6章Side:BA マーシャルの企て
青き獣のデュラハン、ライガは一人、トレーニングルームの中央に立っていた。ジークヴァルに斬られた右腕はもう修理を終えていた。
「さて、始めるか。」
ライガの周りに大群の首無し騎士が出現した。その数百五十。
「それじゃあ、腕試しと参りますかねぇっ!」
ライガは瞬足で次々と鉤爪で首無し騎士たちを切り刻んでいく。
地面を蹴り、壁を蹴り、天井を蹴り、目にも止まらぬ高速移動でもう自分の周りの首無し騎士を七十は捌いた。その後、立ち止まって自分の頭を掴んで宙に投げ、新たな頭を装着した。
鉤爪が消え、両肩と両腕が砲門に変わり、雷撃弾を連射した。
「そらそらそらそらぁっ!!」
残り一体だけを残し、それ以外の敵は殲滅した。頭を外し、先程宙に投げた頭をキャッチして装着。
両手を鉤爪に戻して最後の一体の身体を貫き、シミュレーションが終了した。
「こんなもんか。次あいつと闘う時は俺の頭をたくさん持っていって披露してやる。覚悟しとけ、ジークヴァル…!」
「いや、お見事。さすがですね、ライガ様。」
拍手をしながらマーシャルはライガに近づいてきた。
「チッ、見てたのか。何の用だ?」
「ダジーラク様がお呼びです。修理を終えたなら、あなた様に今回の作戦の報告を聞きたいと。」
ライガはわかった、とトレーニングルームを後にした。マーシャルと一緒に動く床の上に乗り、ダジーラクの元へと向かおうとしたら頭と胸に龍の顔をつけた濃い緑色の闘士が壁に寄りかかっていた。
「随分と派手にやられたようじゃな、ライガ。」
「レイドルクの爺さんか。何だ、俺を笑いにきたのか?」
「何、お前の右腕をもぎ取った紛い物が現れたと聞いて気になっての。こうして見に来た訳だ。」
レイドルクは壁から離れ、ライガと向き合った。
「あいつは紛い物じゃねぇっ、ジークヴァルだ。それと道人。俺が好敵手と認めた強者よ。」
「お前が敵の名前を覚えるとはな、ますます気になってきたわ。わしもそいつらと相見みえたいものだ。」
「悪いが、あいつらは俺の獲物だ。成長が楽しみだぜ。」
「お二人共、ダジーラクを待たせてはなりません。お急ぎを。」
マーシャルは二人の間に入ってライガを見つめた。ライガはわーったよ、っと返事をしてダジーラクの待つ大広間へ向かった。
この後三人は特に会話もなく、大広間の扉の前に辿り着いた。マーシャルが扉を押し、大広間への入り口が開いた。
大広間は宇宙要塞の中心部に存在し、薄暗く、弱い赤い光が幾重にも照らされた場所である。
小さな滝がいくつかあり、水の音が絶えない。扉を開けると赤いマントの黒騎士が後ろ姿で立っていた。
「ダジーラク様、ライガ様とレイドルク様をお連れしました。」
マーシャルは右手を右肩に当て、お辞儀をした。
「うむ。ご苦労、マーシャル。」
黒騎士はマーシャルの方を向いた。顔と胸、二つの顔がマーシャルを見つめる。
「ライガよ、もう身体は大丈夫なのか?」
「あぁ、もうこの通りさ。」
ライガは両手を横に伸ばして身体を見せた。
「さっさとゴウ=カイを始めようぜ。」
「わかった。これよりゴウ=カイを始める。集え。今ここにありし、ヴァエンペラのシチゴウセン達よ。」
ダジーラクがマントをたなびかせ、右手を前に出すとある者は空から、ある者は地面から、ある者は水の中から出現した。
「シユーザー、ただいま到着〜。」
地面の光の輪から出現したはシユーザー。胸の顔にだけ眼鏡をかけた紫の研究戦士。
「ダーバラ、待ちくたびれたわ。」
空から出現したはダーバラ。胸に鳥の頭、大きな翼をつけた真紅の女性戦士。
「スラン、きたよ。」
水の中から出現したはスラン。胸にマーメイドの顔、腕と足にはヒレをつけた水色の細身の女性戦士。
「ヴァエンペラの元へ集いしシチゴウセンたちよ、よくぞ参った。よき、頭を外すがよい。」
ライガたちは頭を外し、それぞれ自分の専用の柱に背をもたれかかった。
「あ?ディアスとラクベスはどうした?」
ライガはいない二人が気になったのでダジーラクに聞いた。
「ディアス様とラクベス様は別件で現在おりません。」
マーシャルがライガの質問に答えた。そうかい、とライガは返事をした。
「ライガ、報告せよ。お前の右腕を斬る程の紛い物の件だ。」
ダジーラクはライガの方を向き、問うた。
「俺が好敵手と認めた漢の名は青と白の首無し騎士ジークヴァル。それと豪の息子、道人だ。」
ライガは機嫌よく答えた。
「豪…?あぁ、あの男達か。あいつの息子が我らに歯向かうか…。」
「豪、ですか。クックッ、これは親子の再会が楽しみですなぁ。ねぇ、マーシャル?」
シユーザーがマーシャルを見て微笑みかけた。ライガは構わず報告を続ける。
