70章Side:みおん ③ 裏切りの人魚
「がぁっ〜っ…!?また負けたぁ〜っ…!まだだ!オレが勝つまでやるぞ、ミオン!」
「その意気です、グゲンダル!さぁ、来なさい!」
みおんは訓練室でグゲンダルと槍をぶつけ合っていた。これで今日は三十試合目だ。ソルワデスも負けず嫌いの妹を見て呆れていた。グゲンダルの隙をつき、みおんは槍をグゲンダルの腹を狙って一撃。グゲンダルは防御はできたが、壁まで吹っ飛んだ。
「ぎぃっ!?また負けた…!おのれぇっ、ミオン!」
「相変わらずの突撃思考ですね。」
「うるせぇっ!また先せ…。」
「…でも、今の防御は良かったですよ?その調子です。」
「お、おう…。」
みおんはグゲンダルの進歩に笑みを浮かべ、それを見たグゲンダルは気が抜けた。
「な…なぁ、お前、地球で何かあったのか?何か人が変わったような…?」
「それは私も同感だ。」
さっきまでみおんとグゲンダルの試合を見物していたソルワデスが近づいてくる。
「そうでしょうか?」
「あぁ、あなたが自分の事をミオンだと名乗ってからは特に…。」
「そうですか?気のせいですよ。 …あっ、グゲンダルに構っていたら、もうこんな時間に…。今日も地球の調査に行かなくては。それでは、失礼。 〜♪」
みおんは訓練室を走って退室する。大急ぎで隕石形態になり、嬉々として大気圏突入した。
「グゲンダルもソルワデスも私が変わったって…。えっへへ、嬉しいな…!」
十糸姫から名前をつけてもらった日、あまりに嬉しくて艦内を走り回ってキャルベンの兵士たちに自己紹介を何度もした。おかげでみおんの名前は浸透し、『人魚騎士ミオン』と呼ばれるようになった。ただ、イジャネラだけはまだ一度もみおんの名前を呼んでいなかった。
「何で私の名前を呼んでくれないんだろ、イジャネラ様は…?」
イジャネラが名を呼んでくれないのは気掛かりではあるが、みおんは気にせずに地球の海にダイブした。また魚たちと戯れながら海中を進み、洞窟に辿り着いた。
「おぉっ、待っておったぞ!みおん!」
「はい!来ましたよ、姫!」
もう十糸姫との付き合いは六日になる。すっかり仲良くなり、怪我人の手当てや、小助の遊び相手、料理の手伝い、洗濯などこの六日間で色んな事を教えてもらった。
「み〜おん!」
「わっ!?驚かさないで下さいよぉっ、姫ぇ〜っ…!」
みおんが洗濯物を干している最中に十糸姫が後ろから抱きついてきた。
「みおんは張り切り屋さんじゃの〜!」
「はい!人のお世話をする事がこんなに大変だとは思いませんでした…。でも、楽しいです…!助けた後のお礼の一言が私の胸中に不思議な暖かさを与えてくれる…!戦い以外にこんなに楽しい事があるなんて、私は知りませんでした…!」
「おぉっ、そうかそうか!そう言ってくれるか!よぉ〜し!じゃあ、今日はもっと頼らせてもらおうかな?」
「お任せあれ!何が来ても成し遂げてみせますよ!」
「「あっはははははっ!」」
みおんと十糸姫は共に笑い合った。それを聞いている小助たちも和んでいた。洗濯が終わった後、十糸姫たちは怪我人の面倒を見ていた。みおんは右手に黒の碁石を大事そうに握っている男の面倒を見る。
「みおん様、あなたが来てくれてから姫様はよく笑うようになった…。かたじけない…。」
「いえ、そんな…。」
「きっと、今まで歳が近い女子がいなかったから、同い年の友ができて嬉しいのでしょう…。みおん様、できれば永久に姫様と仲良くあって下さい…。どうか…。」
