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ディサイド・デュラハン  作者: 星川レオ
第2部 DULLAHAN WAR
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70章Side:??? ① 生誕する人魚

「………。…? …光…?」


 少女は目を覚ますと台の上に寝ていた。上半身を起き上がらせると周りには魚人のデュラハンがたくさんいる。


「やった、成功だ!ありがとう、生まれてきてくれて!」


 少女は訳もわからず、知らないデュラハンに握手された。


「キャルベンの素体に地球で入手した人間のDNAを使ったのが良かったな!我らは初めてデュラハン以外の生命を作り出す事に成功したのだ!」

「よぉ〜し、今度は地球で回収した動物たちの改造に入るぞ!」


 少女はこの魚人デュラハンたちの話している内容が全くわからないまま呆然としていた。


「ホホッ、どうやらうまくいったようだな。」

「イ、イジャネラ様…!」


 魚人デュラハンたちは開発室に入ってきたイジャネラに対し、両手を罰の字に交差する。


「イジャ、ネラ…?」

「ふむ、なかなか良い声だ…。気に入った!兵器であると同時に美もある最高傑作の予感よ…!」


 イジャネラは少女の頭を撫でる。


「何?今の…?何で、頭を揺らしたの…?」


 少女は両手で触られた頭を何度も触れる。何故か喜びを感じ、にやけていた。


「ふむ、既に地球の言語はインストール済みのようだな。」

「はい、この兵器は既に知性を持っていて素晴らしい仕上がりです!これなら、すぐにでも地球に向かわせる事ができますよ!」

「いくら何でもまだ早かろう。そこの動物たちが完成してからでよい。いずれ、こやつの仲間になるであろうからな。どれ、(わらわ)が遊んでやろう。…その前に着る物が必要だな。おい、この兵器に何か布か鎧を!」


 イジャネラに命令され、研究者たちは急いで着る物を探し、ボロい青の上着を着せられた。サイズが合っておらず、胸が窮屈そうだった。服を着るのは初めてで長い上着をひらひらさせる。


「ふむ、上着だけか?」

「この兵器の下半身は二本足と魚のヒレに変形するタイプを採用しました。大気圏単独突入のための隕石形態にも変わる事もできます。着せても何度も破れるだけですよ。布の無駄です。」

「この兵器のためにアーマー変化の首飾りを至急制作せよ。あれなら変形後も何度も着れる。せっかくの美しさが勿体ない…。ほら、頬もこんなに柔らかい…。」


 イジャネラは少女の両頬に触れて何度もぷにぷにする。


「…イジャネラ、様…?くすぐっ、たい…です…。」

「ホホッ、もう周りから(わらわ)がリーダーである事を理解したか!良いぞ!実に賢い良い子だ…。」


 その後、少女はイジャネラのお気に入りになった。鎧を与えられ、自在に足を変化させる事もできるようになる。遊び場の人の形をした的を斬ったり、撃ったり、蹴り壊す度にイジャネラは喜んでくれた。


「よぉし、もっともっと壊すぞぉっ!イジャネラ様、たくさん喜んで私の頭を撫でてね!」


 その後、少女はイジャネラのお気に入りとして裕福な暮らしを約束された。豪華な部屋に豪勢な食事を用意され、何不自由ない暮らしを過ごしていた。

 ある日、イジャネラの元に遊びに行くと少女が楽しそうに歩いているのが気に入らなかったのか、兵士に絡まれた。


「おい、お前!生まれたばかりのくせに何でイジャネラ様の寵愛(ちょうあい)を受けまくってんだ?不公平だ!」

「あの、私…。」

「私らが地球侵攻で必死に戦ってんのに悠長に遊びやがって!なぁ、おい!」

「痛っ…!?」


 少女は右肩を強く叩かれた。


「痛いよ!やめ…てっ!!」


 少女は空中で素早く一回転し、兵士の右腕に回し蹴りを喰らわした。兵士は壁に叩きつけられ、地面に尻餅をつく。右肩が故障し、外れて地面に落ちる。


「なっ…!?わ、私の腕が…!?」

「…しい…。」

「へっ…?」


 少女は満面の笑みで倒れた兵士を見る。


「楽しい…!的とは違う手応え…!すごい、すごい…!固定標的よりも動く獲物を仕留める事がこんなに楽しいなんて…!もっと、もっと楽しませてよ!」

「ひ、ひゃあぁっ…!?」


 この後、兵士はスクラップ状態になり、修理室に運ばれた。この出来事がきっかけで少女の戦いの才能は開花し、この日は兵士を見掛けては戦いを挑んで倒していた。度が過ぎたため、兵士たちに取り押さえられ、イジャネラに王室へ呼び出された。


「素晴らしい!もう戦士の自覚を得るとは!やはりそなたは最高傑作よ!だが、お主が戦う相手は我が兵ではない!地球だ!(わらわ)は地球の人間を仕留めてくれた方が尚、嬉しいぞ?」

