7章 深也との出会い
「道人ぉ〜っ!朝よぉ〜っ!起きなさぁ〜い!」
一階の階段下から秋子の声が扉越しでも聞こえてくる。
「ううん…。」
「道人、母上殿が起きろと言っているぞ?」
道人はまだ寝ぼけながらも右手を何度か布団にタッチし、何とか見つけたデバイスを手に取った。
「…おはよう、ジークヴァル。」
「あぁ!おはよう、道人!」
「…そっか、食べた後すぐ寝ちゃって目覚ましセットしてなかったか…。」
道人は起き上がって身体を伸ばし、デバイスを机に立てて、外着に着替えた。
「あ、そうだ。ジークヴァル。昨日寝落ちしたから紹介できなかったけど…。」
スマホの画面にデュエル・デュラハンのハーライムをジークヴァルのデバイスの前に見せた。
「彼はハーライム。僕のデュエル・デュラハンの持ちキャラ。」
「おぉ!初めてまして!私はジークヴァルだ。よろしく頼む。」
ハーライムはホームのステータス画面に映っているだけで返事はしない。
「ん?道人、ハーライム先輩は言葉を話せないのか?」
「うん。画面にタッチしたら予め用意されてる台詞を喋る事はできるけど、会話はできないかな。」
「そうなのか…。」
「あ、でも最近のAIの進化はすごいから、その内アップデートされてハーライムとも会話できるようになるかもしれないよ。」
「おぉ、誠か!?ハーライム先輩と会話できる時が楽しみだ!」
ジークヴァルは楽しそうにしていてこれならすぐに我が家に馴染めそうだと道人は安心した。
「そういえば、ジークヴァルはどうやって現実に実体化してるの?」
リュックサックに今日の学校に必要な物を入れながらジークヴァルに聞いた。昨日博士たちに聞いてなかった事を思い出した。
「実体化?違うぞ、道人。パーク内に私の機械の身体があって、デバイスで今いる私のデータを機械の身体にインストールする事で現実での活動が可能となるんだ。」
「あれ、そうだったの?」
そういえば博士が僕の壊した壁を修理ロボットで直すと言っていたし、ジークヴァルとトワマリーともう一体は開発中と言っていた事を思い出した。博士は高性能ロボットを作る技術も有しているのか、と道人はまた博士の尊敬する所が増えた。
「じゃあ、ジークヴァルはロボットなんだね。へぇ〜っ、かっこいいね。」
「そうか?何か照れるな…。」
道人は支度を終え、階段を降りて洗顔した後、母の朝ご飯の支度を手伝った。テレビのニュースを見ながら母と軽い会話を交わした後、自分の部屋のリュックを肩に担いだ時、窓の外から知った声が聞こえた。
「道人、おはよー!一緒に学校行こ?」
愛歌の声だ。道人は階段を降り、玄関のドアを開けて愛歌と対面した。
「おはよう、愛歌。」
母も玄関まで歩いてきた。
「おはよう、愛歌ちゃん。今日も道人の事よろしくね。」
「はい、秋子さん!」
愛歌は右手でガッツポーズを取って張り切った。
「あ、そうだ。母さん、今日も愛歌と一緒に式地博士の所に行くからもしかしたら帰りが遅くなるかも。でも、なるべく早く帰ってくるよ。」
「わかったわ、気をつけるのよ。」
「うん、行ってきます!」
「行ってきます、秋子さん!」
秋子は手を振り、扉を閉めた。
「おはよウ、ジークヴァル!」
「あぁ、おはよう。トワマリー。」
道人の家から離れた後、ジークヴァルとトワマリーは朝の挨拶をデバイス越しにした。何時もは愛歌と二人で通学路を話しながら歩いているのだが、今日はジークヴァルとトワマリーも会話に参加して何時もとは違った賑やかな通学になった。
「ジークヴァル、パーク内に私おすすめの美味しいオイルがあるノ。今度機会があったら一緒に飲みまショ?」
「おぉ、それは楽しみにしているぞ、トワマリー。」
ジークヴァルもトワマリーと朝初めて会ったとは思えない程、気が合うみたいだ。