「ジークヴァルは道人とディサイドしている。道人は一見か弱そうなガキに見えるが、右腕に装甲が付いた途端、右手にだけ凄まじい力を得ていた。」
「右手に装甲…。前に報告があったトワマリーとかいう奴とは違うディサイドの仕方じゃな。なるほど、興味深い奴らじゃのう。」
レイドルクは右手を顎に当てて頷いた。
「わかった。ジークヴァルと道人、今後も我らの妨げとなる存在かもしれん。注意しておこう。次はラックシルべ捜索の件だ。マーシャル。」
「はい。」
ダジーラクの隣に立つマーシャルが宙に大きいモニターを出現させた。
「私がライガ様とチキュウに降りた際にラックシルべ計測器を調べた所、パーク内には三つのラックシルべの反応がありました。ニつはジークヴァルとトワマリーでしょうが、後一つは不明です。後もう一つ気になる事が…。」
「うむ?どうした?申してみよ。」
「ライガ様とトワマリーの戦闘中に更にもう一つのラックシルべの反応があったのです。すぐ消えたのですが…。」
「その計測器、昨日できたばかりなんでしょ?ちゃんと計測できてるの?」
「ダーバラ、失礼な!私とマーシャルの作った計測器に間違いはない!」
シユーザーは自分とマーシャルの共同制作を疑われて怒り、ダーバラはまぁまぁと宥めた。
「ふむ…。とりあえず、あのパーク内には三か四つのラックシルべがあるのだな。」
「どうする、ダジーラク様?何なら、わしが単独で突入してラックシルべを奪ってきてもよいぞ?」
レイドルクは左平手に右拳を三回当てる。
「わたしもついていきたい。ちきゅうのうみ、きれいだから。」
「遊びに行くんじゃないのよ、あんた…。」
スランの呑気な発言にダーバラは呆れた。
「いや、しばらく泳がせておこう。奴らの方から勝手にラックシルべを集めてくれるだろう。ある程度集めさせた後、刈り取れば良かろう。」
ダジーラクの意見に六人は納得した。
「よし、今後も奴らの観察を怠るな。報告ご苦労だったライガ、マーシャル。集まってくれた四人も。これにて…。」
「お待ち下さい、ダジーラク様。」
ダジーラクがゴウ=カイを終えようとしたらマーシャルが止めた。
「何だ、マーシャル?」
「今後のチキュウ侵攻と偵察は私にお任せ頂きたいのです。」
「ほう?何か策でもあるのか?」
「はい。シユーザー様と共に開発した例の物が完成致しました。それを試したく…。」
マーシャルはお辞儀をしながら邪悪な笑みを浮かべる。
「おお、できたのか。良かろう、やってみよ、マーシャル。」
「ははっ!」
マーシャルはしゃがんでダジーラクに感謝の意を示した。ゴウ=カイは終了し、ダジーラクとライガ達は頭をつけて広間から去っていった。シユーザーとマーシャルはその場に残った。
「それではシユーザー様、チキュウへ行って参ります。」
「吉報を待っていますよ、マーシャル。」
「待ちな、マーシャル。」
まだ退室していなかったダーバラがマーシャルに近寄った。
「あんたの言ってた例の物ってのが気になってねぇ。面白そうだし、ついて行っていいかい?」
「えぇ、もちろん。構いませんよ、ダーバラ様。」
マーシャルはダーバラの右肩に手を置きワープしてその場から消えた。
時刻は夜十一時。御頭街のとあるボロボロの倉庫にある男が不貞腐れて座っていた。
「チッ、クソ親父が…!あんなんだから、芽依の治療費が足りねぇんだ…!」
空になったジュースに怒りを込めて前の地面に投げつけた。
「俺にもっと力があれば…。」
「力が欲しいのですね、あなたは。」
男の前に急に宙に浮かんだマーシャルが現れた。
「な、何だ、お前…?浮いて…?」
男は頭を上下に何度も振ってマーシャルを見た。マーシャルは黒いデバイスを取り出してモニターを見た。モニターが点滅している。
「擬似ラックシルべが反応を示している…。やはり、この男がいいのか。いいでしょう、あなたにヴァエンペラの加護を授けましょう。」
マーシャルはデバイスを男に差し出した。男はデバイスを手に取る。
「ヴァ、エン…?何言ってんだ?」
男がモニターを見ると見た事がない文字が映っていたが、文字が日本語に変化した。
『デストロイ シマスカ? ハイ』
「欲しいのでしょう?力が。ならば、与えましょう。彼はあなたの力になってくれます。」
「俺の、力に…。」
男は目が虚になり、ハイしかない表示に人差し指を当てた。
『デストロイ 承認。』
「なるほどねぇ。面白いじゃないか。」
倉庫の壊れた天井の穴からダーバラは腕を組んで見ていた。
「ふふっ!さぁ、私とあなた達の大好きなデュラハンで遊びましょう、ニンゲンたちよ!」
マーシャルは目の前で実体化するデストロイ・デュラハンを見て高揚した。