「イジャネラ様が喜ぶ?本当?わかった!私、地球の人間をぶっ倒すね!そうしたら、また褒めてね!イジャネラ様!」


 この出来事を励みにし、少女の戦士の才能は更に開花。地球侵攻を夢に見、一気にキャルベンの特攻隊長の地位に上り詰めた。兵士教育のための教官にも抜擢される。


「どうしましたか、グゲンダル?あなたの腕はこの程度ですか?」

「うっせぇっ!不理解!この乱暴者がぁっ!格の違いってのを見せてやる!」


 少女とグゲンダルは訓練室で激しい槍のぶつけ合いを繰り広げていた。終わらない金属音が延々と鳴り続ける。


「すごいな、あの名無し隊長。この短期間でもうソルワデス様とグゲンダル様の上位チームに馴染んでる…。」

「さすがだぁっ…!イジャネラ様のお気に入りなだけの事はある…。」


 少女の槍捌きは更に磨きを増し、グゲンダルに競り勝つ。


「なっ…!?このオレが、馬鹿な…!?」


 グゲンダルが涙目になって地面に倒れると少女は槍で胸を貫こうとする。


「そこまで!」


 ソルワデスはとどめを刺そうとする少女の槍を長く伸ばした爪で挟んで止めた。


「落ち着け。これは訓練だ。死闘じゃないんだぞ。」

「…申し訳ありません、ソルワデス。少し熱くなりました…。」

「邪魔しないでくれよ、ソルワデスお姉様ぁっ!せっかく良い所だったのによぉ〜っ…!」


 グゲンダルは涙を流しながら強がった。


「…グゲンダル、あなたは前のめり過ぎます。防御が手薄で、しかも相手を下に見る癖がある…。詰めの甘さが戦場では命取りになりますよ?」

「うるせぇっ!先生ヅラすんじゃねぇっ!しかも、お前何時から敬語で喋るようになった!?」

「これが上に立つべき者としての礼儀と学びました。今後もこの喋り方を変える気はありませんよ。…もう時間です。イジャネラ様に呼ばれているのでこれにて失礼する。」


 少女は一礼した後、訓練室を去った。


「ま、待て!まだ勝負は終わってねぇっ!オレが勝つまでやるんだぁ〜っ…!」


 グゲンダルは地面に転がってジタバタする。


「やれやれだ、我が妹ながら情けない…。」


 少女は姉妹の絡みには興味がなく、イジャネラが待つ王の間へとあっという間に着いた。


「おや?まだ待ち合わせの時間ではないぞ?」

「申し訳ありません…!お会いするのが楽しみでしたので…!」


 少女は肩で息をしながらイジャネラの前で両手を罰の字にした。


「ふふっ、慌てん坊の憂い奴だ、お主は…。」 


 イジャネラは少女に近づいて右手を顎に当てて少女の顔を見た後、窓から地球を見た。


「お主にはまだ言ってなかったな。(わらわ)の目的を…。(わらわ)はあの地球が欲しい!この手にしたい…!今は地球で言うと1183年、だったか?文明レベルは我らキャルベンと比べると低いが、この星は必ず将来、大きな発展を遂げる!(わらわ)の見る目に間違いはない!」


 少女はこんなに興奮気味で物を欲するイジャネラを見て戸惑う。自分以外に興味を強く持つイジャネラの姿を見ると自分でもよくわからない感情に(むしば)れる感覚があった。


「そうそう!特に(わらわ)が欲するのは失われた古代都市アトランティス!」

「アトランティス…?」

「どこにあるのかはわからぬが、必ず探し当ててみせる…!」

「イジャネラ様がそこまで夢中になるものが、そのアトランティスにはあるのですか?」

「うむ、調べによると滅んだアトランティスには高度な技術力と禁断のデュラハンが封印されていると聞く。(わらわ)はそれを手に入れ、キャルベンを更に豊かな星とする!地球の生き物を禁断のデュラハンで根絶やしにし、(わらわ)たちの新たな故郷とするのだ!」


 イジャネラは窓の外に映る地球の前に平手を伸ばした後、ぎゅっと握り締める。まるで地球を手の中に入れたように。


「我らがわざわざ地球の言葉を学んだのも言語さえも(わらわ)たちの物にするためだ!(わらわ)はあの地球の全ての文明が欲しいのだ…!だが、人間はいらん!アトランティスが見つかり次第、片付けをせねばならんな…!」


 イジャネラの語る夢を少女はあまり理解する事が出来なかった。この話はもう切り上げようと少女は思った。


「…イジャネラ様、それで話というのは?」

「おぉ、そうだった、そうだった!すまぬ、つい熱くなってしまった…。栄転だ。お主に初任務を与える。地球へ行ってもらいたい。」

「わ、私が地球に…!?」


 少女は目を輝かせた。夢見た地球侵攻をやっとイジャネラに任された事に喜びを感じる。


「お主の戦士としての成長は目覚ましいものがある。そろそろ地球侵攻の経験を積んでもいい頃じゃろう。」

「イジャネラ様…!はい!必ずイジャネラ様の役に立って見せましょう!」

「良き返事だ…。お主の声は耳心地が良い…。して、始末して欲しい者の絵を用意してある。この者だ。」


 少女はイジャネラから絵を受け取った。

そこに映っていたのは着物を着た女性だった。


「この人間は…?」

「うむ、この者の名は十糸(といと)姫。最近、我らの邪魔立てをする愚か者だ。」

十糸(といと)姫…。」


 この女を始末できれば、イジャネラはもっと喜んでくれる!そう信じて少女は喜び勇んで隕石形体となって地球へ向かった。

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