「トワマリーとジークヴァル、仲良くできそうだね。」
「うん、今までディサイド・デュラハンはトワマリーだけだったから、仲間ができて嬉しいんだろうね。」
このまま楽しい会話を続けたかったが、もう学校の校門が近づいてきたのでジークヴァルとトワマリーに静かにするように注意した。校門を通り、下駄箱で靴を履き替えた後、一年B組の教室へ向かう途中、大樹が廊下に立っていた。
「おはよう、道人!愛歌!」
道人と愛歌もおはようと返した。
「道人、今日の放課後!俺の家で昨日のバトルの続きをやるぞ!」
道人と愛歌は困り顔でお互いを見た。
「ごめん、大樹!今日は用事があって無理なんだ!」
「あたしも用事が…。ごめんね、大樹君!」
道人と愛歌は両手を合わせて大樹の誘いを断った。大樹も困り顔になった。
「よ、用事ぃ?珍しいのぅ、二人がデュエル・デュラハンの遊びを断るなんて…。あ、もしかして二人でデートとか?」
「違う!」「ち、違うよ!?」
道人と愛歌は顔を赤らめて声がハモった。
「お、おう。息ぴったりじゃのぉ、お主ら…。まぁ、いいわ。今日の所は引っ込もう。」
大樹は腕を組んで納得した。
「ありがとう、大樹。今度必ず決着つけよう!」
「おう!」
そんなやり取りをしていたらチャイムが鳴った。
「おっと!教室に急がないと!行こう、二人共!」
道人は愛歌と大樹に目線を向けながら走ったら、前にいる人にぶつかった。ぶつかった拍子に何か地面に機械が落ちた。
「あっ、ごめん!大丈夫?」
「あ?お前、深也さんにぶつかってごめんで済むか!」
「深也さん、怪我させたらどうする気だぁ?」
取り巻きの二人が道人に突っかかってきて困る道人。
「や、やばいな…。あいつは一年A組の不良王にしてデュエル・デュラハン全国大会準優勝の海原深也じゃ。えらい奴にぶつかってしまった…。」
「ちょっと!道人は謝ってるんだから!いいじゃない!」
愛歌は道人の右に立ち、道人を庇った。
「あん?謝ったからって…。」
「おい。」
深也が声を発すると取り巻き二人は冷や汗をかいて黙った。
「朝っぱらから下らねぇ絡みしてんじゃねぇよ。」
深也は地面に落ちた機械を拾った。
「すまなかったな、俺の連れが突っかかって。今度から気をつけな。」
「う、うん…。」
深也が行くぞと目で合図すると取り巻きは静かについて行った。
「ふぅ〜っ…!冷やっとしたぞぉ〜っ!」
大樹は両肩をがくっと下ろした。
「大丈夫、道人?」
「あ、うん。平気だよ。」
(彼が地面に落とした機械、ディサイド・デバイスに似てたような…?)
道人は深也の事が気になったが、急いで愛歌と大樹と共に教室へ向かった。
それから道人たちは授業を受け、あっという間に放課後になった。授業中、ジークヴァルが学校に興味深々で感銘を受けており、何時リュックの中から不意に喋り出さないか道人は冷や冷やしていた。途中休み時間に人気のない場所でジークヴァルの学校の感想を何度か聞いた。
「ふぅ〜っ…!何か疲れたぁ〜っ…!」
道人は机に上半身を乗せて顔は窓の方を向けていた。
「す…すまない、道人。ついはしゃいで…。」
「いや、いいんだよ、ジークヴァル。楽しそうで良かった。」
「道人、お待たせ!じゃ、行こっか!」
音楽室の当番掃除を終えた愛歌が教室にやってきた。
「うん。」
リュックを背負い、道人と愛歌は教室を後にし、廊下に出た。
「大神さんから連絡があったよ。校門近くに車止めて迎えに来てくれてるって。」
「大神さんが?それは助かるね。」
「…決行は今日…。」
「ん?」
道人が左を見ると今朝会った深也が思い詰めた顔で校庭のベンチに座っていた。
「どうしたの、道人?」
「ううん、何でもない。行こう。」
道人と愛歌は校門近くで手を振る大神を見つけ、車でデュラハン・パークへ向かった。