「…はい、そのつもりですよ。」
みおんは温かな気持ちを抱きながら怪我人の傷口に薬を塗った。
「姫、大変だ!」
突然、高身長の男が慌ててやって来た。
「む?どうした?」
「どうやら、近くで戦があったらしくて…。何でも化け物だとか…。」
「それは誠か?わかった、話を聞こう!みおん、すまぬが後は頼む!」
十糸姫は男と共に走り去った。今の男は近くで戦があったと言っていた。みおんは急に不安な気持ちに襲われた。
手伝いを終え、もう暗くなったので宇宙船に帰る事にした。十糸姫と小助はみおんを見送りに来る。
「姫、さっきの話は…。」
「む?あぁ、大丈夫じゃ!心配するでない!みおんは何も気にする事はないのじゃぞ?」
「…そうですか。なら、いいのですが…。それではまた明日ね、姫。小助。」
「またの!」「ま、た・ね!」
みおんは足をヒレにし、海に飛び込んで去る。海中から出た後、すぐに隕石形態になって宇宙船に戻った。
「して、今日も何も成果はないと?」
「も、申し訳ありません、イジャネラ様…。」
宇宙船に帰還した後、すぐにイジャネラのいる王室に報告に来た。六日間、十糸姫は見つからないという報告をしているのでイジャネラは機嫌が悪かった。
「こんなに見つからないのですから、もう十糸姫は…この世にはいないのかもしれません…。」
もうイジャネラに十糸姫を諦めてもらおうと嘘をついた。嘘でも自分の口から十糸姫が死んだと言うのはみおんにはつらかった。
「…そうか、もう良い。下がれ。」
「はい、では…。」
みおんは後ろを向き、退室しようとする。
「…そうそう、お主と一緒に捕らえていた動物たちを覚えておるか?お主が生まれた時の事だ。」
「えっ?」
みおんは立ち止まり、再びイジャネラを見る。
「三日前に実験兵器が一匹完成した。現在発見した怪しい海底都市の調査がてら、そこで実験をしておる。近々、お主にも手伝ってもらうかもしれん。その時は頼んだぞ。データは送っておく。」
「は、はい…。」
みおんは新たな任務を任されたら十糸姫たちと会いづらくなるな、と考えながら退室した。
次の日、みおんはいつも通りにグゲンダルの対戦相手をするために訓練室に向かっていた。何やら今日は周りが騒がしい。ちょうどグゲンダルとソルワデスがいたので聞いてみる事にする。
「…何やら今日は騒がしいですね?」
「ん?あぁ、ミオンか。残念だったな。お前、先を越されちまったぞ。」
「…? 何の話です?」
「お前が捜索任務を任されていた十糸姫だっけか?他の奴が見つけて殺したってよ。残念だったな。」
「…えっ…?」
みおんは自分の耳を疑った。
「どうやら、洞窟内に潜伏していたようだ。」
(待って。)(待って。)(何て…?)
「我がキャルベンの兵士たちが突入し、あっさり殺せたらしい。」
(嘘だ。)(嘘だ。)(聞きたくない。)
「まるで手応えがなかったと聞く。血も出なかったらしい。まるで最初から…。」
「…怪我人はっ!?小助は!?他の人たちはどうなったのですっ!?」
みおんはソルワデスの言う事を最後まで聞かずに声を荒げた。
「き、急にどうしたんだよ、お前…。」
「どうなったのかと聞いているのですっ!?」
「し、知らねぇよ…。十糸姫以外の事なんて…。」
「っ…!?」
「あ、おい!」
みおんは全速力で走って艦から宇宙に出る。隕石形態になって大気圏を突入した。
(嘘だ、嘘だ、嘘だ…!?何で?もしかして、私、つけられてた…?そんな、そんな…!?)
