしまった。
「とにかく、海音さん。今後もキャルベンに何か動きがあれば、あなたに連絡するわ。あなたもキャルベンが攻めてきて、困った時は私たちを遠慮なく頼ってね?」
大神の言う事に道人たちはこっちの事は任せて!と強く頷いた。
「はい、お願いします!…あ、そうだ。皆さんに差し上げたい物があります…。少し待っていて下さい。」
そう言うと海音は立ち上がり、去って行った。三分程すると箱を持って戻ってきた。
「キャルベンがこの箱を見つけた形跡はありませんでした、良かったです…!皆さん、どうぞお納め下さい。」
海音が箱を開けるとそこには黄色とピンクの十糸姫の糸が二本入っていた。
「こ、これって十糸姫の糸!?」
「しかも二本も!?」
道人と愛歌は共に驚いた。
「はい、姫が関係する唯一の品ですから、探して集めていたんです。」
「い、いいんですか、僕たちに…?」
道人たちは海音と十糸姫の関係を知った後だと何だか受け取るのを遠慮してしまった。
「はい、あなた方は信用に値します。なので託したいのです。この二本は私が持っていても、反応しませんでしたし。私とスランはデュラハン・パークに行けませんが、せめて、この糸でお力になれれば…。」
「海音さん…。わかりました、喜んで受け取ります!」
「はい…!」
海音は箱を閉じ、道人に手渡した。
「やったぁっ…!これで後三本だ!」
「やっと、あたしのルブランが…!」
「いや、ランドレイクとオルカダイバーで合体をだな…!」
はしゃぐ道人たちを見て海音とスラン、クラちゃんは微笑み合った。
時刻は午後三時。キャルベンの情報を海音から十分に得る事ができた道人たちはデュラハン・パークに帰る事になった。大神の車とトラックが神殿の前で待機する。見送りに海音とスラン、クラちゃんが立っている。
「皆さん、私が知るビーストヘッドは二匹…。イーグルとヴィーヴィルはフランスの街エトテワールにある遺跡にいます。」
「フ、フランス!?」
道人たちは口を揃えて驚いた。
「お前、フランス行った事あるのかよ?」
「いいえ、ありませんよ?魚さんたちを通じて連絡し合っているんですよ、ビーストヘッドさんとは。」
「すげぇな、魚たち…。」
「伝書魚って感じだね。」
深也と道人は日本からフランスまで泳げる魚たちの逞しさに感心する。
「じゃあ、道人君たち、そろそろ車乗ろうか。」
「あ、はい!それじゃあ、また!」
「またキャルベンの奴らが来たら言えよ?すぐ駆けつけるからな!」
「はい!大丈夫ですよ、深也!何せ、私は毎日を楽しく過ごす誇り高き勇敢な女ですから!」
「…は?」
深也が何故か海音の今の言葉を聞いて固まっていた。道人にはよくわからない。
「…お前、その台詞…。」
「ふふっ…♪デュラハン・ガードナーの方から連絡を貰った後、魚たちから聞きまして!キャルベンの兵士たちの発言を聞いて私のために怒ってくれたそうで。魚さんたちの情報網、舐めんなですよ?」
海音は右目でウインクした後、後ろを振り返って去ろうとする。深也の顔が真っ赤になっていた。
「み、海音…!てめぇっ…!」
「わぁっ!?怒りました!逃げましょう、スラン!クラちゃん!」
海音はクラちゃんを右肩に乗せたスランと共に走った。
「それと深也!オルカダイバーで海面に電撃攻撃したでしょ?魚さんたち、驚いちゃうから今後は気をつけて下さいねぇ〜っ!」
「…ったく、伝書魚すげぇな…。」
怒りつつも深也はどこか嬉しそうに見えた。
「さぁ、スラン!クラちゃん!私のお友達にあなた達を紹介しましょう!一緒に遊びますよぉっ!」
「やったぁっ!よぉ〜し、またみおんのはーもにか、ききながらおどっちゃうから!」
「ぴぃっ!」
海音とスランは胸を高まらせ、今日から始まる新たな人生の一歩を力強く踏み出して走った。