みおんの勢いは止まらない。地球に着いた後、速攻で海中に潜って洞窟へ向かった。途中、いつも遊んでいた魚たちがいない事にも気がつかなかった。
「嘘だ…!?十糸姫が死んだなんて、そんなの信じないから…!」
みおんは洞窟に着くとすぐに二本足になって洞窟内に入った。
「十糸姫ぇっ!!」
洞窟には誰もいなかった。おかしい事に誰の死体もない。あるのは血塗れの布だけ。本当にここが虐殺現場なのか?という程何もなかった。
「小助ぇっ!!新八ぃっ!!啓太ぁっ!!みんなぁっ、どこです!?」
みおんは十糸姫たちの死が信じられず、近くを捜し回った。が、誰も見つからなかった。みおんは本当に死んだのか?と実感が湧かないまま途方に暮れ、草原に立つ。
「…本当に死んだの…?確かに洞窟内には誰もいなくなってるけど…。」
みおんは十糸姫の陰陽術を思い出す。
「もしかして、あの陰陽術っていうので…?でも、そんな事できるの…?駄目だ、十糸姫の術を全部知ってる訳じゃないから、わからない…!わからない、よ…。」
みおんはその場で膝を立てて座り、顔を膝につけた。
「生きてるんなら、私に教えてよ…!知らせに来てよ、姫…!」
みおんはしばらく考え込んだ。とりあえず宇宙船に戻り、十糸姫の殺しを命令された奴をイジャネラに聞いて確かめる事にした。みおんはその場で隕石形態になり、宇宙へ飛んだ。キャルベンの宇宙船に入り、真っ先に王室に向かう。力を込めて押し扉を叩き開いた。
「イジャネラ様、お聞きしたい事があります!!」
王室に入るとグゲンダルとソルワデスもいた。鬼気迫るみおんを見て驚いている。
「…来よったか。どうした?此度の虚偽の報告の謝罪にでも参ったのか?」
イジャネラはとっくにお見通しのようだった。ならば、こちらも遠慮なく言わせてもらおうとみおんは力強く前進する。
「…お主、十糸姫に何を吹き込まれたのかは知らんが、目を覚ませ。あやつは我が兵が人を始末するのを邪魔した愚か者だ。消えて当然の奴だ。」
「…消えて、当然…?」
みおんの脳内に笑顔の十糸姫たちが浮かぶ。
「…あの人たちは乱世の世だと諦めず、必死に生き延びようとした強き者たち…!それを消えて当然だと…?あなたはキャルベンの繁栄のためと称しながら、やっている事はただの人類虐殺…!ただ、地球を欲しているだけの奴のどこにそんな事を言える権限がある…!?」
みおんは生まれて初めて慕っていたイジャネラに対して憎悪の目を向けた。
「お、落ち着け、ミオン…!」
「そ、そうだぜ?お前、何か変だぞ…?不理解…!」
グゲンダルとソルワデスが仲裁に入る。
「そうだ、その名前…!気に入らん…!口にするのも悍ましい…!我がお気に入りによくもそんな汚らわしい名前を…!」
「汚らわしい…?姫が私のためにつけてくれた名を冒涜するかっ!?」
「やはりあの女のつけた名前か!たった数日の付き合いの女につけられた適当な名前など、どこに価値がある!?」
「生まれたばかりの私に名をつけない貴様が言える事ではなかろうでしょうに!」
「貴様…!?意味あって名付けなかった妾の気持ちも知らずに…!」
「相手に伝えずに勝手に想っている事など、伝わらなきゃ何の意味もない!」
みおんとイジャネラの口喧嘩はどんどんヒートアップしていく。グゲンダルとソルワデスは居づらそうにしていた。
「この反抗期娘がぁっ!!もう死んだ女に何をそこまで拘る!?」
「…亡くなったからこそ、拘るのです…!姫は私に教えてくれた…!戦い以外にも楽しい事がある事を…!人を労わる事の大事さも…!そう、そうだ…!」
みおんは自分の胸を右手で抑えた。
「あなたは生命を軽んじている!それが私には堪らなく不愉快だ!今からでも遅くはない!考えを改めろ、イジャネラァッ!!」
「リーダーに向かって呼び捨てとは…!?お主は…貴様は、もう美しくない…!グゲンダル!ソルワデス!そこにいるのはもう同胞ではない!せっかく得た高い知性を活かせなかった失敗作!汚らしい反逆者なり!消し去ってしまえぇぇぇぇぇーっ!!」
ソルワデスとグゲンダルは動揺しつつも、命令に従ってミオンに襲い掛かった。




